別小説の方からの十勝支部の評価がディストピアでした。
言われてみると中々の管理具合でした。
自助努力を基本とする支部なんで割とガチガチにしてます。
そんな十勝シェルターの日常です。
ガイア十勝高校、略してガイア高。
終末が始まり数十年。世界が悪魔に関わらざるを得ない日常に何とか適応して生まれた次世代達が通う高校である。
事実上世界を救ったガイアコーポレーションが運営する学校はこの都市で最も人気の高い。但し、その人気は学業の方面ではない。むしろ偏差値的には低い部類に入るだろう。それでもこの高校を希望する生徒が絶えないのは、ある分野が他と比べて非常に卓越しているからだ。
悪魔学。
悪魔に立ち向かうための知恵・知識・そして訓練。覚醒者になる、或いはなった後に学ぶ全てを実践する学問。終末になり、ある種最も生きる為に重要な勉学を此処で学べるのだ。
当然、学校である以上優秀であれば誰でも通うことは可能だ。終末で1度経済が破綻した結果、非覚醒は(あるいは覚醒者すらも)かなりの規模で困窮に陥った。その中で生まれる覚醒の兆しを抱えし者は、まさしく希望そのものである。特にガイア高校に受かるほどなら、周囲から寄付を受け付けることも可能だ。卒業した
ガイア高校は苦学生が大量にいる高校なのである。
「なあ九頭竜。お前んとこで割りのいいバイトとかねぇか?」
そんな苦学生の1人である左右田は教室で友人である九頭竜にバイトの相談をしていた。
「あん?どうした急に。」
「石村式のデモニカデバイスに拡張パーツが新規販売されてよー。うまーくカスタマイズすりゃ空飛べるかもしれねぇんだ。数ヶ月貯金してたら売り切れそうでさぁ〜」
照れ臭く頭を掻く左右田に九頭竜は自嘲の笑みを浮かべた。
「フッ…何か勘違いしてるようだが、オレの懐は別に暖かくねぇ。」
「え、マジ!?元ヤクザなのに!?」
「ヤクザっても基盤は霊能家の下っ端、汚れ仕事の請負人だからな。そもそも名前が
「冬彦さんと私、そしてご両親が覚醒者でなければ潰されていたでしょうね…」
隣でドスを磨いていた九頭竜の幼馴染の辺古山が遠い目をして言った。今までの貢献で成り上がり(コレをそう指して正しいのかは疑問だが)した現在、彼らの両親はガイア連合の下で忙しなく働いている。磨いているドスもガイア連合から払い下げられた武器である。辺古山の本音としては長物を希望したいが、家族の貯金額ではこの武器以上の製品に手は届かなかった。
「冬彦さんとの婚約も力関係がありましたしね。元から恋人同士だったので影響はありませんでしたが。」
「幸い終末のゴタゴタで真っ当な仕事にも就けたしな。逆に言えばコネも何もねぇ。オレがやってる下水処理のバイトに参加するか?」
「やってるよ!?お前と顔合わせてやってるだろ!?」
ガイア高校が斡旋している学業奨励の名のハンター依頼は学生の金銭面の味方として人気がある。その中でも下水処理場に溢れる悪魔退治のバイトはレベル持ちの学生にとって仕送りに匹敵する報酬である。それでも不足しているから左右田は困っているのだ。
九頭竜は辺古山の作業台の後片付けを手伝いながら左右田にジト目を向けた。
「てかオレより伝手ある奴いるだろ?神座とかよ。」
神座は左右田の親友と言える存在である。無表情だが感情の振れ幅は大きい彼女の尻に嬉々として敷かれている面白い男。それが左右田の感想である。その上レベルも高く、イケメンで、しかも研修医である。まさに今時の若者が考えるエリート一直線の男であった。
「ソウルフレンドには頼んだけど…アイツが働いてる病院での直近の仕事は放射線関係の産廃処理らしくてさ…デモニカNGだとよ。」
「それは…お気の毒に。」
「そりゃ機械じゃどうしようもなんねぇな。」
「やあやあ左右田くんいるかな?」
ガラリと扉を開けたのはクラスメイトの花村だった。
「おん?どうした?バイトでも紹介してくれるのか?」
「ンフフ。ぼくのお勤め先は【FOOD】悪魔も取り扱っているから。きみがデモニカ着たまま料理可能でも衛生面的にちょっとねー。あと味見が出来ないのが致命的。イチモツくらい。」
「味見?」
「高レベルの覚醒者は毒味も楽しめるからね。ベニテングダケ、食べれる?」
それは無理だと左右田は肩を落とした。
「ちくしょー。」
「それと神座くんから伝言だよ。『警邏のバイトにデモニカ持ちの助っ人を頼まれましたので紹介しました。』だって。」
