アオキ「……というのが妻との出会いです」   作:ホネホネ

13 / 22
ガールズトーク!

 

「あらあら〜ミヤコちゃんはアオキさんのことが好きなのね〜」

「はぐ!」

「わかるわ〜、恋をすると俄然やる気が出るもの〜」

「ぐ、ぐぅぅ……」

 

そう言われて、カエデの家のリビングのソファに座ったまま顔を真っ赤にするミヤコ。

彼女へ淹れたばかりの紅茶を差し出しながら、カエデはニコニコと楽しそうに笑った。

 

 

 

なぜカエデがカントーからやってきた探偵だというほぼ初対面の女性を自宅に招いたのかというと、広義の意味ではカエデなりの善意だったかもしれない。

 

或いは直感。

虫タイプという弱点が多いポケモンを愛するカエデは生き物の弱さを知っている。

それはつまり、追い詰められた生き物が絶体絶命の最中で何をしでかすかわからないことも知っているということでもあった。

 

目の前にミヤコが現れた時、カエデは彼女の姿に天敵を前にボロボロになりながらも死を覚悟して立ち向かう虫ポケモンを幻視した。

 

もうどうなってもいいと覚悟を決めた生き物が一番強くて儚くて、……どうしようもない。

 

目の前の生き物はきっとそれで、その隣に立つ1人の男性が彼女を此処に繋げる細い蜘蛛の糸だと思った。

 

……だから、可愛いと思った。

 

「私特製のケーキ、た〜んと召し上がれ〜」

「あ、あう、い、いただきます」

 

可愛い〜!という視線を隠さずにもてなすカエデに、ミヤコはビビり倒す。

午前に会った時の去り際にされた「後でゆっくりお話ししましょうね〜」という耳打ちもなかなか怖かったし。けれど、カエデに悪意や敵意が無いこともわかっているから、好意を無碍にすることもできず素直にもてなされるままケーキを食べていた。

おいしい………こわい………おいしい………。

 

「あ、あの、カエデさん……」

「あらあら〜そんな他人行儀じゃなくてカエデちゃんでいいわ〜敬語も無しよ〜」

「カ、カエデさ……ちゃん……」

「うふふ〜なにかしら〜?」

 

少し躊躇うように視線を揺らしながら、ミヤコはソファに並んで座るカエデを見つめて小首を傾げた。

 

「あの、こんなにお世話になっちゃっていいんです……いいの?」

人の好意に甘えるのが苦手なのか、何処か伺うようにこちらを見る目にカエデは穏やかに微笑みかける。それからケーキを頬張って膨れた頬を優しく撫でてあげた。

 

「いいのよ〜、だって片思いしている人とずっと一緒にいるのは嬉しいけど、そればかりじゃ疲れちゃうでしょう〜」

「ミ゛………」

図星を突かれたような声を出すミヤコに、カエデは笑った。

 

「あ、あの、カ、カエデちゃんも、アオキさんのこと、好き……だったり、する、の?」

不安げに、そのくせ直球にそう問いかけるミヤコを前に、カエデは自分の内側にある加虐心がじわじわと疼くのを感じた。

 

「アオキさんね〜、ええ、好きよ〜」

「ヒェッ……」

「素敵なトレーナーさんですもの〜、一度本気で戦り合ってみたいわ〜」

「あ、アッ、エッ……トレーナーとしての、好き?」

「ええ、そうよ〜」

「れ、恋愛対象としては……?」

「無いわ」

「エッ」

「無いわ」

 

カエデは揶揄うのは好きだが、そこだけは誤解の無いようにはっきりと伝えておいた。自分が原因で拗れては何の意味もないからだ。

 

そのおかげか微かに安堵の表情を浮かべたミヤコに、カエデはぎゅーっと抱きしめたい気持ちになった。ミヤコが手にマグカップを持っていなかったらそうしていただろう。

ミヤコは微かに俯きながら呟くように言った。

 

