【カオ転三次】現地民とのぐだぐだ小話   作:ややや

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偏屈な警官は何を是としたのか

今や珍しくもない耐震に定評のあるガイアビルのオフィスにて、男がコーヒーを飲み干した。味には詳しくない彼であったが、インスタントでは出せない風味はこの場所の接待と景気を想像させた。

 

男は刑事だった。

定年まで後数年の、老年の巡査部長である。

「刑事さんにとっちゃ詭弁だと感じるだろうけどな、祈祷師は安心を売ってるのよ。」

応接間にて。

アポイント無しで伺ったこちらの無礼さを気にもせず、祈祷師を名乗る褐色肌の男は雄弁で饒舌に笑った。

「例えばそこの人形。ある華族が代々管理していた繁栄と血を強いる呪いの人形だ。わかりやすく禍々しいだろ?」

長い年月のためか、赤黒くヒビが入ったビスクドールは言われた通り得体の知れない不気味さが溢れていた。土台には謹製な文字を記した御札が丹念に貼られ、彼等の仕事振りを伺えた。

「所謂地方を牛耳る一族だ。繁栄にはドロドロとした権力争いがあっただろうし、外敵との争いもある。あの人形はそう言った()()()()()()()()()()()()()()()を受け入れる為の器になったわけだ。」

身内が死んだのは、人形が血を欲したからだ。

身内が残した財産は、人形が齎した繁栄の一部だ。

()()()()()()()()()()()

「なるほど、それで君たちの出番か。」

「ただ焼き捨てて()()()()()()()()が全て当主に回るのは嫌だろ?祈祷師もブランドさ。不幸な一品を敬虔な聖職者が浄化した。ラベルは綺麗な方が気分も良くなる。少なくとも肥え太ることは出来ねぇな。」

豚が聖句を唱えても鳴き声よ、と彼は哄笑した。言葉に対して彼の所作は気品に溢れており、彼が神秘に対して誠実であることが分かる。

「最近はガイアコーポの地鎮祭で食い扶持を凌いでいるよ。刑事さんは聞き込みって聞いてはいるが何を知りたいんで?」

「正にその地鎮祭についてだ。」

ばさり、と地図を広げる。この市の全域を示した紙には既に幾つもの丸印がつけられている。刑事が今までの聞き込みで知り得た近年の工事箇所を全て列挙したものだった。

「鎮祭の場所に印をつけてくれ。」

「あー…帰化した身だけど、コレ、見せて良いんで?」

()()()。自分が捕まえるかも知らんし有給もとってる。実は証拠は別に揃えているんだが動機が不透明なんでな。気分良く退職したいだろう?」

「漫画みたいな刑事さんだな…俺たちより珍しいんじゃねえか?…ほら、付けたぜ。」

祈祷師は苦笑して直線上に丸字をつけた。刑事は予想が当たったことにほくそ笑んだ。そのまま手帳を頼りに最新の地図のこの数年で作り直された道路を年代別に色を着ける。八年前に線を引く。三角形。五年前に線を引く。六芒星。内側の神社の間を塗り潰す、線を引いた。()()()()()()()()()()

「決まりだな。動機はオカルト、裏金先(はんざい)から考えてガイア関係か。」

「凄え…俺ドラマに登場してるよ…」

「セリフも欲しくないか?解説を頼みたい。」

「口の上手い爺さんだ!…大雑把に言えば()()だな。外部から悪きモノを打ち払う結界。この場合の悪きは()()()()()()()()()が対象みたいだな。」

「犯罪ではなく?」

「細かく調べりゃ組込まれてはいるだろうが()()()()が分かる仕組みにはなってないだろうさ。この解説も看板を読み聞かす感じさ。()()()()()()()()()()()()()()()()。」

顔を歪ませて祈祷師は手を振った。化物に対して心当たりが有るのだろう。確かに刑事自身もオカルトには些か関わることもあった。ただし、犯罪に関してだが。都市を超えた逃亡、銃器の隠蔽、致死量を遥かに超えた血を検出する殺人未遂事件。どの輩も刑事自身には好意的であることが印象的だった。

祈祷師へ礼金を払い刑事は外へ出た。時間帯は20時を回っていたがもはや彼に迷いはなく、一直線に市長宅へ目指した。証拠も無い。権利も無い。皮肉にも今まで彼を支えた警官としての使命感も無かった。興奮が彼の期待を膨らませた。

法を超えた何かを、彼は理解したかった。

 

市長宅は一部屋だけ灯りがともり、静けさに満ちていた。妻子は数年前から新築の別宅で別居しており、今期の引退と共に売り払うと語っていた。刑事には知る由もないことだが、別宅はガイア連合製のシェルターであり、ガイア連合幹部(転生者)によるMAGの影響下にある一等地であった。

いっそ朗らかに出迎えた市長に対して丁寧に刑事は現状を説明した。ガイアコーポの納税が公費として流用されていること。統括する書類関係者が1()()()()()()()()()()()()()()()。関係者で市長だけが明確にフリーハンドであり、監視カメラ・書類から市長主導による犯罪であると明確であること。自身が監視兼護衛役として接待として伺ったこと。そして、何故オカルトに傾倒したのかを問うた。

