青い眼をしたお人形   作:砂夜†

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第十話 闘犬夕立

 演習だけしてそのままとんぼ返り、というのではあまりにも味気ない。

 そこで親睦を深めるために、日が落ちてから食事会が開かれた。

 八神大佐が着任した時のように、和洋中の様々な料理が並べられる。

 

「おかわりお願いします!」

 

 赤城は勢いよく丼茶碗を鳳翔に差し出した。

 

「はい。どうぞ。重めにしておきますね」

 

 山のようにご飯が盛られた茶碗が、赤城に手渡される。

 

「これですよこの味! 懐かしいですね~」

 

 頬を綻ばせながら、赤城は豚肉のしょうが焼きと白米を口に運んでいく。

 

「鳳翔さん。私もおかわりを」

「うむ、これは美味い! 私もおかわりをもらおうか」

 

 続いて、加賀と長門も丼茶碗を出してくる。

 

「あらあら、嬉しいわね。作り甲斐があるわ~」

 

 料理を作った人にとって最高の賛辞は、作った料理をおかわりしてもらえることだろう。鳳翔もご多分に漏れず、嬉しそうにしている。

 

「しかし、戦艦と空母はよく食べるものなのだな」

 

 八神大佐は戦艦と空母の食べっぷりに、呆気にとられていた。もうすでに十杯以上もご飯をおかわりしているのだが、箸の勢いは微塵も衰えない。

 単冠湾では重巡の愛宕と高雄が一番食べるが、戦艦と空母はそれ以上だ。

 

「食費だけじゃなく、艤装の燃料弾薬も莫大なものだぞ」

「ふむ……」

 

 一二三大佐の言葉に、八神大佐は試しに単冠湾で戦艦と空母を運用した場合の資源消費量を考えてみる。

 

「……ダメだな」

 

 あまり明るくない未来が見えた。

 戦力は確かに向上するが、資源と食糧が一か月もしないうちに枯渇し、単冠湾が存続の危機にさらされてしまう。

 

「ところで、いいかい?」

 

 真剣な顔をして、一二三大佐は言う。

 

「なんだ? 改まって」

「君の所の、島風ちゃんと潮ちゃん。ちょっと紹介してくれないか? 仲良くなりたいんだ!」

 

 必死である。必死すぎて、少々怖い。目も血走っている。島風と潮がこの一二三大佐の姿を見たら、また引かれてしまうのは確実だろう。

 幸いというべきか、島風も潮も席を外しているのでこの姿は見られていない。

 

「まあ、後でな」

「言ったね!? 約束だからね! 日本男児に二言は無いよ!」

「わかったわかった」

 

 もっとも、八神大佐がどう言おうと、肝心の島風と潮が一二三大佐と仲良くしたがるとはとても思えない。何しろ初対面の印象は最悪。あそこから好印象を抱かせるのは不可能に近い。

 

「そういえば、君の所の夕立はどうしたんだ? まだ姿を見せないのか?」

「いや、あの子は……その、ね」

 

 どうもこの夕立の話題になると、一二三大佐は口ごもってしまうようだ。あまり聞かれたくない事なのだろう。

 問題は、なぜ聞かれたくないかということだ。

 

「聞いておきたいんだが、夕立には何か問題でもあるのか? 例えば、命令無視とか」

 

 単冠湾で言うなら、島風がそうだ。今は大分落ち着いてきたとはいえ、まだまだ命令に従順とは言い難い。

 

「命令無視、とはまた違うね。なんと言うべきか……」

 

 一二三大佐は目を瞑り、人差し指を唇に当てる。

 

「そうだね。気分が高揚しすぎている犬という表現が一番的確かな」

「犬?」

「命令には忠実なんだが、戦闘を楽しみすぎるきらいがある。自分が死ぬことをまるで恐れていないんだ」

 

 戦場の雰囲気に当てられ、気分が高揚することはよくある。

 それは死の恐怖を一時的に忘れさせ、怯えずに戦場を疾駆させてくれる。

 だが同時に、冷静な判断力が欠如して取り返しのつかないことも多い。

 