「……あのね、わかってるの、任務に不要な感情を抱いてるって。でも今回に限ってはうまく感情がコントロールできなくて……全然ダメなの、私」

「ん〜、任務に不要な感情は持っちゃだめなんて、誰が決めたのかしら〜?」

「で、でも……」

「そばに好きな人がいた方がお仕事だって人生だって露骨に頑張れるでしょう〜?」

「露骨に……まあ、そうですけど……」

「それでミヤコちゃんはアオキさんのどこを好きになったのかしら〜?」

「きゅ、急ハンドル……。あの、そ、それは、その……ちょっと、話長くなってもいい?」

「もちろんよ〜、紅茶のおかわり淹れるわね〜」

 

柔らかな昼下がりの日差しが差し込むリビングに、暖かな紅茶の香りが広がる。

どんな人だって、今ここにいたら緊張など容易く解かれてしまいそうな空間。

 

カエデが善人であるとわかっていること。

ミヤコの抱える恋心を否定しなかったこと。

ミヤコの内心を尊重した上でここへ招いてくれたこと。

その場の空気、雰囲気、柔らかな温度、香り。

彼女になら話してもいい、と自分の直感を信じた。

それがミヤコの深層にある扉をそっと開く。

 

「あのね、私、手持ちにメタモンがいるんだけど、この子って、昔、悪い組織に捕まってた子なんだ」

 

その言葉にカエデは一瞬肩を揺らして、けれど何でもない顔でうなづいた。だからミヤコも話を続ける。

 

「……子供の頃に悪の組織に乗っ取られたビルに乗り込んだことがあるの、たまたま知り合った同い年の男の子と。今思うとなんであんなことしたんだろうって思うんだけど……男の子はすごく強かったし、勇気があったからどんどん奥に進んで行ったけど、私は怖かったから追いつけなくて、近くにあった部屋に逃げ込んだの……あの、ごめん、急に、この話、大丈夫……?」

「ええ、大丈夫よ〜、ゆっくりでいいわ〜」

「……ありがと。それで、メタモンはなんていうか、うまく変身できないとすごい怒られてたみたいで、私が見つけた時にはボロボロで、そんなことされてたから人が怖いはずなのに、悪い人たちからわたしを助けてくれたりして……ごめん、無駄に自分語りばっかり……」

「大丈夫よ〜、ミヤコちゃんが話したいことが聞きたいわ〜」

「うん、ありがとう、ほんとに……。それで、メタモンはそういうことがあったから、人間……特に大人の男性とかすごく苦手なはずなんだけど、」

「アオキさんには懐いてくれた、とか〜?」

「……うん、そうなの」

 

紅茶の入ったカップを両手で包み込むように持って、ミヤコは小さく笑ってうなづく。

手持ちの子が他人に懐いた。

人にとってはただそれだけのことが、ミヤコにとっては心臓を掴まれるくらい大きなことだった。

 

「……アオキさんはすごく優しい人です」

「ミヤコちゃんにとってもそうなのね〜?」

「……うん、とても、優しくて…………好きなの」

「もう一声欲しいわね〜」

「う、う〜、えっと、アオキさんは私がご飯いっぱい食べてても気にしないし、私が困ってたら手を差し出してくれるし、私に気を遣わせることなくさりげなくフォローしてくれるし、なんか、スマートで大人の人って、感じでかっこいい……。こ、これでいい?」

「あらあら〜思ってた数倍もらっちゃったわね〜」

「し、失言……」

恥じらいを見せながら小さくそう言ったミヤコは手に持っていたカップをテーブルに置いてからカエデにそっと問いかける。

 

「あのさ、カエデちゃん、今から話すこと、誰にも内緒にしてくれる?」

「ええ、もちろんよ〜2人だけの秘密ね〜」

「うん、ありがとう。あの、昨日の夜ってすごい嵐があったでしょう?」

「ええ、そうね〜2人はマリナードにいたって言ってたかしら〜?」

「うん。それでその時に、実はね、私たち帰れなくなっちゃって、あの、仕方なく、私、ア、アオキさんと、同じ、ホ、ホテルに泊まって、しまって……」

「……あら?あらあら〜?」

「アオキさんは、その、男の人と一緒に……なんて初めてで緊張する私のことも気遣ってくれて、すごく紳士的で優しくて……」

「ミヤコちゃん」

「え、はい」

 

