リリカルな世界に転生したけど、なんかもう無理っぽそうです 作:ラバーカップ
【生前】
俺の名前は竜ヶ崎眞鶴(りゅうがさきまつる)。ごく普通の高校三年生だ。だったはずなんだけど。
俺は目を覚ますと、謎の一面白い壁に囲まれた部屋の中にいた。昨日の夜は確かに自分の部屋のベッドで寝たはずなのになぁ。
「知らない天j……」
「ようやく起きたか」
「誰だ、じいさん」
俺が往年の名作の台詞(多分、アニメやゲームが好きな奴なら誰でも一度は言ってみたいと思ってるだろうな)を言おうとしたとたん、白ひげで白いローブを着て白い杖を持ったじいさん(ロー○オブザリ○グのガ○ダルフって言えば分かるか)が立っていた。
「眞鶴よ。わしは神じゃ」
……ヤバい、完全に呆けてやがる。どっかの病院か施設から脱走してきたのか?
「これこれ。ボケ老人扱いするでない、本当に神様なんじゃって」
今、俺声に出してたっけ?
「お主の心を読んだだけじゃ」
「じゃあマジで神様なのか!?」
「もちのろんじゃ」
「古っ!そしてうざっ!」
「親しみやすさを出したのに酷い言われようじゃな」
「とにかく、その神様が俺になんのようだ」
「ああ、それなんじゃがな──」
異世界に勇者的な存在として召喚されるのか、それとも「ワシと契約して魔法少年になってよ」とか言い出すのか、それともまさかアレかな?
『神様』『なんか白いよくわからん空間』ときたら真っ先に思い浮かぶ……いやいや、神様(自称)ってくらいなんだし物語みたいに「ミスしちゃいました。めんごでやんす」なんて実際にはないだろうよ。ないだろうと思いたい。……きっとないよね?
「──すまん。わしのミスでお主を殺しちゃった」てへぺろ(・ω<)
「ふざけんな!」
ドカッ! バキッ!
と思わずローキックからのワンツーを決めてしまったが仕方のないことだろう。
「ちょっ!痛いやめて!わし神様なのに!」
〜〜少々お待ちください〜〜
「ううっ、酷い目にあったわい。人間に殴られるなんて初めてじゃわい」
「俺だって神様(笑)を殴ったのは初めてだ」
俺の目の前にはぼろぼろになった神様()がいる。むしゃくしゃしてやった、反省はしていない。
「いいからさっさと俺を生き返らせろ」
「ごめん、それ無理」
「ああっ!?」
「ひぃっ!そんなに凄んでも無理なものは無理なんじゃ!」
マジかよ。来週は俺の可愛い妹の伊織の誕生日だってのに。
「その代わりといってはなんじゃが、お主をアニメの世界に転生させてやろう」
「それってネットの小説とかでよくある二次転生ってやつか」
「ああ、転生する世界は『魔法少女リリカルなのは』の世界で、年齢は主人公たちと同年代じゃ」
なのはって言うと、確かエロゲーのスピンオフの大きなお友達向け魔法少女系アニメだよな。あの子供を戦場に立たせたりする管理局とか出てくるずいぶんと厄介な世界だ。ぶっちゃけ原作のアニメ自体は観たことないんだよな。二次小説とかでキャラとか世界観とか簡単なストーリーの流れは知ってるけど。
「それなら顔は当然イケメンで、髪は銀髪、目はヘテロクロミアで右が黒で左が青な。それで魔力はSSクラス。レアスキルはFateの『無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)』(ノーリスクで使える)と黄金律A、あとドラクエの魔法を全作品分使えるようにしてくれ。どれも非殺傷設定に出来るようにな。
ついでに肉体もFateのバーサーカーの『十二の試練』が常時発動状態にしといてくれ。
あと俺専用のインテリジェンスデバイスもくれ」
「うむ。分かった。それでは逝ってくるがよい」
そう神が言った瞬間、俺がさっきまで立っていた床に大穴が空いて、俺はそこに落ちていく。
「って字が違うだろジジイ!!!」
「頑張ってくるんじゃよ」
【原作開始数年前】
おそらくここは病院の分娩室。俺は無事に産まれたようだ。
父親らしき男性と女医が話しているのが聞こえる。
「やった!産まれたのか!」
「はい。元気な女の子ですよ」
……………………………………えっ、女の子?
