言い訳をするならばアメイズメントの思わぬ新規が急にポッと現れてこれをどうしようかと悩んでいました。しかし解決したので頑張っていきたいです。
第六話 俺がやらなきゃいけないんだよね?
俺はセレナを融合次元から連れ出す事に決めた。あの日、アカデミアがエクシーズ次元の人々を襲った時に。
その為には何としてもセレナに嘘をつき続けなければならなかったのだ。誇り高きアカデミアの戦士として、恥じる事のない勝利を収めてきたと。
心苦しかった。セレナに嘘を教えている様で、今すぐにでもアカデミアがどんな事をしたのかを伝えたかった。けれど彼女は、強い心を持っているからきっとプロフェッサーに問いただそうとするだろう。もしもそうなったら、セレナにどんな事が待ち受けているのか俺には想像もつかなかったのだ。
「うぎゃあ!?」
「うっ!?」
ワームホールに踏み込んでから、体感としては十秒ほどで俺とセレナはどこかに放り出された。顔面から落っこちてしまい、頬に冷たいコンクリートが押し付けられる。どうやら俺達がたどり着いたのは薄暗くジメジメとした路地裏らしい。
隣のセレナはお尻から落ちた様で痛そうに腰のあたりをさすっている。
「セレナ、お尻大丈夫?」
「お前こそ、頭から落ちたようだが大丈夫か?額が真っ赤だぞ」
「あはは……実を言うとすっごい痛い」
路地裏に差し込む光を辿って歩くとだんだんと賑やかな声が聞こえてくる。セレナと顔を見合わせて二人で駆け出していくと、開けた場所へと出た。暖かな日光を浴びる様にして高層ビルが立ち並び、人々は楽しげな足取りで往来していた。平和という言葉がピッタリだ。
ハートランドが脳裏をよぎる。滅ぼされ、今は廃墟を残すのみの世界を。あの時と違うのはここにアカデミアの手は及んでいない事だ。けれど今の平和も、時間の問題と言える。
「ここはスタンダード次元、で良いのか?」
「少なくともアカデミアではないのは確かだと思う。だってほら、皆楽しそうだし。しかめっ面じゃないし」
「そんな点で気付きたくはないが……どうやら、本当にアカデミアから抜け出せたらしい」
十年以上閉じ込められていた世界から外へ飛び出した、それは口では言い表せない。セレナは往来を見つめ、それから俺に戸惑いを見せた。唇がワナワナと震え、何と言えば良いのかもわからないと言った感じだ。
俺だってそうである。アカデミアの支配から脱したという事実に声をあげたくなるが、必死で堪えている。セレナと抱き合いたいとさえ思うほどに。
「……アカデミアは暗いところだった。ここは眩しい、目を覆いたくなるほどに。何故だ?」
「皆笑顔だからだよ。皆、幸せそうにしてる。よし、ぼーっとしていても仕方ないし、これからどうするか考えよう」
「エクシーズの残党とやらがこの次元にいるらしいが……」
「うーん、意外と簡単に見つかるかも」
目に入ったのはビルに植え付けられた液晶画面である。そこではデュエルが行われていて、二人の少年が激闘を繰り広げている。そのうちの片方に俺は見覚えがあった。
「彼、アカデミアの人間だね。ほら、セレナと同じ服」
水色の髪に青と制服を着た少年は俺が目にした、スタンダードへの工作員と見て間違いない。とすれば彼がデュエルしているもう一人がエクシーズの残党だろう。
『勝者 黒咲 隼』
「黒咲隼、彼がきっと俺達の探しているデュエリストだと思うよ。なんとかして接触しよう」
「随分と調子がいいな。まさか、アテはあるのか?」
「いや!全然!」
「能天気な奴め……」
こればかりは本当である。黒咲がエクシーズの残党だとは知っているが、俺は元からちゃんと探そうなどというつもりはない。
セレナには隠しているが俺の本当の目的はこのスタンダード次元へと、彼女を連れて到着する事である。
「セレナ、折角だからさ、街を見て行こうよ」
「何故だ?私達の目的は……」
「あー、それはわかってる。でもさ、こうして外に出られたのならエンジョイしなきゃ。ね?」
「アカデミアの連中に追いつかれたりしないのか?」
