あの時殺していただいたラスボスです   作:ぴんころ

2 / 6
第二話:なんでこいつ居座る気なの?

 俺が二度目の人生を送ることになったこの世界は、前世でいうところのニチアサが一番近い世界だった。

 世界を狙う、人類の科学力では決して敵わない怪人の数々。彼らの保有する、魔法という名の一個人を軍隊にも匹敵する存在へと変える技術。

 その存在によって人類もまた、魔力と呼ばれる概念に手を伸ばしたが、研鑽の歴史で敵わぬ以上、人類の総体として侵略者に敵うはずがない。

 だから、それらから地球人類を守る変身ヒーローの台頭に、人類は諸手を挙げて喝采したのだ。

 

 悪の組織から離反した相手の協力を得て変身し、地球へと迫る数多の危機をこの手でくじく、そんな約一年も続いた戦いをサポートし続けてくれたのが──

 

「お、シャワー浴びて人権取り戻したか」

 

「まず失ってすらねえよ」

 

 こんなことをほざきやがる悪の組織の離反者……というか元総帥、本来なら怪人を率いて人類殲滅を掲げるべき立場だったレイである。

 

 濡れた体で家に上がったら人権を失うとかあり得ねえ。雨の中で遊ぶ子供から人権を奪うな。

 とはいえ、シャワーを浴びてさっぱりしたのも事実。想定外の再会に取り乱した思考も、体の末端から温まったことである程度は解凍された気がする。

 幾許か余裕を取り戻して、もう一度正面に座るレイを確認。うん、こうしてしっかりと見れば、やはりレイだ。

 肉体を構成するパーツに関しては一つも見覚えがないのに、そうだとはっきりわかるのは不思議な感覚だが、まあそこはいい。

 なんで数百年ものの怪物から数百年もののロリババァになってるのか、とか。確かに心臓を貫いて殺したはずなのに、とか。聞きたいことも色々とあるが。

 

「うん。まあまずはお前と再会できて嬉し──」

 

「なー、那月。吾輩も後で風呂入りたい」

 

 こいつ、最後まで言わせろよ。

 

「おい、そういうのはもっと早く言ってくれ。さっき俺の着替え持って来てもらった時とか、タイミングはいくらでもあっただろ」

 

「今入りたくなったんだってば。ほっかほかな体見せられたらそりゃお風呂恋しくなるだろ。それも一年死んでて入ってなかったんだから。風呂沸かしてる間に色々と聞きたいこと、分かる範囲ではあるけど答えてやるからさー」

 

「あ、死んでた自覚はあるんだなお前」

 

「いや? 自覚があったのは死んだはず、ってことだけだ。時間に関してはお前がシャワー浴びてる間に調べた。最悪、過去の時間軸やら並行世界やらで蘇った可能性も考えてたからなぁ。お前がスルーしてたらその可能性も現実味が結構あった。今考えてみれば、なかなかの綱渡りだったな」

 

 いや、それにしてもこいつ……女の体に馴染むの早すぎないか?

 

 言動自体は一年前、同居していた頃と何も変わらない。バカっぽいのに色々と考えてるところとか。ただ、女になったっていう前提で考えると、変化が少ないことそれ自体が異常だ。

 普通、突然の性転換ならもうちょっと戸惑うものだと思ってたんだけど、こいつはそのそぶりを一切見せない。

 レイの中での興味は自分の性別が女なことよりも、消えてからの一年の間に始まった番組の方が上らしい。

 ぴっ、ぴっと軽快にチャンネルを切り替えながら、時期的に既に十一話くらいまで終わってしまったアニメに顔をしかめている。

 

「ええい、何が悲しくて終盤から見ないといけないんだ。那月! お前、確かサブスクに入ってたよな! この一年でなんか面白そうなアニメとか追加されてないか?」

 

「解約したぞ」

 

「嘘だろ……吾輩、お前が学校に行ってる間何をすればいんだ……?」

 

「いや、だってあの当時も大体お前が見てるのに俺が付き合うパターンだったじゃん。アニメは普通にテレビで見ればよかったから、見るやついないのに契約続ける必要も感じられなかったし……」

 

「くそっ、来季になるまでニュースでお茶を濁すしかないか……あ、那月、お風呂早く!」

 

「はいはい……」

 

 せっかく座ったのに、また風呂場へと向かうことになってしまった。

 頬が緩んでいるのが分かる。性転換とか、考えないといけないことは多々あるが、自分が思っていた以上にこの家の中が騒がしいのが嬉しかったらしい。

 隠さなければまたからかわれるのは明白だ。リビングに戻る前に直しておかなければ。

 

