君の笑顔が見たいんだ!   作:んがんがん

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幕間 旅立つ時

 エクシーズ次元への侵攻から帰ってきてから彼は変わった。

 セレナがそう感じ取るまでにそう時間はかからなかった。言葉を交わしているだけでも、言葉の節々からピリピリとした緊張感が滲み出ていたからだ。

 

 功績を讃えて正式に付き人となってからというもの、セレナは彼に色々な事を尋ねては同じく付き人であるバレットに嗜められた。

 エクシーズ次元ではどんなデュエルをしたのか?

 向こうはどんな世界だったのか?

 問いかけるたびに彼は言葉に詰まったかと思えば、饒舌に話し出す。

 

「エクシーズ次元のデュエリスト達は皆物凄く強かった!でも俺達アカデミアの方がもっと強いから勝てたんだよ」

「向こうの世界はハートランドっていう綺麗な街があった。次元が統一された時には見せてあげたいくらい綺麗だ」

 

 彼は笑顔でそう言うが、セレナは違和感が拭いきれない。少なくとも戦地に向かうまではこんなにもぎこちない笑みを浮かべはしなかった。それだけ激しい戦いだったと考えれば納得できるかもしれないが、何かをひた隠しにするようなのだ。

 デュエルの時だけは少しだけ以前の関係に戻れたようで楽しい。けれど彼はあの遊園地のデッキではなく、エクシーズ次元から持ち帰ったらしいものを使用していた。

 

「これさ、向こうで手に入れたデッキなんだ。勝った者として責任持って使おうと思ってさ!」

 

 セレナが見たかったのは遊園地だったが、デュエリストとしてそう主張するならば否定できない。自分は戦いには行けなくて、彼はそこから帰ってきたと言う大きな違いがあるからだ。

 彼はエクシーズ次元で潜入任務を行い、大きな成果を得たらしい。バレットがその事を言うと、照れくさそうに頬をかいていたのを思い出す。

 セレナには疎外感があった。自分だけ何の武勲を立てられずに閉じ込められている自分を惨めだと思ったし、なんとか現状を変えたいという思いがこれまでよりもずっと強くなった。

 

 

「バレット、外にいろ。お前がいると話しづらい」

「……わかりました」

 

 ある日、セレナはバレットを部屋から追い出して彼と二人きりにさせた。どうにもセレナはバレットの厳しい面持ちが好きではなく、どちらかといえば鬱陶しいとお持っているのだ。

 

「どうかしたのかいセレナ」

「……どうもしていない。いつも通りだ」

「そんなセレナに良い話があるんだ。さっき廊下で盗み聞きしていたんだけど、スタンダード次元に潜入していた生徒がね、『エクシーズ次元の残党がスタンダードにいる』と言っていたんだよ」

 

 スタンダード、その名の通りあらゆる召喚法の基本となるが故にそう呼ばれている次元だ。まだアカデミアの侵攻が及んでいない為に威力偵察をしていた生徒が、エクシーズ次元からスタンダードに渡ったとされるデュエリストと交戦したらしい。

 セレナは彼が何を考えているのかを理解した。バレットがいないのを見計らって言い出したのだろう。

 

「スタンダードに行こう。エクシーズの残党をやっつけるんだ」

「そうか……!」

 

 アカデミアから逃げ出す事は難しい。すぐに追い詰められてしまう。だが別の次元に行けば、そう簡単には追いかけられないはずだ。

 何よりセレナは遂に自分が勲を立てられる機会が来た事に心震わせた。彼と同じ、アカデミアの戦士となれるのだ。

 

「次元転送装置へのルートは頭に入ってる。タイミングを見計らって抜け出そう」

「だが、バレットがいる」

「そこは俺に任せてくれ。派手にやってやる」

 

 にやりと彼は笑い、デュエルディスクに別のデッキをセットする。今すぐ、これからスタンダード次元に行こうと言うのだ。

 セレナはこの次元に名残惜しいものは何もない。ロクな思い出がなく、何より窮屈だった記憶だけだ。

 決意を込めて頷くと、彼はわざとらしく咳払いをし、

 

「さーてそれじゃセレナ!ここから抜け出そうか!『CC』、発動!」

 

 リアルソリッドビジョンがジェットコースターを生み出す。彼はセレナの手を取ると、颯爽と座席に飛び乗る。

 騒ぎを聞きつけたバレットが部屋へと飛び込んでくるが、すぐに彼は別のカードをセットする。

 

「comica!彼を案内してあげてくれ!」

「貴様っ……!」

 

 何か言おうとしたバレット目掛けてcomicaが思い切り突撃し、両手を掴んで部屋中を連れまわし始めた。コマの様に回転するバレットが悲痛な声をあげているが、comicaが止まる様子は全くない。

 その隙にジェットコースターが発車する。爆速で動き出し、目指すは次元転送装置が置かれているアカデミアの深部だ。

 

「セレナ、捕まってて!」

 

 体がピッタリと密着するように抱き寄せられる。思わずセレナも両手を彼の腰に回し、ぎゅっと身を寄せるのと同時にジェットコースターは凄まじい勢いで駆け巡る。

 二人を止めようとする声が聞こえるが、CCは全てを置いていく速度で突き進み、あっという間に次元転送装置へと到着した。

 

「セレナ大丈夫?気分悪くない?」

「強いて言えば、悪い。もう少し遅く出来なかったのか」

「ジェットコースターってそういうアトラクションだからさ!」

 

 装置をテキパキと起動させる。間もなくして光が溢れ、セレナの目の前に大きなワームホールを作り出した。この先はスタンダード次元へと繋がっているのだ。

 生まれて初めてアカデミアの外へ出る。そんな日がこんなあっさりと来るとは思わず、セレナはしばらくワームホールを見つめた。

 手を握られて横を見る。彼は笑顔を浮かべながら頷く。

 

「さあ、行こう!」

 

 促されるままにワームホールへと飛び込む。深い闇へと身を投じると共に渦の中に放り込まれた様な感覚に襲われてセレナは先程のジェットコースターよりも遥かに気分が悪くなった。

 けれどまだ手からは彼の体温が伝わってくる。偶然出会って一度デュエルをしただけなのに、自分をアカデミアから連れ出そうだなんて無茶をやってくれた友達が。

 ならば怖くはない。友達がいるのならば、あの部屋で一人取り残されていた時に比べればずっと良い。

 やがて渦の中に光が見えた。別次元への入り口らしい。やがて光はどんどん大きくなり、二人を飲み込んでいった。

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