「気にしなくていいよ。俺とセレナのデュエルディスクに仕込まれていた発信機、もう外してあるから」
「そんなもの、いつの間に……」
俺はアカデミアのやり方はよく知っている。なので事前に発信機は取り除いてある。バレットの好きなようにはさせない。どの次元に行ったのかはまだわかっていないはずだ。
俺がやるべき事はセレナに勘付かれないように、このスタンダード次元を統率している人間と接触するというものだ。名前と身分は既に知っている、あとはこちらでアクションを起こせばそれで良い。
ぐるるる、と地鳴りの様な音が聞こえた。そちらを向くと、セレナが不服そうな表情を浮かべている。どうやら空腹からお腹が鳴った様なのだが、彼女はそんな事など知らないという面持ちである。
「なんだ」
「お腹減ってる?」
「減ってなどいない。今のは私の唸り声だ」
もう一度、ぐるるるとお腹が鳴る。セレナは言葉に詰まり、それから気まずそうに視線を逸らした。
「デュエリストたるもの、腹が減ってはデュエルはできぬだよ。どこかで何か食べようか」
「そうは言うが、手持ちはあるのか?私はからっきしだぞ」
「実は俺も持ってないんだけど……ちょうど良いの見つけた」
デュエルが絶対であるのはどの次元でも共通のはずだ。で、あるならばもしかしたらあり得るかもしれないと立ち並ぶ飲食店を確認していき、予想は的中した。ラーメンと書かれた暖簾を掲げている一軒の店に大きくポスターが張り出されている。
──舞網チャンピオンシップ開催記念!店主にデュエルで勝てたらラーメン無料!
「ドンピシャ!行ってみようかセレナ」
「む……なるほどな。私に任せろ。空腹でも誰にも負けないという事を教えてやる!」
口ではそれっぽく言いながらセレナは空腹に耐えられないのか足早に店へと駆け込んでいった。見知らぬ世界へとやってきたと言うのに全く物おじしない姿勢は流石である。
「おい!ポスターを見たぞ!私とデュエルしろ!」
「ムッ!来たネ挑戦者!私の中華デッキでお相手するアル〜!」
セレナならきっとそうしてくれると考えての誘導が上手くいった。あとは彼女が思うがままにデュエルしていけば、きっと次元を統べる人間も勘付くはずだ。聞いている通りの話ならば、であるが。
※
「バトルだ!月光舞猫姫で攻撃!」
「アイヤー!私の王虎ワンフーが〜〜!!」
店の前で繰り広げられたデュエルの結果を予想するまでもない。セレナのエースモンスターによって勝敗は決した。店主は派手に吹っ飛ばされていき、敗北の悔しさにジタバタと手足を振り回した。
しばらく暴れてから気を取り直してすっくと立ち上がり、店主晴れ晴れとした顔で、
「お嬢さん強いネ……デュエリストたるもの、負けた以上はこれ以上ないくらい腕を振るってラーメン作るネ」
スタンダード次元のデュエリストは全員こんなハイテンションなのだろうか、そんな風に思う横でセレナはといえば得意げな顔で腕を組んでいる。初戦が快勝だったのに加えてタダで食事にありつけると言うのだから、デュエリスト冥利に尽きると言うものだ。
「ふっ、どうだ。私だって立派なデュエリストだ。実戦でもなんら問題ない。なんならこの次元を私一人で制圧してみせるぞっ」
店主が料理を作っている間、セレナは興奮混じりに言い出す。彼女にとっては長い間アカデミアに閉じ込められていた期間を取り戻したくて仕方がないのだろう。すぐにでもここを飛び出してそこら中でデュエルを挑みかけない様子だ。
「その意気や良しだけど、あんまり大声出さないでね。誰が聞いてるかわからないから」
「……む。それならあれだ、この街最強のデュエリストだって私は倒してみせるぞ!」
「アハハ!お嬢さん何処から来たのか知らないけど、それは流石に無理だヨ!」
「なんだとっ!?」
雄叫びを聞いていたらしい店主が横槍を入れてくる。セレナは食ってかかるが、彼はムフフと笑った。
「ホントホント。あの人本当に強いから!」
「そいつの名前は?私がやっつけてやる!」
「赤馬零児って人ヨ。まだ16歳なのにこの街で一番強いこれホント!」
