七不思議は学校にとって定番となる怪談である。
動くベートーヴェン、トイレの花子さん、夜間になるピアノ。近年統廃合されて出来たこの高校も、七不思議は大量にある。その数、100以上。7つの高校が合体したこの学校に相応しい怪談など無く、ただただ膨大な怪談だけが持ち込まれた結果、混沌とした学校になっていた。花子さんは1時間ごとに階段を乗り降りし、人体模型は理科室から視聴覚室まで瞬間移動。ピアノなどは月光と運命が同時に演奏されている。
統合しよう、と新聞部の部長が提案したのも当然と言えた。
「夜間に先生に
最終的に、教師同伴の下それは許可された。選ばれたのは新聞部の部長を皮切りとして生徒会長、野球部エース、文学部の賞持ちなどの有名人から、オカルト好きの同好会者2名、そして
机に置かれた7つのアルコールランプから、さらに1つが灯りを消した。
火事の危険があると指摘され、代理として利用したアルコールランプは6つの七不思議に対して無事に仕事をこなした。最後の1人である石弓アキラに出番が周り、教師が彼女の机にアルコールランプを置いたが、ランプの光は短い爆発音と合わせて消えた。教師が時計を見ると、およそ2時間ほど。よく持った方だと教師は教室の電気をつけた。
部屋が現実に近づいた気がした。皆が身伸びをし、携帯を確認し、何となしに部屋の外を見た。薄暗い夜間の光景が其処にはあった。
始めてくれ、と欠伸をした教師が言った。全員が終わったと気を緩めていた。最後の1人だと聞き流す。発端の新聞部すらレコーダーに任せていた。
「それでは、最後の七不思議を始めましょう。」
ことり。
目の前のアルコールランプの蓋を閉めて石弓アキラは微笑んだ。
部屋が、オカルトに侵された気がした。
…部長、お疲れ様でした。いやあ、流石の新聞部。文学部の迫真に迫った怪談も凄かったですが、やっぱり部長のが1番でした。どうです?コレで終わりにしません?七不思議の7つ目は知ってはいけないって…ダメですか、はい。
あはは、まあ私が最後になった時点で予測してましたけど…
ええ、はい。
先生には悪いですが、予測はしていました。
そこまで怯えなくてもいいです、結論は変わりません。彼らだって生命は惜しい。だからあれだけ安全な怪談が選ばれた訳ですから。
…あら、みなさん?
分かりました、進めます。そんなに怖かったかな。
七不思議の最後は私、石弓アキラが話します。
石弓アキラは、ミステリアスが擬人化した美少女であるとある生徒は噂した。
話す姿は一般人。成績は優秀。誰にも優しい優等生。休み時間は家計簿を記す。頼まれた仕事を笑顔で熟す。家庭的な聖母。やんごとなきお嬢様。表の顔。
出席日数が足りないのに進学する。ヤクザが登校に出迎えた。平然と備品を壊す。札束を銀行から引き出す浪費家。殺人犯の娼婦。裏の顔。
全てが嘘で、全てが真実だと納得できてしまう、七不思議の筆頭候補生。
美人である。それだけが彼女を表す唯一の記号だった。
…とは言っても、私の話はあまり怪談ではないんですよね。文才もありませんし。人体改造の話をしてもいいですけど、はっきり言ってグロいですし。
…ええ、部長。
世の中に溢れる嘘、欺瞞、あやふやな与太話。それらは全部嘘です。
でも真実にはなりえます。陰謀論ではなく、矛盾を解決した暴論が、世界にはありえています。残念なことに、ですけど。
はい、オカルトです。
嘘を現実に引き上げる力は現実にあります。
魔力、気、マナ、マグネタイト、霊力。呼び名は様々ですが、それらを材料に怪談の存在は実体化を成しえます。無論、それはヒトでも変わりありません。このようにっ…と科学的に不可能なことも可能です。髪の色と服装程度ですが、手品としては十分でしょう?
ああと、丸田部長。そのバットで何を?
