前回の反省を踏まえて、色々試行錯誤して書いていこうと思います。
誤字脱字や、作品に対しての批評があれば、どんどん言ってくだされば助かります。
大日本皇国。
神たる帝を頂に置く、世界最古の国。
間違いなく、世界でも五指に入る大国である。
裕福な国だ。
この数十年は国民も飢えず、他国と大きな戦争も無い、間違いなく平和な国だ。
しかしそれはあくまで、「日本皇国民」に限る。
「はぁっ! はぁっ!」
月の光と、人の作る明かりが交錯する、潮風の香る小さな町の片隅。
年の頃、10歳ほどの少女が走っていた。必死の表情で、目を血走らせながら。手に持つのは、たった一個の林檎。
「待ちやがれ! このクソガキ!」
少女の背後から、怒声とともに恰幅の良い中年男性が追いかけてきた。この林檎の持ち主である。この男も、少女が貨幣と引き換えに林檎を持って行ったのなら、追いかけてはこなかっただろう。
早い話が、少女は林檎を盗んだのだ。
少女は建物が密集する複雑な裏路地に飛び込むと、慣れた足取りで迷路のような路地を進む。
そしてゴミの山の中に身を隠し、じっと息を潜める。
やがて、男が追い付いてきた。
「くそっ! どこ行きやがった、薄汚い血が混じったガキめ」
辺りを探し、少女がもう見つからないと悟ると、男は悪態をついてその場から去って行った。
男が完全にいなくなったことを確認した少女は、ゆっくりとゴミの山から出てきた。
月の光に照らされた少女は、この国の人種ではなかった。
本来は美しいであろう金色の髪は汚れて黒ずみ、陶器のように白いはずの肌は青あざや擦り傷で痛々しいまでにボロボロになっている。
少女はサファイアのように蒼い瞳で、月を見上げる。
そして手に持っている林檎を、口に運ぶ。まともな食事は三日ぶりだ。林檎だけの食事だが、ゴミを食べるよりはるかに美味しい。
少女は皇国人である父と、はるか海の先にあるアメリカ連邦共和国人である母を持つ「あいのこ」である。
だが問題は、皇国とアメリカとの関係が非常に悪いということだ。
国民感情という得体のしれない悪意に翻弄され、少女の家族は壊された。
そして少女は、一人で生きることを余儀なくされる。助けを求めても、異人の血が混じった少女を助ける人は誰もいない。
身体を売ろうにも「あいのこ」である少女を抱こうとする者はおらず、盗みをするしか少女が生きる道はなかった。
「……誰か、助けて」
ポツリと、少女は言った。
それを皮切りに、瞳から涙が溢れてくる。袖口で何度拭っても、涙は後から後から湧き出てくる。
私が何か悪いことをしたのか。なぜこんな荒んだ生活をしなければならないのか。
「え?」
その時、声が聞こえた。
海の向こうから、まるで亡霊のような不吉な声が響いてくる。
少女は海を見下ろせる高台に行く。
夜の海は全ての光を吸い付くし、まるで深淵の底を覗き込むような恐怖を少女に与えた。
「……船?」
黒い塊が近づいてくるのが見える。
皇国の軍艦だろうか? 夜の海よりもなお深い漆黒が、この港町を目指してやってくる。
そしてその塊は、吠えた。
『ガアアアアアアアアアア!』
「ひっ!?」
生理的嫌悪を覚えるその音に、少女は全身を強張らせた。
黒い塊は徐々に半月型の港に近づいてくる。そして、町の光で黒い塊の姿が露わになる。
全長は、100メートル程だろうか。軍艦のような大きさだが、その姿はそれとは程遠い。一言でいえば、『船に口と目が生えている生物』と形容するのが一番手っ取り早い。
機械的でもあり、生物的でもある。両者が融合したその姿は気味が悪いと同時に、不思議と調和がとれているようにも感じる。
「なに……あれ」
少女は茫然と黒い塊を見つめる。
やがて港に接岸した黒い怪物は、上陸してきた。四足獣のように地を這いながら、その重量と体躯で港の施設を破壊していく。
当然そんな化け物をどうこうする力など少女には無く、ただ黙って見ているしかできなかった。
恐ろしい。今すぐこの場から逃げ出したい。しかし足が動かないのは、恐怖のせいだけではない。
「やっちゃえ……全部消えちゃえ……」
それは希望。
少女の目には、この黒い怪物が自分の恨みを晴らし、世界を変えてくれる天の御使いに思えた。
そして少女の願い通り、町はこの世界から姿を消す。
後に残ったのは少女の瞳と同じ色をした、蒼く美しい海だけだった。