赤馬零児。その名を聞きセレナは目を見開き、俺も同じ様なリアクションを取ってみせる。既に知っている情報だが、それを気取られない様に振る舞わなければ。
ご機嫌な店主とは裏腹に、セレナは何かに気付いてしまった顔でこちらに振り返る。
「赤馬零児、赤馬だと?」
「プロフェッサーと同じ苗字だ。何か関係あるのかな……」
我ながら白々しい演技である。最初から俺の目的は赤馬零児にあるのだから。
セレナは突然聞かされた名前に動揺し、口をつぐむ。それを知らずに店主は湯気がたちのぼるラーメンを二つ、俺達の座るテーブルへと持ってきた。
「はいよお嬢さん。赤馬零児サンに勝てるようにしっかり食べてネ!」
「……腹が減っては、デュエルはできぬだな」
わからない事こそあれど、腹は空く。渋々といった様子でセレナはラーメンを啜り始めた。凄まじい勢いで食べていく様子を尻目に、俺はこれからどう動くかについて考え始める。
赤馬零児がスタンダード次元にいる、という話は以前からアカデミアの人間が話していた。次元の統率者であるとも。接触するのは非常に難しいが、それはこちらから会いにいく場合だ。零児側からこちらに来て貰えばいい。
流石に街を襲うわけにはいかない。だが街中で噂になる様な、もしくは零児が察知する様なアクションを起こせばそれで十分だろう。
「どうした、食べないのか」
「いや、さっきの話が引っ掛かってさ。黒咲隼はそうだけど、なんとかして赤馬零児にも会えないかなって」
「それなら私も考えていたところだ。奴の根城に飛び込んで直接デュエルを挑めば良い。シンプルでわかりやすい」
「……ちょっと危ないかなそれは」
先程までの考えていた姿はどこへやら。目に闘志を宿し、セレナはくつくつと笑いを浮かべていた。
セレナの案はもちろん却下で、とりあえず俺達の存在を零児が認識する必要がある。
先程の街頭ビジョンからこの街では大きなデュエル大会が開催されているらしい。そこに出場するのが最適解だろうが、恐らく今からでは無理だろう。
「おー、お客さん達アレ見るネ!今やってる大会ネ!」
店主が指差した先、店内に備え付けられているテレビには大会に参加しているデュエリスト達のハイライトが表示されている。
その内の一人、志島北斗という少年に俺は目をつけた。エクシーズ召喚を操り、見事な戦いぶりを見せている。
「志島北斗、か」
「あの子はさっき言った赤馬零児サンが経営してるデュエルスクールの生徒なのヨ。やっぱりLDSは強いネー!」
ちょうど良い話を聞いた。絶好の機会に俺は可哀想だが志島北斗には零児へのメッセンジャーボーイとなってもらう計画を立て、こっそりとセレナへと教える。
「……なるほどな。よし、それで行こう」
※
志島北斗、赤馬零児が経営するデュエル養成校『LDS』でエクシーズを専攻しており、『セイクリッド』というモンスター群を操る。映像で見た際にも非常に強力な戦法を用いていた。
黒咲隼も同様にLDSの生徒、という事になっている。エクシーズ次元からやってきた彼がどの様な経緯でそうなったのか定かではないが、どちらにしても赤馬零児と二人揃っているのならば好都合である。
俺達は街を歩く北斗を見つけ接触した。
「うん?なんだい、君達は」
「志島北斗さん、ですよね。俺達貴方のファンなんです。大会でのデュエル見ましたよ」
北斗を探すのはそこまで苦ではなかった。デュエル大会、舞網チャンピオンシップの参加者であるなら移動範囲は舞網市の更に狭い範囲に限定される。そこをつけばドンピシャだ。
『問答無用!速攻で仕留めてやるか!?』
というセレナの提案はやんわりと却下して俺はファンを装い北斗に近付くというアプローチを取った。穏便に、けれど確実にデュエルへとこぎ着けるためである。
北斗はファンという言葉にしっかりと反応を示した。誰でもそうだ、名誉、名声、そして憧れを向けられて何も感じない人間などそうそういない。
「ファン?僕の?」
「そうなんです。俺も、この子も。あの……良ければ俺達とデュエルしてもらえませんか?」