「戦果はあげてるんだ。夕立一人で、深海棲艦の戦艦型を2、駆逐艦を4撃沈。正直駆逐艦の戦闘力じゃないね」

「一人で、だと?」

 

 驚異的な戦闘力だ。

 流石は横須賀鎮守府というべきか。これほどの艦娘が所属しているとは。

 

「しかし、命令を聞くのであれば問題はないだろう。ここに連れてこられないのか?」

「命令は聞くが、衝動的に動くのは止められないんだ。演習をすると決まってから、はしゃぎ過ぎててね。相手を見たら即飛びかかりそうなんで、今は船でお留守番さ」

「それはまた……」

 

 島風に負けず劣らずの問題児らしい。

 

「だがそれを差し引いても、素晴らしい武勲だな。島風と潮にも見習わせたいものだ」

 

 二人が戻ってきたら、この話を聞かせてみよう。

 潮はどうかわからないが、負けず嫌いの島風ならやる気を引き出す材料になるかもしれない。

 それにしても、戻ってくるのが遅い。トイレにでも行ったのかと思ったが、夜風にでも当たっているのだろうか。

 ふと、悪寒が全身を駆け巡った。

 

「……愛宕ー! 島風はどこに行った!」

「島風ちゃんですか? ん~どこでしょ? そのうち戻って来ますよぉ」

「くそっ!」

 

 愛宕の言葉を背に、八神大佐は走り出した。

 嫌な予感しかしない。

 港には豪華客船、そしてその中には姿を見せない艦娘。

 これだけ面白そうな条件があって、あの好奇心旺盛な島風が大人しくしているはずがない。

 八神大佐は急ぎ、港に向かった。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「でっかーい!」

「し、島風ちゃん。やっぱりダメだよ。勝手に入っちゃ……」

 

 島風と潮は、港の片隅で停泊している客船を見上げていた。

 夜の闇の中でその巨体を佇ませる客船は、見る者に幻想的な美しさを

 

「でもさ、潮も気になるでしょ? 夕立ってのがどんなヤツか」

 

 一二三大佐が言っていた夕立という艦娘の事が、島風は気になって仕方がなかった。

 

「気になるけど、でも……明日の演習になったら会えるし」

「それにさ! 豪華客船だよ! 乗ってみたいじゃん!」

 

 潮の反論に耳を貸さず、島風は目を輝かせて客船を見る。

 夕立を見たいというよりは、客船の中を探検するのが主目的のようだ。

 

「あの、私は帰ってもいいかな?」

「ダメ」

「えぇ……な、なんで」

「だって探検って一人じゃ面白くないでしょ! ほら行くよ!」

「う、うん……」

 

 強引な島風に内気な潮が対抗できるわけもなかった。

 しかし潮は、まだ抵抗を諦めたわけではない。

 

「でも、どうやって船の中に入るの? 多分入れてくれないんじゃないかな?」

「え? そうかな?」

「そうだと……思うけど」

 

 艦娘の移動できる範囲は、基本的には所属する鎮守府の敷地内に限定される。もちろん、作戦行動等があればその限りではないが。

 単冠湾の港に停泊中の船とはいえ、乗船するならば許可がいるはずだ。

 

「んー……まあ行ってダメなら考えよう!」

「で、でも、ダメだったら帰ろうね? また高雄さんに怒られちゃうよ」

 

 島風と潮は客船の方へと近づく。舷梯の前には、銃を持った歩哨が二人立っている。

 少し近づくと歩哨は島風と潮の接近に気付き、鋭い視線が二人の身体を貫いた。

 

「何かご用でしょうか?」

「船の中に入りたいんだけど。入れて!」

「……乗船許可は、お持ちでしょうか?」

「持ってないよ」

「では、乗船は認められません。お引き取りを」

 

 乗船拒否されてしまった。

 