「はは、傾倒は語弊かな。とはいえ、私も話したかったんだ。」

市長は苦笑して携帯を取り出してワンコールを掛けた。

「専門家が必要だろう?少ししたら来るだろう。理由は必要だったからさ。」

「必要?」

ノストラダムス(だいよげん)でもあっただろう?()()()()()ってヤツさ。厄介なことに物理的に実証可能ときた。」

地盤が緩み、山頂に大岩が溢れ、地震が頻発している土地に台風が到来すれば地理を知らなくとも土砂崩れを想定できる様に、世界の崩壊は観測された。化物の酸素が世界中を覆い始め、世界の法則がファンタジーと混じり合う。

()()()、と市長は零した。

「私はこの土地で生まれ育ち、死ぬまで過ごす人生だと確信していた。君は知らないだろうが海外では悪魔の術一発で街が灰となった事例が少なくない状況だ。故郷が頑丈になるなら私の政治生命程度どうでもよかったのさ。運良く、息子は適応できる身の上だったからね。終末では息子の金庫番になるだろうさ。」

「終末…化物…!?世界中がドラゴンクエストになるとでも言うのか!?たかだか数メートルを飛び越えるのに四苦八苦する人間が銃火器でドラゴンに挑むと!?」

()()()()()()()()()()。」

扉もない背中から声が聞こえた。咄嗟に刑事は拳銃を引き抜き背広越しに背後に照準を合わせた。じっとりと一張羅に汗が染み込み、呼吸が浅くなった。

「酸素と例えただろう?この世界には元々ファンタジーの素養があった。陰陽師、悪魔、天使、退魔師(エクソシスト)。人間も化物に成れたのさ。適合した超人を人々はいつしか覚醒者と呼ぶようになった。()()()()()()()。」

其処には、男がいた。

鼠と犬が混在した様な男だった。頬骨が目立つ顔。爪先に重心が偏った立ち振る舞い。忙しなく動く眼は正に追い詰められた鼠の若き眼光で、余裕が無い。百八十は越える筋骨隆々な恵体で行うその姿は、いささか以上に不気味さが現れていた。

()()()()()()()、と市長が掠れた声で溢した。

「済まないね、こんな時間帯に。」

「これでも貴方の私兵(ボディーガード)です。緊急時に()()対応は契約内なので。まあ…幸い()()()の様ですが。」

運が良かったと溢す彼に、先ほどまでの鼠は存在しない。あるのは見た目通りの、圧倒的な強者の姿だった。そのあまりの変貌ぶりは、彼がどのようにして複数人になりすましを行えたのかを雄弁に物語っていた。姿勢が、歩きが、呼吸が、表情が違う。引き金を掛けた拳銃が軽くなったのを感じた。打つこと自体に価値がなくなった(ダメージを与えられない)ことを、本能で理解した。

「傷つけるつもりは無い。あんたは正しく仕事を行い、犯罪を見つけた。今までは事情故に差し止めは陳情したが、工事が決まった今、理由など無い。大人しく捕まるさ。」

「…結界のことか?」

「…そこまで把握していたか。回答はYESだ。結局は犯罪だからな。木端でも覚醒者が捕まることは前例として残さなければならない。」

茶請けに乗ったクッキーを頬張り、護衛は壁へもたれかかった。

「化物は便宜上悪魔と呼ばれる情報生命体だ。主に人間の感情…正確にはマグネタイトを摂取して顕現する。出自が出自故にリターンも高い。手足を生やす回復薬、空間の拡張、所謂若返りの水や個人技能で死者蘇生すら存在する。主な飯の種はそれだった。」

「終末だったな?…終末の到来は人為的なものと?」

「それ自体は自然現象らしい。問題は悪魔の中に神の使いを()()する天使がいることだ。メシア教と名乗る破滅主義者は社会に寄生し世界中の人間を殺戮している。奴らの主張では祝福らしいがロボトミーやクローンは殺人に値すると思うんだがね。」

刑事は確かに意識が揺れたのを感じた。己が知らないが故に守られていた数多の現実に打ちのめされたのが分かった。それでも、彼は理解を止める気にはならなかった。

「…今回の件の首謀者は誰なんだ?」

「市長だ。あくまでこちらの費用を前倒しで持ち出しただけだからな。数年早送りされたに過ぎない。忠告だが、結界の作成者を追うなら辞めるんだな。」

「私には君は幹部に見えるが…」

「幹部はこんなモノじゃない。」

否定した声は冷たく乾いていた。

「私達の組織、ガイア連合は最初期に女性型の人造人間を開発した。今でこそ日本の守護を担っているが当初はその認識は無かった。ガイア連合は文明を保護している。土地を管理している。だが()()()()()()()()()()。庭の虫に興味がないだけだ。この都市の住民は()()()()()()()()()()。」

羨ましいよ、と護衛は複雑な顔で笑った。

そこにいたのはただ親を求める子供のようで。

居場所となったガイア連合(組織)を、信じている組織人だった。

 

これは反省の余地なしだな。

刑事は苦笑いして拳銃をしまった。

 

 

 

 

 

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