20XX年
《椅子に座る男性が映る》
イタリア宇宙軍第1月面機動部隊
第1警備中隊中隊長、それが俺の役職だった。
1月27日のこと?…あぁ覚えているとも。あの時…俺達は学者さん達の警護任務に付いていたんだ、プラトー1の隣、12km先にソ連の基地があったからな、万が一の事を考えて俺達と日本軍の部隊が展開していた。
…ん?任務の理由?簡単だよ、ソ連の基地と俺達の基地からたった120km先に隕石が落ちるって報告が監視衛星から入ってな、隕石の調査に向かう為に予め近くに調査拠点を作って流れ星が落ちてくるのを待ってたのさ。
俺達のアーマーはバッテリーの減りが早かった、だから充電車の中で待機して備えてたんだ、…仲間と話してたよ、早く降って来ないかなって。
《男性は深く息を吐き、顔を両手で覆う》
…大丈夫さ…大丈夫。何年も前だ、乗り越えたさ…
あー、それで…最初に聞こえたのは学者さん達の歓声だった、予想通りの所に降りて来た!って喜んでた、そして次に聞こえたのが興奮気味の声、何か生き物がいるってな、この時点で俺達の脳裏に浮かんだ物は国連が作ったマニュアル『地球外生命との接触時に関する手順』だった、
元々は火星で発見した奴等用のマニュアルだった。相手が知的な場合と危険な場合…両方の対応方法が載ってたからな、俺達も面白がって読んでたお陰ですぐに思い出せたよ。
すぐにスーツに乗り込み、武器に装填して充電車の外に出た。最初に目に入ったのは隕石衝突の際に巻き上がった砂だった。その時は呑気に考えてたよ、『地球からの通信が届かなくなっちまう』ってな、そんな事考えてる場合じゃなかったのによ。
次に目に入ったのは隕石から離れる学者達と近付く日本の61式だった。相手の出方を伺うようにゆっくり近づいてった。マニュアル通り、なんの問題も無い。流石は日本の軍人さんだと笑ったもんだ。
でもよ、隕石から湧いて出てきた奴等を見た時には笑えなかった、赤くてデカいのがワラワラと湧いて出てきたんだ、両手をコッチに向けながら歯をガチガチさせてよ、んで日本機に取り付いたんだ、機体を噛み砕きながらな、無線から聞こえてきたよ、日本語で何言ってたか分からなかったけど悲鳴と助けを呼ぶ声が。
俺達と日本側合わせて24機のスーツが居た、その内の1機が食われてる間俺達が何してたかって?動けなかったんだよ、情けないことにな。
黙って食われていくのを見てたんだ…
《男性は机の一点を見つめる》
日本側指揮官が無線に叫んだよ『射撃許可』ってな、俺もすぐに命令を下したさ、第2小隊に学者さん達の避難を行わせて、自ら率いる第1小隊に突撃をな、あの時の俺達の装備は、今の軍人なら笑っちまうだろうよ、日本は36mmと50mmの複合ライフル、俺達は20mmライフルに81mm無反動砲に障害破壊用の火薬式杭打ち機しか無かった。
それでも俺達は優勢に戦えた、あの赤い奴、タンク級相手なら何も問題なかった、着弾の衝撃や流れ弾で舞うレゴリスの中俺達は戦ったさ、だが舞うレゴリスのせいで通信障害が発生しててな、増援を呼べなかった。
《男性は手元でタグを転がす》
…グラップラー級が現れた時、俺の部下が2人死んだ、続いて日本側の…確かツルギ中隊の隊長が俺に通信してきた、すぐに自動翻訳機のスイッチを入れたさ。
『いささか分が悪い、貴殿の隊は後方に退き救援を呼んでくれ。殿は任せてもらおう』ってな具合でよ。
相手の方が階級は上だったし、あのデカブツに立ち向かえる気がしなかったから了承して撤退を開始した。後方で学者達を護衛していた第2小隊に合流して全速力で走った。
しばらくは背後から射撃音や爆発音が聞こえてきたが…少し経つと止んだ、後ろに振り向くとフォート級やグラップラー級が見えた、そして食われていくツルギ中隊機とコッチに向かって走ってくるデストロイヤー級もな。
当時の月面車じゃ奴等より早く走れない。ぐんぐんと距離を詰められた。俺たちの持つ武器も弾かれたし、脚を撃って何体か転ばせたがいかんせん数が多い。しかも斜面に揺られて車が横転、月面に叩きつけられた。
《当時出来た傷跡を触る》
…もうダメかって時に俺達の側面から弾丸の嵐が叩きつけられた、丁度デストロイヤー級の側面に大量の弾丸がな、神の救いだと思ったね。
弾丸の元はソ連軍の月面車の30mmバルカンだった、6台が全力で射撃していたよ、今でもあの月面車の上に掲げてある国連の旗を思い出せる
『どういう状況か分からんが大丈夫か?兄弟!』
あぁ…今でも鮮明に思い出せる、宇宙服の中で何もかも垂れ流しながらソ連野郎共に感謝してた、何度も何度もな。直ぐに状況を説明して護衛に加わってもらったさ。
その後はもう上から下まで大慌て、直ぐにソ連側指揮官とコッチの指揮官が直接会って会議してたよ、俺達は俺達で隕石の落着地点、サクロボスコクレーター周辺に防衛ラインを作ってBETA共を挽き肉に変えてた。
俺達の中隊も本国からすぐに本隊が送り込まれてきた、追加の部隊も機体も。後から聞いたら地上にあった全機体と全パイロットを送り込んできたんだと、大胆な事するよな全く
《男性はくつくつと笑う》
でもそのお陰で、広い戦線を支えられた。続々と送り込まれるBETA共に対して俺達は続々と送り込まれる弾丸と新兵器群を叩きつけてた。
俺達の武器は月面でも問題無く作動したし、物資も潤沢だった、それでも沢山部下が死んだ、仲間が死んだ、兄弟が死んだ。
奴らに食われた奴等は死体が残らない…遺体を家族の元に帰してやれないんだ、回収出来ても腕や脚一本だけなんてざらだ。
俺は運悪く生き残った、沢山の仲間を見殺しにする選択もした、俺はきっと地獄に行くだろう、だがな。
それまでに死んだ奴らの分までBETA共を殺してやるさ
《男性はヘルメットを被り、立ち上がる。記者が呼び止めようとしたが、途端に鳴り響くアラート、騒がしい声、そして映像が消える》