SPIDER-MAN:No memory   作:その前ロマエ

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リコネクション

 気づいたら終わっていた入学式のあと、僕たちは一年H組の教室に移動して先生の話を話半分で聞いていた。

 咄嗟に考えたスピーチをしたが、おかしなところはなかっただろうか、という文字列が頭の中を駆け巡っている。

 

「おい、捨石。ちゃんと聞いてるか?」

 

「あ、はい! 聞いてます!」

 

 パワーローダー先生は僕を見てハァ、と溜息を一つこぼす。

 

「それならいいが、気を付けるように。お前は特にね」

 

 どうやら僕がさっき咄嗟にスピーチを考えたことはバレてしまっているようだ。まあ、当然か。

 

「今日はもう下校とするけど、明日からは普通に授業が始まるから気を引き締めるように。それじゃ、解散」

 

 先生がそう言って教室から出ていくと、次第にクラスメイトが近くの席の人と少し話し始めたりしている。

 それは僕も例外じゃないようで、隣の女子がちらちらと僕の方を見ている。

 

「……どうかした?」

 

 僕も友達は欲しいし、話しかけてみる。一度目の人生で学んだことは、周りの人間関係の大切さが一番である。

 

「すみません、先ほどの入学式でスピーチをしていた主席入学者がいたので気になってしまい……」

 

 なるほど。まあ、主席入学者が隣にいるのは確かに気になるかもしれない。

 

「ああ、そういうこと。ま、そんな気にしないでいいからさ! これからよろしく」

 

「はい、よろしくおねがいします。捨石さん」

 

「うん、よろしく……名前聞いてなかったね。なんていうの?」

 

 改めて隣の席の彼女の顔を見る。

 白い髪に青い瞳。肩まで伸ばしたサラサラの髪。今世の僕に負けず劣らずの美少女である。

 

 彼女はなんでか一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに元の無表情に戻る。

 

冬島冷香(ふゆしまれいか)です。捨石さん」

 

「冬島さんね。よろしく」

 

 練習していた笑顔を向ける。これで友達になることは間違いなしのはずだ。

 

「……あの」

 

「ん、なに、どうしたの」

 

「握手はしないんですか?」

 

 握手、握手か。まあ、友情の印を示すのにはいいかもしれない。わざわざしようとは思ってはいなかったが、断るほどでもない。

 

 右手を差し出すと、冬島さんが勢いよく握りしめて来る。意外と力強いなこの子。

 無表情だったはずが、口が弧を描いている。嬉しいならよかった。

 

「……あー、そろそろ放してもらってもいいかな。この後行ってみたいところがあってさ」

 

「あっ、すみません。つい。……行きたいところ、よければ私もついていきたいのですが」

 

「全然かまわないよ。じゃあ行こうか」

 

 席を立ち、冬島さんと一緒に教室を出る。

 

 

 

 

 僕が行きたかったのは、Development Studioと書かれた表札のある教室。要は開発工房である。

 原作ではここで来年入学してくるであろう発目さんが大量のサポートアイテムを作っていた。

 

 なぜここに来たかと言えば、僕はこの工房を使ってスパイダーマンとして活動するときのサポートアイテムを自作できるんじゃないかと思ったからだ。

 学校で作ったろくなライセンスも取ってない学生が作ったサポートアイテムを学外に持ち出せるかどうかは分からないが、そこはうまくやろう。そもそも、作らせてもらえるかもわからないし。

 

「まだ実習も始まってないのに、熱心なんですね」

 

「まあ、ここに来たくて雄英を選んだってのもあるしね。使わせてもらえるかどうかはともかくとして、下見はしておきたいでしょ」

 

「下見……って、オープンキャンパスの時に来たりはしてないんですか?」

 

「うん、時間がなくてね」

 

 スパイダーマンの活動に受験勉強やらの時間は充ててたから、オープンキャンパスなんかに行く時間がなかったんだよね。放課後も若干学校に関することで時間が取られていたし。

 

 工房の前で雑談をしていると、僕らが来た方向とは逆の廊下からパワーローダー先生がやってくる。

 

「なに、お前らもうここに来たの?」

 

「はい、サポートアイテムを早く作りたくて」

 

「あのね、実習も始まってなくてそんなのに関するライセンスやらも取得してないでしょ。まだ作らせるわけにはいかないよ」

 

 それもそうか。残念だ。

 

「幸い、雄英のサポート科のカリキュラムだと一年目が終わるころには学年全体でライセンス取得まで終わらせるようにしてるよ。早いやつは夏前にはもう取れるやつもいる。それまで待ちな」

 

「結構早い……頑張ります!」

 

「頑張ってください。捨石さん」

 

 パワーローダー先生が冬島さんの方に視線を持っていく。顔は見えないから勘だけど。

 

「……お前も、大変なやつと友人になったね。多分お前が想像してるより捨石はポンコツだよ」

 

「承知の上です」

 

「先生、ポンコツって結構言いますね。冬島さんも承知の上って……えっ、承知の上?」

 

 承知の上だと? 今、彼女は承知の上だと言ったか? 

