浮雲流れて   作:麒麟です

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 落とされた爆弾発言に、黒鉄一輝の思考が止まる。

 その一方で噴き出した三舟鹿史郎は、腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。

 

「カッカッカッカッ!こいつは、お笑い種だ。潔さに免じても、切腹か」

「当然でしょ。嫁入り前の皇女の裸を見たのよ?寧ろ、サムライとしての一つの名誉を守るんだから破格だわ。本当なら、丸太に縛り付けて国民の一人一人から、石を投げさせてる所よ」

「もうそれ、死刑というかユッケ作ってるだけじゃないかな?いや、何万と石を投げられたら絶命する事には違いないけど」

「因みにだがな、皇女殿下。切腹にも種類があるんだぜ?」

「そうなの?」

「ああ。ついでに、即死できないから介錯人が居なけりゃ、長く苦しむ事になる。まあ、自分で喉かっ切って死ぬ方法もあるんだが……まあ、首を落とす方が確実に即死できるだろうよ」

「…………仕方ないわね。介錯人は、私がしてあげる」

「待って?ナチュラルに、僕が死ぬ流れで話が纏まりそうなんだけど。というか、鹿史郎!僕の処刑を何で後押ししてるのさ!?」

「いやー、乗るべきかと思ってな」

「理事長!教育者として、校内殺人を止めようとは思わないんですか!?」

「黒鉄。お前の命一つで、日本とヴァーミリオン皇国の恒久的な平和が確保できるんだ。人一人の命が軽いのも政治というものだ」

「チクショウ!僕の周りは、敵ばかりか!?」

 

 嘆く一輝ではあるが、流石にそろそろ不憫というもの。

 一頻り笑った鹿史郎が左手を挙げる。

 

「なあ、皇女殿下。何でアンタ、あの部屋に居たんだ?」

「はあ?決まってるでしょ、理事長先生に鍵を貰って入ったからよ。寧ろ、アタシとしてはイッキが無作法に入ってきたのが問題だわ。ノックも無かったのよ?」

「ほーん………時に皇女殿下」

「なによ」

「自分の家で、自室に入る時にノックはするか?」

 

 鹿史郎の言葉に、ステラは首を傾げて眉間に皺を寄せた。そんな姿も絵になる辺り、美少女というのは得だろう。

 そして、彼の言葉を聞いた一輝はというと、錆の走ったブリキ人形のように黒乃へと顔を向けていた。

 

「……あの、理事長」

「フフフフ……」

「ステラさんは、さっき鍵を貰って入ったと言いましたよね?それで、鍵を開けて部屋に入ったと」

「もう少し場が荒れるかと思ったが、存外早かったな。三舟に感謝しておけよ、黒鉄」

 

 理事長室に設えられた机に頬杖をついて、黒乃は笑みを浮かべた。

 

「面白い事になっていたからつい、意地悪をしてしまったな。まずは、黒鉄。この破軍学園の学生寮が基本的に二人一部屋である事は知っているだろう?つまり、そう言う事さ。黒鉄も、そしてヴァーミリオンも自分の部屋を間違えてはいない。無論、私からの悪戯という事も無い。正真正銘、君たち二人があの部屋に割り振られた生徒という事さ」

「「えええええええええええええええええええ!?!?!」」

 

 二人の絶叫が響き、それに混じって呵々大笑が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が僅かに進み、衝撃から戻ってきたステラは黒乃へと詰め寄る。

 

