【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】 作:いんせき
「敷地内で全く見かけないから、てっきり幽霊かと思ってたけど……まさかこんな所でオトコ作ってたなんてねぇ」
先頭にいた赤毛の少女が、嘲るように笑う。取り巻きと思わしき二人と比べ、その少女の身体は一回り大きい。
「アレが噂のお氷女さま? なんか思ったより地味じゃない?」
「模擬決闘の時は静電気バチバチさせていただけで、魔法で誤魔化さなきゃあんなもんでしょ」
後ろに控える二人が、それぞれ感想を口にする。自身の魔法を静電気呼ばわりされた事に、志紀の眉がピクリと動いた。
「…………」
だが、それだけだ。怒っても無駄。相手にするだけ時間の浪費である。相手の言葉を聞き流しながら、志紀は無視を決め込んだ。
すると、赤毛の少女が今度はトモキに矛先を向ける。
「キミ、そっちのお氷女さまに随分とお熱みたいじゃない。一体、どこがキミのハートを射止めたのかなぁ? やっぱり顔?」
友好的のような、そうでないような。真意を測りかねる少女の問いに、トモキは返答を詰まらせた。
(何なんだ、この人は……?)
この場合、どのように答えれば良いんだ。正直に話す? それとも適当にあしらうべきか。悩みに悩むトモキだったが、結局、少女の質問に答える事はできなかった。
そうしてまごまごしていると、取り巻きの一人が呆れたように口を挟む。
「顔に惹かれたんならさぁ、お氷女さまに拘る必要なくない? ナナセにしなよ。性格は明るいし、見ての通りスタイルも抜群だし。一緒にいれば絶対楽しいよ?」
「そうそう。そんな暗そうな女といたら、せっかくの青春が台無しだって。今からでも遅くないから乗り換えなよ」
もう一人の取り巻きも同調した上、志紀を貶す言葉まで付け加える始末。どうやら、この三人組は志紀の事が気に入らないようだ。その事を漠然とながらも理解した事で、トモキの拳が自然と握りしめられた。
(落ち着け……こんな奴らの言う事に耳を貸しちゃダメだ)
怒りを堪えながら、必死に自分に言い聞かせるトモキ。胸の奥に宿った小さな火種を鎮めるべく、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
どうにか平常心にまで持っていけた所で、再びナナセと視線を合わせた。
「僕の為に言ってくれているんだね。その心遣いは嬉しいけど……僕は御手洗さんと一緒にいたいんだ」
トモキはハッキリと言い切った。それは紛れもない、本心からの想い。下心を全て取り除いて残った、純粋な気持ちだった。
「…………」
その事は、二人のやり取りを傍から見ていた志紀にも伝わってきた。トモキの瞳には、偽りの色など一切感じられない。
だからこそ、志紀の心は大きく揺らぐ。
(分からない……あなたはどうして、私に固執するの?)
彼に会う度に感情を掻き乱されてしまう。今さっき、決意を新たにしたばかりのはずなのに。この少年の傍にいてはいけないと、そう決めたばかりだというのに。心のどこかでは彼と関わり合いたいと願ってしまう自分がいる。
(私は……一体、何を望んでいるの?)
自分の中で相反する二つの意思。どちらを選ぶべきなのか。その答えを、志紀はまだ見つけられずにいた。
「あーそっかぁ……キミ。お氷女さまの事、なーんにも知らないんだ」
一方、ナナセの反応は冷やかだった。まるで哀れむような眼差しでトモキを見つめると、わざとらしく溜息をつく。
「人の恋路を邪魔するのは趣味じゃないんだけど……しょうがないか。何も知らないキミに、一つ教えてあげる」
「……何を?」
そして、勿体ぶるような仕草を見せると、その先を話し始めた。
「他でもない、お氷女さまの家庭事情♪」