急にマジトーンでカエデに名前を呼ばれて思わず話を止めてうなづく。カエデは笑顔のまま、ミヤコの両肩に手を置くと小首を傾げた。

 

「アオキさんとはお付き合いはしてないのよね〜?」

「つきっ!?あ、ってない、です……」

「そう〜、付き合ってほしいとも言われていないのね〜?」

「え、あ、うん……」

「……責任を取る、とも言われてないのかしら〜?」

「せき、にん……?なんの……?」

困惑するミヤコの問いかけにカエデは答えずにニッコリと笑った。それからエプロンのポケットに入れていたモンスターボールを取り出して立ち上がる。

 

「ミヤコちゃんは私のおうちでゆっくり仮眠しててね〜?私はアオキさんとお話ししなくてはならなくなりましたので〜」

「お話ってなに……アッ!ま、まって、まってまってカエデちゃん、なんか誤解が生まれてる気がする!ち、違うからね!?」

 

 

 

 

「あらあら〜、私ったら勘違いしてたのね〜」

「ちが、ほんと、違うから……あの、私の言い方がよくなかったね……ごめん……」

「うふふ〜、アオキさんが随分手の早い人なのかと思ってカチコむところでした〜」

「そんなことないよ。…………そうじゃないから、余計好きになったの」

「あらあらあらあら〜」

 

揶揄うようなカエデの声音にミヤコはむくれたように上目遣いで見たが、それさえ宥めるように頭を撫でられて終わった。

 

「まだまだお喋りしたいけど、そろそろ仮眠を取らないといけないわね〜」

「うん、カエデちゃん、ほんとうにありがとう」

「いいのよ〜代わりにミヤコちゃんには私の着せ替え人形になってもらうし試作品も食べてもらうしアオキさんの話も聞かせてもらうもの〜」

「あ、甘んじて受け入れます……というか試作品はぜひ食べたいくらいだけど……」

 

 

そんなわけで数時間の仮眠の後、カエデの宣言通り着せ替え人形になったミヤコだったのだが。

 

 

「ミヤコちゃん、こっちのワンピースはどうかしら〜」

「無理無理無理!よく見てこれっ……私が着たら胸が無さすぎてスッカスカになるから!」

「可愛いのに〜」

「スタイルが違うから着れないって」

「ん〜、それじゃあ別のかしら〜」

「…………」

「どうかしたの〜?」

「……あのさ、ねえカエデちゃん、胸大きい人のブラって支えるためにデカくて逆にめっちゃ厳ついってほんと……?」

「見る〜?」

「見ます!」

「………………ん〜っと、これよ〜」

「プ、プロテクター……!進化する……!」

 

 

「カエデちゃんこれスカート変じゃない!?」

「可愛いわよ〜」

「カエデちゃんこれメイク変じゃない!?」

「可愛いわよ〜。私はどうかしら〜?」

「カエデちゃんは自分の今日のファッション何点だと思う?」

「ん〜80点くらいかしら?」

「え?100点中5000億点だけど?私が芸能事務所のスカウトだったら100億で契約結ぶから首洗って待ってて」

「あらあら〜」

 

 

 

初日の夜間見張りのため、日が落ちた頃に待ち合わせ場所である『ムクロジ』の前でミヤコはカエデと共にアオキを待つ。

彼が来るまでの間、2人で会話に花を咲かせる。

 

「カエデちゃんが全人類から求婚されてないの、世界のバグだと思うんだよね」

「ん〜、よくわからないけど、前にアプローチしてくれた人は私が虫タイプ使いだって知ったらあっさり離れちゃったのよね〜」

「なにそれ最ッ低。私が地面に埋めとくよそんな奴」

 

などと、盛り上がっている女性陣にやや気後れしつつも待ち合わせ場所にやってきたアオキは「お疲れ様です」と後ろから声をかけた。

 

「アオキさん、お疲れ様さ、ま……です……」

「あらあら〜、アオキさん〜、スーツはダメって言ったじゃないですか〜」

「はあ、なのでジャケットとネクタイは置いてきたのですが……」

 

下ろした前髪を落ち着かない様子で触るアオキはカエデに説教されそうな空気を察して視線を逸らす。

 

