そしてアビャゲイル様のスレ覗いたらしれっと登場していました。
ウォレスくんハンサムだったんだな…
魚無家は豪奢な和風仕立ての豪邸である。
客室は2桁は存在し、家の管理にハウスキーパーを10人体制で雇い入れているし、場合によってはお偉いさんとの会食も開かれる。地下には推定南極と思わしき直通のゲート*1が存在し、魚無家当主の右腕がペンギン国を建国の上常駐して見張っている。時たま覚醒したエリートペンギンが出稼ぎにくるのはご愛嬌だろう。終末が来てはや数十年。この地方で最も裕福な家庭として魚無家があげられるのは常だった。
当然、その豪華さに比例した義務は存在している。あるいは、果たしていた。当主である金剛はレベル90代の傑物であり、彼の力無しでは30万人を
そんな魚無家は覚醒者の家庭に違わず五男二女の大家族である*2。長男が成人してはや数年。皆が何らかの所要で不在なのも珍しくない中、本日の夕食は全員が家で取れることになった。
父:金剛。レベル98。十勝シェルター支部長。
母:
長男:
長女:玉藻。レベル46。十勝シェルター支部結界構築運用補佐。
次男:
三男:
四男:士郎。レベル35。ガイア大学生。
五男:白夜。レベル31。ガイア高校生。
次女:
全員がゆうに座れるテーブルにて、これまた珍しい母お手製のカレーを前に、全員が揃って食前の挨拶を行った。
その光景は某野球好き曰く、悪役の幹部会議みたいだったと述べた。
仕事や家がどんなに上級でも家族間の会話は大差ない。
「網場くんが遂に北海道神拳を作り上げたよ。」
炊飯器からご飯を山盛りにし、羅王はなんとなしに雑談がてら報告した。
「えっあれマジでできたのか?」
士郎は思わずツッコミを入れた。
悪魔退治の技術として施餓鬼米を始めとした物体に文化という歴史を重ねることで効力を上げる手法は存在している。彼の知る北海道神拳も拳法に歴史を重ねる手法で開発を行っていたと認識していた。士郎本人は北海道の歴史を拳法にどう載せるんだよと懐疑的な考えではあったが。
「できるできる詐欺で羅王兄貴が騙されてるわけじゃなかったのか…」
同じことを考えていたのか、慈凪も羅王に対して辛辣な言葉を浴びせた。
「酷い…酷くない??俺だって出資先の見極め位はするよ?」
羅王はしょんぼりとした顔で家族の顔を伺った。気質が母に似た慈凪、白夜、清は伽耶そっくりの諦めの目線を浴びせていた。怯んだ羅王に対して、代表とばかりに慈凪がボソリと呟いた。
「そう主張してピラミッドに金ドブしたトキ兄がいるし…」
慈凪が過去の事例を提示すると、羅王は引き攣った口のまま話題の弟を見た。流れ弾が飛んできたことに朱鷺は咽せながら目を背けた。
その姿に慈凪は見せつけるように溜息をついた。
「医療バカなのにピラミッドパワーで治療とか…いや騙されんなよと。」
「…一応外傷に対しての治癒効果は上がっただろ?」
朱鷺のぼやきは自身に言い聞かせている口ぶりだった。
事実、出資されたエジプト勢により提出されたピラミッドパワー(笑)は些か守勢に偏っているものの、術向上の成果自体は有用であることは明らかだった。
その度外視自体も朱鷺自身のミスによるものだった*3故、運良くヒヤリハットで済んだ不祥事でコトを納めることができた。あまり怒らない父が本気で叱ったのはアレが初めてだったなと士郎は思い出した。
「朱鷺。一応、ではいけません。」
清のおかわりをよそいながら伽耶は息子を嗜めた。
「あの失敗は確かに個人的な出費として損のみで決着しましたが、見極め自体は貴方自身の不足点からなるものです。
「(´;Д;`)」
「泣いてもダメですからね?」
器用に口頭で顔文字を使った朱鷺に玉藻は呆れてツッコミを入れた。
「あむ…お父様。レベルが高いと契約に影響がでるんですか?」
母からおかわりを受け取った清は首を傾げて父に尋ねた。金剛は清の10倍はある大皿にスプーンを差し入れつつ、疑問に頷いた。
「言ってしまえば高レベルは
「キッチリやればバフになるよ。俺の場合材料の調達にMAGを貸し与えたりもしてる。羅王兄貴もMAG提供とかしたんじゃないかな?」