「オギャオギャバブーーー(どうなってんだよーー)」
決めた。
もう一度あの神のじじいに会ったらボコボコにする。
【原作開始】
朝、起きた私は洗面所に行き顔を洗う。顔を上げた先には鏡が置かれており、私はそれを覗き込む。
そこには美少女と言っていいほど可愛らしい少女が映っていた。まあ、私のことだけど。髪の毛は銀色。右の瞳は黒、左の瞳は青と、どう見ても日本人とは思えない容姿をしている。鏡を前にするたびに、妹と双子で良かったと思わずにいられない。父親の立場で考えてみてほしい、妻と自分との愛の結晶が銀髪で片目が青色だとしたら、どんなに愛情が深くても銀髪で青目の間男を想像せずにはいられないだろう。私の場合は、運良く両親の容姿を足して二で割った妹と一緒に産まれることが出来たから助かったけど。
自分のせいで、産まれた瞬間から家庭崩壊の危機なんて洒落にならない。
タオルで顔を拭き、ダイニングへと向かう。
ダイニングに置かれたテーブルには中年の男女と、私と同年代の少女が着いていた。少女の椅子の脇には車椅子が置かれている。中年の男女が両親であり、少女は妹だ。
「おはよう」
「姉ちゃん、おはようさん」
私が挨拶をすると、妹−八神はやて−が挨拶を返してきた
「おはようございます」
「おはよう」
続いて母と父も挨拶を返す。
先ほど、中年の男女と言ったが、私の両親はかなり若く見える。二人とも三○代中頃であるのに、せいぜいが二○代中半くらいにしか見えない。リクルートスーツを着させればさらに若くなり、就職活動中の大学生にしか見えないだろう。ちなみにどちらも容姿は整っており美男美女カップルだ。ちなみに母はお嬢様育ちらしく、私やはやてにも敬語を使う。
原作では、原作開始時には既にはやての両親は死んでいたらしいけど、何故かこの世界では二人とも存命だ。理由は分からないけど、多分私が存在することか、もしくは私がした何らかの行動によるバタフライエフェクトとかそんなんだろうと思う。
はやては原作同様、闇の書の主となっており足が不自由だ。姉としてどうにかしようと、ドラクエの魔法であるホイミで治そうとしてみたり、シャナクで闇の書が夜天の書に戻ったりしないかと試してみたが無意味だった。
無限の剣製で作り出した『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を使って闇の書とはやてのパスを断ってみたりもしたが、契約が初期化されるたびにはやてと強制的に契約する仕組みになっているらしく、意味がなかった。
二期の終盤で治ると知ってはいるものの、出来ることなら少しでも早く治療してやりたいというのが姉心だ。
まあ、はやての足のことは残念ではあるが、おおむね私の日常はとても充実している。
私が原作主人公、高町なのはのクラスメイトであること以外は……。
私立聖祥大附属小学校。それが私の通う学校の名前だ。母親に私立の小学校に通うよう言われた際、原作で主人公たちの通っていた小学校の名前を忘れていた私の手落ちといわれればそれまでなのだが。
私は教室の扉をくぐる。
「おはよう祀梨(まつり)ちゃん」
「おはようなのは」
なのはと私はそこそこ程度には仲がよい。アリサやすずかほどではないが。
小学一年からずっと同じクラスなんだし、よほどのコミュ障でもない限りは当然といえば当然だろう。
ちなみに言わずとも分かるだろうが祀梨(まつり)とは私の名前だ。八神祀梨(やがみまつり)。
なのはと仲良くしたいとは思っている。だが、なのはが管理局と関係を持った際、そこから芋づる式(って表現で合ってるかな?)ではやてが闇の書の主ということがバレてしまうことが怖い。だから私は、なのはとは仲の良いクラスメイト以上の付き合いは持ちたくない。
優先すべきは愛すべきマイスイートエンジェルはやてだからね。
