「なんだ貴様らは!?離せ!」
「離さないでござる。有事の際には貴方の身の安全を確保しろとの依頼な故」
「依頼?誰から……まさか、赤馬零児か!?奴がそう言ったのか?」
「……さて」
様子のおかしいユージンから引き離され、セレナと二人の忍者は森林地帯から遠く離れた溶岩地帯へと辿り着こうとしていた。どれだけもがいても忍者は全く離す素振りを見せず、次第にあれだけ体に充ち満ちていた元気も失ってセレナはぐったりと俯いてしまう。
しばらくして危険は無いと判断したのか、赤い忍者は足を止めてセレナをようやく下ろしてくれた。恨めしそうに睨み付けてみるが二人の忍者はどこ吹く風と言った様子で受け流してしまう。まったくもって不服で、セレナは歯を剥いて怒った。
「何者だ!名前くらいは名乗れ!」
「拙者は日影。そして隣は弟の月影」
「拙者達はセレナ殿がよからぬ者達の手に落ちないよう監視する役目を担っているのでござる」
「どういう意味だ!ユージンはよからぬ者だと言いたいのか!?」
「左様」
どちらも口元を隠している為に表情を窺い知る事は出来ないが、それでも二人はセレナの問いかけに対してよどみなくそう応えた。彼らはあの場においてユージンがセレナに害を与えうる存在だと見なし、そして助け出したというのだ。
「待て。バレットとのデュエルはずっと見ていたわけか?」
「もしもセレナ殿が敗北しそうであれば乱入する予定でござった。すぐに勝利されたので杞憂に過ぎなかったが、あの者だけはどのような関係であろうとも敵に違いないと判断したまで」
「敵ではない!ユージンは私の友達だ!」
「では何故、デュエルディスクを構えていたのか。まるで彼を怖れていたかの様」
「っ……」
セレナは何かがおかしいユージンの姿を見て咄嗟に身構えてしまった。それが何故なのかと問われれば、自らの身を守ろうとした以外に理由は無い。つまりあの瞬間だけは、彼を敵と見なしてしまったのだ。
日影からの指摘に対してセレナは言葉を詰まらせ、しかしすぐに踵を返して再び森林地帯へと赴こうとする。すかさず目の前に日影が現れ、道を塞いでしまった。
「どけ!ユージンに会いに行く。もう一度、アイツと……」
「他次元からの攻撃が始まっている現状でその様な事は控えていただきたい。しばらくは我々と共に―――――」
「兄者!あそこを!」
セレナと日影が一触即発の雰囲気を漂わせ、今にもデュエルを行おうかという時、図らずとも月影がその間に割って入る様に一点を指差した。セレナ達が身を隠していたビルの谷間から進んだ先の歩道橋、そこには見覚えのある制服に身を包んだ軍団の姿が見えたのだ。
オベリスクフォース、アカデミアの精鋭が溶岩地帯にも現れた彼らは一組の男女を追いかけているらしい。
「話は後だ。赤馬零児から話を聞いているのなら、先にあっちだ!」
「ウムッ……!」
日影が一瞬だけ気を許した隙に、セレナは脇をくぐり抜けて歩道橋へと駆けだした。オベリスクフォースは何者かわからないがあの二人をきっとカードにしようとしているのだ。それは何としても防がなければならない、ユージンがそう願っていたように。
アカデミアにいた罪深き人間として、せめて出来る事は全て成すべきだとセレナは強く感じていた。
地面を力強く蹴り、セレナは軽々と戦いの場へと飛び込んでいく。男女の前に盾となるべく立ち塞がると、勢いよくデュエルディスクを構えてみせた。
乱入者に対しオベリスクフォース達は一度驚き、それが目的のセレナである事に気付くとすぐに表情を緩めてニヤリと笑った。
「これはこれは……セレナ様ではありませんか。探したんですよ」
「ああ、私も探していた。この手で倒す為にだ!既にバレットは吹き飛ばしてやった、次はお前達の番だぞッ!」
「バレット隊長が……!?」
