エクシーズ次元への移動にはアカデミアで開発された次元転送装置を用いる。大規模の次元間移動が可能らしく、俺が所属する部隊も一斉に別の次元へと送り込まれるそうだ。
隊員全員に支給された制服を着込む。統一感を優先してか厳しいヘルメットまで用意されていて、どうせならアカデミアの時と同じモノにして欲しかったけれどそこに文句を言い出しては仕方がない。
「全員デュエルディスクの機能をチェック!」
正式にデュエル戦士となった者のデュエルディスクはこれまでよりも多彩な機能が内蔵されている。電子機器へのハッキングやデュエルに敗北した場合の強制送還、そしてカード化だ。
カード化、その名の通り人をカードに出来てしまう機能だ。一体それを何に使うのか、俺は以前から問いただしたかった。そもそも四つの次元を統合すると言っても、兵士のようにデュエリストを鍛え上げる必要があるのか疑問だったのだ。
「ウズウズして仕方がねえや」
「あの戦法が試してみたいな……」
「なあ競争してみないか?」
同じ部隊で、同い年くらいの少年達が何やら話し合っている。それが妙に興奮した様子で、嫌な予感がしてならない。
これから俺達はエクシーズ次元へと行き、そこで次元を統合する為に活動する。そう教えられてきたがしかし、具体的に何をするのかは聞かされていない。デュエルをする、それだけは避けられないという事くらいだ。
転送装置が動き出す。向こうに行けば、しばらくはセレナに会えなくなる。そう考えると胸の内がざわついてしまうけれど、彼女の為に行くのだと思えば幾分か和らぐ。全て俺の杞憂であって欲しい、そう思いながら転送装置が放つ光と共に俺達は別次元へと跳んだ。
※
薄暗いアカデミアから一転して、眼前に広がるのは広大な都市だ。都市そのものを囲んでいる高い壁の内側では暖かな光を放つ高層ビルが幾つもあり、中心にはハート型のオブジェが目を惹く象徴らしき建物が見受けられる。
エクシーズ次元、未来都市『ハートランド』。それがこの街の名前らしい。
壁の上から双眼鏡で人々の様子を窺う。特に人気があるのは公園で、子供とから大人まで皆笑顔でデュエルをしている。エクシーズ次元という名の通り、この世界では同じレベルのモンスターを用いてエクシーズモンスターを呼ぶ召喚法を用いるそうだ。
俺は安堵した。とても平和な世界だ、争いとは何の関わりもない。これならば争う事など決して無いだろう。
「我々はここで指揮を取る。お前達はまずこの壁を……」
「ならこちらは市街地で……」
仲間達の会話に振り返ると、彼らはデュエルディスクを起動させていた。一体何をする気なのか、そう問いかけるよりも先に俺と同じ部隊のデュエリスト達が街へと飛び降りていく。
「何をしている、お前も早く行け」
上官の男に促されても、何をすればいいのかわからない。何故全員がデュエルディスクを……
「魔法カード融合発動!」
俺の疑問はすぐに解けた。残っている人間が一斉にカードを発動させたからだ。幾つものエネルギーが束ねられ、壁の外側に機械仕掛けの巨人が現れる。絶大な力を持つモンスター、『古代の
混沌巨人が拳を振り上げ、凄まじい力で壁が粉砕される。俺はギョッとして上官に詰め寄った。
「何をしているんですか!?まだ接触していないのに!」
「任務だ。我々はこのエクシーズ次元を滅ぼせ、そう任務を受けている」
「ほろ、ぼす……?何を、言ってるんだ。俺達は次元を統合する為にここに……」
「そうだ。四つに別れた次元を束ねて理想郷にする。その障害となりうるものは、ここで取り除く」
ゾッとするほど冷たい声色に呻き声が上がる。一体全体、何を言っているのか全く理解できない。滅ぼす?障害?