「ん?」

 

 気づけば、リビングから聞こえる音が切り替わらなくなった。

 どうやら彼女の興味を惹くに足る番組が見つかったらしい。

 浴槽にお湯が溜まり始めたのを確認して少し足早に引き返す。

 

「大体三十分もあれば浸かれるくらいには溜まると思うぞ」

 

「さんきゅー。じゃ、それまで那月もテレビ一緒に見ないか? 結構面白い内容やってるぞ」

 

「いや、質問に答えるって話じゃなかったか」

 

 うおっ、顔がいい。

 自覚があるのかないのか、無駄に整った顔でこちらを見つめてくる紫紺の瞳から視線をそらすように、彼女が指差す先にあるテレビの映像に目を向ける。

 内容としては街角インタビュー。いわゆる、『将来の夢』について。

 世間一般では長期休暇の終わり。受験生になる俺たちにとっては少し早めの始業の時期と考えれば、そう季節外れのものではない。

 

 問題があるとすれば。

 

『僕ね、大きくなったらあの人みたいなヒーローになるんだ!』

 

『ヒーローが怪人とともに姿を消してから一年。今でも子供達にとっては憧れのようですね』

 

 こうしてテレビで俺の活躍が放送されるのは恥ずかしいってことかなぁ!

 衝動的にリモコンを奪い取って電源を切りたくなったが、それを持っているのはかつての宿敵(あいぼう)

 一年ぶりのテレビ視聴に楽しげな姿を見れば、ギリギリ羞恥心を抑え込めてしまった。

 

「いやあ、それにしてももう一年経つっていうのに、まだまだ那月は人気者だな。お前にぶっ殺された身として、吾輩も鼻が高いよ」

 

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」

 

「そりゃあ、お前に殺されるのは吾輩、決めてたからな。その結果、吾輩の命が役に立って人気者になってるんだから嬉しいのは当然だろう」

 

「うーん、価値観の相違。悪の組織の総帥だったならもっと生き汚いかと思ってたわ」

 

「そこらの一山いくらのヒーロー相手ならそうなっただろうけど。お前が相手なら下手に生き延びるよりもそういう綺麗に終われる方が吾輩好みだったってだけだ」

 

「……殺す側の身にもなってみろっての」

 

「ま、そこらへんは諦めろ。ワンマン経営な悪の組織のトップなんだから。その我儘を食い止められる方がおかしい」

 

「その我儘のせいで、全会一致の裏切りから追放のコンボを食らったの忘れた?」

 

「おっと、それをいえば殺しあうしか無くなるぞ?」

 

 一年ぶりの緊張感。

 怪人との戦いでよく感じたそれは真正面でゆらりと立ち上がるレイの全身から。

 応じるように立ち上がり意識を集中。もう、羞恥を呼び起こすテレビの音声すら耳には遠かった。

 

「……」

 

「……」

 

 新たな音が混じれば、それが始まりの合図。

 共通認識を抱いて、その瞬間を待ち。

 

『お風呂が、沸きました』

 

「ほら、レイ。沸いたんだから入ってこい。ちゃんと出たら色々と話してもらうからな」

 

「おーう。あ、那月。お前の服借りてもいいか?」

 

 好きにしろと言い終わる前に俺の部屋へと向けてバタバタと動き出すレイ。

 声は届いたのか、好きにするとの声。戻ってくるときには現在の彼女の体にはちょっと大きな、もう俺では着られなくなった古着。

 さてこいつが風呂に入ってる間に、靴とか鞄とか、明日も使うものを乾かしておくかぁ……

 

「しっかり温まってこいよー」

 

「わかってるって。……あ、そうだ那月」

 

「ん?」

 

「吾輩もお前と再会できて嬉しいぞ」

 

 振り向けば、にんまりと笑って言い逃げするように脱衣所へと滑り込むレイ。 

 その耳は、ちょっとだけ赤かったような気がする。

 

 くそっ。流してくれればよかったのに!