まずは気に食わないニヤケ面の鼻っ柱を叩き折ってやり、セレナは内心ではほくそ笑みつつ警戒心を崩さない。背後の二人は突然の乱入者に困惑しているのか、唖然としているようだ。
デュエルの邪魔になりかねない。早く逃げろ、そう叫ぼうと振り返り、そして自身の目を疑った。
「む……!?」
「え……!?」
二人の内片方、少女も困惑の表情を浮かべる。その顔はセレナと瓜二つで、まるで姉妹の様だった。
戦うべき相手が目の前にいるというのに予期せぬ事態に思わず足を止め、二人は見つめ合ってしまう。互いが引き合うような不思議な感覚がセレナの胸中に渦巻いていた。
「あ、あれー!?あのさ、二人は姉妹なのかな?いやどっちにしてもなんかヤバそうな雰囲気なんだけどぉー!?」
残る一人の少年が揺れ動く二人の少女に困惑する。彼の叫びが耳に届いているというのに、それでもセレナはじっと目の前の鏡に写っているかの様な存在に呆然としてしまう。似ているではない、完全にそのままだ。
先程まで威勢が良かったセレナが動きを止めた事で生じてしまった隙を見逃さずに、オベリスクフォースはこれ幸いと少しずつデュエルディスクを構えながら歩み寄ってくる。
「ふははは!背中がガラ空きですよセレナ様!デュエルを───」
「二度、まさか二度連続で同じ様な展開になろうとは。魔法カード『煙玉』ッ!」
文字通り二度目の煙幕がセレナ達とオベリスクフォースの間に噴き出す。二人の忍者がまた窮地を助けに来てくれたわけである。
視界を阻害する煙にオベリスクフォースが混乱する中、日影が音もなくセレナ達のそばに現れた。別に助けなど求めていない、と言ってやりたかったが意地になっても仕方がない。セレナは言葉を飲み、
「おいそこの二人、一緒に逃げるぞ!」
「ええ!?ちょっと、一体どうなっているのよ!」
「僕にも何が何だか……二人がなんで似ているかとか、そこの忍者コンビも誰なんだか……でもラッキーなのは間違いない!柚子、君は彼らと逃げた方がいい。僕がいたら足を引っ張りかねないからね」
「でも、デニスは!」
「こう見えて逃げ足は速い方なんだ!忍者コンビ、そこの二人をお願いね!」
デニスと呼ばれた少年は素早い身のこなしで瞬く間に溶岩地帯から離れていってしまう。セレナにそっくりの少女はそれを追いかけようと手を伸ばしたが、少し考えて差し伸べられた救いの手を取るべきと判断したのか日影と月影へと向き直った。
「……貴方達が誰なのかわからないけど、助けてありがとう。行きましょう!」
「セレナ殿、今回も問答無用ですぞ」
「構わん、頼む!」
セレナからの許可を取るとすぐさま二人の忍者は少女達を抱えて凄まじいスピードで駆け出す。森林地帯から溶岩地帯、溶岩地帯からまた別の場所へ。短時間での高速移動にセレナの胃はわずかに揺らぎ、気持ちが悪くなるのだった。
※
「……ここまで来れば良いだろう。月影、拙者は周囲を窺ってくる」
溶岩地帯からかなり離れた氷山地帯まで移動し、そこで日影はセレナを下ろす。月影もセレナにそっくりの少女をゆっくりとおろしてやり、彼女は危機から脱したおかげでがっくりと肩を落としため息をついた。
まるで自分がもう一人いるようだと、セレナは少女を興味津々で観察してしまう。他人の空似という言葉では表現できないほどによく似通っている。
「ええと、貴女は……?」
「お前達を襲った連中を追いかけている。……実際のところ追いかけられているのは私の方だがな」
「知り合いなの?」
「正確には違う。敵だ」
「……もしかして、貴女が瑠璃?」
瑠璃、どこかで聞いた事がある。具体的な内容を思い出すくセレナが記憶を遡っていけば、思いもよらない場面でその名前が触れられていた。
黒咲隼、ユージンを倒しトドメを刺そうとしていた彼を止めに入った時その口から『瑠璃』という言葉が飛び出した。それが一体誰の事なのかまるでわからず、一度は完全に無視したものの、まさか自分と瓜二つの少女からもう一度聞く事になるとは予想だにもしなかった。
