青い眼をしたお人形   作:砂夜†

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第一話 着任

「大佐。そろそろつきますよ」

「ん……ああ」

 

 大佐と呼ばれた若者は、眠たげに返事をして、あくび混じりに伸びをした。大柄で鋭い目つきをしているせいか、大口で欠伸をするとまるで大型のネコ科動物のように見える。

 その全身からは生気に満ち溢れており、大佐という高級にありながら、三十路にも至っていないような若々しさが全身を包んでいる。

 

「まったく、ようやくか」

 

 最初は乗り心地が良いと思えた高級車だったが、長く座っていれば体が痛くなってしまう。

 おまけに両脇に控えているのは筋骨隆々とした偉丈夫。護衛としては優秀だが、精神的に圧迫されてしまって気が滅入ることこの上ない。

 気分転換に、車窓の外を見る。窓の向こうに見える海は、陽光の光を反射してキラキラと輝いている。平和そのものの光景に、思わず欠伸がもう一つ出てしまう。

 横須賀から北海道の単冠湾までの長距離を、陸路を使って丸一日かけての移動。

 すっかり身体も固くなり、座りっぱなしで尻が痛くなってしまった。

 

「しかし、海軍に所属している者が、海路を使えないというのも皮肉な話だ」

 

 八神勇大佐は舌打ちを一つして、忌々しい顔で海を見る。

 平和そのものの海だが、今の情勢下では気軽に海を移動などできない。

 

「ですが、深海棲艦の襲撃の可能性を考慮しますと、陸路を使う方が安全です」

「わかってるよ」

 

 そう。眼前に広がる海は、決して平和などではない。

 深海棲艦と呼ばれる、異形の化け物達が闊歩する危険地帯となっている。

 奴等は突然現れた。

 物言わぬ深海棲艦は、宣戦布告も無しに全人類へと攻撃を開始した。

 共通の敵の出現に、世界大戦一歩手前だった人類は一致団結して、深海棲艦へと立ち向かった。

 しかし結果は惨敗。戦力の七割強を失うという大敗北を喫して、母なる海を化け物に奪われた。

 いや、奪われたのは海だけではない。尊い人命も多く奪われた。その中には、八神大佐の部下も含まれる。

 五年も前のことだというのに、今も忘れることができない。血まみれで呻き、助けを求める部下の顔。上官として、何もしてやれなかった無念。異形の化け物に対する憎悪。そして、異形の化け物『深海棲艦』を一匹残らず駆逐するという決意。

 

「見えてきましたよ」

 

 護衛の言葉に、八神大佐は意識を内面から外へと引き戻す。

 

「あれか」

 

 目的地が見えてきた。

 海を見下ろせる丘の上に建てられた、赤レンガ造りの瀟洒な洋館。それほど大きなものではない。精々、二十人ほどが住めるぐらいだろうか。

 あそこが、今日から八神大佐が務めることになる仕事場だ。

 

「ふぅ……」

 

 大きく深呼吸をして、気分を落ち着ける。

 あの場所にいるのだ。深海棲艦と戦えるだけの力を持つ存在、人類の守護者『艦娘』が。

 

「大佐は、艦娘に会うのは初めてなのですか?」

「ああ。噂や、広報で知っている程度だよ」

 

 艦娘とは、人の姿をしていながら、人を超える力を持つ人外の存在である。

 二本の足で自在に海上を疾駆し、軍艦の如き火力を備え、深海棲艦の攻撃にも耐える、海を守る戦女神。人類が持つ、深海棲艦に対抗できる唯一の戦力だ。

 とはいえ、艦娘は数が多いというわけではない。総勢二百名にも満たない人数だ。

 その大多数が深海棲艦との激戦地に配備されたり、海上の商船の護衛をしたり。艦娘と関わる部隊でもなければ、同じ海軍でも直接見ることは滅多にない。

 

「写真で見ましたが、見目麗しい婦女子ばかりだそうですね」

「どうだかな。怪しいものだ」

 

