アオキ「……というのが妻との出会いです」   作:ホネホネ

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業務中ティータイム!

 

代理人との交渉という一仕事終えてから、四天王ミーティングの会議室へ向かう。

指定された会議室に辿り着き、その扉を開いたアオキの鼻腔をくすぐったのは柔らかな紅茶の香りだった。

 

香りの元を目で辿ると、部屋の中央の長机にはポットやらティーカップやらがあった。そのさらに真ん中に置かれた3段のケーキスタンドには小洒落たケーキだのスコーンだのが載せられている。

そしてそのテーブルのまわりに、アオキを除いた四天王の3人がいた。やってきたことに気がついて3人がアオキを見る。アオキも3人を見る。思わず問いかける。

 

「……なにをしてるんですか」

「アフタヌーンティーですの」

「アフタヌーンティーやで」

「アフタヌーンティーなのですよ」

 

何故……と思いながら突っ立っていると、チリに「これバレたらトップにしこたま怒られるやさかい、はよドア閉めてや」とせっつかれた。その声につられて中に入って扉を閉める。

 

後ろを向いて扉を閉じたアオキが振り返って顔をテーブルの方へ向けると、3人はいつのまにかアオキのそばまで近づいて目の前に立っていた。

一瞬ギョッとしていると急に3人に「せーの!」で声を合わせた。そして一斉に労りの言葉をかけられる。

 

「アオキ!お疲れ様なのですよ!」

「アオキさん、ほんまおつかれさんやったな」

「アオキおじちゃん!おつかれさまですの!」

「…………はあ、どうも」

 

急になんだろうと思ったが、まあ時期的に例の密猟事件の件だろう。

ポピーにジャケットの裾を掴まれて、ソファまで案内されたのでアオキは頭を下げつつ腰掛ける。

テーブルを挟んだ向かい側に腰をかけたハッサクは丁寧な所作で全員分の紅茶を淹れながら口を開いた。

 

「事後処理で慌ただしくなっていたでしょう?なかなかアオキの慰労会をするタイミングが掴めなくてですね」

いっそミーティングという名目でしてしまおうという話になったのですよ、とハッサクは言った。

 

そういう不真面目なことは彼が一番嫌いそうなものだと思ったのだが、そんなアオキの目線に気がついて彼は苦笑しながら答えた。

 

「小生とていつでも堅物なわけではないのですよ。慰労会なのです。たまにはこんな日があっても良いでしょう」

「はあ……ハッサクさんがそう言うのなら」

「ほらほら2人で話しとらんで乾杯すんで」

「おちゃかいですよ!」

 

ポピーが待ちきれないとばかりに笑うから、業務中とは思えないほど穏やかで平和的にお茶会が始まった。

 

慰労のアフタヌーンティーとはいえ、話題は自然と密猟事件の話となる。

以前から共有として書面での報告はしていたが、記載しきれていない部分についてハッサクやチリから聞かれたためそれに答える。きっと四天王の面々は今後今回のアオキのような業務を任せられることもあるだろう。

 

そんな話をいくらか続けてから、アオキはふと隣に腰掛けるポピーへ目を向けた。

大人3人で真面目な仕事の話ばかりしていては退屈かもしれない。

アオキがポピーへ視線を向けたことに気がつくと、ハッサクやチリも堅苦しい話ばかりしていた口を閉じて、紅茶のおかわりや菓子を彼女へ勧め始めた。

それらを受け取りつつ、地につかない足をパタパタと揺らすポピーはアオキを見上げるとコテンと首を傾げて問いかけた。

 

「おじちゃんといっしょにおしごとしたミヤコさんってどんなひとでしたか?」

 

いとけない瞳で見つめられて、アオキを眩しさに目を瞑りながらどう答えるか考えた。

しばしの逡巡。言葉を選んで、吐き出す。

 

「……そうですね、ポケモンで例えると……」

「たとえると?」

「…………マルマイン……とかですかね」

「かけっこがはやいんですか?」

「……速攻が上手いです」

「ふむ、繊細な方だという意味なのですか?」

「……まあ、そう、……です……かね?」

「アオキさん的には効果抜群ってわけやな?」

「そういう意味は含んでないです……」

 

表現を間違えた気がしつつもアオキは3人から来た質問に答える。

ポピーはアオキの雑な回答では満足できなかったのか、アオキの裾を引いたかと思うとキラキラした目で見上げながら手を挙げた。

 

「はい!おじちゃん!」

「なんでしょうか?」

「おじちゃんはそのひとのことがすきなんですか?」

 

……いや、何故急にそんな質問を?

