【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】 作:いんせき
「あー疲れたぁ……やっぱりオダギリ先生の体育キツいってば」
「だよなぁ。魔術師を育てる……っていうより、ありゃあ軍隊を鍛えるのが目的じゃねぇのか?」
午前の授業が終わり、正午の食堂。僕とアキトは授業の愚痴を言い合いながら、料理が乗ったトレーを受け取る。
既に食堂には沢山の生徒達が集まっており、殆どの席が埋まっていた。僕らは授業の後片付けをしていた為、少し出遅れてしまったようだ。
「ツイてねぇなー俺達。二人で座れる席は残ってるのやら」
「参ったね……ん?」
空席を探していると、窓際で食事をしている御手洗さんの姿を見つけた。今日も一人のようだ。
他の席が埋まりつつある中、彼女の周りには誰もいない。まるで周囲から避けられているみたいだ。
「……アキト、今日は別々で食べよう」
「えっ? なんでそんな事……」
アキトの返答を待たず、僕の足は自然と動き出す。そのまま真っ直ぐ、彼女の下へ。
数秒が経った頃には、もう御手洗さんの隣に立っていた。
「御手洗さん。隣、良いかな?」
御手洗さんは無言のまま、こちらをじっと見つめてきた。表情から敵意は感じられないものの、やはり反応が薄い。
ひょっとしたら、素っ気ないのは普段通りなのかもしれない。そう思った矢先、彼女は静かに口を開いた。
「構わない」
明確な意思表示。それが肯定である事を理解した僕は、心の中でガッツポーズを取る。
(やった! これで御手洗さんと一緒に食べれる!)
近づかないで、と冷たく突き放された頃に比べると大きな進歩だ。
御手洗さんから承諾を得た僕は、さっそく彼女の隣の席に着いた。
「……いただきます」
食事開始。僕も箸を取り、自分の昼食に手をつける。
こうして二人っきりになったものの、食事の間は特に会話が無かった。御手洗さんも僕も、目の前の料理を黙々と口に運んでいく。それだけだ。
だけど、その沈黙は決して苦痛ではない。むしろ心地良さすら感じられた。
(会話が続かなかったらどうしよう、って思ってたけど……そもそも無理に話しかける必要は無いんだ)
たぶん、御手洗さんは落ち着ける空間が好きな人なのだろう。だったら、こちらから話題を振る必要はない。ただ静かに、同じ時間を過ごせばいい。
そんな風に考えつつ、トレーに乗った食器を空にしていった。
「ご馳走様……美味しかったぁ」
食べ終わった後の余韻後の満足感に浸っていると、隣に座っていた御手洗さんが立ち上がる。空のトレーを手に取り、返却場所に向かって歩き出した。
まずい、御手洗さんが行ってしまう。僕は彼女に向かって、思わず大声を出してしまった。
「あ……あのっ!!」
突然の大声にも動じず、その場に立ち止まる御手洗さん。それでも、まさか呼び止められるとは思っていなかったみたいで、振り返った時の表情は少し驚いているように見えた。
「……何?」
表情に引っ張られるように、声音にも困惑の色が見える。
僕は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、彼女に言いたかった事を口にした。
「また、こうして一緒に……お昼を食べても良い、かな?」
言い切った途端、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
何を言っているんだ、僕は。彼女が無視しなくなったからって、調子に乗り過ぎじゃないか? そんな気持ちで一杯になりながらも、恐る恐る返事を待つ。
すると、意外な言葉が返ってきた。
「……騒がしくしないのなら、別に構わない」
淡々と答えた後、御手洗さんはその場を後にする。
胸の中に温かいモノが流れ込んでくる。それは安堵か、喜びか。それとも別の何かなのか。ハッキリとは分からないけど、とにかく嬉しいという感情だけは確かだった。
また一歩、御手洗さんとの距離が縮まった気がする。そんな実感か思い込みか区別のつかない感情が、僕の心を躍らせていた。
「トーモーキーくぅん?」
「うわぁ!?」
突然の呼びかけに、椅子から転げ落ちそうになる。声の主を見れば、そこにはアキトの姿があった。いつの間に後ろに居たんだろうか。全然気付かなかったぞ。
彼は僕を見下ろしながら、ニヤリと笑う。
「いきなり俺から離れて行ったと思えば、御手洗サマとランチデートとはねぇ。隅に置けないじゃないか、トモキ君」
「デートって……だからそんなんじゃないってば!」
「ハハハ、隠すな隠すな」
必死になって否定するも、アキトは笑いながら受け流すばかり。何が彼を刺激したか知らないが、完全に面白がられているようだ。
「俺は嬉しいんだぜ? あの人を寄せ付けなかった御手洗サマに、お前が受け入れられたみたいだからよ。親友として祝福させてくれや」
ポンポンと肩を叩き、笑顔を見せるアキト。そう言われたら無下にはできない。僕は諦めて、ため息をつくしかなかった。
「ところで結局、昼食はどうしたの? 別々で食べる事になってたけど」
「心配すんな。お前の他にもちゃんと友達は居るさ。人脈イコール情報網ってな」
「あっ、そうなの……僕はアキトしか友達いないのにな」
「……おい落ち込むなって。今度、俺の友達を紹介するから」