「あるじゃんバイト!やるやるいつから!?」
「今。」
「…マジ?」
「30分後にハンター支部で待ってるって。」
「こっからあそこまで40分かかるんですけど。」
「走れば?」
雑な回答に左右田は涙目でデモニカ*2を抱えて走り出した。
ハンター支部で待ち構えていたのは手入れが行き届いた学生服を着た生真面目な男、石丸だった。左右田にとって彼は生活指導*3でよくお世話になるありがたい先輩であった。
「おお、代理は左右田君か!今回はよろしく頼む。」
「こちらこそお世話になります。石丸先輩。」
左右田と石丸は互いに握手をした。
「それにしても先輩にしては急でしたね。こっちとしてはありがたい限りっすけど。」
「…不幸があってね。」
石丸は淀んだ目であらぬところを見た。
「先日、重い雨が降ったろう?」
「ああ、あの雨粒が金属なみの質量*4で落ちてきた。」
「運悪く僕たちが生活していたシェアハウスに落ちてきてね。…不参加の仲間は後片付けをしてもらっている。」
「うわぁ…」
普段は3人組で活動しているが、流石にセキュリティが物理的に存在しない部屋を開けたままにするのは恐ろしかったらしい。
「今回は業務内容に検査があるからデモニカが必要でね。友人の伝手で神座君から君をおすすめされたというわけさ。」
「なるほど。なら微力を尽くしてみせますよ。」
「なんだ、俺が最後か。」
「あ、魚無先輩。」
最後の助っ人、魚無を見て左右田は何故自身のレベルを不問としたのかを納得した。確かに、魚無白夜がいれば有象無象は問題ないだろう。何せ彼はガイア高校のみならずこの支部全体ですら珍しい
「待たせたか?としたら遅れてすまんな。」
「5分前集合だ。僕たちが早いだけさ。」
「でへへ。ならおみやげくださいっすよ先輩。」
「メテオガーリックならあるぞ?値段が時価の高級品だ。」
「劇薬!!生身だと死ぬっすよ!?」
「問題ない。半覚醒程度だと皮膚が裂けると聞いている。回復はサービスしてやろう。」
「バラバラになれと!?」
「それは困るな。白夜も2人でちまちま繋ぎ合わせるのは面倒だろう?
「まあな。」
「ジグソーパズル並みにバラバラになるんすか!?」
馬鹿話をしながら申請を済ませ(左右田はただ側に突っ立っていた)、ハンター支部から外までのロビー前で、草臥れた装備の集団が玄関から入ってきた。装備品から判断するにレベル10前半のベテランハンターだと左右田は理解した。彼らは装備から血糊などの汚れが溢れないことを確認した後、のっそりとロビーを歩いた。
「お疲れ様です!」
「おう、ありがとな!今日は肉が安くなるぜ!」
勢いよく頭を下げた石丸に覚醒者達は快く手を振った。無言で追従した魚無に合わせて左右田も慌てて頭を下げる。
「すまない。僕の挨拶に付き合って貰って。」
彼らが協会に入った後、石丸は2人に感謝を述べた。
「いつものことだ。俺より左右田に感謝しろ。」
「いやいや別にイイっすよ!むしろオレが不勉強でしたし!」
「兎に角行くぞ。石丸がバッタになる。」
「あっはい。」
強引に歩き出した魚無に従い、左右田はデモニカを起動する。身体に力が接続され、未使用の内臓が動く感覚を捉える。警邏の開始位置に着く頃までには、左右田はレベル11の覚醒者に変貌していた。魚無は左右田の熟練した起動操作に内心でプラスの評価を付けた。
「よし、始めるぞ。今回の警邏ルートは危険性はほぼ無い。警告が無ければ俺たちに着いて行けば問題ない。」
「中継地では左右田君の出番だ。のんびり物見遊山でもしようじゃないか。」
「え?イイんすか?」
仮面越しに困惑の表情が見て取れ、魚無と石丸は思わず吹き出した。
「後輩の緊張を解くのも俺たちの役目だ。」
「僕とて無駄に生真面目にはしない。家ならもっとだらしなくしてるさ。」
ハンター地区から始まり、ひたすらに歩き続ける。
十勝シェルターは都市全体を囲んだ巨大壁に包まれた大規模な人類都市である。中心部に近づくにつれて人口は増加し、外壁に近いほど高レベルの住民が住む。稼働当初は色々とゴタゴタがあったようだが、MAG濃度という物理的な(あるいはオカルト的なと喩えるべきか)現象により比較的スムーズに区画整理は行われたと教科書には記載されていた。今では覚醒を夢見て都市中を走り回る集団がサークルを作る程度にはマグネタイトや悪魔に関する認知は広がっていると左右田は認識していた。
