雷の音が鳴った。
黒雲に果てた雨雲は轟々と窓ガラスをたたき、室内である裁判所内ですら伺える天候の悪化を辿っている。
やがて裁判が始まり、己の罪状が列挙される。
詐欺、背任、横領…数々の犯罪を並び立てられ、足りないと思いながら全てを肯定した。罪状には彼が最も親しんだであろう暴力に関しての罪が挙げられなかった。それが彼への仕事から考慮された忖度なのか、単なる警察の力量不足なのかは判別できなかった。
彼はダークサマナーであった。
物心ついた頃には悪魔と借金が柵として付き纏い、青春は暴力と金で血の色がしていた。彼にとって
裁判は粛々と進む。
彼の弁護人が減刑を求めてその経歴を露にする。小卒も怪しいとか、ヤクザに育てられたとか、或いは単純に騙されたなど。全て事実である。食い扶持は稼ぎ、悪魔に命じて不登校児になりすまして勉強した。長年磨いた変装技術はそんじょそこらの覚醒者にもバレない自信があり、事実バレなかった。彼が捕らえられたのは依頼主の市長が愚かにもこちらの戸籍を用意したからであり、そこから足がついたからだった。つまり、何時ものように運が悪かったのだ。彼にとって、幸運は騙して手に入る金以下の扱いだった。
この十数年でダークサマナーは絶滅危惧種となった。
ガイア連合による襲撃やメシア教による浄化、それ以上の
強く、技術が有り、人材が産出され、何より
飲み会の頻度も上がったのもこの頃からだった。アメリカから来日した元メシア教徒の修道女、エジプトから亡命した祈祷師の男、そしてダークサマナーの自身。国も思想も戦法も全てが違う存在だったが、不思議と気が合った。出所後は彼等と組むことを了承するくらいには気心を置けない間柄になったのは神の導きとやらになるだろう。
「何でメシアンは世界を襲うんだ?」
裁判前。
留置所から釈放祝いとして3人で飲みに行って温まったころ、祈祷師は首を傾げた。
「救世主の為うんたら主張してるけどよ、アンテナ目的ならもう不要じゃねえか?なーんでわざわざ母数を減らすんだよ」
「発想がガチャに侵されてるわよー。ま、気持ちは分かるけどね。」
修道女が祈祷師へ酒を追加しながら溜息をついた。
「サンキュー。てかメシア教徒も分かってねぇのか?」
「所詮還俗できた下っ端に伝える訳ないでしょ。還俗であってるわよね…?
「
修道女が差し出した杯に日本酒を注ぎながら彼は相槌を打った。
「それも有り得るけど…救世主がどんな存在なのか曖昧なのが一番だと思うわ。」
「救世主…メシア教の教義で
「勤勉だなお前…オレからすれば超凄いマリンカリンを世界中にかけまわすイメージしかなかったぜ。最近見たゴジラみてぇな感じでド派手にバーンと!」
「そう言われると確かに人型である必要も無いな。巨大な洗脳装置でマトリックスの様に管理したら確かに救いを齎す…のか?」
「さあ?私には脳改造やクローンが許される
法を、世界を力で変えることのできる存在を救世主と呼ぶなら。
「私は正しく生きて死にたい。人の話を聞かない宗教に覇権を取らせたくない。だから、私は救世主を待つのをやめた。バカをやるなら胸を張って歩きたいじゃない?」
判決が言い渡される。
執行猶予付きの懲役刑。多少は資産が減るが、端金である。報道陣もこの後始まる市長の公判が重要なのか、こちらを気にもしていない。その扱いは彼自身の必要とする評価とまるで変わらない。彼等はこの都市の安全が市長により数年も早く確立したことに気づいているのだろうか。真相を突き止めた刑事が泣きながら手錠を掛けたことを知っているだろうか。雨が降る前に自身の政治生命を懸けて家を拵えた彼の英雄譚は、果たして伝わるのだろうか。
伝われば良いな、と彼は柄にも無く