「えー! なんで!」

「何故と言われましても、許可の無い者の乗船を認めるわけにはいきません」

「う~……!」

 

 至極正論であるが、それでも島風は納得できない。

 

「通してよ! 無理やり通るよ!」

 

 島風は大声で威嚇すると、二人の歩哨は体を震わせ僅かに後ずさった。

 子供の一喝に怯える大人という、なんとも情けない図である。

 しかし二名の歩哨は知っている。艦娘の強さは、たとえ銃を持っていようともどうしようもないのだ。

 

「できません。お帰り下さい」

「島風ちゃん、もう帰ろうよ。やっぱりダメだよ……」

 

 潮は困り顔で島風の手首を引っ張って止めるが、島風は不満顔で歩哨を睨む。

 

「申し訳ありません。お引き取りを」

 

 額に汗を浮かべながら、歩哨は断固とした態度を取る。

 

「もういいよ! じゃあ許可取って来るから!」

「最初からそうするべきだったんじゃ……」

 

 今から食堂に行って、一二三大佐に許可を貰うしかないようだ。

 島風としては一二三大佐と話をするのも嫌なのだが、この際仕方ない。

 島風と潮が踵を返したその時、

 

「ねぇねぇ、あなた達……敵っぽい?」

 

 明るい声が響いた。

 振り返ると、甲板の手すりに少女が立っていた。

 闇夜の中でも爛々と光る赤い瞳と、闇よりも遥かに黒い服を纏ったその少女は、とても楽しそうに笑っている。

 

「夕立さん!?」

「なんで外に! 部屋からどうやって!」

 

 二人の歩哨は目に見えて狼狽える。

 どうやらあの赤目の少女が、夕立らしい。

 

「知らない人が来たっぽいし、なんだか喧嘩になりそうだったから出てきたの。えへへ。偉い?」

 

 褒めて褒めて! と言わんばかりに、夕立は言った。

 

「大佐に連絡だ! 早く!」

「わかった!」

 

 歩哨の一人が、慌てた様子で船内に入っていった。

 

「あいつが夕立なの?」

「えと、そうみたいだね」

 

 手すりに立つ夕立は、島風と潮をじっと見る。まるで商店で食材の品定めをするように、楽しげに。

 

「……あはっ!」

 

 夕立は口を釣り上げて笑うと、手すりから躊躇なく飛び降り、静かに地面に着地する。

 艦娘ならばこの高さから飛び降りることは造作もないことだが、これだけ静かな着地は並の艦娘ではできない。

 

「あなたたちは、単冠湾の艦娘っぽい?」

「そうだよ。私は島風」

「潮です」

「ん~しま、しましま……知ってるっぽい。すっごく速いんだってね」

「わぁ。島風ちゃん、横須賀の人に名前知られてるんだね」

「んふふ! まあ私ぐらいに強かったら当がはっ!?」

 

 平らな胸を踏ん反り返らせて鼻息荒く誇らしそうにしていた島風が、突如吹き飛び倉庫の壁に叩きつけられた。

 その原因は夕立の蹴りであった。中段蹴りを島風の腹に叩きこんだ夕立は、不思議そうな顔で倒れ伏す島風を見ている。

 

「あれ? 簡単に倒せたっぽい?」

「な、何するんですか!」

 

 小首を傾げる夕立に、潮は猛抗議する。

 

「だって、強いって聞いてたからこれぐらいは避けるっぽいって思ってたの」

「だからって急にこんなこと……ひどいです!」

「ひどい? なんで?」

「なんでって……当たり前じゃないですか! 味方をいきなり攻撃するなんて」

「でも、あなた達は味方じゃないっぽくない?」

「み、味方です。私たちは同じ艦娘で、海を守る仲間じゃないですか」

「う~ん? なんだか難しくてよく解らないっぽい」

 

 夕立は眉間に皺を寄せて、まるで難問を解く学生のように悩んでいる。

 そんな夕立の姿に、潮は戦慄した。

 善悪の区別がついていないというより、まともな倫理観を持っているように思えない。まるで、戦うことだけにしか興味がないようだ。

 

