『Demons Impact』
転移によって乗り込んだ矢先、可視化できるほどの紫の魔力を纏った腕をふるう。
俗にいう必殺技。かつてと違う感覚は、一度銃撃で使ったからもう補正済みだ。
纏った力が腕の軌跡に沿って津波のように進軍し、雑兵どもを消し飛ばす。
さっきの戦闘員たちは対応しようとすらしない不良品だったが、今度は武器を構えようとするらしい。
『多分、魔力を認識できてないんだな。体温とかで人間がいるってわかってるから構えようとしてるんだ』
「なるほど」
『Demons Flare』
奥から現れる、追加の雑兵。それに向けて炎を纏った蹴りを放つ。
疾る熱波に融解するのは、この場にある全ての機械。どういう理屈の転移か知らないが、魔力がないなら多分ここの機械のどれかに依存しているだろう。だったら、全部燃やしてしまえばいい。
以前であれば火力はカートリッジ依存、システム依存だったが、今回はそんな限界はない。行使するのがレイの性能である以上、以前よりも弱くなる要素が存在しなかった。
『お前の方が性能低かったのに、普通に吾輩に勝つんだもんなぁ……。一年でそこまで行くなら、まあこれで負けることはないだろう』
「まだちょっと慣れてはないけど、それでも十分勝てるさ」
転移装置が壊れたことも知らず、続々とやってくる雑兵。さすがに、まともに相手するのは面倒だ。
この奥にいるだろうボスを倒して、そのあとに帰還するって考えると魔力消費はできる限り避けたい。
さらに、さっきのあの砲撃がいつくるかと思えば、時間だってそんなにないと見ていいだろう。
『じゃ、これだな』
「だな」
『Demons Icicle』
カートリッジを押し込めば、冷気を宿す足元。
金属製の床が一瞬で凍りつかせながら、宙空へと生える巨大な氷柱の数々。
床を叩けば、一点を狙い撃つように落ちるそれらによって開いた大穴。戦艦内部の空気が一瞬で宇宙空間へと放り出され、それに巻き込まれるように戦闘員はさようなら。
自分の身だけはちゃんと魔力で保護してるので問題はない。
「それにしても、便利だなこれ……」
以前の場合は、必殺技の属性を変える時にはいちいち自力で弾倉切り替えが必要だったけど、今回は一度も切り替えてない。
性能だけではなく、こういう痒い所に手が届くという意味でも優秀な装備だった。
『ま、吾輩が手動でやってるからな。きっちり合わせられるのも長い付き合いあってこそだ。もっと吾輩に感謝していいぞ』
「あ、そうなんだ……そりゃ助かる」
『おやつの一つや二つは奢ってもらってもいいと思うんだ、吾輩』
それくらいでよければいくらでも買ってやるわ。
戦いになる前に、宇宙空間に放逐して数々の戦闘員を塵にできるのはそれくらいでは感謝しきれない。
ついでに戦艦に穴を開けてるわけだから、相手方の行動を封じられるのもでかい。
宇宙へ没シュートされる雑魚を横目に、とにかく戦艦の機能を潰しながら走り抜ける。
優先順位は、あの砲撃を放つのに必要な部分。一発撃ってはいおしまい、というわけがない。
絶対にどこかで、もう一度撃とうとするはずだ。そうなる前に、その機能を砕いておかないと。
「ま、全部壊してしまえばどっかで当たるだろ」
『
トリガーを引けば展開される無数の砲弾。炎の弾丸が縦横無尽に駆け回り、所狭しと暴れまわる。
戦艦の壁に穴を開け、粉砕するついでに周囲の機械を炎上させるものだから熱くてしょうがない。
それを、周囲に冷気を展開することで凌ぎながらさらに進む。
「これ、闘技場か何かか?」
『ただ広いだけの空間っていうのはなさそうだな』
放った弾丸が動きを止めたのは、通路と比べて比較的広い空間。
部屋、という感じはしない。人間の生活の色がどこにもない。
異星人の生活が地球人と同じ保証はないから言い切るのはおかしいかもしれないが、そうとしか思えなかった。
そんな空間の最奥。もう一つの入り口側に、何かがいる。
「怪人レベル……ボスってやつ、か……?」
『さっきまでのとは違いそうだな。ちょっと気合いを入れておけよ』
「言われなくても」
目の前に鎮座する重装備の機人。
こちらを見据える無機質な青の瞳。ゆるりと動き出す全身の機構。
握った、豪奢な剣を捨て……え? 捨てるの?
