大体血の気が多い連中になります。
異界用テント【ナメック】は頑丈さを主軸にしたアイテムらしい。
持ち主のMAGを充填することによりその力量に比例したバフを周りに展開し、簡易的な結界として守護を行う。簡易的なビーコンもあるらしく現在は外部に向けて救助信号を発信していると星噛は言った。
「肝なのは今回のMAGは全部彼氏…黒札のヤツなの。」
ホールケーキをテーブルに乗せ、全員に切り分けながら星噛は溜息をついた。
「他人の家で電気を点けてる、と言えば分かりやすいかしら。今の所お客様扱いで結界は機能してるけど、誤射で結界に当たれば入れなくなる可能性があるのよ。殲滅は分からなくも無いけど、救助が来てからになるわ。お分かり?」
「はぁい。…あ、ケーキ美味しい。」
「…確かに。随分と本格的ですね。」
「店売りですか?このショコラケーキ。」
ケーキ代を払う必要があるかと神崎は問いかけたが、彼女は嬉しそうに不要だと手を振った。
「元とはいえパティシエよ?自前よ自前。」
「ほう。受刑者とは伺いましたが、この味が失われるのは惜しいと感じます。刑期後は店を構えるので?」
「…どうだろ。」
星噛はおかわりに目を輝かせる三上にケーキを追加しながら下を向いた。
「5年前は掃き溜めで死ぬか紅のカキタレで尻を振るのかのかなーって自棄になってたけど、やっぱ生きてると欲が出てきちゃう。来年には出所するんだけど、店を作るか子供を作るか。…紅次第かな。」
「クレナイさん…あのふわふわした人ですか?」
「ふわふわ…まぁふわふわよね。割と軍人気質なんだけど。」
「…大丈夫そうだな。」
何とか宥めすかした甲斐はあったと神崎は息を吐いた。
星噛が外出した後、神崎が行ったのは彼女の恥部…犯罪に関しての自身が知る限りの詳細を2人に公開することだった。拠点が彼女の私物な以上、安全を確保する手段は彼女の協力にかかっている。彼等は当然の様に保護を受け入れているが、助けてもらう身で傲慢になると言う行為は日本では侮辱にしかならない。理解していないのかあるいは目を逸らしているだけなのか、施しを当然として彼女を奴隷とする行動は止める必要があった。
とはいえ、神崎にも外人の文化は理解しきれていない。自棄っぱちの対策として打ち出したのが犯罪歴の公開だ。要は彼等を
「わざわざ仲介をしていただきありがとうございました。」
唐巣はコーヒーを飲み込む神崎に対して謝礼を述べた。神崎はよしてくださいと恥ずかしげに固辞した。
「やったのは個人情報の暴露マスゴミの仕草ですよ。褒められたものじゃありません。」
「それでもです。私たちの信仰は…その、正しくないと評判なので。」
「…釘を刺しますが、僕はあなた方の信仰が間違いとは考えていません。」
「……」
「信仰なんて好きにすれば良い。スパゲッティモンスターを神と崇めようが豚を不浄と断言しようが好みの問題です。でも、だからと言って豚を虐殺しに養豚家を襲撃するのは話が別でしょう?あなた方が嫌われたのは正しさを武器にして社会を貶しめたからです。」
だから、と続けるつもりの口は閉じた。神崎は立ち上がって玄関の窓越しに外を見た。そこには結界を片手で叩く天使の姿があった。神崎は身を翻して星噛に判断を仰いだ。
「星噛さん。悪魔です。レベルは…10以上だと思います。何やら結界をノックしてますが…」
「…感知したわ。レベル15、倒せなくは無いけど…交渉かしら?どんな風貌?」
「…コスプレしたサラリーマンが営業に来た感じです。」
「…はぁ?」
「パワーと申します。この度は交渉を受け入れていただき誠にありがとうございます。」
その天使は神崎が例えた様に、羽の生えたサラリーマンに見えた。スーツ姿に両性的な顔、細身の体。羽さえ隠せばやり手のビジネスマンに見えるだろう。平身低頭で名刺を渡す姿勢はやり慣れた動きであった。
「今回はワタシの管理する異界で世間にご迷惑をおかけしたことについての謝罪と説明に伺いました次第でございます。」
しかし、悪魔は悪魔。結界内とはいえ屋外で立ち向かうには不利な相手である。主に神崎が、と付くが。高レベルである星噛と三上に盾をして貰っているが、戦闘では真っ先に死ぬだろう。見た目も弱さもどうしようもない不甲斐なさである。
「僕たちは警備として配置されたので詳しくは知りませんが、何故異界を?」
「はい。ワタシはメシア教にて召喚されまして、覚醒者の育成用異界の作成を命じられました。ある程度のMAGは支給されましたが…まあ、手弁当と言うヤツでして?とてもじゃないですが異界など構築できなかったので異界を乗っ取りました。で、ボス悪魔を討伐して根城を物色しましたところ…」
天使は躊躇いがちに目を下に向けた。
「なんかいっぱい人が監禁されてまして。」
「自首かしら?」
「ノー!