「ん~まだよく解らないけど……あなた達は無理矢理この船に入ろうとしたからきっと敵っぽい!」

 

 にや~っと笑い、夕立は潮の方へと歩を進める。

 

「ひっ……」

 

 潮は恐怖で後ずさるが、夕立は無造作に間合いを詰めてくる。

 足が震えて、潮はまともに動くことすらままならない。

 

「止めてください夕立さん。こ、これ以上は」

 

 歩哨は夕立に銃口を向ける。こんなもので艦娘は止められないが、そんなことは歩哨の男もよくわかっている。

 

「黙ってて」

 

 夕立は銃口を無造作に掴むと、まるで飴細工のように曲げてしまった。

 

「うあ……っ!」

 

 驚愕する歩哨には目もくれず、夕立は潮に向かう。

 

「潮って艦娘も、知ってるっぽい。いっぱい戦ったのに死んでないから、きっと強いよね? さあ、素敵なパーティしましょ?」

「あ……あ……だ、誰か……」

「止めなさい夕立! そこまでだ!」

 

 凛とした声が、夜の港に響いた。

 声がした先には、一二三大佐と長門、それに八神大佐と愛宕がいた。

 

「あっ! 一二三提督さん! 夕立悪い奴らを倒したよ! 偉い? 偉い!?」

「ああ、偉かったぞ。でも、その子達は悪い人じゃないんだ。攻撃しちゃだめだよ」

「ダメっぽい?」

「そうだ、ダメだ。さあ、もう船に戻りなさい」

「ん、わかった……」

 

 あまり褒められなかったからか、夕立はしょんぼりと肩を落として船の中に戻っていった。

 

「一二三大佐……これはどういうことか、説明をお願いできるか?」

 

 倒れ伏す島風を見て、八神大佐は怒りを隠そうともせずに言った。

 

「……一から説明させてもらうよ。落ち着いて話せる場所はあるかな?」

「応接室で話そう。愛宕、後は頼む」

「は~い。了解しました」

 

 愛宕はにこやかに笑っているが、その目は船を鋭く射抜いている。

 

「愛宕。報復しようなんて思うなよ」

「私はそんなに熱い女じゃないですよぉ」

「目が笑っていないぞ」

「……あらあら。わかりました」

 

 愛宕は肩を竦め、島風を背負う。

 

「潮ちゃん、行くわよ」

「あ、はい」

「では我々も行こうか」

「ああ」

 

 八神大佐は一二三大佐と長門を背に、応接室へと向かう。

 応接室の扉の前まで来た所で、一二三大佐は足を止めた。

 

「長門、君はここで待っていてくれ」

「了解した」

 

 長門は手を後ろに組み、直立不動の姿勢を取る。

 

「では、八神大佐。行きましょう」

「ああ」

 

 部屋に入った二人は、向かい合ってソファに座る。

 

「八神大佐。君は艦娘について、どれだけ知っている?」

「基本的なことは一通り」

「では、改造については?」

「たしか、練度が一定に達している艦娘が更なる強さを得るためのものだったか」

 

 艦娘には、強さの上限がある。その上限を引き上げるのが改造だ。

 艤装と肉体に手を入れるわけだが、それにはある程度の強さが必要になる。優れた武器や肉体は、優れた技量があって初めて活かされる。

 単冠湾では、愛宕と高雄、鳳翔が改造を施されている。

 

「夕立に施されているのは第二段階改造、通称改二と呼ばれるものだ」

「改二?」

 

 初めて聞く単語だった。通常の改造とは違いのだろうか?