 とかくこういう情報というのは、やたらと誇張される傾向にある。

 艦娘が人外の力を持ち、女子ばかりというのは本当だろうが、容姿までも美しいというのはいささか都合がよすぎるだろう。

 戦意高揚のために、捏造された写真を使っていると考えるほうが自然だ。

 

「ん? 誰かいるな」

 

 洋館の前に、一人の女性が立っていた。

 腰まである長い金髪と碧色の眼。凹凸のある自己主張の激しい身体を、群青色の軍服に包んでいる。

 西洋人だろうか?

 車は洋館の前で止まり、八神大佐は車から降りて、女性の前に立つ。

 

「八神勇大佐だ。本日より、単冠湾泊地の司令官として着任する。よろしく頼む」

 

 きっちりと海軍式の敬礼をして、八神大佐は目前の女性に挨拶をする。

 それに対して女性も海軍式の敬礼を返し、太陽のような笑顔を浮かべて名乗る。

 

「私は愛宕。提督、覚えてくださいね。では、こちらにどうぞ。単冠湾泊地をご案内します」

 

 そのまま、愛宕に続いて八神大佐も洋館の中に入る。

 

「この洋館は、泊地の防衛司令部施設です。艦娘の宿泊施設となっているんですよ。軍事施設っぽくなくて、驚かれましたか?」

「あ、ああ」

 

 愛宕の説明を聞きながら、八神大佐は洋館内を歩く。

 だがその説明は、半分も頭の中に入ってこない。

 

「どうかなされましたか? 提督」

 

 提督、という呼び方にも慣れない。たかが大佐という身分で、艦隊指揮官の称号である提督と呼ばれるのにはいささか抵抗がある。愛宕が言うには、「この泊地の艦娘の総司令官だから当然ですよ」なのだそうだ。

 だが、それよりも八神大佐には気になることがあった。

 それは目の前にいる女性、愛宕。というよりも、艦娘という存在に対してだ。

 

「いや、普通の人間のように見えると思ってな」

 

 見たところ、異国の血が混じってはいるようだが、至って普通の人間だ。特に変わったところは見受けられない。

 

「君は艦娘……で、間違いはないのか?」

「はい。重巡洋艦、愛宕です」

 

 ニコリと笑い、愛宕は言う。

 

「提督は、艦娘を見るのは初めてですか?」

「ああ。資料で見ただけだ」

 

 本来、艦娘に関する情報は機密扱いである。軍に在籍する者でも、将官級の立場でなければ艦娘に関する資料は閲覧できない。

 八神大佐も、本来ならば資料を閲覧する立場にはない。だが、とある一件で艦娘を指揮する立場となり、その際に艦娘に関する資料を閲覧することができた。

 もっとも、資料の肝心の部分は記述されておらず、根本的な部分である「艦娘とはなんなのか?」を知ることはできなかった。

 分かったことは、艦娘というのは元は普通の人間だということ。そして身体を改造して、艦娘になるということ。

 

「見かけは普通の人間みたいですよね? でも、これでも中は凄く弄られてるんですよ」

 

 資料によれば、まずは骨を軽量強固な希少金属へと変えるのだそうだ。そして筋肉も人工の物に少しずつ換えていく。最終的には薬物を投与して、反射神経や動体視力、治癒力を極限まで上げる。

 若い女性にとって自分の身体を切り刻まれるのは、耐え難い苦痛と言えるだろう。

 

「そうか」

 

 艦娘の境遇の不憫さに、八神大佐は愛宕から目を逸らした。

 

「でもぉ……」

 

 愛宕は提督の手を取る。

 

「ここは自前なんですよ」

 

 ぐにゃりと、手が何か柔らかいものに埋もれていく感覚。一瞬、何をされたのかわからなかった。冷静になって、何が起こっているのか事実を確認する。

 手が群青色の胸部に、それも大きく膨らむ二つの山に沈んでいる。

 