「監禁していた悪魔は?」
「何やらMAG不足で弱っていたので我が【白龍撃】で屠りました。成り行きを考えますと隠蔽にMAGを使い続けていたのではないかと。」
「ほんとうですかぁ?」
包丁*1を逆さまにした三上が怪しげに眉を上げた。それに対して天使が弁論する前に、嘘じゃないわねと星噛はテントを指し示した。
「さっきから嘘発見器起動してるけど反応しないし。嘘は言ってないわ。」
「えっ怖っ。」
さっきからこの天使人間くさいな。
神崎の感想を他所に、三上は首を傾げて天使に尋ねた。
「じゃあ、私は可愛い?」
「えっと、…ええ、はい。」
ビビビビ
「……」
「……」
「……」
「痛いです痛いです。いくら隣人でもヤンデレナイフ見せびらかしてあまつさえ刺すおかたをカワイイとは流石に思えませんよ!ただでさえ監禁された子供達からお寺みたいって罵倒されてるのに!仮にも天使ですよワタシ!?」
今度は本心だったらしく警告音は消えた。天使は赤くなったワイシャツを嘆きながら自身に【ディア】をかけた。胡乱げに星噛は天使に問いかけた。
「今回の異界の主目標は誘拐された保育園にいた人の救助。監禁したのは何故?」
「監禁?…してませんが…」
ビビビビ
「オーケーオーライちょっとまってゴカイ誤解です。保護です!保護!鉄格子で監禁などしておりません!外壁の柵はありますけども!あそこは管理しても異界ですよ!?野良悪魔に殺されたら無意味じゃないですか!屋敷からだして14番!ワタシもdeath!幸せになりませんよ!?」
中腰で手を広げた天使が命乞いで汗まみれとなっていた。
「そこの神父殿!ワタシには分かります!誉ある信徒ですよね?是非とも弁護していただきたいのですが!」
「…でしたら、
天使が固まった。唐巣は悲しげに十字架を見つめた。
「…過激派の手法です。
「先程の戯言も失言でしたね。」
神崎はジリジリと離れつつ語った。
「
今回の美術館に和風の美術品はあれど和風の場所はない。それなのに子供が寺を想像する要素があるならば、それは子供達自身だ。
「…みんな、
男女見境なく全てが髪を剃られていたのならば、寺の住民に見えるだろう。
「服も作務衣に見えたのかもね。例えば…そう、色付きの患者服とか。」
固まる天使を嗤うが如く、星噛が神崎の推理を補足した。
「最近生体脳を使用した悪質な機械が流通してるのよねぇ。…証拠隠滅のために切り捨てたのかしら?」
「……」
「汗、止まってるわよ?」
無表情となった天使に先程までの狼狽はなかった。神崎の良く知る、悪魔らしい天使がそこにいた。天使は口を開こうとしたが、神崎は手を前にして首を振った。先程ぶりの懐かしい安心感。常時稼働するスキルが休止する感覚。
そう、大前提として天使は間違っていたのだ。
「そもそも僕たちに交渉の権限はありません。全部時間稼ぎです。」
「お待たせ。救助にきたよ。」
黒札【紅 真九郎】。
解決策が、そこにいた。
「…オゥ…」
「時間切れよ。命乞いは彼にすることね。」
天使【パワー】は分霊として顕現した悪魔である。
メシア教のスパイ役として構築された器故に本体からの干渉は自らの死後以降となるし、人格も本体と大差ないコンパチ仕様であった。本体から与えられる黒札の情報も雑なものでしかなく、うろ覚え。天使自身の実感は無い状態であった。
「(如何に黒札といえども人間。作戦次第ではミレニアム計画の礎に出来ると思っていましたが…)」
全てが場違いな男だった。
体格はこの場にいる成人達よりも華奢で、女性と見間違うほどの美貌。腰まで伸ばした髪はマグネタイトを纏い
勝てないなら敗北を誤魔化す。人間から学んだ価値観の1つだった。
「…【
「ふむ。」
彼の髪が虹色に発光した。目を瞑る間も無くぼとりと天使の両腕が落ちた。
天使は営業スマイルを心掛けた。両腕の痛みは無い。それどころか、失われるはずのマグネタイトの損失さえ感じない。不全を完全として治療された事実に、天使は冷や汗が止まらなかった。
「…抵抗は無し。…話がわかる悪魔は好ましい。」
「え、ええ。ワタシとしましても言葉以外は不必要と理解してます。無力化程度は当然かと…貴方ほどなら誤差とは思いますケド。」
「一応後輩…いや…部下?…うーん。…後進?が見てるからね。先達として悪魔交渉を見せようかなって。」
「交渉、デスか。」
「そう。無力化して、脅して、契約。あるいはその逆。社会性のある悪魔の知恵。騙し、騙され。仕掛けて勝つか。負けて得るか。
天使は頷きながら周りを分析した。
