才能のない現地民に対しての十勝産アイテムが登場します。
分霊、と言う手法が悪魔には存在する。
情報生命体として巨大となった悪魔はその強大さ故に現界することは難しい。電池一本で戦車を動かすことは不可能だからだ。そこで悪魔は己の分身として異なる自分自身を産み落とし、それで活動を行う。いわばミニ四駆を作り出すことで悪魔は現世への干渉を可能にしたのだ。そして分霊はあくまでも一個人のため個別に成長する。その分前を回収することで大悪魔は身動きすることなく恩恵を受けることができる。この派遣システムは悪魔にとってあまりにも有効な技術だった。安全で、かつリターンがあり、それでいてギャンブル。投資に等しいそれは瞬く間に広がり、悪魔達の主流どころか空気同然の方法となった。
そして、それを人間の技術として利用しようとするのは当然であった。
「で、コレがその試作体『トリオン』さ。」
魚無はジャケットを捲り、幾何学的な紋様が浮かんだ分厚いラバースーツを見せつけた。
「操作者個人の生体マグネタイトを充填して擬似的な分身として感覚を拡張。本人の五感を簡易的に抑えれば遠隔操作の完成さ。課題点として下がったレベル当時の肉体が再現される。最終的にはレベルそのままに操作したいところだけどねぇ。」
「高性能なテレイグジスタンスロボットですか。なら、僕が操作したら20代の肉体になるんですか?」
「今の技術だと20分の1以下に制限しちゃうから幼児以下になるかなぁ。」
本人から補填可能なマグネタイトとなるとレベル自体が下がりかねないと魚無は説明する。確かに、今の魚無をアナライズすればレベルは7である。元々が大悪魔を想定した術式であることを踏まえれば、それくらいのハードルはあって当然だろうと神崎は納得した。
「それにしても、何故わざわざその義体で?支部長直々に実地試験をする必要は無いと思いますが。」
「…自覚できないバカが過信すると碌なことにならないって話さ。」
ため息混じりに説明した魚無の話を噛み砕くと、今回の構築された異界は非常に不安定らしい。例えるなら風呂の中で重りをつけた桶にある空気が近い。金札どころか銀札レベルすら異界が揺らぐほど安定性が皆無のため、2桁のレベルすら侵入が躊躇われる状態だと魚無は吐き捨てた。
「キミが近づいただけで取り込まれたのもその不安定が理由さ。しーかーも、厄介なことに内部に生きている人間が監禁されているみたいでね。こうして被験体としてレベル1で突入したわけさ。」
「なるほど…」
うちの上司なら『かわいそ…メシアを信じたばかりに…』と言って容赦なく異界を破壊していただろう。流石に支部長は責任感が強い。うちのセルスも『コレが…黒札…!』と感動に打ち震えていた*1。
話は以上だ、と魚無は背中のバッグを神崎に放り投げた。
「ボクも暇じゃあないんでね。さっさと皆殺しにして救助するよ。サポートよろしく。」
「あ、はい。2キロ圏内であれば補助術やアイテム投擲できますので必要であれば口を動かしていただければ。」
バックを開いて中の支援アイテムを全て把握した後、神崎は魚無の背後で探知を全開にした。いつもの支援だ。サポートに全振りした神崎は黒札の補助役として一流になっていた*2。そうして状況を報告しようと思った時、神崎はふと先程の話におかしな点があったのに気がついた。
「…レベル1?」
「そうだよ?今はそれなりに上がってるけど。」
「ここの平均レベル13なんですけど??」
「レベル差を悲観しすぎだよ。刃物が通るなら油断し切った人型くらい首を数センチ削ればそれまでさ。非覚醒だって鍛えれば熊くらいは殺せるだろう?」
魚無の例えに神崎はそんなわけあるかと全力で否定した。
神崎は黒札の
