映画未視聴なのでエアプ成分が多量に入ってます。
マグニフィコは一般的に英雄と呼ばれる超人である。
レベルは30を超えて久しく、始祖キルケーを代々師とし、結界・魔法・果ては異界さえも構築する力量は彼女からも『夫以来』と比較されし高みへと成長していた。
そして当然、マグニフィコは増長した。一族が経営しているサーカスは彼にとって児戯に等しい内容で、結界を張れば中にいる獣達は皆マグニフィコの手足となる。彼がその気になればライオンにタップダンスを踊らせることすら可能なのだ。成人し、酒の味を覚えたマグニフィコは持て余した貯金で
三文小説を趣味にしたマグニフィコだったが、皮肉にも完璧超人だった彼が馬鹿馬鹿しい趣味に耽溺する光景は仲間内では好評だった。真面目一辺倒な彼が愉快に四苦八苦しているのは親近感を与えるのに十分だった。三十路を迎えた頃には、マグニフィコの周りには多数の友人と妻子が常にいるようになった。マグニフィコは間違いなく、このアメリカで最も幸せな存在だとその時は確信していた。
アメリカでクトゥルフが降臨する、1週間前の話だった。
此処は楽しい夢の国*1。
さびしんぼうの魔法使いが仲良く集まって作り上げた魔法の世界*2。
王様のマグニフィコはナルシストなナイスガイ*3。自分勝手な魔法使い達を取り纏めていばりんぼうしているけど、女王様*4と狐*5にはコメツキバッタになっちゃう。
国民は私たち!
ずんぐりむっくりな手先の器用な小人さん、*6ヤリを掲げたトランプ兵*7、子供の私たちは星の形*8!みんな遊んで暮らしてるからいつでも遊びに参加してね!
え?この国にどうやって行けばいいかって?
そんなのは簡単!チケット*9を枕元に置いてお布団に入るだけ!すやりとひと眠りすればこの国のカラダに合わせた姿で入口にご招待!星の姿な私たちだけど、外から来たあなた達は千差万別!おっきなワニさんだったり、毛玉の妖精だったり、あるいはぬいぐるみかも!君たちはどんな人かぜひとも教えてあげて!
さあ、君も夢の国『トット・ランド』へ旅行*10しよう!
「「おおー。」」
軽快なダンスと共に始まったミュージカルに小刀と妖精は感心して拍手した。妖精にくっついている星型達は目を輝かせて口を開けていた。2人の拍手が止んだ後、焦茶色の星はスカートを摘み上げるように手を挙げて一礼した。
「今回ワンダーランドを案内しますアーシャです。この度はブラックチケットのご購入ありがとうございます。ご観光ですか?」
「ええ。ウチのボンクラが仕事序でにもぎ取ってきてね。海外出張で顔合わせできるとは思わなかったわ。」
「とはいえ僕はこのままお仕事です…。追加で護衛をお願いします。」
「毎度ー!」
アーシャは体全体を煌めかせて発光体を空に向けて発射する。光は徐々に収束し、中から現れたのは周囲を警邏しているトランプ兵より一回り屈強な絵札兵だった。絵札兵は優雅に一礼した後、小刀と星型の1人を見てヒクついた笑顔で1歩だけ退いた。どうやら
「神崎です。申し訳ありませんが僕はパレードまで打ち合わせがあります。護衛…まあ案内ですね。そちらを頼みます。」
「こ、これは如何も小刀さん。…あの、全力は尽くしますが。…ワタシ必要ですか?」
かろうじてRPをこなした絵札兵はデモニカオーバーの
「子供ですよ?強さに関係なく庇護は必須です。少なくとも私の娘には必要でしょう?」
「あーん?あなた。私は?」
「いざという時の優先度の話だよ。」
妻のローキックを優しく受け止めながら、神崎は身を屈めて自身の子供とその友人に向き合い、娘の頭を撫でた。
「火織も危ないときは木乃ちゃんに助けてもらうんだよ?」
「はーい。」
「…うん。まかされた。」
「あ、ワタシやっぱり肉壁なんですね。」
絵札兵の独り言を他所に星型達は仲良く手を繋いで絵札兵にお辞儀をした。護衛業務として多数のお客様を相手にした絵札兵の審美眼から、この子供達の年齢は10にも満たないことが理解できた。
「か、神崎火織です。よろしくおねがいします。トランプさん。」
「…
黒札の子供じゃないですか!ヤダー!!