違う、俺達は、俺はそんな事をしたくてここに来たはずじゃない。
「問題はない。次元が統合されれば全ては元通りだ。さあ、早くやれ。既にお前の部隊は任務についている」
背後で爆発が起こる。都市部で何体もの混沌巨人が現れ、好き放題暴れ始めていた。ビルを殴り壊し、踏み砕き、みるみる内に平和な世界が蹂躙されようとしていた。
跳ねるように飛び降り、空中で起動させたデュエルディスクへと『
地獄がそこにあった。地は砕け、空は燃え、炎に照らされて青空は赤く染まっていく。ハートランドは瞬く間にこの世のものとは思えない光景に変貌した。
何体ものモンスターが暴れ、人々は逃げ惑い当てもなく走り回っていたが、すぐに毒々しい色の光線を浴びて消滅していく。違う、消滅ではない、カードへと変えられていた。俺達のディスクに内蔵されているカード化機能で、彼らはカードという名の牢獄に封じ込められてしまったのだ。
「っ、ああ……!!」
それが精一杯だった。機械猟犬を駆って街中を走る。まだ生き残っている人々を助けねばならない、そんな感情に突き動かされてしまうのだ。
「皆逃げろ!逃げるんだ!早く!早く!!」
けれど何の意味もない。どんなに叫んでも、カード化されていく人々を救えない。味方を裏切って戦うか?無理だ、多勢に無勢だ。俺一人が立ち上がったところでは歯が立たないだろう。
消えていく、消えていく。人が、カードへと変わっていく。
「ああ、ああ……!!」
燃え盛る街に慟哭が響き渡る。それはエクシーズ次元の人々があげる悲鳴に紛れ込み、やがて飲み込まれていった……。
※
侵攻はあっという間に終わりを告げた。ハートランドは壊滅し、残ったのは無惨な廃墟のみだ。
ハートランドの象徴であった塔は打ち砕かれてかつてそんなものがあったという事を感じさせる残骸だけ。
暖かな光を放っていたビルも、笑顔あふれる公園も、何もかもがアカデミアによって奪われた。
「ハートランドの制圧は完了した。諸君、君達はアカデミアが作る理想郷、その記念すべき第一歩だ」
ベースキャンプを設立した後に、デュエリスト達の健闘を讃える演説を上官が行なった。それを聞いた者達は皆目を輝かせ、次々と歓喜の声を上げる。その手にはカード化されたエクシーズ次元の人間達が、絶望に満ちた表情で封じられていた。
俺だけ、部隊でただ一人何の戦果をあげていない。戦いの中で俺はひたすら避難誘導を試みていたからだ。……何の意味もなかったが。
「だが、我々にはまだやるべき事が残っている。この次元の人間達はまだ残っている。一人残らずカードにしてしまえ。全ては我らの理想郷の為だ!」
次の任務、それは残党狩り。ハートランド全体をくまなく探し、生き残りを一人残さず殲滅するのだ。
次々にデュエリスト、いや、兵士達は散っていく。新たな獲物を探して。
もう十分だ。ここまで街を破壊して、まだアカデミアは罪もない人々から奪おうというのか。
「おい、お前」
拳を握り締め、怒りを飲み込もうと必死になっていた俺の肩に上官の手が置かれる。顔を上げると、俺よりもずっと高い視点から低い声色で、
「お前は、戦果を上げたか?」
獣の様な鋭い視線に射抜かれて、俺は目を背けてしまう。あまりの威圧感に俺は侵攻時とは裏腹に萎縮しきっていた。
「……いえ、何も」
「取り乱していた様子だったな。だが、無理もない。戦場に立つには相応の覚悟がいる。そして恐れに打ち勝った者こそが、武勲を立てられる。だから、恥じるな」
「……はい」
出来る事なら上官に訴えたかった。人間をカード化する必要なんてない、どうしてこんな事をするのかと。
だがそんな事を言い出せば、俺はたちまち孤立してしまう。今は堪えるしか、そうするしかないのだ。
「さあ、お前も行くんだ
「わかりました……バレット隊長」
一体俺はこのエクシーズ次元で何をするべきなのか?アカデミアの侵略を黙って見ているどころか、その尖兵と成り果てるべきなのか?
一人で廃墟を歩きながら、あてもなく彷徨う。出来れば残党になんて会いたくない、皆どこかに隠れてじっとしていて欲しいのだ。
離れた場所から爆音が聞こえる。きっと生き残ったデュエリストと仲間が戦っているのだ。
俺が生き残りの勝利を祈りながらフラフラと歩いていると、目の前に突然少女が現れた。デュエルディスクを着けて、並々ならぬ敵意をこちらに向けて。
「ッ……私と、デュエルよ!!」
「君、は」
「よくも私達の街を!絶対に許さない!」
「待ってくれ、俺は」
戦いに来たわけではない、そう口にするつもりだった。だが彼女はデュエリスト、ならば俺の伝えたい事もデュエルで発するべきだ。
ディスクを構える。それを目にして、一層少女は昂りを見せた。
※
「『古代の機械兵士』でダイレクトアタック!」
「きゃああっ!」
デュエルは俺の勝利で終わった。少女はやる気こそあれど、その戦略はアカデミアでそれなりに経験を積んだ俺からすれば容易く突破できるものだったからだ。
攻撃を受けて少女は尻餅をついてしまう。俺が歩み寄ろうとすると、彼女はキッとこちらを睨みつけた。
「……落ち着いてくれ。俺は、君達の敵じゃない」
「嘘よ!じゃあどうして私達の街を壊したの!!」
「俺も知らなかったんだ、こんな事をするだなんて!」
言葉にしていくほど、自分がいかに何も知らなかったのかを痛感する。もしも侵略を行うと知っていれば、参加などしなかった。気付くチャンスは何度もあったはずなのだ。
唇を噛み締め、言葉に詰まる。どんな謝罪も故郷を奪われた少女には意味がないのだ。
「……いや、俺に出来る事はまだあるかもしれない」
胸の内に無力感が渦巻く。それが、俺の口からポツリとこぼれ出た。
あの時、俺には何も出来ないと動けなかった事は大きな間違いだ。
このままアカデミアの手先になる?いいや、断じてならない。俺はそんな事は絶対に許さない。
ヘルメットを投げ捨て、少女へと手を差し伸べる。今俺がすべき事、それが目の前にいるのだ。
「俺はアカデミアじゃない。俺は……君達と共に戦う」