浮雲流れて   作:麒麟です

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 教壇では、二年一組を担当する男性教諭が今年度より決まった七星剣武祭における代表選抜戦の説明を行っていた。

 その話を聞き流しながら、三舟鹿史郎は机に頬杖をついて窓から空を見上げる。

 再三再四とはなるが、彼に戦いに対するモチベーションは無い。

 一輝は己の夢の為に、ステラは国の為に、それぞれがそれぞれに目標を持ち努力を重ね、そして遥かなる高みを目指している。

 それが、鹿史郎には無い。やる気も、熱意も、信念も、無い。

 ここまでないない尽くしで強いのだから、理不尽だ。

 うとうととしながら舟を漕いでいれば、今日の分は終了らしい。元より、始業式だけで授業は明日以降となる。

 

「くあ…………あふ」

 

 大きな欠伸を一つ零して、この後の事を考える。

 一輝たちならば、この空き時間にも鍛錬を行い自己研鑽を欠かさないのかもしれないが、生憎と鹿史郎にはその手のモチベーションは無い。

 とりあえず、部屋へと戻ろう。そう決めて席を立ちあがり、

 

「カッシロウーーーーーーーーッ!!!」

 

 爆音が横から殴り掛かってきた。

 思わず横に傾いた体を立て直して、音の出所である教室後方の扉へと目を向ければ、そこに居たのは体操着姿のボーイッシュな少女の姿があった。

 

「兎丸」

「お、居た居た!かいちょーが呼んでるよ!」

 

 少女、兎丸恋々にそう言われ、鹿史郎の眉間に皺が寄る。

 彼女はこう見えても生徒会役員を務めている。そして、そんな彼女がメッセンジャー兼案内人として迎えに来たという事は逃げられないという事でもある。

 何せ、彼女の二つ名は“速度中毒(ランナーズハイ)”。走力という点では学園で勝る者はまず居ない。

 逃げる事は実質不可能。鹿史郎はため息を吐きだした。

 

「ハァ…………何でまた、急に?」

「生徒手帳にメッセージ送っても無視するからじゃない?」

「あの人苦手なんだよ……毎度狙われる側の身になれっての」

「仕方ないじゃん。去年カシロウが勝っちゃうからそうなるんだよ」

「…………ここでやる話じゃあねぇな」

 

 周りが揺らいだことを感じ取り、鹿史郎は席を立つと兎丸を引き連れて教室の外へ。

 廊下を生徒会室へと進みながら、彼は隣を歩く少女を見下ろした。

 

「お前、ああいう所で言うもんじゃねぇだろ」

「そうかな?でも、カシロウが勝ったのは事実じゃん。何で隠す訳?」

「やっかみやら何やらが煩わしい」

 

 破軍学園のみならず、魔導騎士養成学校としてやはり注目されるのはその強さだ。

 強ければそれだけ注目を集め、何かと周りの視線に晒される事になるだろう。

 良くも悪くも。

 十人十色という言葉がある様に、一様に好意的な目を向けられる訳では無い。

 そんな目に遭うぐらいならば、注目などされたくない。序列も、名誉も何もいらないと鹿史郎は考えてしまっていた。

 同時に、嫌でも目立ちかねない現状にげんなりとして、目が死んで来る。

 そんな隣の様子など知らない兎丸はにんまり笑う。

 

「アタシとしては、楽しみだなー。選抜戦ってランダムでしょ?それじゃあ、鹿史郎とも当たるって訳だし」

「俺は嫌だ。代表になるって言うなら楽になった方が良い」

「あれ?代表には成るんだ」

「手ぇ抜けねぇんだよ」

 

 意外そうな兎丸だが、鹿史郎とてなりたくてなる訳では無い。

 無論、楽に勝てるとも思っていない。ステラや一輝、そして件の生徒会長などが本気で向かってくるのならば苦戦は必至なのだから。

 この辺りは、彼自身も自覚していない、無意識の傲慢さというものが滲み出ているとも言えた。

 そうこうしている間に、辿り着いた生徒会室。

 ノックもせずに、兎丸がその扉を開け放つ。

 

「かいちょー!カシロウ連れてきたよー!」

「ノック位しろよお前……」

 

