【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】 作:いんせき
週明けの月曜日。教室ではいつものように、登校した生徒の殆どが談笑している。僕とアキトも、その中の一組だった。
「天住七星。別クラスではあるが、俺らと同じ一年だ。そいつも御手洗サマと一緒で、優秀な成績を収めてアカデミーに入ってきた特待生さ」
話の内容は赤毛の少女――ナナセについて。情報綱を自称するだけあって、彼女の情報をキチンと押さえているようだ。
「特待生……って事は、やっぱり強いの?」
「そりゃそうだろ。御手洗サマやエタンに匹敵するかは分からないが、少なくとも俺らヒヨッコが太刀打ちできる相手じゃねぇ」
僕の出した問いに、アキトはハッキリと答える。
筆記、実技ともに厳しい基準が設けられているアカデミーにおいて、特待生に選ばれるのは本当に限られた人間だけだ。御手洗さんとエタン・グランベルによる模擬決闘を見ていたからこそ分かる。あの二人は間違いなく、僕とは比較できない程に強い。
アキトの言葉は誇張ではないはずだ。僕が考え込んでいる間に、彼の話は続く。
「それと、もう一つ。あいつは性格が悪い。特待生に選ばれて天狗になってるのか知らんが、周りの生徒を見下してるフシがある。御手洗サマに突っかかったのも多分、それが理由だろうよ」
ナナセの性格の悪さについては、僕も薄々感じ取っていた。初対面であるにも関わらず、彼女は御手洗さんに対して侮蔑的な態度を取ってきたのだ。それを叱責された際も、反省するどころか嘲笑を浮かべる始末。
故に、僕はナナセに決闘を申し込んだ。御手洗さんに対する侮辱を撤回させる為に。
「……で、だ。お前どうすんの?」
「えっ?」
唐突な問いかけに、思わず間の抜けた声を上げてしまう。何の事か分からず戸惑っていると、アキトがため息交じりに続けた。
「決闘だよ、決闘。お前、ナナセが特待生だって知らないで喧嘩売っただろ。勝つ算段とかあんのか?」
言われてみれば、確かにその通りだ。性格に難があれど、ナナセは特待生。実力で言えば、僕なんか足元にも及ばない存在だ。普通に考えて勝ち目は無いに等しい。
「勝てるかどうかは分からないけど、対策は考えてあるんだ」
視線をアキトから後ろの席に移す。そこには、黙々と自習に励む御手洗さんの姿があった。
「……お前、御手洗サマに戦い方を教えてもらうつもりか?」
僕は首肯する。ナナセとの決闘が成立した直後、勢いに任せて頼み込んでしまったのだ。唐突な申し出に戸惑ってはいたものの、最終的に御手洗さんは了承してくれた。
また迷惑をかける事になってしまったが、ナナセに勝利する為には彼女に頼る他ない。決闘が始まる土曜までに、少しでも強くなりたいのだ。
そんな僕の気持ちを察したのだろうか。アキトは呆れたように嘆息すると、口を開いた。
「この様子じゃ、今の俺はお邪魔虫みたいだな。はー、親友の恋路を応援するのは辛いぜ」
「だからそういうのじゃないってば」
このやり取りも何度目になるだろうか。慣れてきたとはいえ、こういう風にからかわれるのは中々に恥ずかしいものがある。
そんな僕を見て満足したのか、アキトはニヤリと笑って言った。
「はいはい、そういう事にしておきますって……頑張れよ、トモキ。俺は陰ながら応援させて貰うわ」
始業のチャイムを合図に、自分の席へ戻っていくアキト。
御手洗さんとの特訓は、今日の放課後から始まる。それまで気力を充実させておかなければ。意識を切り替えた僕は、その日の学校生活を乗り切るべく集中するのだった。