【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第13話 バッドコミュニケーション

 ロビーを出ると、広々とした敷地が視界に入る。更衣室に長くいたせいか、既に時刻は昼過ぎになっていた。周りに生徒達の気配はなく、閑散とした雰囲気が漂っている。

 人に絡まれる心配は無さそうだ。志紀は更なる訓練を積むべく、足早にその場を去ろうとした。

 

「……っ」

 

 だが、その歩みはすぐに止まる。

 志紀の進行を遮るかのように、一人の男子生徒が道の中央に立っていたのだ。

 

「や、やあ御手洗さん。決闘お疲れ様だったね」

 

 やや落ち着かない様子で、その生徒が話しかけてきた。

 レイバ・トモキ。どういう訳か、入学当初からやけに絡んでくるクラスメイトの少年である。

 

「…………」

 

 志紀の視線が自然と鋭くなる。あれほど拒絶しているというのに、どうして懲りずに接触してくるのか。

 鬱陶しい。それが志紀の率直な感想だ。

 

「模擬決闘、見たよ。凄まじかったよ。一瞬も見逃せないスピーディな攻防。思わず目を奪われてしまう綺麗かつ派手な魔法。見てるこっちまでドキドキしちゃう、そんな緊張感と迫力に満ちた戦いだった」

「…………」

 

 志紀の苛立ちを他所に、トモキはペラペラと喋る。褒め称えているつもりなのだろうが、模擬決闘の結果を不服とする彼女にとっては、この上なく不愉快な言葉だった。

 

「凄いんだね、特待生って。エタンって人もそうだけど、あんなに上手く魔法を操れる事が出来るなんて。良いなぁ、いつか僕も同じように魔法を使いたいよ」

「…………」

「最後がタイムアップで終わったのは残念だったけど……それも仕方ない事だよね。だって二人とも、全力で勝ちに――」

「……っ!」

 

 トモキの話はそこで途切れた。志紀の腕が彼に伸びたかと思うと、その胸ぐらを乱暴に引き寄せられる。

 

「えっ……御手洗、さん?」

 

 困惑するトモキ。眼前には、眉間を険しく歪ませた志紀の顔があった。怒りの感情が宿った双眼が、真っ直ぐに彼を見据えている。

 

「あなたが私の何を知っているの?」

「な、何を……?」

 

 トモキが返答するより先に、志紀の方から一方的にまくし立てられる。

 

「私がどんな想いでアカデミーに入学したのか。どんな覚悟で特待生の座を手にしたのか。何も知らない、知ろうともしない癖に、勝手な事を言わないで」

 

 彼女の言葉に、トモキは頭を殴られたような感覚だった。

 胸ぐらを掴んでいた手が離れると、その場で尻もちをついてしまう。呆然とした表情を浮かべる彼の横を、志紀は何事も無かったように通り過ぎた。

 

「…………」

 

 残ったのは一人だけ。志紀の言葉が頭から離れず、暫くの間、トモキは立ち上がる事が出来ないでいた。

 

 

「……おっせぇな、トモキの奴」

 

 学寮の玄関前。アキトは友人であるトモキの帰りを待っていた。食堂で一緒に昼食を取った後、彼は用事があると言って一人で出掛けていったのだ。

 その内容は大方予想がつくのだが……いくら待っても、トモキは一向に帰って来なかった。

 

「まさかアイツ、氷女サマとデートしてんじゃ……いや、ねぇな」

 

 今のところ、彼に対する志紀の感情は『無』に等しい。トモキが好意を抱いているのは明白だが、それでデートが成立するはずが無い。

 というか、成立したら魔法よりも不可解なモノが作用しているとしか思えない。

 

「じゃあ何で帰ってこないんだ? アイツ、俺の他に友達いないだろうに……ん?」

 

 ふと、視界の端に見慣れた人影を見つける。トモキだ。ようやく帰ってきたようだ。

 一体、今まで何処に行ってたのだろうか。疑問を抱きながら、アキトは彼の下へ駆け寄っていった。

 

「おいトモキ! 待ちくたびれたぞ。せっかく出来た親友をほったらかして、一体どこをうろついて……」

 

 近づくに連れ、トモキの様子が何やらおかしい事に気付く。

 元気が無い。彼の表情には陰りがあり、俯きがちになっている。

 

「お、おい? トモキ、マジでどうしたんだ……?」

 

 アキトが声をかけると、トモキの身体は支えを無くしたかのように崩れ落ちた。両膝が地面につき、ただでさえ俯いていた顔が更に深く沈んでいく。

 明らかに尋常ではない彼の様子に、アキトも動揺を隠せなかった。

 

「おい!? 俺がいない間、お前の身に何があったっていうんだよ! なぁ!?」

 

 トモキの肩を掴み、激しく揺さぶるアキト。すると彼の顔がゆっくりと上がり、生気を失った瞳でアキトを見つめてきた。

 

「……アキト」

「お、おう……大丈夫か?」

 

 トモキの弱々しい声に応答し、アキトは次の言葉を待った。彼の唇が震えているように見えるのは、きっと気のせいでは無いはずだ。

 

「僕は……最低だ」

「そうか……えっ?」

 

 志紀の言葉で心に傷を負ってしまったトモキ。

 失意の底から彼が立ち直るまで、それから数時間を要したのだった。

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