 ずかずかと入って行く背中を追って、鹿史郎も生徒会室へ。

 待っていたのは、四名。

 生徒会書記、砕城雷。生徒会会計、貴徳原カナタ。生徒会副会長、御祓泡沫。

 そして、破軍学園序列第一位にして生徒会長を務める東堂刀華。これに、生徒会庶務の兎丸恋々を加えて生徒会メンバーという事になる。

 

「よく来てくれましたね、三舟君」

「どーも」

 

 にこやかに出迎えた刀華に対して、しかし鹿史郎は露骨に目を逸らす。

 子供っぽい反応ではあるが、それだけ彼はメガネの彼女を苦手としていた。ぶっちゃけ、今すぐにでもこの場から逃げ出したい。

 

「そこまで嫌わなくても、良いのでは?」

「…………だったら、顔合わせる度にその目を向けて来ないでほしいんですけど?」

 

 そう、鹿史郎自身何の意味も理由も無く東堂刀華という女性を苦手としている訳では無い。

 普段はポヤンとした感じの女性なのだが、しかし戦場に一度立てばその姿は宛ら雷人の如し。同時に、雰囲気と共にその目は鋭くなる。

 戦闘狂、では無いがしかしそんな剣呑な視線を向けられて穏やかで居られる者などそうは居ない。

 刀華としては、そこまで気配をとがらせているつもりはないのだが、無意識な面が出てしまっているのだろうか。

 

「あはは☆言われてるよ、刀華。そうギロギロと目を尖らせてると、最後には泣かれちゃうかもね」

「…………御祓先輩も割と視線鋭いっすけどねぇ」

「何か言った☆?」

「…………」

 

 チラリと泡沫の視線が向けられ、鹿史郎は肩を竦める。

 破軍学園生徒会は、泡沫を除いて全員が序列持ち。それも一位から四位までという全員が上位の伐刀者。

 そして泡沫の方も、珍しい因果干渉系の能力持ちである。

 何より、全員が全員大なり小なり、三舟鹿史郎という男に注目していた。

 

 だから嫌なのだ。

 

「コホンッ…………三舟君」

「はい?」

「今回呼んだのは、七星剣武祭代表選別戦についてです」

「あー、出ますよ?一応。というか、既に理事長に釘刺されてんですけど」

「なら、良いんです…………ここだけの話、学内からは貴方が昨年の七星剣武祭に出なかった事が少なからず噂となって広がっています」

「はあ?何でまた急に」

「貴方のせいですわよ、三舟君」

 

 カナタの指摘が飛ぶ。

 

「数日前に行われた模擬戦。春休み中という事もあり、それほど多くの観客はいなかったと聞いていますの。しかしながら、片や昨年度の首席入学生、片や一国の姫君であり、尚且つ世界有数の魔力量に加えての首席入学。そんな二人の決闘が噂にならないとでも?」

「……まあ、なるわな」

「加えて、三舟君。貴方、()()伐刀絶技を使わずに戦いましたね?そんな戦い方をすれば、注目を集めてもおかしくはないでしょう?」

 

 カナタの言葉を引きついだ刀華に指摘されて、鹿史郎は顔をそむけた。

 魔導騎士にとっての伐刀絶技は、必殺技。決め技であり、勝敗の有無を分ける。

 黒鉄一輝の“一刀修羅”然り。

 ステラ・ヴァーミリオンの“妃竜の息吹(ドラゴンブレス)”然り。

 そんな中で、三舟鹿史郎は伐刀絶技を使わない。使えないのではなく、使わない。というか、この学園に彼の異能の中身を知るものがいったいどれほど居るだろうか。

 当然目立つ。悪い意味で。

 

「私との決闘でも使わなかったんですから、よっぽどの理由があるのは分かります。ですが――――」

「はいはい、分かってますって……」

 

 お説教へと移行しようとする刀華の言葉を遮って、鹿史郎は首を振る。

 どうにも彼女と話していると、こうしてお説教のような流れになってしまうために苦手だった。

 

 零れるため息のままに、思い出すのは去年の事。

 

(でもなぁ…………)

 

 後悔はすれども、しかし出たくはなかったのもまた事実。

 結局のところ、自分自身の我儘が回りまわって自分の首を絞める事に繋がっているだけという事だった。

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