 

「改二は、通常の改造とは少し違うんだ。改造が肉体的な強化だとするなら……改二は魂の強化と言えばいいかな」

 

 一二三大佐は言葉を選ぶように言う。

 

「艦娘の中に、こことは違う別の世界の軍艦の魂が宿っているのは知っているね?」

「あまり信じられん話だがな」

「だがその魂は、普段は眠っているようなものなんだそうだ。改二は、その軍艦の魂を目覚めさせる改造なんだ」

「魂……ね」

 

 正直、どう反応していいかわからない。

 艦娘もオカルトの塊のような存在だが、魂などというものをどう捉えればいいのだろうか。

 

「解りにくければ、人格と考えてくれればいい。そして軍艦の魂は多くの戦いを経験している。魂が目覚めれば、その戦闘の練度をそのまま艦娘の力として使うことができるんだ」

「なるほど。それが本当なら、大きな戦力強化になるな」

「だが、これには大きな問題もあるんだ」

「問題?」

「魂が目覚めるということは、一つの身体に二つの魂が存在することになる。大抵は艦娘が目覚めた艦の魂を支配するんだが、極稀に艦の狂気に支配されることもあるんだ」

 

 狂気。

 八神大佐は、少しだけ理解できた。

 戦争という異常な場は、心を殺してしまう。物言わぬ艦に心があるとすれば、それもまた例外ではないはずだ。

 

「では今の夕立は正気じゃないと?」

「正気を保っていない、というわけではないね。どちらかと言えば、戦闘意欲が非常に高いと言うべきだよ。目の前の敵を駆逐することに無上の喜びを感じ、それ以外の事には興味を示さない。そんな感じかな」

「重症だな」

 

 それではまるで、機械のようではないか。

 

「今までの演習で、よく問題が起きなかったな」

「夕立は演習をしたことがないからね」

「……なんだと?」

 

 聞き捨てならない言葉だった。

 

「問題が起きる確率が高いという理由でね」

「その結果がさっきの惨事か」

 

 八神大佐がちくりと嫌味を言うと、一二三大佐は申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「本当に、弁明のしようもない」

「それで、なぜそんな夕立を演習に連れてきたんだ? 辺境の地に流刑されている艦娘なら、何があろうと問題ないとでも?」

「その逆だ。ここにいる艦娘は精鋭揃いだ。だからこそ、夕立を連れてきた」

「……なるほど」

 

 一二三大佐が何を狙っているのか、少しずつ分かりかけてきた。

 艦娘同士の戦いで夕立に敗北を味わわせて、少しでも現状を省みてほしいというところか。

 

「夕立に関してはこんなところだ。何か分からないことはあるかな?」

「……一ついいか?」

 

 八神大佐は慎重に考える。目の前にいる一二三大佐は信用できるのか? 昔から知る顔なじみではあるが、今現在味方であるとは限らない。

 

「君がこの単冠湾を利用しようというならそれでも構わんが、見返りを求めていいか?」

「利用というのはいささか心外だが……私にできることならなんでもどうぞ」

 

 数秒考えて、八神大佐は目の前の相手を信用することにした。

 

「前司令官である、巌重蔵中将について知りたい。出来る限り詳しく」

「……わかった。なるべく早く調べておくよ」

 

 詮索せずに、一二三大佐は了承した。

 泊地の前任者を調べるのに他の部外者を頼るという奇怪な行動だが、それゆえに事態の重さを感じ取ったのだろう。

 

「それと、重巡洋艦愛宕について調べてほしい」

「ほぅ。君は朴念仁かと思ったが、そうでもないのかな?」

「勘違いするな。君が考えているような意味ではない。調べてほしいのは、愛宕の過去だ」

「それは構わないが、愛宕の過去を知ることに何か意味があるのか?」

「……さあな」

 

 実際の所、八神大佐もこれにどんな意味があるかわからない。だが過去を知れば、現在の愛宕の輪郭を少しは把握できる。

 巌中将の死の真相を調べるには、一つでも多くの情報を集める必要がある。

 愛宕が巌中将の死に何らかの形で関わっている可能性は大きい。一見なんの関係もなさそうな情報でも、そこから真相に辿りつく可能性は皆無ではない。

 

「とにかく、頼んだ」

 

 話はこれで終わりと、八神大佐は立ち上がった。

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