授業も全て終わり放課後、私は友人とダベったり、遊んだりすることなく家へ足早に帰る。勿論、友達が居ないわけじゃないぞ。
今日の授業中、「助けてください」と、何処からともなく助けを求める子供の声が聞こえたからだ。これはおそらくユーノ(で合ってたかな?名前)の助けを求める声なのだろう。とうとう原作開始のようだ。
私が家へ直帰する理由だけど、別にユーノを助けたい訳じゃない。どうせ、なのはやアリサに拾われて、紆余曲折あってなのはが魔法少女になってハッピーエンドになるんだから。はやてのこともあるけど、下手に手を出して事態がこじれる可能性もあるのだから、私の基本的スタンスは傍観だ。
じゃあ何で早く帰るのかということだが。
……やっぱり生の魔法少女が見られるなら、出来れば撮影したくならない?
私は家へ帰るなり、この日のためにお年玉をはたいて購入したビデオカメラを用意してなのはの初魔法少女ぶりを撮影する準備をする。
さあ夜だ。
私は親に見つからないようにトイレの窓から外に出る。一応工作として、自室の布団の中に洋服類を入れて膨らませておき、まるで頭まで布団を被って寝ているように見えるようにしておいた。よく映画とかで牢屋の中の囚人がやってるやつ。
私は首に下げているペンダントに向かい話し掛ける。
「セリカ。なのはの居場所分かる?」
『北に五○○メートル、西に三○○メートル地点に魔力反応があります』
「ありがと。多分それだね」
このペンダントは私のインテリジェンスデバイス『セリカ』。私が神に頼んでおいた私専用のインテリジェンスデバイスだ。
五歳のころ、気付いたら私の部屋の机に置かれていた。言語は日本語をベーシックにしてある。
私はなのはのもとへ急ぐ。早いとこ行かないと戦いが終わってしまうかもしれないしね。
私には多分、この世界で生きているという実感が足りていなかったんだと思う。
両親から産まれたときも。はやてが妹だと知ったときも。デバイスを手に入れたときも。初めて投影を使ったときも。ドラクエの魔法を使ったときも。なのはと同級生だと気づいたときも。
結局私はこの第二の人生を『はやての双子の姉』というポジションでプレイするシミュレーションゲーム程度にしか思っていなかったんだ。
私はそのことを今更に気付かされた。
目の前に居る、返り血で顔を真っ赤に染めた魔獣と『かつて高町なのはと呼ばれていた肉片』によって。
考えてみれば分かることだ。
高町なのはは物語の主人公でもなければヒロインでもない。彼女は、私のクラスメイトでただの小学三年生の女の子なんだから。
私はその小さな女の子に全てを押し付けた。その結果がこれだった。
セットアップに失敗したのか、それとも戸惑っているうちに魔獣に襲われたのか。なのはの軽く握られた左手には、赤く光る宝石のような物が見えた。多分レイジングハートだ。なのはの胴の側に落ちている、下半身が無いフェレットの死骸はユーノのものであろうか。
なのはの頭部の右半分は無くなっており、右腕は肩からごっそりと無くなっているが、おそらく魔獣が今現在、クチャリクチャリと咀嚼(そしゃく)しているものの正体がそれらだろう。
魔獣も食事をするのか〜、と麻痺した脳で考えていると、突然腹の奥から込み上げるものがあった。
私はその場でアスファルトに四つん這いになり嘔吐する。
びちゃびちゃと汚らしい音ともに吐瀉物が地面に広がる。地面を跳ね返った液体が私の手に、服に、かかるがそんなことを気にする余裕もなかった。
「はあっ…………はあっ…………」
私は力の入らぬ四肢を無理矢理動かし立ち上がる。吐瀉物が鼻に入り、呼吸がしづらい。
魔獣がこちらに気付き、なのはだった肉片から顔をあげる。
魔獣の顔は赤い液体でぐっちょりと濡れており、ところどころに赤黒い肉片もこびりついている。
