君の笑顔が見たいんだ!   作:んがんがん

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第二十話 前に進んでみようと思う

 扉が立てる金属音によって目を覚ます。視界には白い天井が広がり、ツンと消毒液の香りがする。背中に感じる柔らかな感触から俺は病院に運ばれて、そしてベッドに寝かされている様だった。全身が気だるく、苦しげに呻きながら首を左右に動かしてみるが、限られた視界内に誰かがいる様には見えない。

 オベリスクフォースと戦って、それからどっと疲れが押し寄せて倒れてしまったらしい事は覚えているが、自分が何故ベッドに寝かされているのかまではイマイチ思いつかない。

 誰かに運び込まれたのだろうか?と考えを巡らせていると靴音と共にベッドの脇へと零児が歩み寄ってきた。相も変わらず冷たい眼差しがこちらをじっと見つめてくる。

 

「どうやら目を覚ましたようだな。意識を失い倒れた君がこの病院へ運ばれて、半日ほど経過している。気分はどうだ?」

「どうもこうも、キツイさ」

「そうか、しかし残念だが君にはこれからいくつか連絡事項がある」

「矢継ぎ早だな……アカデミアはどうなった?俺が倒れた後は?」

 

 零児は眼鏡を指でくい、と押し上げる。少なくとも彼がこうして俺の見舞いにやってきているのならば無事に撃退できたという結果は想像出来るが、本人の口から聞くべきだと感じたのだ。

 

「アカデミアは撃退した。予想以上にこちらの抵抗が激しかったからだろう。セレナも無事だ。今は看病に疲れて自室で眠っている」

「……俺の事を信じてくれるか、零児」

「完全な敵ではない、というのが現在私が君に抱いている印象だ。私が自らここへ足を運んだ理由は、

君がセレナに襲いかかった件についてだ。一体君に何が起きた?」

「それは、俺にもわからない」

「わからない?つまりアレは君自身の意思によるものではないと?」

「信じられない、って顔だ。俺も同じ気持ちだよ」

 

 懐に手を入れる。カードにされた両親が、確かそこに入っていたはずだ。だがそれらしい感触がない。

 

「君が持っていたカードなら私が回収しておいた」

「……俺の両親だ。アカデミアを裏切った俺への罰らしい。どうしようもないくらい頭にきて、奴らが許せなくて、それで気付けば俺は我を忘れていた。……そうか、怒りだ。自分が自分でなくなった時、俺はアカデミアに対して凄まじい怒りを覚えていた!ユーリの時も!」

 

 一度目はオベリスクフォースを前にして、そして二度目はユーリに。俺は強烈な怒りに支配され、そして感情に突き動かされるままにデュエルを行ったのだ。では原因は怒りによるものだろうか?そんなはずがない、怒りだけであそこまで異質になれるはずがないのだ。

 

「ユーリ?今君はユーリと言ったのか?」

 

 原因がわかった様な、わからない様な悶々とした気持ちに歯噛みしていると零児は俺が呟いた名前に対して思わぬ反応を返してきた。聞き覚えがあるのか、彼は口元に手をやって、

 

「ユーリとデュエルしたのか?」

「奴を知っているんだな。なら話は早い、以前も話したように赤馬零王はユーリを手下に各次元から同じ顔の少女を狙っている」

「同じ顔の少女……セレナと柊柚子か」

「エクシーズ次元では黒咲の妹、瑠璃を。シンクロ次元ではリンという子を。俺はユーリから柚子を守ろうとシンクロ次元からやってきたらしいユーゴという奴と一緒にと戦ったが、途中で我を失った。柚子は……原理はわからないがユーゴと共に別次元へ飛んだ瞬間を見たよ」

 

 俺の知っている事はそれで全てだ。洗いざらいを話したつもりだが、零児は神妙な面持ちのままで考え込んでいる。

 と、ほんの僅かな静寂を引き裂くようにして病室のドアが勢いよく開け放たれる。何事かと目を向ければ、そこには動揺を隠せない様子で少年が立っている。その顔は、不気味なほどユーリに似ていた。

 

「柚子に、柚子に会ったのか?」

「君は……」

「待て、彼はまだ」

 

 少年は早足でベッドまで近付いたかと思えば、ぐっと顔を寄せてきた。真剣そのものという表情に思わず体を仰け反らせてしまう。

 どうやら彼は俺と零児の会話を聞いていた様だ。柚子の知り合い、なのだろう。

 

「柚子は何処に行ったんだ、何処の次元へ飛ばされたんだ!?」

「そ、それは俺にもわからないんだ。すまない……」

 

 ユーリとのデュエルで俺は我を失い、そしてあろう事か柚子へと近付いた。彼女へ危害を加えようとしたという事実は決して消えない。俺が自分をコントロールできていたら、少年にこんな思いをさせる必要はなかっただろうに。