「うおおおおおお!?」

「きゃんっ!」

 

 動揺した八神大佐は、慌てて愛宕から飛び退る。

 

「急にどうしたんですか?」

「それはこっちのセリフだ! こんなふしだらなことを! 恥ずかしくはないのか!」

「もぅ。スキンシップじゃないですか」

 

 狼狽する八神大佐とは裏腹に、愛宕はふわふわと笑っている。

 女性とは無縁の生活を送ってきた八神大佐にとって、愛宕の行動は常軌を逸した異常な行動そのものであった。

 それとも、この愛宕のスキンシップとやらは世間一般では普通の行為なのだろうか。だとするなら、驚いてしまったのは失礼だったかもしれない。

 

「愛宕!? どうしたの、いまの叫び声は?」

 

 そこに、黒髪のボブヘアーの女性がやってきた。愛宕と同じ群青色の軍服を着ている。

 同じなのは軍服だけではなく、その体型もだ。愛宕と比べてもなんら遜色のない二つの膨らみが、いやがおうにも八神大佐の視線を誘導する。

 しかし身に纏う空気は、愛宕のようなふわふわしたものではない。どこかしっかりとしたものを感じる。

 

「あら、高雄。なんでもないのよ。ちょっと提督とスキンシップしてただけだから」

「スキンシップって……提督!?」

 

 高雄は弾かれたように背筋を伸ばして、敬礼をする。

 

「失礼しました。重巡洋艦高雄型一番艦、高雄です。本日より、八神提督の秘書官を務めさせていただきます」

 

 よかった。どうやら愛宕が特殊なだけで、この高雄はまともな人種のようだ。

 八神大佐はほっと胸を撫で下ろし、高雄に敬礼を返す。

 

「八神勇大佐だ。不慣れなことも多いが、よろしく頼む」

「愛宕、私は提督を執務室へお連れするから。あとはよろしくね」

「は~い。それじゃあ提督、またあとで」

 

 手を振りながら、愛宕は去って行った。

 

「では提督、こちらへ。執務室にご案内します」

 

 階段を上がり、最上階の一室へと入る。簡素な小さな机が隅に置いてあり、壁の一面にはファイリングされた資料が整理されて並べられている。

 

「ここは秘書室になっています。提督の執務室はこの奥です」

 

 高雄の案内で、八神大佐は執務室に入る。

 

「ほう。中々小奇麗だな」

 

 というよりも、物があまりない。

 マホガニーの机と黒の革張りの椅子。中央には応接用のソファがあり、壁際には何も入っていない本棚が置いてある。

 

「提督、本格的な執務は明日からになります。その前に何かご質問はありますか?」

「そうだな……単冠湾の現状が知りたい。何か資料などはあるか?」

「わかりました。少々お待ちください」

 

 高雄は部屋から出ていき、数分後すぐに戻ってきた。隣の秘書室から資料を持ってきたのだろう。

 

「こちらをお読み下さい。泊地と周辺海域の状況が記載されています」

「ありがとう」

 

 高雄に礼を言って、八神大佐は資料に目を通す。

 単冠湾泊地。資料によると、この周辺海域にはあまり深海棲艦が出没しないらしい。現状、周辺海域の警備と、物資輸送船の護衛が主な任務のようだ。

 資料を読み進めると、単冠湾泊地に在籍している艦娘についての資料があった。現在この泊地には五名の艦娘がいる。

 重巡洋艦の高雄、愛宕。軽空母の鳳翔。駆逐艦の潮、島風。

 しかし解せない。

 今の戦局は、決して楽観視できるものではない。少しでも多くの艦娘が、前線では必要とされている。

 だというのに、この平和な海域で艦娘が五名もいる。しかもその内三名は重巡洋艦と軽空母。主力としても運用できる艦種だ。

 資料の戦闘記録を見た限りでは、駆逐艦だけでも十分にこの泊地を守り切ることができるように思える。

 ならばこの地方に艦娘を配置する理由は一つ。

 