アオキはそう思ったし、顔に出した。

 

が、そういえば以前チリがポピーと恋愛話に花を咲かせているだとかそんな話をしていたような気がする。

ポピーも幼いながらにそういった些細な情報から惚れた腫れたの話題に繋げることに関心があるのだろう。

 

子供相手に嘘や誤魔化しをするのもなんとなく憚れる。そう思ったアオキは普段通りの顔で「はい、ミヤコさんは優しい方ですので自分は好きですよ」とどうとでも取れるように答えた。

 

するとポピーは両手で自身の両頬を押さえて「あらあらー!」と嬉しそうな声を上げる。それくらいは微笑ましく受け取れる。

 

が、ポピーと同じような表情と仕草をしながら、揶揄い混じりの視線でアオキを見てくるハッサクとチリは微笑ましくなかった。明らかに悪ノリしようとしている。

 

「恋のお話ですか!ぜひ聞かせてほしいのですよ!」

「ハッサクさん、今は一応名目上だけでも業務時間中です」

「昨日の1on1で会った時にハイダイさんから聞いたんやけど、アオキさんが綺麗な人とデートしとったってマリナードの人の間で話題になっとったらしいで。アオキさんが知らん女の人とおるの珍しいからみんな遠くから見守っとったって」

「え?」

「おや、アオキ、デートをしたのですか?」

「仕事です……」

「マリナードでクレープ食べたりサンドウィッチ食べてたってほんま?」

「軽食と昼食です……」

「おててとかつないだんですか?」

「繋いでませ…………いや、あの、業務上必要に迫られてその場その場で適切かつ最善の対応を行おうと努力したことはあります」

「……?どういうことですか?」

「…………」

「ポピーちゃんナイスや。これ叩けば埃が出るわ」

「攻め時ですね。覚悟はいいですか、アオキ」

「あの、今日はこれから所用のため早帰りなのでそろそろお暇します……」

 

アオキはこの場から一刻も早く離れたいとはいえ、本当のことを言ったのだが、何故か「ダウト。定時でも帰れんアオキさんが早帰りできるわけないやろ」「アオキ、嘘はいけませんよ」と言われた。

唯一ポピーだけが「なんのごようじですの?」と疑うことなく聞いてくれたので、嘘をつく理由もないアオキは答える。

 

「今日から面会できるようになったので、件の、ミヤコさんのお見舞いです。あまり遅いと面会時間を過ぎてしまうので……」

「は?なんでこんなとこおんねん、はや行きや」

「え?呼ばれたからですが……」

「おみまいにはキレイなおはなをもっていくといいですのよ!」

「ありがとうございます。参考にさせてもらいます」

 

掌を返したようにチリからシッシッと追い出される。避けたい話題から上手く逃れられたのは事実だが、なんとなく釈然としない心地があった。なんか最年少が一番まともなのではないか?という気さえしてきた。

 

とはいえ、この場から離脱するチャンスだ。

素早く荷物を纏めると、立ち上がり「今日はこのような場を用意していただきありがとうございました」とぼそぼそ言いつつ3人へ頭を下げる。残りの会議室利用時間や菓子やお茶は3人で楽しく消費するだろう。

 

そうして部屋から退出しようとするアオキを、ソファから立ち上がって近づいてきたハッサクが呼び止めた。

ハッサクは普段のような空気を震わせるようなものではなく、アオキにだけ聞こえる程度の落ち着きのある声量で言葉を紡ぐ。

 

「アオキ」

「……はい、なんでしょうか」

「いえ、あなたが珍しく他者と積極的に関わろうとしているようですから、つい老婆心が湧いてしまいましてね」

「はあ……」

「……これはあなたより年を経た人生の先輩からの助言として聞いて欲しいのですが、」

不意にハッサクはそう前置きをしてから、話を始めた。

 

「人と人とが向き合うということには、時に悍ましいまでの覚悟と責任が問われることがあるのですよ」

 

穏やかながら真剣な顔つきでハッサクはそんなことを口にした。

真面目な空気を察して、出口の方へ向いていたアオキもハッサクの方へ体を向ける。

 

「ミヤコさん、と言いましたか。もしもあなたがその繊細な人の手を取ろうとする理由が憐憫や同情ならば……やめておきなさい。同情で関われるほど人の人生とは安いものではないのです」

 

その言葉にハッサクなりにアオキを心配しているのだろうということは察せられて、そのつもりでアオキもまた言葉を受け止める。見つめ返すアオキの視線を受けて、ハッサクは柔らかに表情を緩めた。

 