「うわ、どっかで見たことあるスタイル。めちゃくちゃ格好いい……!」
『後で追加しといてやるから今は集中しろよ……!』
代わりに、腕の籠手から兵装が飛び出す。
右手には幅広の巨大な刀身。左手には巨大な砲身。
多分、刺激されたのは前世の記憶。レイの文句に集中しなおして、向けられた左に拳銃を突きつける。
『対象ヲ殲滅シマス』
「その対象はお前だよ」
火花が、散った。
「互角、かぁ」
『ブランクがあって、かつこれは実戦初投入なんだから、それで互角なら十分だろう』
「慰めどーも」
実弾とエネルギー弾が激突した結果は、互角。じゃあ、普通に撃ち合うんじゃダメだな。
向こうはそのまま弾幕を敷くことにしたのか、
こっちが実弾だから、弾切れがあるとでも思ったのだろうか。それだったら少しだけ申し訳ない。
マシンガンよろしくばら撒かれる弾幕に、どう考えても弾倉に入りきらない量の弾丸をぶつければ、数を作ったからか威力が下がったそれらを貫いて肉体を打ち付ける。
『これ、別に弾切れの概念とかないんだよなぁ、吾輩が弾生成してるから。ま、所詮は機械だからしょうがないか』
「一応聞くけど、今の本気?」
『そんなわけないだろ。やること多すぎてちょっと雑になっただけだ。一応言っておくが、吾輩一人でお前の身体能力を全強化して、弾丸を生成して、必殺技用の魔力を確保して、ってやってるんだからな?』
「ああ、それは雑になるわ……」
でも、それで十分勝てそうだ。
向こうのマシンガンはこっちの連射で対応できる。
弾の威力もこっちが上。あと、確かめておくべきことは、と言えば。
「こっちも試すぞ」
『おっけー。生成に気を使わなくていいから威力は上げていけるぞ』
引き金を連続して引くのと並行して踏み込みながら、奪った剣を振るう。こっちもちゃんと変身に伴って強化済。
両断するつもりだったけれど、向こうも踏み込んできたから威力自体は乗っていない。それでも、こちらの方が膂力は上のようで火花を散らしながら押し込むのは簡単だった。
少なくとも、巨大な砲塔を差し込むだけの距離を開けるつもりはない。
動きの起こりを潰すように、左に握った拳銃を駆動と同時に機械音を発する関節へと撃ち込む。
鈍る動き。どこから見ても完璧なまでの隙。空いた胴体へと剣を叩き込むが、分厚い装甲は超えられない。
小さな舌打ちが漏れる。魔力の配分も、練り方も一年前に遠く及ばない。だから必殺に必殺足り得る威力がなかった。
この状態なら、一年前の必殺技と同等の威力を通常攻撃で出せてもおかしくはないのに。
『いや、さすがにそれは無理だと思うけど……』
レイの言葉を無視して、さらに踏み込む。剣はいらない。向こうが武装を使えない距離にまで飛び込めば、あとは拳で圧倒する。
『お? 砲身に何か起きそうだぞ』
一歩。レイの言葉に反応し、意識の一部を敵の左に。
側部から射出される杭。これは、いわゆるパイルバンカーというやつだろうか。
意表はつかれたが、所詮は出オチ。拳銃を握ったままの左の拳でカチ上げ、杭の先端を頭部へと突き刺す。
『うわ、えっぐ……お前、もうちょいヒーローの自覚を持てよ』
「使ってる力が
二歩。メインコンピュータが頭部にあったのだろう。動きが止まった兵士へとさらに一歩踏み込んだ。
もう、武器を使える距離ではない。胸部が開き、見え始める第二の砲塔。
それを、剣を収納して空いた右の拳でひしゃげさせれば、よろめいた敵が一歩下がる。
『ま、それもそうか。じゃあ、悪役らしくやっちまえよ。吾輩側に染まった攻撃で決めていいぞ』