「随分、不審船が多いようだな」

 

 国籍不明の船舶による領海侵犯。迷い込んだ民間船ではないだろう。今の時代、民間人が軍の護衛もなく海に出るのは自殺行為だ。

 

「ロシア帝国……か?」

「断定はできませんが、装備からしてその可能性は高いかと思われます」

 

 日本皇国の北部に位置するロシア帝国。海を隔てた場所にあるその帝国は、日本皇国に宣戦布告をしている、紛れもない敵性国家だ。

 世界は一度手を取り合い、共通の敵と戦った。だがいつまでも手を取り合ってはいなかった。

 疲弊した国力を回復させるには、植民地として他国を併呑するのが合理的だ。

 人類は深海棲艦という共通の敵がいるにも関わらず、未だに人類同士で争うことを止められないでいる。

 つまりここにいる艦娘は、深海棲艦と戦うためというよりは、人間と戦うために配備されているのだろう。

 

「やれやれ。今は人類同士で争っている場合じゃないだろうにな」

「目的は私たち艦娘、でしょうか?」

「……多分な」

 

 現状、深海棲艦に唯一対抗できる手段。それが艦娘である。

 しかし艦娘は日本にだけしか存在せず、日本は艦娘の『創り方』を決して他国に開示しなかった。

 

「上のお偉いさんは、深海棲艦を滅ぼした後の事を考えてるんだろうな。全く、先に人類が滅ぼされてしまったら意味がないだろうに」

 

 艦娘は強い。

 世界を滅ぼせる力を持つ深海棲艦と戦えるということは、その力を持って他国を支配することも決して不可能ではない。

 だからこそ、その力は皇国のものだけにしておきたい。他国に艦娘の力があれば、戦力は拮抗してしまう。

 艦娘の力を使い、皇国が世界を支配するという夢を、軍の上層部と政治家連中は見ているのだろう。

 

「提督。夕刻から提督の着任祝いの宴が予定されています」

 

 暗くなってしまった雰囲気を吹き飛ばすように、高雄は明るい声で言った。

 

「宴?」

「はい。それまでの間、よろしければ施設の中をご案内しましょうか?」

「そうだな。ではよろしく頼むよ」

「はい。お任せください」

 

 高雄はニコリと笑い、八神大佐はどこか気恥ずかしくなり目を逸らした。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 防衛司令部施設となっている洋館、、少し離れた港に隣接されている工廠を見て回り、八神大佐と高雄は港で一休みしていた。

 

「これで、一通り回りましたね。どうでしたか、提督」

「驚いたよ。軍事施設という感じがあまりしないんだな」

 

 なんというか、雰囲気が違うのだ。普通の基地はどこかピリピリした雰囲気に包まれているが、ここにはそれがない。この泊地は、どこか緩く暖かい空気が支配している。

 

「そうですね。戦闘自体もそんなにありませんから、精神的な余裕もあるんでしょうね」

「……結構なことだ」

 

 舌打ちしたくなるのを堪えて、八神大佐は言葉を紡ぐ。

 

「あの、提督。失礼な質問になりますが、お許しください。この泊地は、お気に召しませんか?」

「ん? それは……」

 

 不満が顔に出ていたのか、高雄は不安そうな顔で問うてきた。

 八神大佐は言葉を選び、慎重に答えていく。

 

「いや、平和でいいと思う。ただ、俺は……」

「た~か~お!」

 

 その時、風が頬を撫でた。

 ふわりと、高雄のスカートが捲り上げられ、その下の黒い下着が露わになる。

 

「きゃっ!?」

「!? す、すまん!」

 

 高雄はすぐさまスカートを押さえ、下着を隠す。

 慌てて八神大佐は目をそらすが、瞼の裏に焼き付いた扇情的な光景は簡単には消えてくれそうにない。

 

「し、島風! あなたまたこんなことを!」

 

