セレナと二人きりで話す少し前、赤馬零児はある組織への参加を俺に求めてきた。まだ会って間もない自分を、彼は仲間にすると言い出したのである。
「ランサーズ?」
「Lance Defence Soldiers、別次元からの侵略者を穿つ槍兵達というわけだ。現在この街で開催している舞網チャンピオンシップは融合次元、アカデミアと戦える実力のデュエリストを選抜する為にある」
オベリスクフォース、そしてアカデミアの生徒。全員が皆厳しい訓練の下で鍛え上げられたデュエルマシーンへと仕立て上げられている。どれほどの実力であるかは俺自身がよくわかっているつもりだ。そんな精鋭達を相手にして、彼は渡り合おうというのだ。
そんなの無理だ、と言いたかったのだが零児の目は揺るぎが無い。アカデミアに負けるつもりなど無い、そんな断固とした意思がそこから感じ取れた。
「俺をそこに入れたいって事か?仮にも元アカデミアだった人間を?少し迂闊なんじゃないか」
「問題ない。君が私に利益をもたらすのかどうかは、すぐにわかる」
「……俺はまだ、イエスとは言っていない」
「いや君にイエス以外の選択肢はない。アカデミアは直にセレナの居場所を突き止め、連れ戻す為にこのスタンダードへとやってくるだろう。ユージン、君は戦わなければならない。そうは思わないか?」
零児の目に射貫かれて俺は言い返せない。どう反論しようかと考えていたのに彼の言葉は俺の現状をそれとなく匂わせているのだ。
アカデミアは今頃俺とセレナが何処へ行ったのかを突き止めようとしているはずだ。そしてそこがスタンダード次元であると知れば、間も無くオベリスクフォースを始めとしたチームが組まれ次元を越えてくるだろう。つまるところそれは、俺の行いがアカデミアの襲来を招いたとさえ言える。
「君は今までの地位を全て投げ捨てアカデミアを脱走。私が味方である事を信じてセレナを連れてきて、私に保護を願い出た。その行動には対価が伴い、融合次元は直にスタンダードへやってくる。ハートランドの様な悲劇を防ぐ為にも、なんとしても君は戦わなければならない」
「……」
「それが行為の代償だ。わかるな?」
「……もちろんだ。そちらの言う通り、俺はセレナを助ける為にここへ逃げ込んだ。明日にでもアカデミアはやってきてしまうだろう」
燃える街が脳裏をよぎる。機械の巨人に跡形も無く砕かれ、人々の悲鳴だけがこだましたエクシーズ次元の地獄が胸を締め付ける。
もしも平和なこの街でも同じような事が起きるのだとしたら、俺は何としてもソレを止めなければならない。自分で撒いた種だとしたら尚更だ。
「ランサーズ、俺も入る。だが代わりにセレナの安全は保証してくれ」
「無論だ。赤馬零王は彼女の事を特別視していた。どのような理由であれ、彼の目的に関わるものであった場合我々が保護している事は有利になるだろう」
零児の考えが読めない。セレナという名の首輪を俺に課すつもりなのか、それとも本当に仲間として考えているのか。理由は釈然としないがアカデミアと戦うという点において異論は無い。全力で立ち向かう事を決めた俺はそのままセレナが運び込まれた部屋へと向かったのだ。
※
「ランサーズ、か」
「俺はアカデミアと戦う。もう、あんな思いはごめんなんだ」
「お前は私の為だけにアカデミアから抜け出して、スタンダードまでやってきた。何故そこまでする?」
「さっき言ったろう。セレナとのデュエルが楽しかったからさ。それに、君にあんな酷い事をさせるだなんて俺には我慢出来なかった」
びぃびぃと泣きだしてから数分後、落ち着いた俺は零児との会話の内容をセレナに伝えた。俺の目的がどんなものであったのかまで、細かくだ。
彼女はまだ納得がいっていないという表情だ。アカデミアが本当に人々をカードにしていったのか、という点がやはり俺の説明だけでは信じてもらえない様子で、こればかりは嘘を重ねてきた俺だからであろう。
「ともかく、今の君は自由だ。少ししたら監視はつくけど街中を自由に歩けるようになると思う。そういう風に零児にも取り次いでもらった。あともうちょっとだから、待っていて欲しい」
「……すまないな。まだ、すっきりとしなくて」
「良いんだ。俺も一気に説明したし、それを信じてもらえないのは当然の事だよ。今はあの狭い城から抜け出せた、それだけを理解していれば。じゃあ俺は零児とまた話してくる」
うんうんと唸るセレナに考える時間を与えるべきだと考えて、足早に部屋から出て行く。零児から襲来するアカデミアに備えて即席ではあるがランサーズの人員を用意したそうなので、彼らに融合次元の戦力について説明して欲しいと言う事だ。
社長室へと向かうべく足を向けたその先、見た事のある顔が近付いてくる。顔を合わせるのは今回が初めてだが、俺は彼の事はよく知っていた。
切れ長の瞳、ボロボロの外套、そして改造され歪な形状となったデュエルディスク。ただならぬ雰囲気を身に纏った出で立ちは、この次元の人間ではない事をありありと示している。
「黒咲、隼」
「赤馬零児からランサーズに投入される新たなデュエリストについて聞いた。俺は仲間など興味が無い、そう思っていたが次に奴はこう言った。お前は……アカデミアの人間だとな」
ナイフの様に研ぎ澄まされた双眸には俺に対して並々ならぬ敵意に満ちあふれていて、今すぐにでも殴りかかってきそうだ。
エクシーズ次元の残党、アカデミアの精鋭を完膚なきまでに撃破したその実力は恐らく今まで俺が戦ってきたデュエリストの中でも屈指のものだろう。
俺は黒咲が次に発する言葉を容易に想像出来た。もし俺が同じ立場であったのなら、きっとそうすると思うからだ。彼がランサーズのメンバーであるとすれば尚更。
「俺は貴様と共に戦うつもりなどない。俺の故郷を、仲間達にあれだけの仕打ちをしたアカデミアとなど……決してだッ!」
「わかった。君と戦おう」
黒咲は言葉にせずとも、俺に対してデュエルを持ちかけてきている。拒否する理由はない。頷き返してデュエルディスクを装着すると、彼は頭上を顎でしゃくる。戦いの場は屋上のヘリポートだと指定したのだ。
「ついてこい。ここを貴様の、墓場にしてやる」
こんな日が来ると思っていた。いつかきっと自分の過ちを清算する日が来ると。黒咲の存在を知った時から、ずっとだ。
負けてしまえばきっとカードにされてしまう。そんなデュエルだとしても俺はこれを絶好の機会だと捉える事にした。ハートランドの住人と言葉を交わす為に。
屋上は強い風が吹き荒れている。その中でも黒咲は少しも負ける素振りを見せず、ヘリポートで身構える。強い眼光は、闘志が溢れているかの様に輝いている。
「……さぁ、行くぞ!」
「望むところだ」
『デュエルッ!』