「……違う、私はセレナだ。瑠璃とは誰なのだ?黒咲隼と何の関係がある?」
「ええと、黒咲の事は知っているみたいだから……瑠璃って言うのは彼の妹なの。アカデミアにさらわれてしまったって黒咲の仲間は言ってた」
「妹……」
その話が真実だとすれば非常にややこしい。瑠璃はセレナに似ていて、セレナは柚子に似ている。こんな構図が出来上がってしまう。それとも三人ともそっくりと考えるべきなのか。
加えてセレナは黒咲の燃え盛る怒りが故郷を侵略されただけでなく肉親を誘拐された事によるものなのだと知り、また何も知らなかった自分への後悔に苛まれてしまう。
セレナの顔を、妹とよく似た顔を目にした時黒咲は口をつぐんだ。あの瞬間憤怒を一旦収められたのは、肉親と出会えたという安堵に近いものだったのではないだろうか。
「詳しいんだな、柚子。どこまで知っているんだ?」
「次元がたくさんあって、エクシーズ次元が融合次元に攻め込まれたって言うところまでは。まだ全然実感が湧かないけど、でもさっきの奴らを見る限りやっぱり本当なのね……」
「柚子、今のうちに告白しておこう。私は融合次元、アカデミアからやってきた。
「えっ!!」
ギョッとして飛び退いてしまう柚子を落ち着くように手で制する。反応の良さに思わず苦笑してしまいながら、セレナはデュエルディスクへと視線を落とす。
「今はアカデミアから抜け出した身だ。たった一人の友達が、私を闇から救い出してくれた」
「その友達はどこに?」
「はぐれてしまった……まだこのアクションフィールドのどこかにいるはずなんだが」
彼は今どこにいるのか、すぐに合流したい。けれどセレナはすぐに満面の笑みを貼り付けたユージンを思い出して言葉に出来ない不安を胸の内に感じてしまう。再会したところでその時何が待ち受けているのか、想像もつかないのだ。
「今、この街には融合次元からの兵がやってきていて、そいつらは私を探しているときた。このままではアイツと合流など出来ないだろうな……無事である事を信じるべきか」
「どうしてあいつらは貴女を狙うの?」
「私にも、それはわからない。ハッキリしているのは私のせいでこの次元に奴らが現れてしまったという事だ。その責任は果たす、この命に代えてもだ」
セレナ本人でさえ赤馬零王に監禁されていたその理由を詳しくは把握していない。彼にとって何かしら重要な存在なのだと認識されている程度で、それ以外はまったく説明されずにただただ閉じ込められていた。
故にセレナは「何故私ばかり?」という疑問に苛まれてい。一体全体自分が半ば虐待に近い扱いを受けなければならないのか、と。
思えばそんな苦しみを和らげてくれたのも、ユージンであった。
「ともかく柚子、戦いが終わるまでは隠れていろ。敵は誰であっても容赦をしないんだ」
「……いいえセレナ、私も戦う。貴女に任せるだなんていやよ!」
「だが―――――」
「せめて貴女の手伝いをさせて欲しいの。友達ともう一度会う為の手伝いを!」
「手伝い……?」
自信満々な柚子にセレナは思わず首を傾げた。自分とそっくりの顔が笑みを浮かべる光景は、不思議なものである。
二人の会話を黙って聞いていた月影は少しずつ眉を吊り上げていった。兄がいない状況で何やら看過しがたい内容が話され、さしもの彼もどうしたものかわずかに悩んだのだ。
(……少々、厄介な事になる予感)
※
セレナは俺を置いてどこかへ行ってしまった。うっそうと生い茂る木々に囲まれ、ただ一人残されてしまったおかげで孤独をより一層強調される。
何故彼女に置いていかれたのかハッキリと思い出せず、俺は足元に落ちていた何枚ものカードを拾い集めてようやく状況を理解した。
「俺はオベリスクフォースを、カードにしたのか」