我らが信徒は2名とも敵意の目で自身を訝しんでいる。本体が過激派の天使であることは彼等にとって憎らしいものらしい。当初は将来性の高い彼らに保護を予定していたが、同僚は余程面子を傷つけたようだ。人間を下僕にするなら生態の把握は当然だろうに。畑仕事さえまともにできないクズが欲張るから悪徳が蔓延るのだ。天使は彼らを候補から外した。
機械化された女は論外だった。従えば間違いなく
最も弱い男は個人的に好ましい人物だった。誠実で、勤勉で、身の程を知り、力無くとも隣人愛を忘れない。この様な人間を育み、繁栄させることこそ我らが神の使命なのだと実感できる。だからこそ、近寄れない。近寄らない。天使は彼を候補から外した。
そう、元から道は1つなのだ。
天使は、人間が大好きだった。
「…お名前は存じませんので、仮称で。…黒札殿。貴方に保護されるのは可能でしょうか。」
「…へぇ。」
弱くて、儚げで、庇護なしでは生きるのもままならない生物。かと思えば残虐に、無慈悲に殺戮を行い、同時に慈悲を振る舞う。その矛盾が天使にとって好ましく、また残念な気落ちをさせた。道徳は発達し、生活に余裕が溢れ、愛を振る舞う人々が増えた一方で、その善意につけいる寄生虫が現れた。長い間、天使は社会を学び、溶け込み、そして過激派に関わることを決めた。
結局のところ、天使は
「ボクはこれでも忙しい。最近は外国からの禁輸
「唐巣さん。レベル15は強化アイテム扱いが普通なので?」
「大都市で守護精霊として代々祀られる扱いです。普通は。」
「あっ。…ごめんね?…貴方たちを貶したつもりはないから。」
「彼らの下僕にエントリーしても構いませんよ?」
「コンプラ破るから…最近横紙破りして怒られたし。」
「ならば、手柄は如何です?」
「……」
「ワタシ、過激派に属しておりますが奴等は率直に言って嫌いです。ワタシが分霊として顕現したのも悪徳の人間への誅伐が目的。裏切りに躊躇いなどありません。ワタシが知る限りのアジトと全財産の3万マッカ、無論許可さえ頂ければ先兵にもなりましょう。道具として買い取って頂けませんか?」
腕がないことにより脱げ落ちたスーツを転がし、内ポケットにあるマッカを盛大にばら撒く。黒札は無反応。信徒達は大金に目を見張り、機械女は欲が見えた。これだけで教育、金銭、相場が予測出来た。分霊は情報を持ち帰れる。ノルマは達成できたと天使は片膝をついて首を垂れた。
「是非、ご一考を。」
1分ほど周りが無言になった。
紅の溢れ出るMAGはジリジリと肌を焼き、演技ではない冷や汗が滲み出る。やがて、思いついたかのように紅は息を吐いた。
「確かに。分霊である以上アンタを滅しても焼石に水であることは事実だ。奴隷扱いで使い潰す道も価値としてはありだろう。」
「神に誓えば許そう。」
「…はい、神に誓って。」
内心で笑みを浮かべて天使は契約の術式を提示した。そこに一切の誤魔化しはない。紅はゆっくりと天使のそばに近寄り、徐に溜息をついた。安心からではなく、失望の反応だった。
「欺瞞は罪だ。」
【ムド】が付与された拳が天使の肋骨を粉砕する。その口から血反吐が吐き出されるのを見ても紅は無表情であった。天使の全てがどうでも良いと、機械的に、正しく、まさに神の如く。
「神に誓え。…何度も言わせるな。上っ面だけで誤魔化しなどするな。」
「ガバッ…ご、ごまかし…など…!?ワタクシの…ゲホッ…今できる…すべてで貴方様に…!?」
【パワー】は本心から答えた。事実、天使は自身の悪魔としての権能を使い潰すことを代償に契約を用意していた。神から受け取りし我が権能を質とする。これ以上の誓いは死しかないと天使は判断していた。
「…哀れだな。」
その光景を見て、紅は初めて表情を変えた。ほんの少し目が閉じられただけなのに、神崎はそれが憐憫であると理解できた。紅は左腕の裾を捲り、二の腕に付けられた機械*2を取り外し、放り投げた。天使は無我夢中で地に落ちる前に這いつくばってソレをキャッチした。いつの間に腕が生えたのかも、自らが死に体となったことに気にもできず、天使はその機械を赴くままに解析し、ソレを理解して。
心底、絶望した。
「解析は出来なくともわかるだろう?ガイア製のCOMP。十戒プログラム。…
天使が聞きたくないとばかりに泣き喚いて自らの耳をむしり取った。天使は己が分霊であることに後悔した。この事実がどれほど本体に響くのか。
必要であり、残酷であり、当然の罪だと天使は気付いた。
気付いてしまった。
「神の赦しは殺しは許容しないようだが…」
神よ、神よ、神よ!