絵札兵は突如湧いた任務に冷や汗をダラダラと流し始めた。
トットランドは中央にある巨大な城を基本とする円型の遊園地である。ジェットコースターやメリーゴーランド、観覧車をはじめとする著名な物から、悪魔退治シュミレータなど時勢に合わせた施設を備えている。地下では大人向けのカジノやテーブルゲームなどもあるが、そちらは本日黒札の貸切である。絵札兵の立場では関わりのないことだが、この施設の運営について重要な会議が行われていると聞いた。聞いただけ、という悲しいことだが。
そんなこんなで護衛業である。説明はアーシャに任せて子供達の補佐をするだけである。本来なら楽な仕事だったが、規格外の前ではそれは無となった。
「ジェットコースターおそーい。キノちゃんつまんないっていってるよー。」
「…うん。」
「えー。ギネス超えしてるって聞いたけど…?…まぁ次のシューティングは別です!大人にも大人気のゲームですよ。」
「吐きそう…」
「だ、大丈夫ですか奥さん?」
「コレがトットランド1番の大目玉『邪神ハザード』!国王様達がトラウマに悩まされつつ再現した邪神の分霊達に立ち向かうリアルアクションゲーム!君は生き残ることが出来るのか!」
「前衛・後衛として剣と銃が選べますよ。あ、紅ちゃんは申し訳ないけど銃にしてね。その速度で振り回すとゲーム壊れちゃう。」
「…ダメ?」
「ちょっと音速には対応してないんだ…。」
『GY「いち」SHAAA「に」AAAS「さんしご」AAAA「ろく」A!!!』
『reload!』
「…(バギッ)あ。かおりちゃん。」
「おまかせを!てりゃー!『ザシュッ』イェーイ!」
「いぇい。」
「へー。ウチの人もそうだけどレベルが高いと速度が違うわねー。引退してよかったわ。」
「その図太さがあれば現役でいられますよ。ああ紅ちゃんトリガー壊れたからって振り回しても剣にはならないから。壁壊れちゃう。ヤメテ!」
「楽しかったー!!」
「いえーい。」
「は、はは。ありがとうございます。」
半日後、日も暮れて夕暮れが映し出された頃、ホテル前にて絵札兵とアーシャは草臥れた笑顔で彼女たちを送り届けた。
ゲームを始めゴーカート含めた操作する類はすべて破損。ホラー系統は出演悪魔が失神し、無意識に強化されたジェットコースターは音速に到達した。彼女達は楽しめているのが幸いだが、裏方班は現在も修羅場である。ちなみに絵札兵もこのあとは書類地獄が待っている。修理費もタダではないのだ。
「あの人たち、黒札のご家族ってことは黒札もきてるのよね?」
アーシャはのど飴を舐めながら水を飲む絵札兵に質問した。
「そうだな。今マグニフィコさん達で会議しているはずだ。」
「ネットで見たけど、黒札ってジャパンを支配してるんでしょ?私たち難民よね?奴隷にならないかしら。」
「そりゃ手ぶらならそうだろうさ。だが、ここを見てそう思うか?外国から観光客が来て、食糧を買い付けできて、子供達は遊べる。外と比較しても我々ほど有効価値のあるものはないよ。少なくともマグニフィコさんがいる限りはね。あの人がこの国のすべてだ。」
「みんな大人は言うね。マグニフィコさんが凄い凄いって。」
「事実だからな。あの人は黒札に負けないくらい凄い人だ。邪神にだって勝ったんだぞ?君たちの未来くらいは守ってくれるさ。」
「ぬわああああん疲れたもおおおおん!」
ドンパチとパレードの花火が瞬く中、城の最上部にあるマグニフィコの仕事場にて、マグニフィコは慣れ親しんでしまった仮眠用ベッドへと倒れ込んだ。ハンモックで本を読む女性型悪魔、キルケーは彼のうつ伏せになった腰に回復魔法をかけることで慰労を行う。幼少どころか一族全てを看取った彼女にとって、彼らの頑張りは自らの誇りだった。
「おつかれー。噂の黒札はどうだった?」
「つおい。ちょっとちびりそうになった。」
パタパタと足をばたつかせるマグニフィコに平時の偉大さは全くない。彼の娘・息子すらやらない幼稚さを先祖に見せつけるマダオなアラフィフがそこにいた。キルケーは手に持った杖で彼の向こう脛を叩きながら会話を続けた。
「やっぱり?結界の外からノックされた時の感覚はあってたか。で、結局此処ってどこに跳ばされてたんだい?」
「ロシア南部ですね。気候が狂っていて常に猛吹雪な場所らしいです。」
「うーわ。そりゃ外に出れないわけだ。」
軽い口調で応じたキルケーだが、実情は素晴らしく悲惨だ。米国にて邪神の分霊を贄にマグニフィコが構築した異界は耐久性に難がある代物だった。元がサーカス用の治療用結界故仕方ない仕様だが、終末時に無理矢理構築した結果、構築地点が不明となる不具合が発生した。それでも地上にアンカーを構築したマグニフィコ達は天才と呼ぶべき絶技であろう。しかし、その後に待ち受けていたのは防衛役が使役悪魔のキルケーのみというワンオペ構成だった。食糧も含め、マグニフィコにはガイア連合への従属にしか生き残る術はなかった。
「そのうち雪で潰れていたかも知れませんね。まあそのおかげで外敵が存在しなかったわけですけども。」
「接敵警報が