肉体的な才能面では随一の彼らも、気質が悪魔退治に不向きな者が多数いることは知っていた。贄川市長*3の秘書などは分かりやすい裏方である。戦闘は全てシキガミにお任せするスタイルで、鉄火場など経験もしたことはないと自虐していた(それでも神崎を超えるレベルなのが末恐ろしいが)。
反面、適性がある者は無限に成長する。比喩抜きで海を割り山を砕き死者を蘇らすのだ。うちの上司などは正気じゃない死地と化したロシア他海外に頭おかしい検地作業として治安維持を勤めている。業績的には支部長になれるだろうに、その素振りは全くない。
その
魚無が神崎のサポートを得て背後から奇襲する。身の丈程度の棒が槍の如く天使を貫いたが、即死には程遠い。たが、痛みに呻いた天使が漸く気付く頃には、首に一筋の切り傷が追加されていた。残念なことにレベル差により刺した包丁が弾かれたのだ。ゴムタイヤのような音が響き渡り、天使が激昂からか大きく口を開けて叫ぼうとしたが、それはその口に包丁が差し込まれたことで中断される。歯茎に挟まれるように縦に
「うーむ。補助ありとはいえ流石に2桁はバカ相手じゃないと厳しいな。」
倍近いレベルの天使を無傷で制した魚無は本体から伝わる肩こりを誤魔化すためにぐるぐると肩を回した。
「とはいえ、コレでレベルは11だ。心許ないが本陣へ突入するとしよう。」
「もう少しレベリングした方が安全なのでは?」
内心のドン引きを隠しながら神崎が要望を口にした。
「これ以上に力を増すと異界が崩壊しかねない。殺すだけならこの体を自爆すれば異界ごと巻き添えにできるしね。」
「それ僕も巻き込まれません?」
「ははは。」
笑い話じゃないんですが。
本陣に居た首謀者はわかりやすいくらい破綻している狂人だった。
「うっわ。」
あからさまに正気じゃない。頭に切開痕はあるわ涎ダラダラで聖歌を口ずさんでいるわ歌の音源は頭に引っ付いた天使のパーツが発してるわ色々と破綻している。しかも人間側の顔は絶賛トリップ中で首が180度反転の上に天井を向いている。異界の杜撰さも納得な狂いようだった。
「うーわ。うわ。うぇ…。人間の可動域って案外広いものですね。」
「出向前は首はまだ硬かったけどねぇ。乗っ取るにしても顔の向きどうにかならなかったのかな。COMP操作にも苦労してるよ。」
「もうアレは富井さんとは呼べませんね…。便宜上トム*4と呼びましょうか。」
「テンプルナイトと呼んでいただけるとありがたいですねェ。」
隠す気も無かったので当然だが頭の天使がギラリとこちらを向いた。
「我が信徒は個を捨て使者となりました。とすれば我らと等しく職業で語るべきかと。」
口調と顔は怪しいが知性自体は真っ当に保持できているらしい。
「ほーん。ブラック企業にも惨めなプライドがあるんだねぇ。」
「
「押し付けは嫌だね。…人質はその扉の奥かい?」
「ええ。特別に頑丈にはしてますが至近距離からの呪文は遠慮していただけると。私の未熟ではありますが蘇生は拝領していませんので。」
「そう言ってボクを盾にしようとしてない?」
「我らが子に無体はしませんよ。」
意外でもなんでもないことだが、異界で管理している人質の扱いは基本的に紳士協定が結ばれる。異界だろうが行うのは土地争いであり、畑を潰す領主は普通はいないのだ。
「それにィ…この聖遺物の実践もしなければなりませんしねェ…」
テンプルナイトはにやけた顔を露わにしながら腰の武器を取り出した。
それは、彼が着ている西洋の鎧に似つかわしくない簡素な日本刀だった。
「…あの武器は…?」
理解が追いついていない神崎をテンプルナイトは嘲笑うために歯を剥き出しにして笑った。
「フフウヒヒァハハハ!…まったくゥ…異端者にしては素晴らしい聖遺物ですねェ…!!」
魚無が答える前にテンプルナイトは恍惚の顔で刀を撫でた。
「