『Demons Impact』
左腕に収束する、必殺技と呼ぶに相応しい量の魔力。
振り抜いた右腕を戻す勢いを利用して、最後にもう一歩踏み込むのと同時に左の拳を叩き込む。
装甲をぶち抜き、体内に突き込んだ拳が纏った魔力が膨張、一気に内側から爆発する。
その寸前、足で蹴り抜いて吹き飛ばして、弾け飛ぶ装甲の破片を鎧で防ぎながら、正面で爆発を受けて崩壊する壁の向こうを見据える。
「ビンゴ、でいいのかな?」
そこに広がっていたのは円卓のようなもの。
通路とは違い、闘技場のような場所とも違い、どこか厳かな雰囲気があった。
まあ、今の衝撃で壊れていなければの話なんだけど。
「貴様、一体何者だ……!」
「何故我らに逆らう!?」
「地球などという後進の惑星で貴様のような存在が生まれ出る。そのこと自体があの星が危険であることの証明」
「破壊にばかりその技術を伸ばした異端者め! ここで死ね!」
「我らは何一つとして間違っていない! 間違っている者があるとするなら貴様らの存在だけだ!」
うるせえ。こういう、この場にすらいない浮かんだホログラム越しにしか騒げない連中の話は聞き流すに限る。
いや、そもそも悪役の特徴に、一見正しく聞こえるようなお題目を掲げるというのがある。
だからこういう連中に対してはレスバするよりも暴力の方が有効だというのはあの一年で十分学んだ。
『うんうん。悪の組織で総帥やるにはカリスマが必要だけど、ヒーローは悪い連中ぶっ倒して人を守ることを優先すべきだ。小難しいのは吾輩が考えてレスバしてやるぞ』
いや、さすがにそれもどうかと思うけど。
主張の正しさ云々はともかく、認めてしまえば地球だったり人類社会の崩壊に繋がるなら無視するに限るってだけの話だから。
ああ、でも一つだけ。自分で自分をこう言うのはめちゃくちゃ恥ずかしい。
とはいえ、こいつらは間違いなんてないというけれど。
「
『Demons Impact』
「『だから、滅べ。両方敵に回した死に方なんて、とっても豪華だぞ』」
「な──」
もう、言葉を聞く価値もない。浮かんだホログラムごと、必殺技で叩き割る。
おそらくここは、中心部。エンジン自体は別にあるだろうけど、こいつらがこの艦の責任者なのだろう。人の気配が感じられないから、まず間違いはない。
全力の、魔力解放。質量を持った魔力が壁を粉砕しながら領域を作り出し、ぶち当たった壁を砕きながら広がり続ける。
もう、逃すような相手もいない。万が一にも戦艦ごと叩き潰した時に逃げ果せるような相手が存在しないのであれば。
「いやー、お前主役のシーズン2始まっちまったなぁ」
「なんか一気にチープになるからやめろ」
宇宙空間に投げ出される寸前、地球上へと転移してからの帰り道。
地球全域にばら撒かれたというロボット兵士が停止したというニュースの確認後、スマートフォンへの連絡を検分しながら、レイの言葉に軽口を返す。
にしても、これどう言うべきかなぁ。帰る前に伝えとかないと地獄を見ることになるのはまず間違いないんだけど。
「じゃあなんだ? OVAか? Vシネか?」
「多分続きそうだからシーズン2が一番近いけど、そういう表現をやめなさいって言ってるんだよ」
「ま、なんでもいいさ。今回のは吾輩にとっても得だったからな」
「得って……今回のが?」
まさか、あいつらを乗っ取って新しい悪の組織でも作るつもりなのだろうか。
「お前が何考えてんのかだいたい察するけど、そういうつもりじゃないぞ」
「じゃあなんだよ」