「……」
北斗の目に俺達はどう映っているのだろうか。怪しまれないようにと可能な限り一般人を装って話しかけているが、セレナだけは不安なので帽子を被せてある。敵意を漲らせて睨み付けてしまうからだ。
初対面の人間からデュエルを挑まれる。怪しむべきなのだが、あらかじめ北斗のガードを下げる様な言動で近付いた効果がすぐに現れる。彼はしばらく考えてから、ニッコリと微笑んだ。
「ふぅん、そこまで言うのなら……でもここじゃ出来ないな。何処か場所を借りよう。大丈夫、僕は知っての通りLDSだから多少の融通はきく」
「いえ、大丈夫です。ここでやりましょう。ほら、そこの路地裏。未来のスターデュエリストがむやみやたらと往来で他の人達にデュエルを見せつけるものではないでしょう?」
「ン?そ、そこまで言うのなら」
北斗は浮かれた様子で俺の指示に従い路地裏へと向かっていく。誰の目にもつかない、暗い場所まで。
「ところで君達、何処かデュエルスクールに所属しているのかな?」
「うーん、そうだなあ。アカデミアってところですね」
「聞いた事が無いスクールだ……まぁLDSほどじゃないか。君達も僕のファンだって言うのなら、LDSを目指すべきだよ」
「ええ、そう思います。だからこうして貴方に挑むんですから」
「え?」
北斗が振り返る。戻れないように来た道に俺は立ちふさがり、デュエルディスクを構えていた。それだけで彼は自分が罠にハメられたと気付くべきだったのだろうが、表情には戸惑いが見える。
「なっ……何を」
「ふん、スタンダードのデュエリストは懐が甘いな。見え見えの挑発に乗るなど」
「LDSエクシーズコースの志島北斗。俺達は君ではなく、君を管理する人間に用がある」
「ぼ、僕を騙したのか!?」
「約束通りデュエルして欲しい。君が勝ったら、何処へなりとでも行って欲しい。だが負けたら……果たしてどうなるかな」
「ううっ……」
北斗は逃げ道を探して目を凝らすが、背を向ければ何をされるかわからないという恐怖から視線が揺れ動く。やがて観念したのか懐から小型端末を取りだし手首に装着した。どうやらスタンダードのデュエルディスクは持ち運び出来る様にかなり最適化されているようだ。
互いにデュエルを行うという合意は済んだ。ならば後は始めるだけだ。
「おい、本当に僕が勝ったら見逃してくれるんだろうな?」
「もちろんだ。俺は約束を守る人間だと保証するよ」
デッキをセットしながら応えると、北斗は唾を飲んで覚悟を決めた。彼にもデュエリストしての矜持があるのだろう。
ディスクに叩き込んだデッキはエクシーズ次元への侵攻時に使用した『古代の機械』でもなくアカデミアに戻ってからのエクシーズデッキでもない。あの、アメイズメントだ。
『おい、今回はお前がやれ。以前使っていたエクシーズではなく、お前がいつも使っていたあのデッキだ』
北斗を罠にハメるという作戦を提示されたセレナはそう言って耳を貸さなかった。
アメイズメント、俺が何よりも大切にするカード達。エクシーズ次元の一件から使っていなかったのだが、どうやらセレナはその事が気に食わない様だ。それには理由があるのだが、説明するにはエクシーズ次元での出来事を説明しなければならない。
今は耐える必要がある。セレナに全てを話す時まで。
「それじゃあ行こうか!」
「来い!」
『デュエル!』
「先行は俺がもらうよ。俺は『驚楽園の案内人Comica』を召喚。そして召喚に成功した時、デッキからアメイズメント罠カードをセットする」
「罠カードデッキか……」
「セットするのは『|A・∀・RR《アメイズアトラクション ラピッドレーシング》』だ。北斗、君は遊園地に行った事はあるかい?」
「……いいや、僕にそういう趣味はない」
「それは残念だ。でも大丈夫、この場を借りて君を楽園に案内するよ。俺はカードを2枚セットしてターン終了!」
準備は整った。あとは北斗がどの様に動くかである。エクシーズを操るデュエリストとの戦いは既に体験している。経験を生かしてどの程度まで戦えるかが問題だ。