テンプルナイトが見栄を張るように刀を水平に構える。少しの間の後、テンプルナイトの雄叫びと合わせて強風が吹き荒れた。懐に忍ばせた検知器が警報をならす。周囲のマグネタイトが薄くなったのを神崎は感知した。それは神崎が幾度となく受け取った高レベル帯の実力者が持つ環境だった。風が収まり、陶酔していたテンプルナイトが狂乱の笑い声をあげる。もはや彼は神崎の知る一般の戦闘者ではなかった。検知器をチラ見すれば、そこには彼のレベルは
「
興奮するテンプルナイトに神崎が不意打ちで銃弾を加えるも、あっさりとそれは切り飛ばされる。二の句を告げないようにサブマシンガンを乱射しながら神崎は魚無に叫んだ。
「なんか支部長のよりよっぽど神作品奪われてますけど!?てかそんなのあったんですか!?僕が欲しいですよアレ!」
「…??盗難防止のために胸骨体に埋め込んだ訳じゃないのかい?」
「……。…え。ちょっと?…マジです??」
「…結構前の模擬戦で紅君が上限解放だって買い取ってたよ?」
「知らぬ間に人体実験されてる…!!」
どうりで最近レベルが上がりやすくなったはずだと神崎は半ギレした。
「で、どうするんですかあれ。後数分で弾切れしますけど。」
「まぁ、君みたいに完全に接合してるわけでもないしね。一旦煙幕でも炊いて不意打ちで処理しよう。」
「させませんヨォ!!」
テンプルナイトが刀を地面に突き立てると、魚無を中心とした魔法陣ー否、召喚陣が展開される。魚無は咄嗟に神崎から離れるよう飛び退いたが、テンプルナイトは突き立てた刀を無理矢理に引っ張って陣の位置を調整する。神崎の銃弾がこめかみに命中するも、召喚に遅れが生じることは無かった。
「
召喚された巨大な石棺が魚無の身体を格納する。中にいた黒い人型は魚無を締め殺さんと無数の手を突き出したが、魚無が身体を回転させたことにより全て打ち払われた。払った勢いのまま魚無は人型を包丁で両断する。人型は呻きながら消滅するが、石棺の動きは止まらない。断末魔が響いた頃には、鈍い緑色に輝く巨大な金属棺が残るのみだった。
口から大量の血を吐き出しながら、それでもテンプルナイトはニヤける口元を露わに膝をついた。
「ゲフッ…ゴボッ…流石に黒札の血を引くだけある…。だが及第点…!モト本体は殺されましたがアレ自身の亡骸で捕縛は成功しました…!!」
頭部の弾丸を指で摘出し、【ディア】をかける。それでも飽き足らずにCOMPから小瓶に入った大量の
「【物理無効】に【呪殺無効】…!彼のスキルに貫通がないのは把握しています…!…ペッ。…フゥー、…もう1人は…逃げましたかね?」
幾分と
「…潜伏ですか。」
テンプルナイトは舌打ちしたい内心をどうにか堪える。見た目上は回復した形の彼であるが、実情は疲弊極まりない状態だ。許容を超えたモトの維持コストに加え、手元の回復薬は全て使い切った。
「最悪は増援を呼ばれることでしたが…中々に蛮勇でいらっしゃる。格上に勝てるのは奇跡でしかないでしょうに。そこまでして争いたいものですかねェ?」
ーそれが僕の糧になるのなら、いくらでも。
虚空へと放った言葉だが、テンプルナイトはあの男が吐き捨てて返事をしたのを理解した。
トリオン
分霊システムを参考に人間を有線シキガミに落とし込んだロボ。将来的に元ネタのようにノーリスクハイリターンな異界用デバイスとして運用される予定。
斬魄刀
非覚醒者のマグネタイトを混ぜ合わせて漂白し、自身のマグネタイトを主人格とすることでデモニカのように外付けレベル武器として機能する。内部全てのマグネタイトを掌握することで1段階、内部マグネタイトが全て覚醒した状態で2段階目の進化が行われる設計。なお未検証。武器自身がマグネタイトを吸うので転生者を筆頭にレベル上限余地が高い者が使うとレベル速度が文字通り半減する。