「ですが、あなたがそれでもなお愛する人へ手を差し伸べるというのならば、決してその手を離さないようになさい。……助け支えるというのならば最後まで、ですよ」

……いつか、そう、いつの日にか。

その人と共に、抱えた傷以上の幸福へ至れるように。

 

まるで過去に似た経験があるかのようにハッサクはそんなことを口にした。

穏やかに、けれど逃すことはない視線で覚悟を問われて、アオキは思考の中に入る。

 

……ハッサクの言うような同情などという感情を彼女に抱いたことはなかった。

少し心配なところがあるだけで、そばにいさせてほしいのは自分の方だから。

それでも、もしも彼女が手を握ってくれるのならば今度こそ握り返したいと思う。きっと、それだけ。

 

「……はい、わかりました。肝に銘じておきます」

そう目を見つめ返してハッキリとうなづいたアオキに、ハッサクは本当は最初からわかっていたような、そんな満足げな顔をした。

それから、パッと表情を明るくして笑顔を見せる。

 

「おお!やはりアオキはその方を愛しているのですね!」

「きゃ〜!やっぱりそうなのですね!」

「恋バナの気配を察知したで!来週同じ時間にミーティング入れとくわ!」

「…………」

 

ハッサクの大声に他の2名まで湧き立つ。

……なんだか、うまいこと誘導尋問されただけのような気がした。

 

 

 

 

 

 

思えば彼女が好きな色も花も知らない。

 

テーブルシティの花屋の前で立ち止まり思案していると、長考しているアオキへ店員が話しかけてきた。

見舞いの花を探していると言えば、黄色やオレンジの明るい色合いの花を勧められる。……多分、勧められるままそれを選んでも良かったのだが。

 

「……水色や紫の花はありますか?」

アオキがそう問うと、店員には「お見舞いにはあまり選ばれない色ですが、構いませんか?」と返された。

なんとなく彼女の相棒やそのタイプのイメージカラーの方が彼女が喜ぶ気がして、セオリーは優先せずにうなづく。

 

作ってもらった小さな花束を抱えて歩く。

見るからに見舞客といった姿で病院の廊下を歩きながら、ナースセンターで看護師から教えてもらった部屋番号へ向かった。

 

そうして辿り着いた部屋の前、閉じられた扉の前に立つ。

彼女と会うのは本当に、あの夜以降初めてだった。

麻痺が残ったという彼女の左腕がどれだけ動かないのかをアオキは知らないし、彼女が肉体や精神に受けた傷がどの程度なのかもわからない。

 

……それに、あの夜にお互いが交わした言葉の意味を確かめることもできていない。

 

アオキは拳を軽く握って扉をノックする。

少しだけ揺れた引き戸。小さな声で言葉を紡ぐ。

 

「……ミヤコさん、お久しぶりです。アオキです」

扉越しにそう声をかける。

 

けれど、すぐには返事が返ってこない。

中は静かで、まるで誰もいないみたいになのに、確かに内側から気配がした。……続く沈黙。

脳裏に『自主的な面会拒絶』という言葉が流れかけたその瞬間。

 

目の前の引き戸が勢いよく開かれた。

と思った次の瞬間には、目の前から飛び出してきた人物に両腕で思いっきり抱き付かれた。小さな衝撃に思わずタタラを踏む。それから絶句。……え?

 

小柄な体に、肩口で揺れる栗毛。

一瞬、心臓が勢いよく跳ねる。

その人は懐いたポケモンみたいに嬉しそうな笑顔でアオキへ抱き付くと、彼の首筋に頬擦りをして歓迎する。

 

その小さな体を抱き止めながら、流石に気がついたアオキは肩を落として溜息をついた。

 

「……ミヤコさん……は、どこに行ったんですか」

 

……メタモン。

名前を呼んで抱き上げると、ふにゃふにゃと崩れるように元の姿に戻ったメタモンはアオキにぎゅうとくっついては嬉しそうに笑っている。

 

覗き込んだ病室の中に、ミヤコの姿は無かった。

 

 








入りきらなかったアフタヌーンティーの一幕


「あ、そやアオキさん、確認したいことがあんねん」
「はい。どうしましたか、チリ」
「色々忙しかったんはわかるんやけど、まだミヤコちゃんから1回も連絡もらえとらんねん。さりげなく確認してもらえたら助かるんやけど」
「………………あ」
「え?」
「……あの、はい、……あの、わかりました」
「アオキさん待ってやその反応からしてチリちゃんの連絡先ミヤコちゃんにまだ伝えとらんのやろ!なあ!アオキさん!オイコラ!」
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