それが何故なのかも、すぐ近くで同様に捨て置かれていた両親のカードで理解した。デュエルの中で俺はアカデミアの手にかかった家族を目にし、怒りのままに戦ったのだ。そして勝利した結果は、あろう事か憎むべき者達を真似てしまった。
まったく覚えが無く、いつの間にかデッキに入っていた一枚のカードを見つめる。『恐楽園の死配人<Arlechino>』、これによって俺は僅かな間正気を失い恐ろしい事をしてしまったわけだ。恐ろしくなりその場にカードを投げ捨て、何が起きたのかを再び思い起こす。
「……俺は、あいつらを倒してそれで、セレナを……」
セレナに、俺は何をしようとしていたのだろう。思い出そうとしても頭に靄がかかった様でうまく働かない。けれどこの場に彼女がいないという事から理由は明白だ。
当事者でありながら状況をハッキリと思い出せない、そんな状態であってもやるべき事は一つ。セレナに謝るのだ。
(アカデミアはこの次元にやってきている。セレナを狙っているのなら尚更合流しないと)
デュエルディスクの通信機能を作動させ赤馬零児へと連絡を試みたが、デュエルの中で故障してしまったのかうんともすんとも言わない。くそ、と吐き捨て俺はセレナを探すべくまず森林地帯を抜ける事にした。
ブリーフィングでは舞網市には火山、氷山、遺跡、密林という四つのアクションフィールドが展開されていると聞いた。セレナは密林ではない別のどこかにいると考えるべきだろう。
(一刻も早く合流しなければ……プロフェッサー、赤馬零王はきっと『奴』を送り込んでくるはずだ。あんなのとセレナを会わせたらどうなるか!)
無事を願う度に足は速まり、やがて俺は全力疾走で密林を駆け抜けていった。氷山地帯から全エリアをしらみつぶしに探していけば、セレナどころかアカデミアからの刺客も見つけられるだろうと考えての加速だ。
密林地帯から瞬く間に氷山地帯へと到着する。先程までのうっそうと生い茂っていた樹木から打って変わり、今度は切り立った氷塊が立ち並ぶ極寒の世界が眼前に広がっていた。
(……そういえば舞網チャンピオンシップの参加者達はどうしているんだ?)
バトルロイヤルの最中でアカデミアを迎撃する作戦自体は良いとして、何も知らないデュエリスト達が街中にいる。ランサーズのメンバーに相応しい者を見つけ出すと零児は言っていたが、つまり彼は融合次元との戦いへ強制的に参加者達を巻き込ませているわけだ。
そうでもしなければアカデミアに勝てない、と考えれば強引ながらも筋は通っている。それでも、いささか陰謀的である。
(ともかく今はセレナだ。彼女が連れ去られてしまえば元も子もないんだ)
凍える寒さに震えながら氷雪の地を進んでいく。誰一人として人間は見つからず、かといってデュエルが行われたという形跡もそこまで見当たらない。どうやらまだここは戦場とはなっていないようだった。
全体を一望すべく高台へと上り周囲を窺う。特に動き回る人影も見当たらない、と思いきやこちらへと向かってくる人間が見えた。
赤いジャケットを身に纏った少女、セレナだ。見間違えようがない。俺はハッとして高台から滑り落ちていき、地面を蹴って空中で二回転も三回転もしながら彼女と思しき者の眼前へと跳躍した。
「セレナッ!」
氷を踏み砕きかねないほどの力強さで見事に着地した俺は喜びのあまり声を張り上げる。少女は何者かが空から降ってきた事に驚愕し、その場で「きゃあっ!?」と悲鳴をあげて尻餅をついてしまった。
うん?と俺はその反応に違和感を抱いた。あのセレナがこんな声を出すだろうか?と。
だが目の前でこちらを見上げている顔は間違いなくセレナのもので、しかしどうにも何かが違うように感じられて、ともかく俺は混乱した。
「君はセレナじゃ、ないのか?」
「もしかして貴方は、ユージン?」
しゃべり方まで違う。ゆったりとしていてあどけない声色だ。ではこの少女はセレナによく似た別人なのか?何故俺の名前を?