補足する形で士郎がメリットを付け加える。清は感心した声をあげて人参を士郎の皿に移した。伽耶は丁度ルーを注いでいた白夜に目配せし、白夜は無言で清の皿に人参を倍追加した。
「あう…。」
「好き嫌いはダメだぞー。で、実際どんな塩梅なんだ?」
「適切に生体マグネタイトと型を模倣すれば攻撃に【貫通】が付くようになった。一応デモニカでも再現はできるぞ!」
ウキウキと回答した羅王に玉藻は困り眉で首を曲げた。
「あれ?…思った以上に有用で困惑してます。」
「ハァ…姉貴ィ、メリットだけで騙されんな。」
慈凪は目頭を押さえて俯いた。両親も含め家族全員が大体の障害を独力で解決する能力を持つからか、魚無家は自身の助力を軽度に扱う悪癖がある。問題と解答だけをみて点数を付ける教師の労力を抜かしてしまうのだ。現在進行形で管理者をしている母と無勉強の清は兎も角、現時点での人を扱う素養を比べて上位が自身と白夜という時点で色々とダメだと慈凪は内心頭を抱えていた。
「せめてデメリット聞くとかさぁ…姉貴白夜と違って頭良くないんだから…」
「ま、まだ騙されてませんから!これから聞くところでしたから!!」
「
「朱鷺ィ!!」
揶揄する朱鷺に玉藻は半ギレで叫んだ。流石に見かねた伽耶が2人に対して鉄鞭を頭に叩き込む。乾いた音に合わせて兄妹の苦悶の声が響いた。高レベルの子供を叱る際に愛用することになった武器は今でも現役で働いていた。
「そんでデメリットは?」
いつものじゃれあいを他所に慈凪が羅王に問いかけた。
「どうせ型がクソ長いとかだろうけど…」
「そんなことは無いぞ?ちゃんとワンアクションで出せるとも。」
「ヌゥ…ハァ…どんな型?」
朱鷺の言葉に羅王は椅子から立ち上がって両手と片足を天高く上げた。
「こう…地面の影が北海道の形になるようにすればいけるぞ☆」
あまりの不恰好さに成人組は盛大にため息をついた。
「…どうやって当てるのですか??」
清の素朴な疑問に羅王は何も返せなかった。
まだまだ北海道神拳は完成には遠いようである。
魚無家は鯨飲馬食の一家である。
家族全員が一般から並外れたレベルなのもそうだが、男性陣が肉体美に溢れた恵体なのが理由としてあげられる。当初は頑張って炊事をしていた伽耶も、次第に増える炊飯器の数に根を上げて料理人を雇っていた。手伝いの際に、料理人の給与より材料費が高いのを知って料理人が引き攣った顔をしたのを士郎は覚えていた。
「兄様達は恋人のアプローチは何をしたのですか?」
デザートとして置かれたバケツから自皿に選り分けたプリンを頬張りながら清は兄達に質問した。朱鷺と玉藻は辺りを見たが、既に両親は寝室へ行っていた。中々時間が取れないとはいえ、相変わらず仲睦まじいなと息を吐いた。
そんな年長組の気遣いを知らず、士郎は朗らかに回答した。
「おいおい、いきなりだな…普通に話しかけてだよ。」
「その普通を知りたいのですが。」
「そんなもん相手次第だろ。オレなんかは孤児院の寄付だぞ?」
不貞腐れる清に対して
「「いない。」」
その一部である朱鷺と玉藻が異口同音に発言した。
「モテると聞いて医者を目指したのが誤りだった…」
高校、大学をレベル上げしながら勉学し、医療業界に踏み入れてからは覚醒者に対しての治療、研究、発表のループ。合わせてレベル維持の異界攻略に魚無家としての政治活動の補佐。充実はしているが、出会いは無かった。
「くっそ忙しくて金も使えない…(´;ω;`)」
どんなにモテてもアプローチの時間が足りない喪男がそこにいた。
「退院したお子様からプロポーズされても困るだけなんだ…」
「ええ、ええ。生まれてこのかた彼氏なんぞいませんよ私は。さば折りで死にそうとかイチモツに骨は無いからと振られてませんよ。」
ぐりん、と玉藻は清を澱んだ目で見た。その眼はMAGに溢れ、対象の瞬きさえ把握できるほど精度を高めていた。
自己バフ、回復、物理貫通、アナライズ、全耐性。前衛の天凛を持ち、体格以外は父の血が最も濃い長女は、3連続の同期の結婚式でメンタルにヒビが入っていた。
「…清。ナチュラルに私を省きませんでしたか?」
「…してません。」
「清??」
喪女扱いしませんでしたか???