「僕のターンだ。ドロー!僕は『セイクリッド・グレディ』を召喚。そしてグレディの効果により手札からレベル4の『セイクリッド』モンスターを特殊召喚する」
星々の輝きをその身に宿したかの様に白銀の戦士が現れる。舞網チャンピオンシップの映像でも行っていた初動だ。安定感のある、いわばお約束と言える。
「……やはりそれで来たか!この瞬間罠カード『RR』の効果を発動し、アメイズメント罠カードをフィールド上のモンスター1体に装備させる!俺は『RR』をグレディに装備だ!」
「僕のモンスターに!?」
セレナとのデュエルでは見せていない新しいアトラクションカード。それはアメイズメント・プレシャスパーク最速のアトラクションだ。
路地裏を縦横無尽にレーシングカーが駆け巡っていく。Comicaは首位の車体に飛び乗るとそのまま運転席に乗り込み、運転を始める。瞬く間に薄暗い路地裏はレース場へと変貌していた。
「むっ!これは見た事があるぞ。アレだな、競争をする奴だなそうだろう!」
「そうだよセレナ。ではグレディを爆走レースにご招待!」
Comicaは運転席から飛び出すとグレディの手を取り、疾走するレーシングカーへと誘っていく。抗う事もせずに戦士はハンドルを握りサーキットの先頭を走り始めた。
「これは一体!?」
「グレディは今、楽しいレース中だ。でも君のモンスターである事は間違いない。さぁグレディの効果は発動しているぞ」
「くっ……僕は『セイクリッド・カウスト』を特殊召喚。……何を狙っているのか知らないが、僕は今そういうふざけたデュエルがとても嫌いなんだ。後悔させてあげるよ!カウストは1ターンに2度までセイクリッドモンスターのレベルを変化させる事が出来る。僕はグレディとカウストのレベルを1つ上げ、5にする!」
グレディを召喚しカウストを続けて呼び出す。そしてカウストの効果によって二体のモンスターをレベル5にする。これにより北斗のフィールドには同じレベルを持つモンスターが揃う。これにより北斗はエースモンスターであるランク5『セイクリッド・プレアデス』の召喚を目論んでいるのだろう。勿論それも想定の範囲内である。
「だがそこで俺は君のグレディに装備させている『RR』の効果を発動しよう。『RR』を相手モンスターが装備している時、そのモンスターのレベルをターン終了時まで1上げ守備表示にする!」
グレディがご機嫌な様子で乗り回していたレーシングカーは突然スリップを起こし、派手にクラッシュしてしまう。
「僕のレベル変動効果に、更にレベルを変化させた!?」
「これによりカウストのレベルは5なのに対してグレディはレベル6となる。エクシーズ召喚は不可能だ!」
エクシーズ召喚がどれだけ強力なものであるかはよく理解している。もしもプレアデスの召喚を許していたら盤面をひっくり返されるのは間違いないだろう。それ故に俺は北斗の動きを封じるしかないと判断したのだ。
目論見が外れてしまった北斗は苦虫を噛み潰した顔でこちらを凝視してくる。恐らく彼は今、考えに耽っているのだ。
『RR』の効果を踏まえれば俺は毎ターンエクシーズ召喚を封じる事が出来る。実際にComicaは装備されているカードの対象を別のモンスターに入れ替えられる。次のターンでグレディに装備されている『RR』をComicaに戻し、また北斗のターンにグレディへと装備させてレベルを変動させる。彼の得意とする戦法を機能停止に追い込めたのだ。
「僕は、ターンエンドだ」
「……北斗、君は今これからどうするかを考えている事だろう。次のターンにどう動くか、と。だが次のターンなんてない。この俺のターンで君は敗北するからだ!ドロー!」
ドローしたカードを確認し、俺は勝利を確信する。エクシーズ召喚を果たせなかった北斗のフィールドは安定感にかけている。小突いてしまえばそれだけで瓦解してしまうだろう。その隙は見逃さない。
伏せてある2枚のカード、その内の1枚を発動する条件は整った。北斗の背後にいる赤馬零児へのアピールを込めての花火だ。