私の腐り切った耳が機能しないのは
人の扱いが誤りだった!?奴隷の様に尽くせば!?共に肩を並べれば!?それとも今まで通り!?
「
わからない。
神は何も答えてくれなかった。
己の死より、それが何より苦しかった。
結論から言えば、今回の事件に神崎が寄与した功績は無かった。
無難に警戒し、異界で保護され、悪魔との交渉は臨時の仲間と意見を違わなかった。最後に起きた交渉モドキも、賑やかしになった程度。満額で依頼料が貰えたことが幸いだと考えていた。
故に、自宅にゴツいバイクで
「やあ。3日ぶり。アポ無しでゴメンね。」
彼は玄関先で立ち尽くす自らに対して
「天使版アガシオンだ。あのセールスマンが入っている。慰めてやってくれ。」
「首を落とした様に見えましたが…?」
「誓いはしていた。死が確定してからも続ける祈りは及第点ではないかと判断した。そして微弱だが
「期待…?」
「大半の黒札は強いだけだから。」
神崎は口から出かけた諸々を飲み込んだ。紅の顔は傲慢さから来る見下しでは無かった。彼の表情は肌の色や家系を肯定せざるを得ないやるせなさが満ち溢れていた。
「格上から助かる運命力など持ち得る者は少ない。強いから好き勝手に威張り、弱いから同類で群れる。そこに奇跡はない。」
悪魔と同じだな、と紅は自嘲した。
「君は生き残った。人智を超えた異界を即席の人員で乗り越えた。前回も同じだ。悪魔の気紛れ、警戒、運、メンバーの不和。全てに成功し、尚且つそれ以外は失敗だっただろう。今回もメシア教徒が天使に感化していたら少なくとも君の死は確実だった。さて、コレは神からの加護なのか、君が掴み取った奇跡なのか。ボクはそれを知りたい。」
出来れば後者を選んで欲しい。
段ボールいっぱいのオカルトアイテムと連絡先を残して紅は颯爽と立ち去った。億単位の価値がある箱から特に貴重品らしき諸々を慌てて金庫に詰め込んだ後、神崎は無言でアガシオンを呼び出した。程なく、デフォルメされた白色の悪魔が白紙の名刺を差し出して現れた。
「妖魔【アガシオン】。コンゴトモヨロシク。名前が決まったら名刺に書いてくだされ。」
「思ったより元気そうだな。恨んでいるかと思ったよ。」
「イヤ。ショックは受けましたよ?…信徒以外に仕える気になるくらいは。まぁ、100年くらいは人間社会で勉強させていただきますよ。マスターも鍛えないといけないでしょう?一緒に頑張りましょう。」
「…あの人は奇跡が如何とか言ってたけど、もう戦う気はないぞ。」
「ハハ。マスター。良いことを教えます。」
「2度あることは3度ある。」
「ですよねぇ!!」
畜生。
神崎はこの相棒に酒と愚痴を味合わせることを決意した。
神崎
レベル2。悪運はある。その後金庫より段ボール箱の方が頑丈であることに気づく。
星噛
出所後は紅宅で山積みとなったオカルト資産を整理することになる。刑務所では購買の姉御として顔役になっている。
唐巣
善人であり責任感もあるが悲しいことに親がメシア教徒だった。今後はメシア教徒としてではなく、住民として近所付き合いをしようと決心した。
三上
悪魔が悪いと結論付け、ガイア小学校で学ぶことに決めた。宗教?一神教ですが?カルト宗教にいつまでも固執する必要はないですよ、神父様?
紅
レベル40。フェルグスのデビルシフターだが体格があまりにも格闘に向いていないため「女抱いて前線にいて戦闘塗れならもうフェルグスだろ」と強引に魔法型に拵えている。今回の交渉は全く見抜けなかったので全力で脅しに走った。
フェルグス
違う…違くない?これどっちかでいったらフィンじゃない?