四月――新たな環境で迎える始まりの月。
一歩横道に逸れるだけで未知なる発見が散りばめられた通学路、旧き格式の中にも新たな芽生えを感じさせる伝統ある学び舎、期待に胸を膨らませる新たな学友達。
万華鏡の如き日々は瞬く間に過ぎて行き、四月も後半――月跨ぎの大型連休を目前に控えた頃のことである。
「兼ねてより連絡していた五月の体育祭に向けて、今週末に身体測定と体力測定を実施します。クラス毎に時間帯が異なりますので、皆さんも各自確認しておいてください。」
体育祭――各種年間行事の中でも一際人気のある催しであり、尚且つ新入生にとってはこの学び舎で迎える初めてのイベントということで、普段は静かな朝礼の最中にも拘らず教室内は沸き立っていた。
――ねぇ、種目どうする?
――いくつまで参加できるんだろう?
――私はもちろんパン食い競争!
特に声高なのはやはり運動部に所属する面々だ。ごく一部の例外を除けば一年目から部活動で活躍できる者は少ない。
しかし、体育祭となれば話は変わってくる。学年別や種目別など新入生でも十分に活躍できる機会が用意されているので、運動部の生徒達がやる気になるのも頷ける話だった。
「はい、はい。皆さんが楽しみにしているのはわかりましたが、種目決めなどは連休明けですからね。」
気の早い生徒達を微笑ましく見渡しながら、担任教師はそのまま朝礼は解散と言い残し、教室を出て行った。
担任教師の居なくなった教室は、変わらず体育祭の話題で持ちきりだった。
「うーん、私運動苦手なのよねー。」
「そうなんだ?それなら一緒に玉入れとかどう?」
「私はパン食い競争に出る!」
なにも盛り上がるのはやる気のある者だけではない。運動が苦手な者達も、どの種目がいいだの何組の誰が凄いだのと、体育祭の話題が尽きることはない。
「ねえねえ、天璋院さんは何か出たい種目とかある?」
「ん〜、何がいいっちゃろか〜。」
ひめのも隣の席に座る友人から話題を振られるが、実のところ彼女はそこまで運動が得意というわけではなかった。
体育の授業程度の運動であればいいのだが、いざ勝負事となれば話は変わってくる。
「確かにあんまりガチな種目になっちゃうのは困るよねー。」
「だかんよ〜。ひめは楽しければいいっちゃけど〜。」
運動が得意なわけでもなく、苦手というほどでもない、そんなひめのであっても悩ましい体育祭であった。
「ところで、それってどこの方言?」
「ん〜?これは猫弁よ〜。あっははっ!」
入学から日が経つにつれ、緊張感が抜けてきたのかひめのの口調には変化が現れていた。
「……?何でネコ?」
「あははっ!ひめはこないだまで猫だったからさぁ、ポロっと猫の言葉が出ちゃうんよ〜!」
同じ質問をした多くの生徒は、皆一様にひめのの答えに首を傾げることとなったが、そこはひめののキャラクター故といったところか、そうゆう子なんだなと納得するのであった。
そんなひめのの一幕もありつつ朝の賑わいも一段落という中で、誰の話に交ざるでもなく独り静かに震えている者がいた。
「ふっ……ふふっ……ふふふ……うふふふふっ……」
(身・体・測・定!身体測定よぉぉぉぉぉぉぉ!)
都みゆりである。
普段の真面目で澄ましたみゆりからは想像できぬ不穏な様子に、周囲の者達も声を掛けることが憚られ、窓際の一角だけが異様な雰囲気を生み出していた。
「ふふ……うへへ……うへへへ……」
(ふぅぅぅぅぅぅ!きた!遂にきたわ!可愛い女の子達のあられもない姿を合法的に見られる最高のイベント!くんずほぐれつきゃっきゃうふふのむふふのげへへのぺろんぺろんよおおおおお!)
漏れ出るどす黒い笑いとは対照的に、みゆりの頭の中は桃色過多な妄想で埋め尽くされていた。
「うへへへへぇ……じゅるり……うへへへぇ……」
(隣の席のロリ子ちゃんも!前の席の眼鏡ちゃんも!でもやっぱり最強はひめよね!制服から解き放たれたむっちむちぼでーを思う存分視姦して視姦して視姦して視姦して、頭のてっぺんから爪の先まで舐め回すのよ!)
みゆりの妄想は留まるところを知らず、不気味な笑い声は次第に大きくなっていった。
「みゆみゆ〜、もう行かんと間に合わんよぉ〜?」
「うへへ……ひめぇ……いいよぉ……かわいいよぉ……」
気付けば他の生徒達は移動教室に合わせて居なくなっており、みゆりとひめのだけになっていた。
「あ゛!ひめ、当番やったわ!ごめん、みゆみゆ!」
悲しいかな頼みの綱であったひめのも次の授業の準備のために出て行ってしまい、みゆりは独り教室に取り残されたのだった。
――キーンコーンカーンコーン
喧騒を失った朝の校舎に予鈴の音が鳴り響く。
「ああぁ……ひめぇ……ひめぇ……いいぞぉ……いいぞいいぞぉ……じゅるり……」
閑散とした教室にみゆりの声が響き渡る。
今日も今日とて都みゆりは絶好調なのであった。
―続く??―