アオキは普段のスーツ姿からジャケットとネクタイとグレーのシャツの首元のボタン2つを外して、午前中にカエデが言った通りに前髪も下ろした。

彼としては現状可能な範囲でできるだけラフな格好をしたつもりなので許して欲しいと思っている。

 

ふと助けを求めるようにさりげなくミヤコへ視線を向けると、なぜか彼女はアオキを見つめて固まっていた。

 

「……あの、ミヤコさん、自分の格好は変でしょうか?」

アオキがそう尋ねると、ハッとしたミヤコは慌てていつもの笑顔を見せると「キョウサニュウトツキン!」と謎の言葉を口にしながらサムズアップした。

 

「え?」

「あ、間違えました。いえ、すごく良いかと!ええ!とても!」

「あ、はい、ありがとうございます……」

「ミヤコちゃんも可愛いわよね〜?アオキさん?」

 

ミヤコの肩に手を置いてグイッとアオキの前に彼女を押したカエデは、こてんと首を傾げてそう言った。

彼女の言葉につられるようにして、アオキはミヤコの姿を目に映す。

 

ミヤコは膝丈の淡いベージュのニットワンピースに身を包んでいて、胸の下あたりに巻いた細いベルトでキュッと体のラインを締めていた。

ワンピースだからか、これまで見せていたパンツスーツスタイルとは異なって、どこか柔らかさや女性らしさが強調されている。

アオキには他者の服装をどうこう言う気は無いし、そんなことにさして興味もないのだが、好意を寄せている女性がそんな格好をしていたのは新鮮で、……可愛らしいと素直に思った。

 

が、それを口にしたら何らかのなにかに接触しそうなので、アオキは角の立たないように返事をしてこの話を終わらせようとした、のだが。

 

「……はい、可愛らしいと思います、とても」

 

口からついて出た言葉は彼自身思ってもみないものだった。自分が何を言ったのかに気がついて、冷や汗がドバッと流れる。

 

やってしまった……!

今口にした言葉を否定して、無かったことにすることもまだそのタイミングならできた。

けれど、どうしてか結局アオキはそれをしなかったし、少し驚いたようにこちらを見つめるミヤコの瞳から目を逸らすこともしなかった。ただ、静かに見つめ返す。

そんなアオキに、やがてミヤコは柔らかく嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふっ、お気遣いありがとうございます!」

日中にアオキが言ったのと同じ返事が返ってきて、彼は咄嗟に気遣いでも世辞でも無いと言いたくなる。

 

けれど、彼女の少し揶揄うような表情からしてアオキがそう思っていることさえもわかっていて言っているのだと察せられた。

 

それから、あの時そう言った彼女もきっと今の自分と同じようなことを思っていたに違いないことも。

 

「なんでアオキさんが照れてるんですか……?」

「……気にしないでください」

 

 

照れ合う2人を見てカエデは(なんで付き合ってないのかしら〜)と思った。

 

 




女女関係で稀によくある、ほぼ初対面なのに速攻でめちゃくちゃ仲良くなる現象、すこすこすこすこスコヴィラン



カエデさんからミヤコへの第一印象
「放っておいたらすぐ死ぬ虫」

ミヤコからカエデさんへの第一印象
「恋敵かオァン!?」


カエデさんからミヤコへの第二印象
「放っておいたらすぐ死ぬ可愛い虫♡」

ミヤコからカエデさんへの第二印象
「あっ、あっ、あっ、すみませ、勘弁してくださいぃ………(女に弱いタイプの女)(サドぶってるだけで性根がマゾ)(真正サドに対してクソ雑魚)(捕食関係)」


それを見てるアオキさん
「ミヤコさんはカエデさんと仲良くなれるんじゃないかと思います」



ポケモンシリーズの時系列については諸説あると思うんですが、本作では赤緑(FRLG)〜剣盾の間に十数年経ってる説と、剣盾とSVの時間軸はほぼ同じ説を採用しています

ミヤコさんは子供の時にカントーを旅して、その時に帽子を被った無口な男の子と友達になったようです。
ミヤコは人生のある一点においてのみ彼(と彼のライバルである男の子)に対して仄暗い嫉妬心を抱いていますが、それ以外では仲良しです。年一でバーベキューとかしてると思います(適当)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。