あ。
あー。
そう言えばこっくりでしたね、彼。
引き攣った叫び声が部屋に響いた。
石弓アキラの頭部に振り下ろされた金属バットは鈍い音でその実績を叩き出した。怪我どころか即死まで見える攻撃をした野球部エースは
だが、それでも、石弓アキラに変化は無かった。
「繝代ヨ繝ゥ」
彼女が何かのー恐らくは祝詞と思われるー文言を口にして、下手人の額を指差した。
どぱん、と彼の頭が弾け飛んだ。ように見えた。
骨と血と脳の代わりにまろび出たのは狐だった。口からは胃らしき内臓が溢れ落ち、手脚の関節は少なくとも2つは追加されていた。まるで何かを取り返されたかの有様は、全員が確信を持って理解させられた。
呆然と震えた手を見る彼はいつもの信頼される彼だった。縋り付くように謝り倒す彼を、石弓アキラは何でも無いかのように笑顔で許した。
その笑みが慈愛なのか、嘲笑なのか、何も判別がつかなかった。
どうです?正気に戻りましたああ怪我はないですよ泣かないでください!
…あの。
みなさん?
え?
ああ、洗脳に気付いたと。
ええ、はい、黒幕は私となります。
あはは。学校の支配なんかしませんよ。お仕事ですよ、お・し・ご・と。
七不思議、怪談、オカルト、色々名称はありますが、彼らの存在は例えるなら野良犬です。縄張り意識が強くて、雑食で、取り扱いを誤れば死者も出る。だから専門家が雇われる。わかりやすいでしょう?
駆除?
出来ます。私はあまり
霊能者も暇じゃないんです。てけてけとか八尺様、人喰い鬼を放置出来ますか?いや近所には居ませんよ流石に。ただハイキングはおすすめできかねますけど。卒業後に私が訪問できるかも分からないですしね。
言いましたよね。彼らは野良犬です。人の感情というエサさえあればそれなりに融通の聞く番犬にまで飼い慣らせます。今回選別された彼らは私推薦の首輪付きです。少なくとも私が死ぬまでは大人しくするでしょう。
どうやって、ですか?
簡単です。
石弓アキラが視線を横に向ける。釣られた彼らの眼には白装束の狐が居た。和装の狗が居た。楽器を抱えた狸が居た。
『詫びを。』
狐は言葉少なく搾るような声を発した。獣達は唸り声を発しながらテキパキと場を整えた。豪奢な掛け椅子の眼前に茣蓙が敷かれた。教室の机椅子は廊下へと運び出された。教室の半分が和で染められた後、石弓アキラはゆっくりと掛け椅子に腰掛けた。
足元には死にかけの狐がひゅーひゅーとした呼吸を吐き出していた。狗はそれに対して縄を巻きつけ、彼女の足へ平伏させた。狸はその横に三宝らしき台座を置いた。其処には小粒の金塊、ヨレヨレの札束、そして拳銃が乗せられていた。獣達が一礼をし、楽器と合わせて狐が舞い始めた。
儀式だ。知識のない彼らでも理解した。供物に、舞に、懇願。狐狗狸に憑かれたモノを助け出すための手法。それを加害者が実行していた。
あべこべではないか。
彼らの誰かは呟いた。借金取りが債務者となるような生理的な矛盾が彼らを襲った。だが、事実、狐狗狸にとっては反対なのだと理解した。せざるを得なかった。彼らは
ならば、魚に出来るのは命乞いしかないのだ。
七不思議の一つ目、コックリさんはビジネスマンでした。着物にお土産、取扱説明書を持参の上無害さをアピール。霊能者的には知能犯に成り得るので処分も検討してましたが、今回ので子飼い自体の沙汰を知れました。手綱を抱えているうちは
七不思議の二つ目、動く絵画ことポルターガイストは良くも悪くも一般怪異でした。節制できる良い子を残して殺処分。首輪も着けたので安全性に関しては割と高めになりました。人目がある場所ではガタガタ動く置物です。まあ、背中は見せない方が賢明ですけど。
七不思議の三つ目、トイレの花子さんはオーディションでした。花子さん、今時は大量にいるんですよね。最近は野良霊能者に成仏される前に避難してるのもあって、今回の件は30人は来ました。鉄火場の際には彼女に依頼すれば良いでしょう。少なくとも霊丸は撃てます。
七不思議の四つ目、墓場の教会は形骸化させました。ええ、もうこの噂は記録のみとなりました。メシア教、人体実験、生贄、怨念。オカルト研究会の調査には舌を巻きましたが、彼らはもう苦しむことはありません。ただ、墓場が存在した。それだけで結構。世の中そうした扱いが救いになることもあります。
七不思議の五つ目、4時44分の大鏡は大工事でした。夜間に開くのは兎も角、4月4日や夕方に開いたり、挙げ句の果てには求められたら開くと言うガバガバっぷり。寂しがりなのは分かりますけど、ちょっと…ねぇ?彼も人喰いは嫌みたいだったので
七不思議の六つ目、赤紙青紙は苦労しました。候補が居ないと言う意味で。首狩り体育館、脚引き河童、金槌金次郎、眼自亜神父。どれもこれも血に飢えて話しにすらなりませんでした。ええ、ええ。はい。勿論きっちり駆除しました。お化けには試験も学校もありませんが、警察も病院もありませんので。
そして七不思議のその最期は…言わなくても分かりますよね?
