【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第19話 返ってくる言葉(ボール)

「あー疲れたぁ……やっぱりオダギリ先生の体育キツいってば」

「だよなぁ。魔術師を育てる……っていうより、ありゃあ軍隊を鍛えるのが目的じゃねぇのか?」

 

 午前の授業が終わり、正午の食堂。僕とアキトは授業の愚痴を言い合いながら、料理が乗ったトレーを受け取る。

 既に食堂には沢山の生徒達が集まっており、殆どの席が埋まっていた。僕らは授業の後片付けをしていた為、少し出遅れてしまったようだ。

 

「ツイてねぇなー俺達。二人で座れる席は残ってるのやら」

「参ったね……ん?」

 

 空席を探していると、窓際で食事をしている御手洗さんの姿を見つけた。今日も一人のようだ。

 他の席が埋まりつつある中、彼女の周りには誰もいない。まるで周囲から避けられているみたいだ。

 

「……アキト、今日は別々で食べよう」

「えっ? なんでそんな事……」

 

 アキトの返答を待たず、僕の足は自然と動き出す。そのまま真っ直ぐ、彼女の下へ。

 数秒が経った頃には、もう御手洗さんの隣に立っていた。

 

「御手洗さん。隣、良いかな?」

 

 御手洗さんは無言のまま、こちらをじっと見つめてきた。表情から敵意は感じられないものの、やはり反応が薄い。

 ひょっとしたら、素っ気ないのは普段通りなのかもしれない。そう思った矢先、彼女は静かに口を開いた。

 

「構わない」

 

 明確な意思表示。それが肯定である事を理解した僕は、心の中でガッツポーズを取る。

 

(やった! これで御手洗さんと一緒に食べれる!)

 

 近づかないで、と冷たく突き放された頃に比べると大きな進歩だ。

 御手洗さんから承諾を得た僕は、さっそく彼女の隣の席に着いた。

 

「……いただきます」

 

 食事開始。僕も箸を取り、自分の昼食に手をつける。

 こうして二人っきりになったものの、食事の間は特に会話が無かった。御手洗さんも僕も、目の前の料理を黙々と口に運んでいく。それだけだ。

 だけど、その沈黙は決して苦痛ではない。むしろ心地良さすら感じられた。

 

(会話が続かなかったらどうしよう、って思ってたけど……そもそも無理に話しかける必要は無いんだ)

 

 たぶん、御手洗さんは落ち着ける空間が好きな人なのだろう。だったら、こちらから話題を振る必要はない。ただ静かに、同じ時間を過ごせばいい。

 そんな風に考えつつ、トレーに乗った食器を空にしていった。

 

「ご馳走様……美味しかったぁ」

 

 食べ終わった後の余韻後の満足感に浸っていると、隣に座っていた御手洗さんが立ち上がる。空のトレーを手に取り、返却場所に向かって歩き出した。

 まずい、御手洗さんが行ってしまう。僕は彼女に向かって、思わず大声を出してしまった。

 

「あ……あのっ!!」

 

 突然の大声にも動じず、その場に立ち止まる御手洗さん。それでも、まさか呼び止められるとは思っていなかったみたいで、振り返った時の表情は少し驚いているように見えた。

 

「……何?」

 

 表情に引っ張られるように、声音にも困惑の色が見える。

 僕は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、彼女に言いたかった事を口にした。

 

「また、こうして一緒に……お昼を食べても良い、かな?」

 

 言い切った途端、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

 何を言っているんだ、僕は。彼女が無視しなくなったからって、調子に乗り過ぎじゃないか? そんな気持ちで一杯になりながらも、恐る恐る返事を待つ。

 すると、意外な言葉が返ってきた。

 

「……騒がしくしないのなら、別に構わない」

 

 淡々と答えた後、御手洗さんはその場を後にする。

 胸の中に温かいモノが流れ込んでくる。それは安堵か、喜びか。それとも別の何かなのか。ハッキリとは分からないけど、とにかく嬉しいという感情だけは確かだった。

 また一歩、御手洗さんとの距離が縮まった気がする。そんな実感か思い込みか区別のつかない感情が、僕の心を躍らせていた。

 

「トーモーキーくぅん?」

「うわぁ!?」

 

 突然の呼びかけに、椅子から転げ落ちそうになる。声の主を見れば、そこにはアキトの姿があった。いつの間に後ろに居たんだろうか。全然気付かなかったぞ。

 彼は僕を見下ろしながら、ニヤリと笑う。

 

「いきなり俺から離れて行ったと思えば、御手洗サマとランチデートとはねぇ。隅に置けないじゃないか、トモキ君」

「デートって……だからそんなんじゃないってば!」

「ハハハ、隠すな隠すな」

 

 必死になって否定するも、アキトは笑いながら受け流すばかり。何が彼を刺激したか知らないが、完全に面白がられているようだ。

 

「俺は嬉しいんだぜ? あの人を寄せ付けなかった御手洗サマに、お前が受け入れられたみたいだからよ。親友として祝福させてくれや」

 

 ポンポンと肩を叩き、笑顔を見せるアキト。そう言われたら無下にはできない。僕は諦めて、ため息をつくしかなかった。

 

「ところで結局、昼食はどうしたの? 別々で食べる事になってたけど」

「心配すんな。お前の他にもちゃんと友達は居るさ。人脈イコール情報網ってな」

「あっ、そうなの……僕はアキトしか友達いないのにな」

「……おい落ち込むなって。今度、俺の友達を紹介するから」

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