ともかく驚かせてしまった事を詫びながら手を差し伸べる。少女はそれを握り返すとお尻を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「いたたたた……」
「ごめんよ、その、知り合いに似ていたものだから。どうして俺の名前を知っているんだい」
「セレナから聞いていたの。はぐれてしまった友達だって」
「セレナに会ったのかい!?どこで!」
ぐっと顔を寄せて問い詰める。少女は小さく悲鳴をあげながら、
「溶岩地帯で会ったの。それで、貴方の事を探していたから……服を取り替えたの。彼女は追われていると言っていたから、私と服を替えちゃえば顔が似ているか誤魔化せるんじゃないかって」
「服を……そうだったのか。じゃあセレナは今どこに?」
「密林地帯で分かれたから、近くの遺跡地帯にいるんじゃないかって事で探しに」
セレナは無事。その事実に俺は張り詰めていた意識を緩め、ほっと安堵のため息をついた。とはいえセレ
ナが単身動いているのは不安でならない。こちらから追いかけなければならない。
「ええと、ごめん君の名前は」
「柊柚子、舞網チャンピオンシップの参加者。で、貴方はユージン、でしょう?融合次元からセレナと一緒に逃げてきたって言う」
「色々聞いたんだね。本当にすまない、危険だとわかっているのに彼女を助けてくれるなんて」
自分が狙われるであろう危険性を理解した上で柊柚子はセレナを助けてくれた。そんな彼女に感謝して、そして謝るしかない。俺はぺこりと頭をさげて、柚子は困った顔でかぶりを振った。
「全然大丈夫よ、セレナが貴方の事を心配していたから助けてあげたかったの」
「……ははは、そうか。俺を心配していたのか」
一度は危害を加えようとした俺を、セレナはまだ仲間と思ってくれている。どんな反応をすれば良いのかわからずとりあえず苦笑いしてみるものの、不安がじわじわとわき上がっていた。
何故セレナを襲おうとしたのかその理由は謎のカード一枚のみのせいだろうか。もしかしたら、俺自身のせいなのではないか……?
「ユージン、それじゃあセレナのところに向かいましょう!」
「え、あ、ああそうだね。うん……」
「どうかした?」
「なんでもない、と言いたいところなんだけど……色々あってね。歩きながら話すよ」
柚子と共に氷山の間を歩いて行く。彼女は本当にセレナとそっくりで、つい彼女の名前で呼んでしまいかけるほどだった。
「俺さ、ちょっと頭がグルグルなんだよね。自分がどうしたいのかわからなくて……デュエルだって、しばらく上手く行ってないし」
「貴方はアカデミアで、どんな事をしていたの?」
正しい事だと信じて勉強して、エクシーズ次元で人々をカードにしたよ!なんて言えるわけもない。俺は言葉を濁し、
「セレナとずっとデュエルしてた。彼女、ずっと軟禁されてたんだ。で、偶然出会ったもんだからデュエルをしてそれから今日まで友達。……あの頃は楽しかったよ、アカデミアが悪い奴らなんて知りもしなかったし」
俺は懐からデッキを取り出して、そのうち一枚を柚子へと見せる。大好きな、いや、大好きだった遊園地のイラストだ。
「セレナに外の世界を見せてあげたかった。綺麗で、楽しいところなんだってデュエルを通してさ。そしたらだんだん彼女とのデュエルが楽しくなった。デュエルモンスターズを楽しいとあんなに思えたの、生まれて初めてだったよ」
「……そうよ、デュエルって楽しいものなの。知らなかった?」
「アカデミア、厳しいところだったからさ」
「それじゃあ、融合次元の人達はデュエルを楽しいと思わないの?」
「そう、だね。そうなる」
アカデミアは息苦しい世界だ。デュエルは戦いの道具で、勝者は全てを得て一方で敗者は全てを失う。尋常ではなく狭っ苦しくてつまらない、俺の大嫌いな場所。