「ど、どう言う事ですか理事長先生!アタシのルームメイトが、この変態だなんて!?」

「どういう事も何も、私は事実しか言っていないぞ」

「ですけど、理事長。破軍学園の学生寮は確かに二人一部屋ですけど、全員に適用されている訳じゃないですよね?現に、鹿史郎は一人部屋の筈」

「ああ、確かにそうだ。だが、私は何も性差やくじ引きで部屋割りを選んだ訳じゃない。黒鉄、私は既に私の方針を伝えたはずだが?」

「…………“完全な実力主義”そして、“徹底した実戦主義”でしたっけ」

「そう、それが私の方針だ。ここ数年、破軍学園は良いところが無い。年に一度七校合同によって開催される武の祭典“七星剣武祭”においても負け続きだ。そんな現状のテコ入れのために招かれたのが私だ。この部屋割りは、その第一歩。性別、出席番号、その他諸々を問わずに実力の近いもの同士を同じ部屋に入れている。その方が、切磋琢磨出来るだろうからな。例外は、そこのサボり魔位だ」

 

 黒乃が顎をしゃくれば、二人の視線が鹿史郎へと向けられる。

 だが、解せないと一輝は眉根を寄せた。

 

「だったら猶の事……ステラさんは、ぶっちぎりのナンバーワンじゃないんですか?僕は、最下位の留年生ですよ?」

「りゅ、留年!?アンタ、留年してんの!?」

「お恥ずかしながら…………総合ランクも“F”だよ」

「Fランク……!?どういう事ですか!だったら、そっちの男はどうなんです!?」

「ん、俺?Bランク」

「~~~~ッ!理事長先生!」

 

 気炎を上げるステラ。彼女の荒れる内心に合わせるように、その緋色の髪が炎のように揺れる。

 

「そう、カッカするもんじゃない。何より、ヴァーミリオン。お前は、新入生のトップであるだけで()()()()()()()()()()()()。言っている意味が分かるか?」

「ッ、じゃあ……」

「そう。そこに居る三舟が、()()この学園の序列一位だ」

 

 黒乃に示され、ステラの射貫かんばかりの目が鹿史郎へと向けられた。

 もっとも、見られた彼は肩を竦めるが。

 

「理事長も、そう俺を持ち上げないでくれますかね?第一、俺の序列は圏外の筈なんですけど?」

「くくっ、非公式戦とはいえ、あの“雷切”に勝ったじゃないか。もっとも、お前が負けていれば七星剣王になっていたのはお前かもしれないが」

「嫌っすよ、面倒くさい」

 

 皆の憧れ(七星剣王)の称号も、鹿史郎にとってみれば煩わしいものでしかない。

 一つ補足をすると、彼は別に自身が最強であるなど欠片も思ってはいない。そう易々と負けるつもりも無いが、だからといって直ぐにでもその称号に手が届くのかと問われれば、ソレは否だ。

 持たざる者である一輝としては、複雑な所だ。

 彼にしてみれば、三舟鹿史郎は自分の欲しい才能を持ち合わせている。

 だが、その当人は上がり下がりの激しい性格をしており、尚且つ魔導騎士を目指す理由もこれと言って強いものは無かったりする。

 本来ならば繋がりが切れてしまいそうなものだが、一輝は知っている。

 存外このサボり魔は面倒見がいい。進級に障らない程度には、一輝の鍛錬に一年間なんだかんだと付き合ってくれたのだから。

 そして、

 

「…………おいおい、何のつもりだい皇女殿下。固有霊操(デバイス)まで持ち出して」

「分かってるでしょ。部屋、私と変わりなさい」

 

 自身の周囲の空間を熱気で揺らめかせながら、ステラ・ヴァーミリオンはその手に握った炎を纏う大剣の切っ先を鹿史郎へと突きつけていた。

 その魔力量も相まって、まるで燃え滾る業火が目の前に顕現したかのような圧力がある。

 だが、切っ先を向けられる鹿史郎はといえば、柳に風。への字口をしてはいるものの、一切の緊張などは感じられなかった。

 

「嫌なこった。俺ァ、一人で寝るのが好きなんだ。壁隔ててないと人のいる空間じゃ寝づらくて仕方ねぇよ」

「アンタの睡眠より、皇女のアタシが変態と同じ空間に居続ける方が問題でしょう!?」

「文句は、理事長に言えって」

「~~~~ッ!理事長先生!」

「決まった事だ」

「なら、アタシとコイツで決闘させてください!勝ったら、アタシが一人部屋で良いですよね!?」

 