「少なくとも、悪の組織が吾輩の作ったやつ以外にもこっちの世界にあるってわかったからな。もうお前は吾輩を手放せんだろ。これで吾輩も、お前の結婚で気まずくなった挙句、路頭に迷うとかいう末路は避けられるわけだ」
「あー……いや、拾ったんだからちゃんと最後まで面倒は見るつもりだけど」
うん、この流れなら言っても問題はないかな。
「まずは親への説明をすぐにどうにか作らないとなぁ……」
「はぁ? お前の親って今入院してるんじゃなかったのか!?」
「そのはず、だったんだけど」
今回の敵がどうやら病院も狙ったらしく、機能が大部分停止したらしい。
リハビリが必要な怪我をしているはずの俺の親まで送り返されてるあたり、マジでやばい。
雑魚がロボットっぽかったから一切の容赦なく殺されてばかりかと思ったがそうでもなかった、ということなんだろう。
「というわけで、ここで説得に失敗した場合お前は路頭に迷います」
「いきなりそんな難易度高い試練出すのやめてもらえるか!?」
「いやあ、俺が用意してるわけじゃないし……」
なんなら今だって親からレイの服を置いてあることについてあれこれメールが来ている。
女の子を連れ込んだ、から一番やばいのは誘拐して来たんじゃないか、なんてものまで。
とりあえず家に帰ったら説明する、って返したけど、親がいつ警察に通報するのかわからねえから急がないといけない。
「というわけで、急ぐぞ」
「え、いや……お前の親、マジかぁ……こういうの自分の子供がそんなことするはずがないって信じるものなんじゃないのか?」
「さすがに生活の痕跡があったからアウトだったみたいだな」
「あー、次はどうにかごまかすわ」
「もう次なんてないんだよなぁ」
親を誤魔化せるだけの言い訳が作れるなら、それを周囲にも通せばいいので。
マジで次が存在しない。
「いや、ここは親の記憶を改竄してだな」
「それやったら俺はマジでお前追い出すから」
「じゃあどうしろって言うんだよ!?」
「それを頑張って考えるんだよ……!」
二人で、騒ぎながら帰り道を歩く。
これからどうするのかは決まっているけれど、そのために必要な話し合い。
少なくともこの話し合いよりも敵をボコって終わりの戦いの方が楽なのは、どうしようもなく事実だけど。
まあ、こいつの命を二回も見捨てるのは嫌だからなぁ。
『罪を禊がなければならない』
一年前はこんなこと言い出して、一度は終わったんだから。
二回目となる今回は、レイのことを投げ出さないように。
ただ、それはそれとして。
「女の子になった元悪の組織の総帥ってそんな簡単に拾うもんじゃないな。まさかこんな面倒になるなんて」
「まず簡単に拾えるものじゃないと思うぞ」
呆れたようなレイのツッコミ。うん、まあ戦うよりはこっちの方がらしいか。
・主人公くん
第二シーズンの始まりだけど、最初のボスは両親である。
魔法で洗脳することは可能だけどできればしたくはない。
・ラスボスちゃん
第二シーズンの始まりだけど、最初のボスは義親である。
魔法で洗脳する気満々だったけど説得できれば可愛い女の子なのでほぼ息子嫁の扱いを受けられる。
・星系開拓団
この後「あの星を攻めるのはやばい感じがする」って言い出して手を出すのをやめようとした結果、「相手が来ないならこっちから行けば地球が戦場にならないからいいよね」って攻め込まれて地獄を見る
そんなに自分たちを殺したかったのか、と理解不能な怪物を見るような目で死ぬ。
とりあえず、今の所はこれでおしまい。主人公とラスボスちゃんの一年前の因縁とか、やれそうなことは色々とあるけど、とりあえずの一区切りである。