 重苦しい表情で唇を噛む。すると少年はハッと我に返ったのかベッドから離れ、視線を気まずそうに逸らしていた。

 

「ごめん、疲れているのに。怒鳴ったりして」

「構わないさ。零児から俺の事は聞いてるだろう?なら俺を責めるのはお門違いでもなんでもない」

「セレナから色々聞いた。アカデミアから、逃げてきたって」

「追っ手を引き連れる形で、だ。君達の次元を傷つけてすまない……」

 

 室内全体が陰鬱な雰囲気に支配されていく。どうしようもないくらい薄暗さを打開する為か、零児は咳払いをして、

 

「落ち着いた様ならば紹介しようユージン。彼の名は、榊遊矢。結成されたランサーズのメンバーだ」

「榊、遊矢……!?」

 

 それは俺が柚子から聞かされた『エンタメデュエリスト』の名前だった。

 

 榊遊矢に対して聞きたい事が山ほどあったが、今は現状を理解しなくてはならない。一度病室を出てもらい、再び零児による説明が行われた。

 アカデミア襲来後、一体何が起きていたのか。零児は事細かに俺へと教えてくれた。

 俺やセレナと共にオベリスクフォースを迎え撃つ予定だったユースクラスのデュエリスト達は一人を除いて全員がカードに変えられたそうだ。チャンピオンシップの参加者からも被害は出ており、つまるところアカデミアの撃退にはそれ相応の犠牲が払われたという事だ。

 

「他次元からの侵略者に関しては全世界の人々に公表した。全員がアカデミアの存在を理解したわけだ。無論、ランサーズも」

「舞網チャンピオンシップはランサーズの候補者を選抜する為、そう聞いたが目論見通り見つかったのか?」

「今紹介した榊遊矢と私を含めて、九人がランサーズの構成員だ。そしてユージン、君もそこに加え入れるつもりだったが……」

 

 零児らしくない言葉の濁し方だ。恐らく彼をもってしても、俺がランサーズに加わる上で大きな問題が発生したのだろう。そして俺はその理由を、すぐに推察していた。

 

「黒咲……彼が反対しているんだろう」

「その通りだ。他の者達は君達が置かれていた境遇に理解を示したものの、アカデミアの直接的被害者である黒咲はまるで聞く耳を持たない。ユージンはエクシーズ次元を滅ぼした者達の一人である、とな」

「……セレナと違って俺は手を汚しているものな。加えて様子がおかしくなって暴れたというところまでプラスだ」

 

 黒咲隼、燃えさかる炎の如きデュエリスト。彼が俺を認めない事に不満はない。故郷を一方的に攻撃され、仲間をカードへ変えられてしまったのだ。活動に荷担していた俺を許すはずがない。

 

「だが今後融合次元と戦っていく上でユージン、君は敵の戦力を知る存在だ。加えて戦力としても事欠かない必要な人材だ」

「でもどうすれば良いんだ。説得なんて、黒咲には意味が無いだろう」

「愚問だな。君も黒咲もデュエリストならば……言葉ではなくデュエルで語るべきだ」

「――――そういえば、そうだったな」

「黒咲とデュエルをして、自身の潔白を高らかに証明しろ。我も失わずアカデミアと戦う槍の担い手であるのだと叫べ」

 

 随分と熱い事を言うものである。俺が少し困り顔を浮かべると、零児もらしくないと感じたのか眼鏡をくいと押し上げて視線を逸らす。

 とはいえ言い分はもっともである。俺がデュエリストだと言うのなら、全身全霊を以て黒咲と対峙するべきだ。

 

『俺は貴様とは違う。真っ正面から打ち破り、一切の言い訳も出来ないほどに叩き潰してやる。だから貴様も全力で俺に立ち向かってこいッ!まだデュエリストであるという自覚があるのならなッ!』

 

 そうだ、黒咲は最初のデュエルで既にそう言い放っている。

 彼はデュエリストとして俺と向き合っていた。罪悪感を言い訳にして、どうすれば償えるのかとばかり考えていた俺が勝てなかったのは当然の道理だった。

 

「……わかった。黒咲と戦おう」

「では明日、場所はこちらで用意しよう。それまでは体を休めると良い」

 

 零児はそれだけ言うと、踵を返して病室をあとにした。と、入れ替わる様にして病室へやってきたのは……意外にも沢渡シンゴだった。

 

「よおユージン!ぶっ倒れた時は死んだかと思ったが結構元気そうじゃねぇか!」

「あ、ああ、ありがとう。わざわざ見舞いに来てくれたのか?」

「ふっ、なあに。このオレ、希代のエンターテイナー沢渡シンゴ様の弟子なんだ。気を遣って当然だろ?」

「うん?弟子?なんで?」

 