 それは、当然の帰結といえば当然だった。というか、学生騎士たちは、皆少なからず“武”を収めており、破軍学園にも決闘の為の施設が確保されているのだから。

 故に、ステラの提案は特に奇をてらった様なものではない。

 

「ふむ……まあ、確かに。お前が勝てば、部屋の交換も認めるとしようか」

「言質取りましたからね!」

「えぇー……メンドクセェ」

 

 気を昂らせるステラとは対照的に、鹿史郎は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。

 彼にしてみれば一人の空間が折角確保できたのだから、ソレを手放すなど絶対にしたくない。だが、同時に決闘そのものを面倒くさいと感じてもいた。

 相手が弱いのならば、瞬殺できる。だが、一定以上の力量ともなればそうもいかない。

 彼の見立てだが、ステラは一定以上の力量どころか並大抵の実力者など一蹴する実力を有している。そして、そんな相手と戦う事を望むほど鹿史郎に戦闘狂の嫌いは無かった。

 しかし話は彼の意向を無視して進む。と思いきや、そこで待ったの声。

 

「あの!僕もその話噛ませてもらえるかな」

「はあ?アンタも?」

「うん。ただ、僕は部屋に関してじゃなくて純粋に鹿史郎と戦いたいと思ってね」

「はあ?一輝も来るってのか?」

「本気の君と立ち会えるのは、稀だからね。本気で相手をしてほしいな、鹿史郎」

 

 そう言う一輝の目には、隠し切れない闘気が燻っていた。

 戦闘狂ではないが、しかし彼もまた“武”に生きる事を決めた男の一人。強い相手との立ち合いは望む所であるし、何より三舟鹿史郎という男の剣は一輝にとって学ぶことの多いものであるから。

 鹿史郎は、天井を仰いだ。だが、後悔しようとも後の祭り。

 既に、一輝とステラはどちらが先に戦うかで揉めているし、黒乃に至っては既に闘技場の一つにも用いられる、第三訓練場の予約を取ってしまっていた。

 

「……はぁ………クソッタレめ」

「そう嘆くものじゃないぞ、三舟。何より、今回の件は私の方針から逸脱してもいない」

「は?」

「能力が足りず、結果的に実力が発揮できない者への、実力主義。そして、形だけの実績ではなく、その中身を積み立てる実戦主義。黒鉄もその恩恵を受ける事が出来るかもしれないが、三舟。これは、お前の様なタイプにも当て嵌まる」

「…………?」

「要は実力があるにも関わらず、その実力を見せつけようとしない者にも相応の場を与えるという事だ」

「ええー、良いっすよ、俺は。別に目立ちたくない」

「そうも言ってられまい。既に、小学生の頃頭角を現していたお前は、連盟の方からも目を付けられている。前理事長も、昨年の七星剣武祭にお前が出なかった点を随分と突かれたようだしな」

「アレは……」

「ああ、仔細は聞いている。お前が代表の枠を蹴って辞退。無理矢理にでも出そうとする面々を、条件を付けて認めさせたというものだろう?」

「だって、メンドクセェっすもん。一輝には悪いっすけど、俺は七星剣王の称号に興味ないんで」

「だが、力には責任が伴う。強者には制限が纏わりつく。有名税とでも思っておけ」

 

 その力を振るうかどうかを決めるのは、当人次第だ。

 だが、世の中はそう甘くない。特にこの、伐刀者という存在が居る世界においては、国の保有する伐刀者の数によって軍事力に直結する側面もある。

 そんな世界だからこそ、強力な伐刀者は幼少の折より目を付けられていた。

 

 三舟鹿史郎は、運命からは逃げられない。

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