無言の圧力に清はピワワと涙目になって羅王の背中へ飛び乗った。40キロの負荷を首に受けた羅王は一切気にせず玉藻の頭を撫でた。
「ほらほら、玉藻、落ち着こう?別に好かれない訳じゃないだろ?体質の事情はしょうがないよ。ほら、清も。」
「うう…姉様ごめんなさい。」
「俺とて見合い待ちだよ?アプローチ教えて貰う立場だよ。気になるよねー。玉藻も参考にすれば良いじゃないか。気になる人、いるんだろ?」
「…ま、まぁそれなら?」
挙動不審に髪をいじる玉藻に、慈凪と士郎は互いに目配せをした。
実際、玉姉に恋人候補はいるのか?
同年代にはいねぇ。光源氏してるか見栄張ってる。
互いに頷いて2人は姉の恋愛事情をスルーすることを決めた。慈凪は羅王の背中に貼り付く清の尻をパシリと叩いて話を進めることにした。
「…痛いです…」
「姉貴よりマシだろ。で、お眼鏡に適ったヤツはどいつだ?」
「謎丸さんです!!!」
「熱ッチイ!!!」
文字通り
肩車から襟持ちにされた清はスマホを取り出して意中の人のステータス*4を見せつけた。
謎丸立香と書かれたプロフィールには整った顔立ちではあるがどこか牧歌的な男性が
「変な名前…いや待てコレ苗字か!?」
「凄え苗字だな。」
「親が帰化…帰化?した際に語感で決めたらしいです。特技は交渉術で、普段はサマナーとしてラーマ*5・シュールパナカー*6・バーリ*7を従えてます。」
「組み合わせが悪い…!」
「死ぬほどギスギスしてそうな組み合わせだ…」
大量に悪魔を使役しない羅王と朱鷺すら分かる組み合わせの悪さに2人は呻いた。
「ガチガチに縛れば出来なくもない…のか?」
「あるいは単体運用してるとか…?」
COMPを多用する慈凪と士郎が使い道を想像するが、やはり纏めての管理は諦めている。特に10体の悪魔を使役する慈凪はわりかし真剣に方法を模索していた。清はバッサリと2人の考えを否定した。
「ほぼフリーハンドで3体使役してました。感覚では慈薙兄様の多重召喚時くらいの紐付きでした。」
「悪魔の本能を制御するギリギリを戦闘中に管理してんのか!」
慈凪が感心した声を上げた。慈凪が行う多重召喚の原理は単純で、COMP機能を一時的に人力で計算補助を行うだけだ。だが、戦闘中に脳に負荷をかけて戦況を俯瞰することは非常に難しい。その難度を普段からこなせる力量は慈凪も評価するモノだった。
「マジで卓越してんだな。」
「あの無いに等しい契約で芸術的に悪魔を使役する姿…!あの凛々しさに清は雄を見ました!」
「ううう嘘は言ってないんでしょうけども…じ、人格は別でしょう?白、実際の彼はどんな感じなので?」
キラキラとした目を煌めかす清に玉藻以外の全員が苦く笑い、思った以上の優良物件に玉藻はヤケクソで我関せずとコーヒーをすすっていた白夜に問いかけた。なんか大変なことになったなと白夜は後輩の呆けた顔を思い浮かべた。
戦闘時は味方の攻撃を数値化した堅実な指揮。特に接敵に関して人外めいた感知機能を持つ。他にも色々あったが、面倒くさくなった白夜は手っ取り早く姉にトドメを指すことに決めた。
「のんびりした善良な田舎っぽい後輩だ。色々と抜けている面もあるが部下としてならあれ以上の人格はそういない。」
「…!」
「姉貴が白目剥いたぞ。」
「辛口の白夜が高評価だからな。まぁ羨ましいんだろ。」
「で、どうやって親しくなれば良いのでしょうか。」
「普通に遊びに誘えば良いんじゃないか?」
「もしくは消え物のプレゼントとかか?懐に余裕あっても俺たちほどじゃないだろ。」
清の問いかけに男達は適当に答えた。正直なところ、白夜の評価で謎丸くんとやらが清自身の美貌と地位でアプローチした際に跳ね除ける未来は想像できない。恋を前に清が足踏みしているだけだと理解したからだ。
「…清。」
ただし、玉藻だけはそう思わなかったようで、死んだ目で助言をすることに決めた。
「押し倒なさい。」
「!?」
「この手の朴念仁は誤魔化しは無意味です。先月の結婚式の新郎も
虚な目をした玉藻はふらつきながら呟いた。
「ちなみに私は全員から恋愛相談をされてました。シーフとか警戒すらされてませんでした。同級生なのに。仮にも美女なのに。にゃじぇえ…。」
「雲の上過ぎて人扱いされてなかったのでは?」
朱鷺の一言に玉藻は無言で崩れ落ちた。
このギャグしてる人達がエリートなんだよなぁ。
無言で後片付けをしていた料理長は明け透けな彼らを観ながら今日は高い酒で晩酌しようと決めた。