嘘はウソ、噂はウワサ。それでも
と。
七不思議はこれで無事終了ですね。
ええ。ええ。みなさんお帰り下さい。足元には気をつけて。後片付けは私が行いますので。はい、またいつか、不幸があれば。…ふふっ。
それでは、お元気で。
狐狗狸の神事は佳境に差し掛かった。
狗の琴は大雨として奏でた。狸の太鼓は雪崩として腹に響いた。飛び跳ねる狐の足捌きはそのものが新たな楽器として加えられた。
柄杓を持ったお付きが獣達の汗を代弁する酒をかけ与えた。湿り気を垂らす和服は獣臭と合わさり神秘的な芳醇さを放った。
彼らが惚けから戻った時、神事は終了していた。平伏する獣達を前に、やはり石弓アキラは笑顔のままだった。彼女は供物にある小粒の金塊を摘み上げ、やおらに握り潰した。金塊はどろりと雫と化し、倒れ伏す狐の内臓にぱたぱたとかかった。
ひゅごり。
狐の内臓が、飛び出た骨が、散らばる歯が。全てが狐に集まり薄く光った。狐が痛みで吠えた時には、獣の怪我は何も存在しなかった。狐狗狸が遠吠えを上げ、完治した狐はその腹部を石弓アキラに明け透けに晒した。些か血生臭い毛並みを撫で付けながら、彼女は七不思議の調伏を謳った。
第一『狐狗狸』は交渉で。
第二『ポルターガイスト』は暴力を。
第三『花子』は仕事を受け取り。
第四『墓場教会』は忘却させ。
第五『大鏡』は安全を加え。
第六『怪物』はそれ以上の恐怖にて。
全てを改造し、何もかもを都合よく書き換えた石弓アキラは、自らを七不思議と称して完成を謳った。そして彼らに解散を伝え、幾許かの神秘物を分け与えた。彼女の神秘を剥ぎ取る勇気を持つ者は誰一人としていなかった。
翌日、石弓アキラは『卒業生』となった。
学籍に彼女の名は存在しなかった。それどころか入学すら彼女はしていなかった。戸籍に存在した同名の女性は別の大学に通っていた。記憶にのみ存在するあの石弓アキラの全てが嘘となった。
或いは。
本当に、七不思議を掌握したのか。
参加者は皆口を噤み、神秘は隠し持ち、隠蔽して『嘘』とした。真実は伏され、結論だと七不思議のみが残された。目的も、成果も、結果すら、石弓アキラは『嘘』にした。
それを知るのは誰もいない。
「お疲れ様です。」
「あの、奥様。次から先生で出すのはできませんか?私もう二十歳ですよ?高校も厳しいのに中学小学はキツいですよいろいろ!?」
「評判は上々なので引き続きやらせます(無慈悲)。」
「嘘でしょ!?あの引き笑いが!?妖怪コスプレ女で七不思議できてませんよね!?嫌ですよ野良で出た悪魔がキツいコスプレしたおばさんなのは!?ちょっと、奥様、ねぇ!?ねえって!!」
石弓アキラ
結局TSしたまま。妖怪コスプレおばさんとして七不思議になってなくてとりあえずほっとした。身長140センチ。