アオキ「……というのが妻との出会いです」   作:ホネホネ

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お酒を飲もう……

 

 

明日も午前から仕事だというのにホテルの売店で酒を買ってしまった。夕食だけを買うつもりだったのに。

 

シャワーを終え、濡れた髪のまま肌着だけ身に付けて、買ってきた酒の缶を開ける。

プシュッと高い音が鼓膜を揺らした。

飲み口から溢れそうになる炭酸の泡に口をつける。

舌の上から喉へ流れていくかすかな苦みに顔を歪めた。

 

ホテルの部屋の椅子に腰掛けて、部屋を見渡す。

私が泊まっているこの部屋は元は2人用なのだろう、ツインベッドが置かれている。

 

昨晩睡眠に使ったベッドはシーツがくしゃくしゃのままになっていて、もう片方のベッドは広げた荷物でめちゃくちゃになっていた。

 

「……だるい」

汚いな、と我ながら思うが片付けるのが億劫だ。

いい、どうせ最終日には嫌でも片付けないといけないのだから。

椅子の上で片足を立てたままガリガリと頭を掻く。

 

メタモンはソファの上でクッションに化けながら眠っている。眠っているのを起こすのは申し訳ないけど、もう夜もすっかり更けてご飯の時間だ。

 

「メタモン、ご飯にしましょう」

そう声をかけると、目を覚ましたメタモンは様々なポケモンが混じったキメラのような姿に変化してから、ゆっくりとメタモン本来の姿に戻った。

ご飯、という言葉に嬉しそうに笑って伸びをする。

 

それからもう1匹も出してあげようと思った。

経費で落ちるからと広くて天井の高い部屋を取ってよかった。私のパートナーポケモンは大きいから。

 

本当は室内じゃなくて、ホテルの外に出してあげたほうがいいのかもしれないけれど、この子はパルデアにはいないポケモンだから不用意に出したら目立ってしまう。ポケモンが目立てば自然とその子を連れている私も目立ってしまうだろう。

 

それは探偵として、Gメンとして任務をしている私にとって望むものではない。

行く先々に溶け込むため、現地のポケモンにうまく変身できるメタモンを連れているのだから。

 

それにもしも追っている組織がアイツらならば、ただでさえ私の顔が知られている可能性があるのだ。

余計に気をつけないといけない。

 

「……ああ、もう、また仕事のことばっかり考えてる……」

額に手をついて溜息をつく。

ごはんまだー?と足に寄ってきたメタモンを抱き上げた。

それからコートのポケットに入れていたモンスターボールを取り出してもう1匹のポケモンも出してあげる。

 

「少し狭いよね、ごめんね、ランちゃん」

私がそう言えば、ボールから出てきたランちゃんは気にしていないとばかりに鼻先を擦り寄せた。

私が頰を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす。

掌に感じるその大きな体の暖かさに癒されていたら、私の腕の中にいたメタモンが抗議の鳴き声を上げた。

思わずランちゃんと顔を見合わせて笑う。

 

「はい、ごめんなさい。お待たせしすぎましたね」

2匹にポケモン用のご飯を用意してあげれば、2匹とも勢いよく食べ始めた。

カントーからパルデアに環境が変わったが大きなストレスは感じていないようだ。安堵する。

 

私は再度椅子に座って、酒と共に売店で適当に買った夕食を食べる。

なんでもよかったから、なんとなくおにぎりを10個ほど選んだ。とりあえずの空腹が埋まればいい。そう思って食べるのだけれど、あまり味がしない。酒で流し込む。

 

(昨日食べた食堂のご飯は味がしたのに)

テーブルに肘をつく。どうせチャンプルで解散したのならあの食堂で食べてくればよかった。

それから思考は連鎖して、今日一日行動を共にしていた人を思い出す。

 

(……そういえばあの人、私が大食いでも引いたり揶揄ったりしなかったな)

 

食堂で話した人が今回の関係者だと知った時、少なからず(ああ、昨日のを見られてしまった)と思ったのに。

けれどあの人がそれについて、少なくとも表面上だけでもなにも見せなかったことを思い出す。

……別にそれだけだけど。

 

「……それだけ、だけど」

ささくれだった心にはそれだけのことが嬉しかったのだ。

……せっかくだし夕食に誘えばよかったかな。いや、仕事だけの関係のひとに誘われたら迷惑か。

 

判断のつかない疑問に頭を悩ませながらテーブルに突っ伏す。額を冷たいテーブルに押し当てて、唸る。

うえ、と今にも吐きそうな嗚咽が漏れた。

 

酒はそんなに得意じゃないのに、たまに逃げ込むみたいに飲んでしまう。

酔うと思考は混濁して、過去が現実のものとして脳内に甦ってくる。

 

 

(「おじさんからしてみれば、嬢ちゃんは自分で自分を追い詰めてるように見えるね」)

 

昔一緒に仕事をした国際警察の人にそう言われたことがある。その意味がわかるような、わからないような、そんな気がする、いまだに、現在も。

 

 

(「あなたの目的と私の目的は同じです。ならば共に手を取り合うべきでしょう?……あなたのための門戸なら、いつでも開けておきますから」)

 

そうやって綺麗に笑う空色の髪の悪人に手を差し出されたことがある。

……死ね、と思ったし、気がついたら「……死ね」と口に出していた。

 

 

(「あのね!ミヤコね!ランちゃんといーっぱいぼうけんしてつよくなるから!そしたらおじさん、ミヤコとほんきでポケモンバトルしてくれる?」)

 

いつかそう言った子供の頃の私に「もちろんだとも」と笑って頭を撫でてくれた人がいた。

だから、ランちゃんと一緒に強くなって、わたしバッジも集めてた、のに。

 

「…………うそつき」

 

耐えるように、強く瞼を瞑る。

心配そうに私を見るポケモンたちの視線に気がついて、手を振って大丈夫だと伝えてみた。

だが、ギブアップのジェスチャーに見えたのか、ランちゃんがそばにやってきて抱きかかえられる。お姫様抱っこだった。

 

「……え?なになに?ランちゃん?えっ、好きだが……?」

お姫様抱っこにきゅんきゅんトキめいていたら、そのままベッドにポーンと放られた。

 

「ぐえっ」

顔面から落下して、鈍痛。じたばたしている間に体の上にシーツまでかけられた。パチンと部屋の電気を消したのはメタモン。

ああ、夕食のごみがまだテーブルに置きっぱとか、まだ歯磨きしてないとか、食後の一服したいとか色々思ったけど、もうどうでもよくなって、寝た。もういいや、全部明日やる。

 

「……おやすみなさい」

2匹の鳴き声が返ってきたのが、嬉しかった。

 

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