「でも今の俺もデュエルは楽しくない。いやな事ばかり、思い出してしまう」
「待って……私良い事思いついたかも!」
柚子がぱぁっと顔を輝かせて、先程とは逆に俺へと詰め寄ってくる。一体何事かと問い返すよりも早く彼女は、
「私の友達に、エンタメデュエリストがいるの!」
「エンタメデュエリスト……?」
「そう!デュエルは楽しくがモットーで、ずっと皆を笑顔にしたいって頑張っている。名前は、『榊遊矢』!」
榊遊矢。エンタメデュエリスト。二つ目の言葉はとてもではないが俺には理解出来ない。興奮した様子の柚子とは対照的に口元へ手をやってその意味をしばらく考え込んでしまったほどだ。
「エンタメって、実感が湧かないな」
「貴方がセレナとのデュエルで楽しいと感じたそれよ!」
初めて会ってデュエルした時、俺は遊園地がどういう場所なのかをセレナに全力で説明した。それが彼女にとって素晴らしいものになるんじゃないかと信じて、全力を投じた。アレがエンタメデュエルだと言うのか。
「それで、そのエンタメデュエルをやってる友達と俺にどんな関係が?」
「彼に会ってみて!きっと貴方にデュエルの楽しさを思い出させてくれるはず!」
デュエルの楽しさ。それはいつの間にか感じていて、ある時を境に忘れ去ってしまったもの。
しかし今の俺にはデュエルを楽しむ余裕なんて得られそうにない。あまりにも多くの事を考えすぎてただでさえ頭がパンクしそうなのだ。純粋な気持ちで向き合うデュエルなど無理な相談だ。つい先程、我を忘れてしまっていたのだから尚更。
それでも柚子が俺の事を心配してくれている以上、よく分からないで済ませてしまうわけにはいかない。榊遊矢という名前は頭の隅に置いておく程度に留めるとしよう。
「……ありがとう柚子。君のアドバイスを受け取っておく。楽しいデュエル、それを思い出せる様に頑張ってみるよ」
「うん!それでセレナともデュエルしてみましょうよ、そうしたら……昔みたいに楽しめるかも!」
「ええ~?良いなぁ、僕もそういうデュエルしてみたいなぁ?」
頭上から声が降る。俺はその声に聞き覚えがあり、反射的に柚子を背中に隠して空を仰いでいた。
氷山のてっぺんに少年が立っている。アカデミアのデュエルディスクを装着し、不敵に微笑むその姿に俺は遂に来てしまったのかと歯噛みした。
少年は軽やかな動きで飛び上がり、地上へと降り立つ。ニッコリと笑っていると言うのに俺は蛇に睨まれたカエルの様に身動き一つ出来やしなかった。
「ふぅん、君が……柊柚子?」
「えっ、どうして私の事……それに、どうして遊矢に似ているの!?」
「君に用があるんだ。僕と一緒に来てよ」
少年は柚子へとにこやかに話しかける。間に立つ俺の事など歯牙にもかけないその態度に俺はカッと目を見開き叫んだ。
「ユーリッ!」
少年、ユーリが俺へと視線を向ける。体の震えを隠すように叫んでみたものの、彼から見て俺は相当みっともなく見えるはずだ。
「誰だっけキミ」
「覚えてるはずもない。お前は常に勝ち続けていたからな、そもそも他人に興味なんてないだろう」
「んー?んー?えーっと、ああ、思い出したよ。セレナとデュエルしてあげていた奴だよね?覚えてる覚えてる」
「……この子に、柚子に何の用なんだ。お前はセレナを連れ戻しに来たんじゃないのか?」
「ううん、それは別の奴に任されている仕事。僕は柚子をプロフェッサーの元へ連れて行く為に来たのさ」
セレナではなく、柚子?二人の顔が似通っている事と関係していると言うのか。
俺はデュエルディスクを起動させ、勇ましくユーリを睨み付ける。その姿勢はよほど滑稽なのだろう、彼はくつくつと笑い出した。
「何、その顔。コワ~!もしかして僕と戦うつもりなのかな?キミの情報は一通り目を通したけど、とてもじゃないが僕に勝てるとは思えないんだけど」