「まずComicaの効果を発動しグレディに装備されていた『RR』をComicaへと装備させる。続いて俺は手札の『|A・∀・VV《アメイズアトラクション ヴァンキッシュヴァイキング》』を見せ、このモンスターを特殊召喚する。来い!『
呼び出すのは遊園地の新たな住人である。Comicaと瓜二つな容姿は二人が姉妹だという事を示している。ComicaとDelia、アメイズメント・プレシャスパークを案内する美少女姉妹と言ったところだろうか。しかしこれだけではない、まだ俺は本番を遺している。
「そして速攻魔法『アメイズメントタイムチケット』を発動。ライフポイントを800支払い、デッキからアメイズメントカードを手札に加える。俺は『驚楽園の支配人<∀rlechino>』を選択する。さぁここからだ。最後のリバースカード、オープン!『|A・∀・FF《アメイズ・アトラクション フュージョンフェスティバル》』、このカードをComicaに装備し、その後フィールドのモンスターを素材に融合召喚を行う!」
「融合召喚……!?」
まだセレナにも見せていなかった領域、それが融合である。このタイミングで出してしまえば『私に隠していたのか!?』と怒られるであろう事は避けられないのだが、今の状況では融合召喚を行わなければならない。やむを得ない事情という奴だ。
アメイズメントは様々な罠カードを用いて相手を翻弄する。その中には魔法カード『融合』と似ている効果を持つモノも存在するのだ。
サーキットが瞬く間に眩い光に飲み込まれたかと思えば、極彩色の世界へと変化していく。春、夏、秋、冬。あらゆる色が溶け合い路地裏を彩った。
「美しき案内人達よ!四季の祭典と混ざりて、新たな楽園へと導けッ!」
ComicaとDeliaが光の中へ溶け合っていく。二体のモンスターを素材として新たなモンスターを作り出す、それこそが融合召喚である。
「融合召喚!開園せよ、レベル6!『|驚楽園の案内人<Comica&Delia>《アメイズメント・アテンダント コミカデリア》』!!」
爆発と見紛うほどの絶大なエネルギーの放出と共に二体のモンスターは新たな姿へと変化する。ComicaとDeliaが合体した様な一人の女性が路地裏に降り立ち、丁寧な動作で北斗へと手を差し伸べる。それだけでジメジメとした空間に暖かな空気が流れ込んだ。
「お前、融合も使うのか!?私は知らないぞ!」
「セレナ、説明は後にするよ。融合召喚に加えて、罠カードが発動した事で俺は手札から『驚楽園の支配人<∀rlechino>を特殊召喚する!」
続けて現れるのは楽園を支配する者、つまりはエースモンスターである。フィールドに強力なモンスターが二体並び、北斗を威圧していく。横でセレナがぐわー!と声をあげるのをとりあえず置いておき、俺は間髪入れずに叩き込んでいく。
「∀rlechinoの効果発動!墓地に眠るアトラクション罠カードを除外し、その枚数分相手のカードを破壊する!Comicaが融合素材となった事で墓地に送られていた『RR』と『FF』を除外し、グレディとカウストを破壊だ!」
支配人の号令と共に二発の花火が北斗のモンスターへと放たれる。瞬く間にフィールドは一掃され、矛は愚か彼の身を守る盾すらもなくなってしまった。
「そ、そんな……!」
「俺は君がどんなに強いか、よく知っている。一度動き出せば俺は苦戦していただろう。だから打てる手は全て打たせてもらった!∀rlechinoとComica&Deliaでプレイヤーにダイレクトアタック!」
叫ぶと同時に俺はモンスター達の攻撃を北斗そのものにではなく、その周囲へとズラす。リアルソリッドビジョンが人間に直撃すればその破壊力は人体を容易く破壊しかねないのだ。
同時攻撃により北斗の足元が粉砕され、その衝撃が彼を襲う。即座にComica&Deliaが彼を受け止め、なんとか怪我をさせずに済んだものの、助けられた本人は生きた心地がしないのか青ざめていた。その反応から見てもスタンダード次元では融合次元ほどソリッドビジョンが実際に破壊力をもたらす様にはなっていないようだ。