 まだ初日だぞ。スピーチも大体の人が咄嗟に考えたとは思わないぐらいのをしたはずだ。誰も変なやつを見るような目を向けてきてなかったし。

 

 何を根拠に彼女は僕をポンコツだと思っていたんだ。

 

「ま、まぁ! 出来るだけ早くここを使えるようになりますよ! 期待しておいてください!」

 

「はいよ。そんじゃ、今日は疲れただろうしさっさと帰んな。友達ができたんだったら遊んで帰るのもありだと思ってるよ。俺は」

 

 そう言って工房に入っていくパワーローダー先生。

 

「ああ言われちゃったし、帰ろうか」

 

「はい、捨石さん」

 

 その後、僕らは帰りの駅が一緒だったり、帰り道も結構一緒だったりという共通点を見つけて、明日も一緒に登校しようと約束をして別れた。

 

 そして、家に帰ったらまたまた始まる。

 僕のもう一つの生活が。

 親愛なる隣人、スパイダーマンとしての生活が。

 

 

 

 

 あぁ、興奮が収まらない。家に帰ってから個性を使うのをやめたからか、顔が火照りはじめている。

 

 なぜこんなに気分が高揚しているかといえば、理由は一つしかない。

 

「マスクをしているときはかっこよくて、マスクの下はかわいいなんて、やっぱりずるいよスパイダーマン……」

 

 自分でプリントしたスパイダーマンの抱き枕を抱きしめる。

 私の部屋には、他にもスパイダーマンのグッズで溢れている。スパイダーマン自体がヴィジランテだから全部非公認で売られているのだが。

 もし、スパイダーマンが自分でグッズを出したら私はそれを十個は絶対に買う。私のお金がスパイダーマンの食事代に使われると思えば喜びが溢れて止まらない。趣味に使われるのだとしてもそれでスパイダーマンが楽しめるならいい。

 

 スマホでSNSアプリを開き、スパイダーマンと検索をかける。

 すると、色々な人が見かけたスパイダーマンの写真や話題がずらりと並ぶ。

 カメラに向かってピースしている写真、ヒーローにも手が負えないようなヴィランも軽々倒している写真。

 スパイダーマン関連の全てを保存する。

 

 画面をスクロールしているとスパイダーマンアンチがなにかほざいている呟きが現れる。

 

 即座にそのアカウントを通報、ブロックする。再びスパイダーマン関連のものを探し始める。

 

 

 

 

 

 私はスパイダーマンのファンである。助けられたことだってある。5回ぐらい。助けられたすぎて、スパイダーマンの活動する範囲内の危険なところを渡り歩く趣味を持つようにもした。

 

 そんな、スパイダーマンが好きすぎる私は過去にスパイダーマンの正体を突き止めてしまった。

 私はスパイダーマンが誰なのかなんて一切興味がなかった、と言うのは嘘にはなるが、スパイダーマンが秘密にしていることならば詮索しないのがファンというものだろうと思っていた。思っていたのに。

 

 しかし、ある日偶然にもスパイダーマンがアパートの一室に入って行ったのを見つけてしまった。

 そして翌日、その部屋に入っていく同じ学校の生徒も見つけてしまった。

 偶然に偶然が重なり、私はスパイダーマンの正体を突き止めてしまったのだ。

 

 それからの私は暴走した。ファンというもの? そんなのは知らない。スパイダーマンと少しでも近づきたい。

 全く喋ったことのない捨石さんの志望校を調べ上げ、雄英高校に行くために足りない学力を補い続けた。勉強が辛くなれば、捨石さんと同じ学校に行けるということを考え頑張り続けた。

 

 そんな努力が実を結び、私は今日、スパイダーマンの友人になることができた。

 友人になっただけではない。握手もした。にぎにぎした。スーツ越しじゃなくて素手だった。生の手だった。後ろも歩いた。いい匂いがした。スーツ越しでもいい匂いだったけど、スーツ越しじゃないと、直に匂いが来た。興奮した。

 

 ああ、好きだ。大好きだ。全部好き。容姿も声も性格も何もかも。全部。

 

スパイダーマン(捨石さん)、大好きだよ。これからよろしくね」

 

 抱き枕に顔をうずめながらそう独り言ちた。 




書きたいキャラと書きたい展開のために書いてます。自己満です。
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