次に襲われるのは私だ。そのくらいは理解できる。だが身体が言うことを聞かない。
逃げることも出来ずただ棒立ちしている私と、その私を見ながらゆっくりと近付いてくる魔獣。
──何をしているんだ。私には戦う力があるだろう──
私の中の冷静な私がそう語りかけてくる。
そうだ、私は戦えるんだ。
「トレースオン」
私はアーチャーの愛用の武器である白と黒の双剣を作り出そうとする。
だが──
「トレースオン!トレースオン!トレースオン!」
何度唱えようと、何度願おうとも両の手は空のまま。
「な、何でだよぅ…………いつもなら出てきてくれてたじゃん」
三歳の頃から人目を盗んでは続けてきた投影の練習。図書館に通い伝説の武器を学び、六歳になる頃には数百の武器を常時作り出せるようになった。
「トレースオン!!トレースオン!!出ろよ!!出てくれよ!!」
今まで私が武器を作り出していたのは、敵も居ない、危機も迫らぬ、安全を約束された場所でのみ。
友人の死と、自らの死の危機が迫る状況下で、投影のために精神を集中させることは不可能だった。
私には『十二の試練』の能力がある。だが私は自らの肉体をセリカに調べさせたことがあった。それで分かったのだけど、宝具という概念の無いこの世界においての十二の試練の能力は『十一回生き返ることが出来る』だけ。
つまり、私が今この魔獣に殺されれば、その場で生き返り、即座に再び殺される。これを何度も繰り返すだけでしかない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「ひっ!!」
魔獣が例えようの無い不気味でこの上無く不快な雄叫びをあげる。それに怯んだ私は一歩後ずさるが、先ほど自らぶちまけた吐瀉物に足を滑らせ尻から転倒する。
「ぐっ」
吐瀉物に尻から落ちて、尻が汚れるがそんなことを気にする余裕なんてなかった。
「嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
そう呟き続けた。まるでそう唱え続ければ、何処からかヒーローがやって来て自分を助けてくれるんじゃないかと思って。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
股間が吐瀉物以外の水分で濡れていくのが分かる。
魔獣は獲物(わたし)が逃げない様子なので安心しているのか、一歩一歩ゆっくりと近付いてくる。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
そして魔獣が右足を振り上げ、私を切り裂こうとその鋭い爪を降り下ろす──
──私の目の前を金が横切った。
ザシュッザシュッ
みずみずしい野菜を切れ味のいい包丁で斬ったような音とともに、魔獣の身体が幾つかに分割された。
何が起きているのか理解できない私の前に、金髪の少女が立っていた。
「……イト!!一人で………………ないか!!」
金髪の少女の横に赤毛の女性が降り立つなり、何か説教をしているようだ。
「……うぶだよアル……」
私の記憶はまででここで途切れていた。
私が目を覚ますと、そこは病院の一室であった。傍らには父の姿が見える。
父は私が目覚めたことに気付くとすぐにナースコールを押した。
結局今回の事件は猟奇殺人事件として捜査されることになったらしい。私は夜中に外を出歩いていたら同級生が教われる現場を目撃し、命は助かったがショックのあまり事件当時の記憶に混濁がみられる、可哀想な少女ということで片付けられた。
警察の人や医者が代わる代わる来たが、私は「知らない」「覚えてない」で全てを通したからだ。
しばらく入院していたが、異常も無いことだし退院することになった。ひとまず一段落はした。だが当事者の一人であるはずなのに、何故か全てが他人ごとのように感じられた。