半人前少女の兄は一人前でした   作:ブナハブ

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 私には双子の兄が居ます。魂魄妖禍、一族でも類を見ない天才です。

 

 兄さんは賢い方でした。大抵の事は一度教わればすぐ出来て、私はそれに続く事しか出来ません。

 

 兄さんは強い方でした。剣術に関しては鬼才とも言える才能を持っていて、私は一度も勝てた事がありません。

 

 そんな兄さんはいつも無口で仏頂面だ。何を考えてるのか、双子である私にも分かりません。

 

 だから怖い。あの何の感情も読み取れない瞳で見られるのが、あの人は私をどう見てるのか。

 

 たまらなく怖い。

 

 

//////

 

 

 冥界に建つ大きな屋敷『白玉楼』、妖夢と妖禍はその屋敷の一室に居た。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙、室内に流れる気まずい雰囲気に妖夢は額に一筋の汗が伝う。両者は一切微動だにせず、この場で動いているのは机の上に出された茶の湯気のみだった。

 

「……なぜ」

 

 最初に口を開いたのは妖禍だった。能面が如き表情の無さから、一体何を言われるのかと妖夢は自然と身を引き締める。

 

「なぜ睨む?」

 

「へ? ……あっ、す、すみません」

 

 一瞬どういう意味か分からなかったが、眉間にシワを寄せていたのに気づくとすぐさま改めた。

 

「いや、良い」

 

 妖禍はそれだけ言うと、茶を一口飲んで再び口を閉ざした。

 

「「……」」

 

 そして再び静まり返る空間。

 

「……あの」

 

 この空気にいよいよ我慢出来なくなった妖夢は話を切り出した。

 

「その、お久しぶりです。……兄さん」

 

「ああ、久しぶりだな。妖夢」

 

「えっと、先程はすみません。いきなり切り掛かってしまい」

 

「気にするな、あれぐらいで俺の心は揺れん」

 

「そう、ですよね。兄さんはあの程度の不意打ちで驚く人じゃないですよね」(やっぱり、私ではまだ)

 

「?」

 

 妖禍は暗い顔をする妖夢に疑問を抱き、話しかけようとしたが、その前に誰かが部屋の襖を開けた事でそちらに目線を向けた。

 

「妖夢ー、ご飯はまだかしら〜? …あら?」

 

 出てきたのは桃色髪のゆったりとした雰囲気の少女、西行寺幽々子である。起きたばかりなのか、目をこすりながら妖夢を見て、続けて向かい側にいる妖禍を見た。

 

「妖禍じゃない。帰ってきたのね」

 

「幽々子様、お久しぶりです。魂魄妖禍、武者修行より帰ってきました」

 

「おかえりー、これから朝食だけど妖禍も食べる?」

 

「ご一緒させて頂きます」

 

「そういう事だけど妖夢ー、ご飯は〜?」

 

「あ、はい! すぐ準備しますので少々お待ち下さい」

 

 そう言い残して妖夢は部屋を飛び出した。

 

「……」

 

 それを見送る妖禍。彼の目にはこれといった感情の色は見えず、無機質な表情の裏に何を思っているのか誰にも分からない。

 

「……ふふ」

 

 いや、一人居たようだ。

 

 妖禍を見て微笑む幽々子、彼女は一体妖禍から何を感じ取ったのか。

 

 それこそ、誰にも分からない。

 

 

ーーー少女料理中ーーー

 

 

「ごちそうさま」

 

 机いっぱいに並べられた十は超えよう多くの皿、皿の上にあった料理達はものの十数分で幽々子は平らげてしまった。

 

「……」

 

 幽々子の向かい側に座っていた妖禍も食べ終えたようで、静かに手を合わせていた。

 

 食事の間、話題となったのは主に妖禍についてだった。

 

 武者修行で訪れた地の話や、そこで会った人々との交流、そして妖怪達との死闘、色々な事があったようで、まだまだ話は尽きずにいた。

 

「……幽々子様、一つお聞きしたい事があります」

 

「何かしら?」

 

 朝食の後片付けをしに妖夢が出ていった後、妖禍は幽々子に尋ねた。

 

「現在幻想郷では春が訪れず、雪が降り積もる異常気象に見舞われています」

 

「へぇ、そうなの」

 

「はい、幽々子様は何か知って、……いえ」

 

ーーー何か心当たりはありますか?

 

「……心当たり、ねぇ」

 

「……」

 

 幽々子は意味深に目を細めて妖禍を見る。それに対して妖禍の表情はいつも通り能面を貼り付けていた。

 

「どうやら私が関与してると確信してるみたいだけれど、それは何故かしら?」

 

「勘です」

 

 幽々子の静かながらも迫力ある雰囲気に妖禍は尻込む事なく断言した。

 

「そう、勘、勘ねぇ」

 

 しかし幽々子はそれを嘘だと捉え、更に気迫を増した。それでも妖禍の表情は眉ひとつ動かす事は無い。

 

「……まあ良いわ、私が関わってるのは事実だし。というより、この異変は私が引き起こしたんだけど」

 

「異変?」

 

「あら、知らないの? 世間ではこういう異常事態を異変って呼ぶのよ。ほら、去年幻想郷で起きた赤い霧、あれも異変だったのよ?」

 

「そうだったのですか、ところで幽々子様はなぜ異変を?」

 

「それはねー」

 

 幽々子が語ったのは冥界にある巨大な桜の木『西行妖』についての事だった。

 

 春になっても咲く事の無い西行妖だが、どうやら満開になると木の下に眠る誰かの死体が復活するらしい。

 

 興味を持った幽々子はそれを咲かせようとして現在、幻想郷の春を集めてるようだ。

 

「という事なのよー、そういう訳だから、妖禍も協力してね〜」

 

「分かりました」

 

 幽々子の命という事で、妖禍は異変の協力に快諾した。

 

「ありがとうー、まあやる事とは特に無いけれどね、あるとしたら異変解決に来る巫女を妨害するぐらいかしら、あとはそうね〜」

 

「失礼します」

 

「あ、妖夢良い所に来たー」

 

「? 何でしょうか?」

 

「あなた今から妖禍と模擬戦しなさい」

 

「はぁ、…………え?」

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