 

 

 

 

 

 

 丑三つ時。逢魔時が人類が魔と出逢う時間帯であれば、それは人が何気ないものに魔を見出す刻限。

 日中であれば大したものではないはずなのに、その時間帯だけは全てを魔と勘違いしてしまう。

 そんな時間をかつて悪しき怪異、怪人と呼ばれるそれらを率いる総帥であったレイは一人、天羽(あもう)那月が通学に使う道を歩いている。

 那月の古着をワンピース代わりにしたスタイルではなく、彼と再会した時の拘束具じみた服に身を包み、可視化できるほどの魔力に全身を隠された彼女の歩みが、とある路地裏で止まった。

 

「正直に言えばな。吾輩は別にこの世界自体はどうなろうと興味はないんだ」

 

 呟いた言葉に答える相手はいない。そもそも、周囲一帯に生命の気配はない。

 

「でも、今の平和が吾輩の命と引き換えのものだっていうなら話は別だ」

 

 けれど言葉は止まらない。纏った魔力が揺らぎ始める。

 瞬間、見える力が物理的な圧力を伴った力場となって一気に広がった。

 レイを中心として、魔力を浴びたコンクリートに蜘蛛の巣状に伸びる亀裂。それが、浴びた魔力によって補填され、修復される。

 一定の濃度を保ちながら拡張する力場に、なぜか人の形をとる妙に薄いところが複数あった。

 

「吾輩の命が一年の平和と同程度の価値しかない、なんてありえないだろ。悪の親玉(わがはい)を倒してハッピーエンド、っていうなら、それは地球が滅びるまで続いてもらわないとな」

 

 直後、迷彩(ステルス)が壊れ、崩れ落ちる姿を見せるのは無数の機械人形。

 地球(こちら)の技術ではなく、異世界(あちら)の魔法でもない、未知のテクノロジーの産物。

 それらが一つ残らず全方位からの圧力によって粉砕される。

 

「それに、吾輩は那月のことを気に入っていてな」

 

 全てが小さな爆発を起こし、跡形も無くなった。

 直後、現れる新たな人形(ロボット)。レイの小さな手のひらが向けられると同時に浮かび上がった魔法陣が光を放ち、それらが消滅する。

 

「お前たちが吾輩を蘇らせてくれたのか、そうじゃないのかは興味なんてない。ただ、もし吾輩を蘇らせたのがお前たちだったとしても、その恩はあいつと比べられるほどに重たくないんだ」

 

 増援は、先ほどまでの倍だった。

 それらが組んだ隊列が、少女の挙動一つで崩壊する。

 

「まあ、女で蘇らせてくれたのはポイント高いぞ。一緒にいようと思うと、昔の姿だとどうしてもペット枠が関の山だったからな。ぼっこぼこにして所有するっていうのも考えたけど、一度負けた吾輩が力を失ったあいつにそれを仕掛けるっていうのも、な。総帥のプライドにかけて、どっちも認められなかった」

 

 その点この姿だと戸籍作れば合法的に結婚で縛れるんだよなぁ、なんて軽く言いながら、原子の塵となった人型の残滓を消しとばす。

 振るった腕に沿うように出現したのは、悪魔のような異形の巨大にすぎる腕。魔力で再現された以前の戦闘形態が暴れまわり、転移の予兆すら粉砕する。

 

「ん……? ちょっと失敗したか」

 

 とはいえ、未知の力である。物理的に破壊できるならともかく、干渉するのは完璧とは言えなかった。

 破壊を免れて現れた数体の機体を、とん、と足踏みすることで天空よりおろした巨大な足で踏み潰す。

 完璧な対処はできずとも、なかったことにしてしまえば問題はない。

 

「ま、そういうわけだ。ここに手を伸ばしたのがお前たちの運の尽きだったな。恩の分は、せめて苦しませることなく終わらせてやることで返してやろう」

 

 二度目は、通り抜けたのは一体だけ。

 手ずから叩いて砕き、三度目は許されなかった。

 しん、と静まり返った路地裏。理屈を知らない少女に、転移は予兆の存在ごと消失させられる。

 数秒、数分。わずかばかりの時間目を閉じたレイは、それ以上の転移がないことを確認してつまらなさそうに踵を返す。

 

那月(あれ)は吾輩の所有物(モノ)だ。手を出すことなんぞ、許すはずがないだろう」

 

 直後、送られてくる最後の一体。見た目には多少の違いがあったそれを、他の個体と同じように振り返ることなくぐしゃりと潰し、獰猛な笑みを浮かべて。

 悪の総帥。かつての立場の片鱗を見せ付けながら、敵とはまた違う技術、魔術による転移を行なって帰還する。

 

「んー、せっかくだし那月のベッドにでも潜り込んでみるか。女の体に対するあいつの反応、調べて損はないだろ」

 




・主人公くん
 昔と同じ感覚で風呂に放り込んだはいいけど、よく考えたらなんでこいつ一緒に暮らす気なんだろう?

・ラスボスちゃん
 一年前もここに住んでたし、こいつなら置いてくれるだろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。