 急に病室へ訪れて何かと思えば、沢渡は全く予想していなかった話題を投げかけてくる。困惑のあまり首を傾げてしまうが、彼はお構いなしだ。病室の隅に置かれているパイプ椅子を引っ張り出してどっかと腰を下ろす始末だ。

 

「お前の使うデッキ、中々良かったぜ?だが足りていないものがある。それを伝えに来てやったのさ」

「足りていないもの?」

「エンタメだよエンタメ!あんだけピカピカしてんだ、もっと盛り上げねぇと面白みが足りないんだよ~!」

「エンタメ……榊遊矢もエンタメデュエリストなんだろう?」

 

 ぽつりとそう口にすると、沢渡は口元をグニャグニャさせる。どうやら沢渡は遊矢に対して並々ならぬ感情を抱いているようだ。

 

「おうよ!奴はオレ様と対を成すもう一人のエンタメデュエリスト!舞網チャンピオンシップじゃ壮絶なエンタメ合戦を繰り広げた宿命のライバルだ!」

「そ、そんなに……!?そんなにエンタメに精通しているのか沢渡は!」

「してる!もんの凄いしてる!だから光栄に思えよなぁ、わざわざお前に助言してやっているなんて特別中の特別なんだからな!」

 

 凄まじいテンションであるが、アカデミアとのデュエルを戦い抜いたのならば沢渡もまた九人のランサーズメンバーに違いない。というより顔に書いてある。『オレはランサーズ』と心の底から胸を張っているのがわかる。

 

「……沢渡、俺がアカデミアだっていうのは知っているのか?」

「あん?ああ、聞いた」

「じゃあどうして今、こんな風に俺と話してくれるんだ。何も思わないのか?」

「ふっ……オレはすぐに見抜いたぜ?お前の中に眠るエンタメスピリットをな。磨けば光る、そうこのオレ様みたいに。だから弟子にしてやったんだよ」

 

 ハッキリ言って沢渡はおかしな人間であると思う。アカデミアとデュエルするにしても目立ちたがり屋なところを押し出していたし、今も一体どこの目線からなのかわからないが俺に対してアドバイスする。

 アカデミアにはここまでヘンな性格はいなかった。エンタメデュエルなんていうものも当然。

 俺は沢渡の事が嫌いでは無い。むしろ、ポジティブ極まりない彼が今の自分にはまぶしすぎるほどだ。

 

「んじゃあオレは帰るぜ。完璧なアドバイスをしてやったんだ、次はサイコーのエンタメデュエルを見せてみろ!じゃあな!」

 

 本当に喋りたい事だけを喋って、沢渡は嵐の様に病室を出て行った。ただ一方的に俺へ捲し立てる事をアドバイスと呼んで良いのか、非常に判断に困って終始苦笑いで対応していたのだがどうも気付いていない様子だった。マイペースなのだろう。

 

「騒がしい奴だな。病院なのだから少しは静かにするものだろう」

「凄いな、お見舞いに三人も来てくれるだなんて」

 

 沢渡と入れ替わりで、今度はセレナが病室を訪れた。律儀に部屋の外で待っていたらしいがそれを指摘するとどんな返事が返ってくるのか不安だったので、やめておいた。

 沢渡が片付けずに残していった椅子へと腰を下ろして、彼女は小さくため息をつく。セレナらしくない浮ばない様子だ。

 

「……調子はどうだ?」

「平気だよ。零児からも連絡事項は全部聞いた。そっちは?」

「どうもしない。お前が元に戻って安心している」

「あー……うん、その事も零児と話したよ。もう二度とあんな事にはならないようにする、原因ざっくりわかったし」

「そういう、ものなのか?」

 

 セレナが僅かに言い淀む。本当はもっと言うべき事があるだろうに、彼女はその言葉を飲んでくれた。

 

「それよりさ、俺もう一回黒咲とデュエルするんだ。ランサーズのメンバーだと証明するために」

「本気か?だがお前は前回奴と……」

「ああ、思いっきりやられた。でも次はもう少しだけ頑張れそうなんだ。でさ、もし……もし黒咲に勝てたらその時はお祝いで遊園地に行こうか」

 

 茶目っ気たっぷりに小指を立てて、約束だよねと確認する。セレナは同じ様に恥ずかしげだが小指を立てて見せた。

 

「今の俺じゃきっと遊園地に行っても楽しめない気がする。でも黒咲に勝ったら、黒咲に勝てる俺なら……昔みたいにセレナと笑い合えるんじゃないかと思うんだよね」

 

 何の事やらと言う顔のセレナに対して俺はなんとなく、親指をぐっと立ててみる。

 沢渡は俺にエンタメデュエルを力説した。未だにどんなものであるのか掴めていないのだが、それでも今の俺が前に進む手がかりはそこにある様な気がしてならないのだ。

 罪悪感だけでは戦えない。自分の行いを背負って前に進まなければならない、それを黒咲とのデュエルに向けて俺はハッキリと確信した。

 

 




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