「ソ、ソリッドビジョンなのになんで地面が壊れているんだ!?君達は一体……」
「君の負けだ」
「僕に何を……!」
「今から赤馬零児のところに言って、こう伝えてくれ。『自分達はアカデミアから来た、お前と話したい』、とね。さぁ行くんだ!」
「……お、覚えていろよ!」
突き放す様に言ってやると北斗は背を向けて走り去っていく。セレナに行かせてやる様に目配せすると、彼女は渋々と言った様子で道を空ける。北斗は息を切らしながら明るい方へと消えていった。
これで赤馬零児へと俺達の存在をアピールする事が出来るだろう。あとは向こうの出方を窺うとしよう。
「……で、だ。お前私に手加減していたのか?」
ぐっとセレナが顔を寄せてくる。双眸に怒りの炎を燃え上がらせ、いつの間にかデュエルディスクまでも装着されている。完全にデュエル上等モードである、果たして言葉が通じるかどうかさえ不安になってしまっている。
「て、手加減してきたわけじゃないって!」
「だがあの融合モンスターを私は知らないぞ。お前に預けられていたデッキにも無かった!」
「融合は以前から持っていたけど、しばらく使っていなかったんだよぉ。信じてよセレナ!あとでご飯奢るから!ね!?」
「いやだ。ここでデュエルをしなければ気が収まらない!」
「へえええ!?や、ホント無理!無理です!それよりも赤馬零児がいるっているLDSに行ってみようよ。さっき志島北斗に教えたメッセージが作戦通り彼に伝われば接触できる!」
「こ!と!わ!る!!!」
「ご、ご勘弁を~~!!!」
※
「……そうか、彼らはアカデミアと名乗ったのか」
「はい、間違いありません。志島北斗がアカデミアを名乗る者とデュエルをしている際に、基準値を上回る融合召喚反応が検知されています」
幾つもの液晶画面の内の一つを大画面に映す。つい先程までの映像を再生しており、そこには一組の男女が何か言い争っている。彼は片方の少女には見覚えがあった。
黒咲隼とデュエルした紫雲院素良を踏まえれば融合次元からの侵攻がいよいよ始まったのかと考えたが、すぐにそうではない事が言い争いから判断出来た。
「中島。すぐにこの二人を見つけ、私の元へ連れて来い」
「は?しかし、彼らは我がLDSに対して攻撃を……」
「わざとだ。隠密ではなく我々に存在を気付かせようとしている。全く以て無謀な行動だが――――彼女がいるという事は二人はアカデミアの手先では無い。むしろ我々の味方となりうる可能性がある」
「……承知しました」
彼は、赤馬零児は少年に詰め寄る彼女をじっと観察する。
「こんな形で再会するとはな、セレナ」
ざっと今回登場したオリジナルカードのテキストっぽいのを載せます。
罠カード
『A・∀ FF』
このカード名の⑵の効果は1ターンに1度しか使用できない。
⑴自分フィールドの「アメイズメント」モンスターまたは相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。
⑵装備モンスターのコントローラーによって以下の効果を発動できる。
●自分:自分フィールドの「アメイズメント」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターが融合素材として記されている「アメイズメント」融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へと送り、その融合モンスター1体をEXデッキから特殊召喚する
●相手:自分の墓地の「アメイズメント」モンスター1体を対象として発動できる。対象のカードを手札に戻し、デッキから「融合」通常・速攻魔法カード1枚を手札に加える。
モンスターカード
『驚楽園の案内人<Comica&Delia>
光属性 レベル6 攻撃力2200 守備力1800
機械族 効果
??????????