中レベル住宅地区から始まり、膝上程度の高さの簡易結界を乗り越える。スタジアム、FOOD販売区、小レベル住宅地区、歓楽街、農場、食料地区、一般住宅地区。中心部にある大規模シェルターを拝んで、折り返して外側へ歩く。一般を超えてレベル地区、オカルト販売区域を超えて高レベル住宅地区へ。好奇、憧憬、嫉妬、共感、その他諸々。普段は大胆に動かない左右田には、場所によって見る目が変わるのは中々新鮮な感覚だった。
道中の石丸先輩と魚無先輩による雑談も面白かった。覚醒した動物に翻訳する際に比喩で苦労したやら、5レベルは下の雑魚に油断して死にかけたところをレベル1の老人が見事に救出したやら、複数チームで金鉱脈を見つけた際に報酬争いで野球をしたとか、艱難辛苦な話題を面白おかしく話していた。
たどり着いた中継地、正式名称【生体マグネタイト集計用中継地】で、左右田は暴走する感覚に身を任せながらひたすらにデモニカの感覚器を稼働させた。
「やはりこの種の仕事にはデモニカは便利だな。」
中継地にてデモニカからプリントアウトされる数字を見て魚無は呟いた。
「生身だと体感は兎も角検査としての実績にはな…。機器代も馬鹿にならん。」
「検査アプリなんてデモニカ扱わないと使わない物ですしね。てか先輩方も資金繰りに苦労してるんすか。」
「そうだな。」
石丸は眉を曲げた。
「覚醒者の親族といえど高々お祖父様…2世代もない薄い評価だ。滅私の評価を受けて働かせて貰える生活だ。小遣いに苦しむ位で丁度いいのさ。白夜もそうだろう?」
「まあな。」
魚無は左右田が出力したデモニカの検査値を元に書類を書き込みながら肯定した。
「魚無の末席とて産まれた以上支配側として振る舞うことは必須だ。装備面では優遇して貰っている。羅王兄上の下で働くかは兎も角、強者として力は魅せねばならん。個人的な資産は自力で稼がねばな。」
「ラオウさん含めて魚無家って分かりやすいくらいゴリッゴリですもんね。魚無先輩はスゲーイケメンっすけど。」
正確には男の体格が凄いのだが魚無は訂正するのをやめた。左右田の年代で姉達を見る機会などそうそうないからだ。本人を見た際に如才なく褒め称える愛嬌くらいは出せるだろうと魚無は判断した。
「母上似だからな。男とはいえ美も力だ。飾りたくなる程度には美容に金をかけている。」
「そういえば記者会見とかは先輩が出てますね。」
「兄上達はむさ苦しいからな。見栄えとしては都合が良いのだろうな。」
魚無先輩は覚醒時期が遅めだったらしく、非覚醒のままを想定して芸能で下働きしていたらしい。しかも一時期はデモニカを使用することも検討していたとのこと。ガイア幹部の息子という立場の関係上、強くならないと実家に住み続けるだけでも生命の危機が発生するらしい。
「才能があろうが磨けなければ無用の産物だ。覚醒者前の俺は間違いなく左右田より無能だったな。」
「はえー。」
立場があっても才能の有無は浮き彫りになるのかと左右田は冷や汗をかいた。
「でも覚醒できたんすよね?どんな訓練だったんすか?」
「ははは。左右田君もやはり覚醒したいか。」
「そりゃあもう!モテるし儲かるし尊敬されるし!やっぱり友人ならソウルフレンドと肩を並べるくらいしないと!」
左右田の本音としては友人に胸を張れることが第一だったが、流石に先輩にホモくさい発言をする勇気は無かった。発言を信じたのか見抜いたのか、魚無は優しい笑って覚醒訓練の馬鹿話をすることを決めた。
「外貨獲得の一環として実験した訓練に参加して、な。はっきり言って家の力を使った依怙贔屓だ。参考にはならんぞ。」
「外貨獲得…っすか?」
「いわゆる見世物をする叩き台だ。参加者は有力者の親類で有望な非覚醒を18人。あくまでも覚醒訓練が本命だからな。顔見知りばかりの環境だった。」
いわゆる生命の危機で覚醒を促すようにした
「そして記憶を消していざ開始、をしたんたが…割と致命的な問題が発生した。」
「なんすか?」
「俺も含めて大半が意図に気付いた。」
「致命じゃないっすよ!?死んでますよ!?」
左右田のツッコミに魚無は首を横に振った。
「優秀なクラスメイトが多いと中々自己評価が難しい。少なくとも俺はこのデスゲームが茶番であり、本気であり、自身も含めた利益目的であり、死んでも蘇ることを把握した。」
「殺人前にそこまでわかったんですか…」
