【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第12話 不本意な幕引き

『規定時間経過の為、模擬決闘を終了とする。双方、戦闘態勢を解除せよ』

 

 審判のアナウンスが響くと同時に、アリーナの結界が解除された。暫しの間、お互いを睨み続けていた二人だったが、やがて指示に従うようにして得物を収める。

 

「タイムアップ前にはケリをつける……そんなつもりで仕掛けたんだけどな」

 

 やれやれ、といった素振りで肩をすくめるエタン。癪に障る態度は変わらないものの、彼の言葉にはどこか称賛の意が込められているような気がした。

 

「完全勝利とまで行かなかったのは残念だが、俺とタメを張る奴に出会えたのは願ってもない幸運だ。お前とは、また戦いたいもんだぜ」

 

 エタンは志紀へ悠然と近づき、握手を求めるように右手を差し出した。

 一方の志紀はというと、敵対の意思を残した眼差しでエタンを見据えたまま。その手を握り返そうとはしなかった。

 

「まさか、全生徒が見守っている中で握手を拒もうとは考えてないよな?」

 

 彼女の視線に怯む事なく、エタンはフッと笑ってみせる。

 数秒における思考の末、志紀はようやく彼の手に自分のそれを重ねたのだった。

 

「お、終わった……結果は時間切れだったね」

 

 観客席にて、二人の試合を観戦していたトモキが呟く。張り詰めた空気の中、緊張で息をする事も忘れていた彼は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

 

「お、おう。そうだな……予想外した」

 

 同じく隣にいたアキトが、ぎこちない返事をする。極度の緊張感から解放された反動とは別に、模擬決闘の結果がタイムアップだった事が意外のようだ。

 

「凄いんだね、特待生って。御手洗さんも、エタン・グランベルも。まだ入学したばかりなのに、あんなに激しい闘いが出来るなんて」

「だろ? 満点突破は伊達じゃねぇのさ」

 

 得意げに語るアキトは、まるで自分の功績のように胸を張っていた。なんで彼が自慢気になってるんだろう、と思ったのは一瞬の事。すぐに彼と同じ表情を浮かべ、トモキは嬉しそうに笑った。

 

 

 アリーナの更衣室。選手の為に用意されたそこでは、シャワーを終え、アカデミーの制服に着替える志紀の姿があった。

 

「…………」

 

 顔を俯かせ、つい先程の試合を振り返る。

 エタン・グランベルとの模擬決闘。同じ特待生として、自らの手で確実に倒しておきたかった相手だ。

 しかし、それは叶わなかった。痛手は与える事は出来ても倒すまでには至れず、結果はタイムアップ。負けはしなかったが勝ちもしない、非常に不本意な結果となってしまった。

 

(何をやっているんだ、私は……!)

 

 唇を噛む力が強まる。湧き上がる悔しさで顔を歪ませながら、志紀は拳を強く握った。

 悔しい、ただひたすらに。エタンの強さは事前に想定していた筈だ。自分と同じ特待生なのだ、その力を見誤る訳が無い。

 だというのに、この体たらくは一体なんだ? 誰もいない空間の中で一人、志紀は己に問い続ける。

 

(強く……私は強くならなくてはならない! 他の誰よりも、ずっと!)

 

 自分には何もない。縋れる肉親も、支えてくれる友人も。帰れる場所ですら志紀には無い。

 だからこそ、彼女は強くなりたいと願う。誰もが認める絶対的強者、他を寄せ付けない唯一無二の存在に。そこまで至って初めて、自分は志紀という人間を証明できるのだから。

 

(次は負けない……負けてたまるか!)

 

 心の中で叫び、志紀は顔を上げる。

 引き分けなどという中途半端な結末は認められない。次は勝つ。エタンを完膚なきまでに叩き潰し、己の力を証明するのだ。

 決意を新たに、志紀は用の無くなった更衣室を後にした。

 

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