白玉楼の広大な庭園、そこで二人の剣士が向かい合っていた。
「「……」」
流れる沈黙は先の気まずい雰囲気とは違って厳かな物で、両者は真剣に眼前の相手を見つめていた。
「準備は良いー?」
幽々子はそれを縁側に腰掛けて眺める。
「問題ありません」
妖夢は右手の長刀を相手に向け、左手の短刀を盾のように身へ寄せる。攻守を意識した構えだ。
「いつでもいけます」
対する妖禍は一振りの刀を身へ寄せる。防御を意識した構えだ。
「それじゃあよーい、……初め〜」
気の抜けた開始の合図をきっかけに、両者は動き始めた。
「はぁ!!!」
先手を打ったのは妖夢だった。妖禍目掛けて突き進み、その勢いのまま長刀を振り下ろす。片手で振るったとは思えない速さと膂力がその一撃には込められていた。
しかし、妖禍はそれを容易くいなす。
刃の軌道上に刀を添える。それだけで刃は軌道を狂わされて地へ落ちる。
「くっ!」
そこから妖禍は流れるように刀を振るう。妖夢はそれを短刀を使ってなんとか弾く。
「はぁぁぁああ!!!」
妖夢はお返しだと言わんばかりに無数の斬撃を妖禍に放ち続ける。苛烈な勢いを妖禍はいなし続ける。
繰り広げられる斬撃の応酬。見たところ妖夢の強い攻めの姿勢に妖禍は防戦一方という様子で、妖夢が優勢に感じられる。
「くっ!」
しかし当の本人の考えは違うようで、自身の弱さに歯噛みしていた。
剣を交えてるからこそ分かる。妖禍はまだ全力を出していない。それどころか攻める気すら無い。
妖夢は日々の鍛錬を一度たりとも欠かす事なく続けていた。その成果は確実に実っており、武者修行に出る前の妖禍と戦ったなら余裕を持って勝利出来る。それぐらいには成長していた。
しかしそれが今の妖禍と張り合える実力か別である。
妖禍も妖夢と同じく成長している。それも尋常じゃない程に、格段に強くなっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「……」
片や一撃一撃に全力を込め、片や半分にも満たない力しか刀に乗せる事がない。当然、どちらがより疲弊するかは言うまでもなかった。
そうして剣を交える事数時間、終わりの時がやって来た。
「ハァ、ハァ、うっ!」
剣に勢いも付かなくなった頃、 限界を迎えた妖夢が地に伏した。
「ハァ! ハァ! ハァ!」
尋常じゃない汗をかき、コヒューコヒューと必死に酸素を肺に入れる。
「……」
疲労困憊な妖夢を妖禍は眺める。その表情は試合前と変わらず無機質な物だった。
「ぐっ、ぅぅぅ…」
心臓が痛い。体は焼けるように熱い。しかしそれ以上に悔しさでどうにかなりそうだった。
積み重なる敗北の二文字が重くのし掛かる。何度も何度も、どれだけ鍛錬しても、どれだけ必死になっても、自分と目の前の男との差は埋まらない。
凡人は天才に勝てないのか? 才なき者の努力は報われないのか?
自分に、自分にもっと才能が、力があれば……いや、
(そんなのに意味はない)
分かっている。こんな無駄な事を考える時間があるなら強くなる方法を模索した方が良いに決まっている。
しかし考えてしまう。理不尽な程にある才能の差、それを努力でどうこう出来るのかと、もしかしたら自分では天才に勝てないのかと、そう思ってしまうのだ。
「妖夢、大丈夫?」
涙で視界がボヤける中、上から幽々子が妖夢の顔を覗く。
「ゆ、幽々子様、申し訳ありません。お見苦しい所をお見せしてしまって」
妖夢は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「良いのよー、気にしなくて。あ、妖禍ー、ちょっとこっちへいらっしゃい」
妖夢は落ち着くまでそこに居なさい、と言って幽々子は妖禍を連れて屋敷の中へと戻った。
「……」
妖禍は振り返って妖夢の姿を一瞥する。
「妖禍ー、どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
しかしそれも一瞬の事、妖禍はすぐに視線を外して幽々子の元へ向かったのだった。