「巧妙に隠された監視カメラや司会役、おまけに凶器を考慮すると殺人は楽しませつつ実行しなければならないと理解した。」
「あー、配信ならお金取れますしね。」
「ああ。この結論を皆考えたのか…」
魚無は手を銃の形にして射撃のモノマネをした。
「全員が推理小説並みの計画殺人を始めた。」
「嫌なデスゲームだな!?」
横で聞いていた石丸が思わず叫んだ。
「全員が後ろ手に凶器を隠しながらアリバイトリックだ。無論、デスゲームとはいえ撮影されている以上
「酷い日常だ…」
検査値を埋め終えた魚無はプリントアウトされた紙を切り取り、ダブルチェック用の真っ新な用紙と合わせて石丸に投げつけた。
「ありがとう。結局、そのゲームはどうなったのだね?」
「運営的にはそのまま待つ予定だったらしい。」
「…予定?」
過負荷により頭痛に苛まれる左右田に回復をかけながら、魚無は肩をすくめた。
「唐突にメシア教徒が5人ほど襲撃してきた。」
「えぇ…」
「なんすかそのサプライズ忍者理論みたいな流れ。」
あんまりにも雑なテコ入れに石丸と左右田は呆れた声を出した。
「魂を切り刻んで無理矢理
「だろうな。」
魚無は軽く話しているが、レベル持ちを殺害するのは並大抵の苦労では無かっただろう。覚醒するほどに匹敵する実践は今まで彼が地道に積み重ねた結果が成功に導いたのを左右田は理解していた。それ以上になりふり構わず暴走するメシア教徒に慄いていたが。
メシア教が世界を破滅させて数十年。未だにメシア教は救済を主張しながら破滅を押し付けている。最早彼らは自身がどの様な存在なのかを理解していないのだろうか。
「怖いっすね、メシア教。」
思わず口に出た左右田の発言に、魚無と石丸は苦笑いで頷いた。
帰り道もひたすらに歩くだけだった。
一度だけ出た悪魔もDレベルオーバーが睨めば顔色を絶望に染めて逃げ出していた*6。必然、話の流れは雑談となった。
「…外に出たら悪魔と合わせて出るんすか?」
「このシェルターの近くに限ればな。」
左右田の呟きに魚無は首を振って肯定した。
「十勝シェルターは外部からすれば上位陣が支配する管理社会が蔓延っている。だが、その分反乱分子を弾圧する力も大きい。メシア教も煽りを受けて弱体した。裁判もしたし、賠償金も払い続けている。別組織を立ち上げて復権するのに手を組んでもおかしくは無いな。」
「それじゃあイタチごっこじゃないすか。」
「それは…どうだろうな。」
石丸が顎に手を添えて左右田の発言を否定した。
「僕はメシア教…正確には天使のことを断言するほど知識はない。だから犯罪者として考えるが、要は彼らは教祖を信奉する犯罪組織だろう?」
「不老不滅の犯罪者はクソの極みっすね。」
それだよ、と石丸は左右田の相槌に肯定した。
「メシア教が凶悪なのはその中枢が不老不滅の悪魔
左右田も石丸が言いたいことが理解できた。だが、それは人類にとってあまりにも迂遠な道のりであることははっきりと分かった。
「じゃあシェルターがメシア教だけを叩いてるのは…」
「
「その通りだ。」
魚無は石丸の疑問に頷いた。
「十勝シェルターとして裁くのはメシア教だけだ。その後に生えてきた天使を主軸とする信仰組織は別物だ。たとえ前身がメシア教であろうともな。」
犯罪をすれば叩かれるだろう。迷惑をかければ解散するだろう。だが、ただただ信仰に善行をすれば認められる。内部が巨大化して腐敗しようとも、決して滅ぶことはない。たが、それはメシア教ではない。
「その組織は天使に
天使が神のためでなく己の欲で組織を立ち上げるのなら。
「
個人で築き上げたものは神のものでは無い。将来的に天使は信仰せし神へその組織を捧げるだろう。しかし、それは天使が拵えた成果だ。
「まさにアベルとカインの如くに、だ。そうなれば天使もただの欲深い人間だ。あるいはそれがメシア教の最後かもな。」
「いつになるのやら…」
「俺たちの方が滅びそうっすね。」
「万年経てばいずれ分かるだろうさ。神は選別に苦労するだろうだがな。」
多少は苦労しても良いだろうと魚無は神を笑った。
・主な信仰は仏教系
・労働の貢献度に反比例して生体マグネタイトの提供義務あり
・食事は一般人でもちょっと節約すれば外食できるくらいの輸出都市
・中学まで義務教育で覚醒訓練は無償で受講可能
・設定的には人口比に対して覚醒者の割合が非常に高い、なお質
・何故かやたら天使から襲撃される
そんな十勝シェルターです。