やってきた救助者はマグニフィコを鼻で笑える超人だった。レベルも、(キルケーというよりマグニフィコ自身の練度として)使役する悪魔も、持ち寄るアイテムすらもマグニフィコの想定を超える存在だった。
「でもジャパニーズ誠意効くって聞いたし。デモニカオーバーがゴロゴロいるとかあの国なんなの?チート系?なろう系主人公でもいるの?」
「マグ坊がそれ言う?」
強い、デカい、大金持ち、しかも国家公認。まさにぼくのかんがえたさいきょうのしゅうまつこっかだ。なろう系でスコップしたマグニフィコは理解していた。世界が滅んでも『今』を維持した国はチート主人公が仕え(笑)ていると。というより終末時に悪魔の本霊顕現であるレベル150以上の存在を感知したので事実支配しているのだろう。マグニフィコは謙虚を極めるしか方針が選べなかった。
「アメリカでインディアンとなあなあで慰め合ってたら邪神が攻め入ってくるしさぁ!何とか総出で滅ぼしたらダース単位でお代わり来るし!しかも終末まで来て無理矢理異界を拵えたら暫定ロシアに転移してるし!雪に埋まって結界の再構築すら出来ねぇ!なんか同情されたよ!」
「中々に骨太な貴種流離譚だねぇ。」
キルケーがケタケタと笑うが、マグニフィコには笑い話ではない。作物どころか動物すら寄り付かない土地に目に見えて目減りする保存食。初年度にマグニフィコが行った政策は切り詰めのために避難民達を封印することだった。何とか拵えた1年でガイア連合への土下座から始まり、テラ異界への確定枠の取り付け、実験という名の物資輸送業務。『夢』を基礎とするマグニフィコの異界は邪神の贄もあり輸送ハブとして検討の価値があった。何せ睡眠だけで手荷物を移動出来るのだ。シェルター間の高速便としては果てしなく有効な代物だった。マグニフィコ達の異界に住み着く住民を除いて、だが。
「MAG濃度もおかしいから子供は風の子だしさぁ!邪神が世界滅亡させたかと思ったよ私は!数年したら黒札様が来たけど!!」
「成人した時に性別確定するの割とヤバいよね。しかも結界維持に氷漬けにして冬眠させてたし。初手殲滅されなくてほんと良かった。」
「ありがとうなろう系…!フォーエバー土下座…!」
マグニフィコの異界は重大な欠点があった。夢を原動力とする以上、一定数の未成年が必要となるのだ。それはマグニフィコが抱えた住民約3000人には心許ない数だった。既婚者夫婦に対しての子作りの依頼から、経営者を起こして異界の相談。そして誕生したのが、このトットランドだった。
「なんだかんだガイアも手軽な娯楽施設は欲してたみたいだしね。寝るだけで遊べる遊園地は需要が高くて嬉しいよ。協力した甲斐があったってものさ。」
「やってること劣化ドリームランドですけどね。」
労働者は氷漬けされた人間、子供は半悪魔化した状態、そしてMAGは(力量的な意味で)マグニフィコのみが扱えるという独裁国だ。マグニフィコが吐き捨てた言葉にキルケーは半目で杖をマグニフィコの腹に押し当てた。
「それなら私は劣化分霊キルケー様だぞ。良いんだよ使えれば。黒札様一行のお陰で引越しもできるし、早くキュケオーンを食べたいよ。」
「私は最近忌避剤の味に慣れてしまいました…。」
断食、MAG喰い、味覚調整。終末後にマグニフィコは更なる成長を及ぼしたが、単純に今まで目を逸らしていた甘えに気付かされただけな気もしていた。
憂鬱な顔をしたマグニフィコに気づいたキルケーは高笑いしてガンガンと彼の頭に杖を叩きつけた。
気にしすぎだろ、とキルケーはニヤついた。
「くっそ昔に
「私だって
「日本語覚えてから実に嫌味のバリエーションが増えたねぇ、坊。筋トレは終わったかい?」
「ええ。ちまちまと10年蓄えた甲斐はありました。」
マグニフィコが黒札から頂いた地図を広げる。大雑把に赤線が引かれた地図は黒札である紅が作り上げた支配地だ。広大な販路をなぞりながら、マグニフィコは何もないある1点を塗りつぶした。
「樺太か。…イヤ、もう北海道と地続きだからオホーツクかな?」
「一応地面はある場所を選びましたよ。利尻島です。夢の国ならぬ夢の島です。犠牲になった同胞も喜んで私を罵倒してくれるでしょう。」
「…まだ死んではないとはいえ、この異界維持に達磨以下だ。見捨てれば移住出来たんじゃないか?」
「ははは。何を馬鹿な!」
「わたーしの名は!マグニフィコ!!この夢の国のスンバラシイ!王☆様!でありぃ!皆の夢を統括せし者!」
「飯の種を捨てるなーんて!馬鹿なことはしなーい!!」
道化として戯けた馬鹿にキルケーは暖かな笑みで愛しい直系の髪型をぐしゃぐしゃにかき回した。
マグニフィコ
アメリカで異界を管理しつつお山の大将してたら終末に直面した可哀想な人。有能だしカリスマはあるがそれ故にガイア連合にビビり散らしている。
キルケー
大昔に分霊として誕生し、恋愛結婚を経て本霊にダメージを与えた。子孫たちが可愛くて仕方がないし、そのために心中する程度には思い入れがある。みんなマグニフィコくらいレベルが有れば良いのになと常々考えている。