 見ると、いつの間にか高雄の後ろに、少女が立っていた。

 肌の露出が妙に高い改造セーラー服に、ウサギの耳のような大きなリボンが特徴的な少女だ。

 

「待ちなさい! 今日という今日はお説教ですからね!」

「あははっ! おっそーい!」

 

 顔を真っ赤にしてウサギ耳の女の子を追いかける高雄だが、その足は速く高雄は触れることすらできないでいた。

 

「じゃあね、高雄! そっちの男の人も、またね!」

 

 無邪気に笑いながら、ウサギ耳の少女は高雄の制止も聞かずに走り去って行ってしまった。

 

「まったくあの子は……」

 

 深いため息をついて、高雄は両手で自分の顔を覆った。

 

「あの子も、艦娘なのか?」

「はい。駆逐艦の島風です。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。私の教育不足で……」

 

 高雄は深々と頭を下げる。

 

「いや、いいんだ。見たところ、まだ子供のようだしな」

 

 艦娘は、誰もがなれるわけではない。艦娘になれる適正が必要なのだ。

 適正があるのは、大体が若い女性。中には十代前半の子供までいる。

 基本的には志願して艦娘に成れる適正があるかどうか見るが、志願しない人間に艦娘の適正があるかもしれない。

 そのため、最近では国民の健康診断に適性試験が組み込まれ、志願せずとも適性の有無が分かるようになっている。そして適性があった場合、強制的に艦娘となる道を歩むことになる。

 

「本当に申し訳ありません。艦娘となったからには、礼儀正しくさせようとしているのですが、どうにも自分勝手なところがあって……」

「あの年頃の子は、そう簡単に大人の言うことを聞きはしない。気にしないことだ」

 

 艦娘はあくまでも戦闘を生業とする存在だ。親や教師の代わりは、そう簡単に務まるものではないだろう。

 

「でも、今のままでは……彼女、艦隊でも少し浮いてしまって。一人でいることも多いですし」

 

 まるで母親のような物言いだと八神大佐は思ったが、失礼になるかもしれないと思い、何も言わずにおいた。

 

「まあ、彼女のことに関しては私も何か考えておくよ」

「お願いします。あ、提督。そろそろ時間ですので、食堂の方に行きましょう」

「ああ、歓迎会だったな。よし、行こうか」

 

 八神大佐と高雄は食堂に向かう。

 その途中で八神大佐は、島風の乱入で高雄との会話が中断されていたことに気付いた。だが高雄も聞き直しては来ないし、わざわざこちらから言うようなことでもない。

 言いそびれた言葉は、前線に戻りたい。

 5年前のあの日。人類が深海棲艦との一大決戦に臨んだ日。

 あの海戦で、多くの仲間が殺された。彼らを弔うには、深海棲艦を一匹残らず駆逐するしかない。

 そのために前線に行きたい。深海棲艦を殺すために、艦娘を指揮したい。艦娘がどうなろうと知ったことか。深海棲艦がこの世にいなくなればそれでいい。

 

「……いかんな」

 

 思考が暗い底なし沼にはまり込んでいるのを自覚し、八神大佐は考えることを辞める。

 戦うのは艦娘なのだ。武器を持ち、血を流すのは、艦娘であって人間の八神大佐ではない。

 

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

 

 苦笑して、八神大佐は言った。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 食堂には、所狭しと料理が並べられていた。和洋中、様々なジャンルの料理があり、見た目も匂いも食欲を刺激してくる。

 そして料理を運ぶのは、愛宕と、まだ見たことがない少女。おそらく、あの少女も艦娘なのだろう。島風の服とどこか似たような感じだから、駆逐艦かもしれない。

 厨房では、和服を着た穏やかな雰囲気の女性が料理を作っている。彼女も艦娘なのだろうか。

 

「全員注目! 提督がお見えです」

 

 高雄の号令で、その場の全員の動きが止まり、駆け足で集合してくる。

 

