「ーーーっ! っ! っ!」
夜、人が寝静まり魑魅魍魎が蔓延る時間、少女は一心不乱に剣を振るう。一太刀一太刀、全力を込めた剣筋は真っ直ぐに、鈍く光る。まるで彼女の愚直とも言える性格を体現したかのような剣筋だった。
「……」
一通り振り終えた後、彼女は間を置いて目を瞑る。剣を天へと伸ばし、そして一呼吸。
「……っふ!!」
瞬間、先程とは比べ物にならない光の軌跡が剣筋から放たれた。そこから起きる風圧が少女の白い髪をフワッと浮き上がらせる。
「……すぅー、はぁー」
額に伝う汗を拭い、今日の鍛錬は終わりだと大きく深呼吸する。
「……まだ、まだまだです」
最後に見せた天晴れとしか言いようの無い剣筋は、しかし少女の満足いく代物ではなかったようで、苦悶の表情を浮かばせた。
「これでは、こんなのではあの人に届きません」
そう嘆く少女は自身の主が寝ている部屋の方を見る。
「幽々子様はまだ起きなさそうですね。……まだ鍛錬に時間を当てれそうですね」
そう言うと少女は再び剣を握り締め、また剣を振ろうとした。
「っ!?」
しかし、何者かがこちらへやって来る気配を感じた少女は、剣を下ろして気配のする方へ急いだ。
(数は一人。侵入者? だとしたら目的は? そもそもどうやってここへ? 私一人で対処は可能? ……いや)
頭を回し続け、しかしパタリと考えるのをやめた。
考えても分からない物は分からない。だけどそんな分からない事でも一つだけ確かな事がある。
「切れば分かるか」
切ろうとすれば悪意を持つ者か分かる。切ってみれば自分で敵う相手か分かる。切れば侵入者を倒せて万事解決。
そう、難しい事を考えるな、どんなに頭を回そうともあの人とは違って愚鈍な自分に分かる筈も無い。ならば師の教えを愚直に守るしか無い。
そうしてる内に侵入者の影が見え始めた。手には剣が、目の前には侵入者が居る。なら後は? そう、
「っふ!!」
切るだけだ。
ーーーギンッ!!!
「っ!!」
白玉楼に硬い物がぶつかり合う音が鳴り響く。その正体は二振りの剣。不意を突いた少女の一撃は侵入者に容易く弾かれたのだ。
(まさか相手も剣士でしたか、しかもその腕は私以上だと見受けられる。……ん?)
驚きつつも、剣を構え直して再び敵を見据えた。しかし、相手の顔を見て少女の戦意は霧散してしまった。
「……妖夢?」
凛々しくも酷く仏頂面な顔、落ち着いたというよりは淡々とした平坦な声色。そして背後に見えるフヨフヨ浮かぶ白い魂魄。
「兄、さん?」
魂魄妖禍、魂魄妖夢の双子の兄である。