「無駄口を叩いている暇があったら準備しろ。事情は知らないが、お前の好きになんてさせない!」
「んー、そこまで言うなら……良いよ、相手してあげる」
にやけ面のままでユーリもデュエルディスクを構える。柚子をしっかり守る様に立って、俺は強く深呼吸した。
ユーリ、恐らくアカデミア最強のデュエリスト。俺は幼い頃からその強さを何度も目にしている。その卓越したタクティクスと容赦の無い戦法で、プロフェッサーから絶大な信頼を置かれるほどなのだ。
「それじゃあ始めようか。待っていてね柚子、すぐにキミの番だから」
「っ……」
「柚子、俺のそばから離れないでくれ。行くぞユーリ、デュエ―――――」
「うおおおおおおッッ!ちょっっと待ちやがれぇぇぇぇッッ!」
二度目の乱入だ。氷山地帯全体に響き渡ろうかと言うほどの雄叫びと共に、背後からソレは風を切ってやってくる。
「何あれ!?」
柚子の絶叫に振り返れば、凄まじい速さで何かが近付いていくる。
バイクだ。まったく信じられない事にバイクが爆速で俺達の元へとカッ飛んでくる。
薄暗い曇り空の中でも眩く光る純白の車体と滑らかなエンジン音。この場にそぐわない近未来的なそのフォルムに俺は目を剥いて驚き、ユーリは興味深そうに眉をひそめ、柚子は絶句した。
デュエルを始めようかという俺達の間に滑り込んでくると、バイクを運転していたヘルメットの男がビシッとユーリへと人差し指を突きつける。
「テメェ!やっと見つけたぜ!」
「……え、誰キミ。ねぇえーと、セレナ係クン。誰かわかる?」
「俺に聞くな!お前達融合次元の人間では無いのか?」
「ああ!?ユウゴウじゃねぇ、ユーゴだ!!」
声色から見るにどうやら少年らしい。名前はユーゴ、で良いのだろうか。ともかく俺の発言に対してユーゴは突然振り向いて噛みついてきた。
緊張に張り詰めていた糸が緩まっていくのを感じる。思わぬ乱入に対してユーリは困惑しているようだ。
鼻息荒く俺を睨み付けるユーゴ。ところが、その目線が突然俺の背後にいる柚子へと向けられた。
「うん?おい、お前リンじゃねぇか!
「え、リン……!?」
「待ってろ!今からお前の事を攫おうとしたこのふざけた野郎を、ぶっ飛ばしてやるからよ!」
一体全体どういう状況なのか、急に判断がつかず俺はユーゴとユーリを交互に見てしまう。少なくとも一触即発ムードである事を見るに二人は敵対関係にあるようだ。では取るべき道は一つしかない。
「ええと、ユーゴだったな!?お前はアイツの敵で良いんだな!」
「ああ!?まぁそんな感じだ!」
「なら一緒にアイツを倒すぞッ!」
「おお!?なんだかわかんねぇが、敵じゃねえってんなら上等だ!」
敵の敵は味方。それならばユーゴと共にユーリを倒すしかない。即座に共闘の体勢を取った即席タッグを前にしてユーリは怯む事無く口元を歪めた。
獲物を狙うかの様な視線、そして牙を覗かせる様な笑み。一人では怖れおののいていただろうが奇妙なパートナーのおかげで僅かに俺は自らを昂ぶらせていた。
「ふぅん、二人がかり?良いよ、こういうシチュエーションあんまりないからさ!」
「行くぞユーゴ!」
「おう!!」
『デュエルッ!』
※
ユージン、ユーリ、ユーゴ。
思わぬ形で始まった1vs2のデュエル、それを見つめる柚子が身につけているブレスレットはユーリとユーゴが遭遇したその瞬間に眩く光ろうとし、急速的にその力を失っていった。まるで何かに抑え込まれるかのように……。
デュエルの形式は今のところどれが一番わかりやすいでしょうか?
-
十五話までの形式
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十六話からの形式