「提督、ご紹介します。ここにいる人員が、単冠湾泊地の艦娘です」

「よろしく。八神勇大佐だ。これからよろしく頼む」

「では、自己紹介をさせていただきます。愛宕」

 

 高雄が目で促すと、愛宕は一歩前に出る。

 

「うふふ。愛宕です。自己紹介は二度目ですね、提督」

 

 愛宕は手を軽く振りながら、クスクスと笑う。

 

「それじゃあ、次は潮ちゃんどうぞ」

「え、あ、は、はい!」

 次に出てきたのは、セーラー服を着た少女だった。気弱そうで、少し猫背気味。上目づかいでこちらをオドオドと見てくる。

 こんなすぐに泣き出しそうな子が、実戦で戦えるのだろうか?

 

「潮、です……あの、駆逐艦で……その」

 

 蚊の鳴きそうな声で何事か呟くが、次第に何も喋らなくなり、場を気まずい雰囲気が支配する。

 

「あらあら。潮ちゃんは少し照れ屋さんですからね」

 

 和服を着た女性が、苦笑しながら潮の頭を撫でた。長い髪をポニーテールにしており、おっとりしているとしか言えない空気を身に纏っている。

 

「失礼しました、提督。軽空母の鳳翔です。これからよろしくお願いしますね」

 

 静々と頭を垂れるその姿は、まさに大和撫子と形容するのが相応しい。

 

「では、最後は私ですね。改めまして、提督。重巡洋艦、高雄です。よろしくお願いします」

 

 根が真面目な性格なのか、綺麗な敬礼をして高雄は言った。

 

「あとは、島風。さっきの子でこの泊地の艦娘全員なのですが……」

 

 その島風の姿は、この食堂にはなかった。

 

「まったくあの子は。協調性がないんだから……」

 

 どうも島風というのは自由奔放な性格のようで、高雄はそれに頭を悩ませているようだ。

 

「あ、あの、高雄さん。私、探してきましょうか?」

 

 おずおずと、潮が手を挙げて聞く。

 

「いえ、いいわ。お腹が空いたら来るでしょうし、迎えに行ってもすぐに逃げちゃうわ。さあ、提督。食べて下さい。鳳翔さんの料理は絶品ですよ」

「……ああ、そうさせてもらおう」

 

 島風のことが気にかかったが、無理に探しに行こうと言い出しても場の雰囲気を壊すだけだろう。

 そう思い、八神大佐は差し出される料理に箸をつける。

 なるほど。言うだけはある。まるでどこかの料亭のような味だ。少なくとも、素人に出せるような味ではない。

 長い軍隊生活で舌は死んだと思っていたが、そんな舌にも美味しく感じる。

 

「これは、本当に美味いな」

「ありがとうございます。遠慮せず、召し上がってくださいね」

 

 鳳翔はニコリと笑い、八神大佐も遠慮なく料理を胃の中に収めていく。

 結局、八神大佐は1時間ほど飲み食いをし、艦娘達と談笑をした。

 洋館内の自室に戻った八神大佐は、ベッドに寝転がり思案に暮れる。

 高雄、愛宕、鳳翔とはある程度打ち解けることができたが、問題は潮。会話が続かないどころか、まともに視線が合うことがついに一度もなかった。

 今後のためにも、なんとかこの気まずい関係だけは解消したいものである。

 そして島風。結局島風は姿を見せなかった。

 着任してまだ一日だが、島風が周りと上手くいっていないのはどことなくわかる。

 この件も、考えておかねばならない。

 艦娘は基本的には複数で作戦行動に従事する。当然ながら協調性が必要不可欠なものとなってくるが、あの島風の性格では不安にも程がある。

 潮の件と合わせて早めになんとかしなければ、艦隊行動に支障がでるかもしれない。

 

「やれやれ……やることは山積みだな」

 

 八神大佐の意識は、ゆっくりと闇に落ちていった。

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