【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第24話 ゼロから始める戦闘指南

 学園から最も遠いアリーナ。人気を嫌う御手洗さんが普段の訓練に使っている場所で、僕と彼女の他には誰もいない。

 授業が終わってから早速、僕はここで戦い方の指南を受ける事になっていた。

 

「……まさか、四月の内にコレを着る事になるなんて」

 

 頭部を下に傾け、自身の身体を見下ろす。

 視界に映るのは、紺色のボディスーツだ。伸縮性に富んだ生地で作られたそれは、僕の身体にピッタリとフィットしている。

 

「うん、全く苦しくない。身体の一部になっているみたいだ」

 

 着用感を試そうと軽く腕を回したり、屈伸運動をしてみる。違和感を覚える箇所は一切無い。むしろ動きやすいくらいだ。なるほど、コレなら戦いに集中できる。

 スーツの具合を確認し終えた僕は、御手洗さんの方に向き直った。

 

「決闘は今週の土曜。それまでに残された期間は、たったの五日」

 

 真剣な眼差しで告げる御手洗さん。訓練用の模擬刀を手にしながら、淡々と説明を続けていく。

 

「その内、訓練に割り当てられる時間は合計して一日のみ。あまりに短い時間だけれど、嘆いている暇は無い」

 

 そこで一旦、言葉を区切ると、御手洗さんは模擬刀を構えた。空気が張り詰める。肌に感じる緊張感に身震いしそうになった瞬間、彼女が再び口を開く。

 

「今から貴方には、肝要な部分を叩き込む。実戦を想定した戦い方を徹底的に」

 

 御手洗さんはそう言うなり、素早く踏み込んできた。

 速い。数秒の間に距離を詰めてきた彼女は、上段に構えた模擬刀を一気に振り下ろす。

 

「ッ!」

 

 縦に描かれた剣筋を、横に身を捻る事で回避する。

 続けて第二撃。真下に振り切った状態から、今度は横に薙ぎ払うような一撃が繰り出された。

 

「ッ……と!」

 

 咄嵯にバックステップで距離を取る。直後、模擬刀の先端が鼻先を掠め、風を切る音を鳴らした。

 危なかった。一瞬でも反応が遅れていたら、顔面に強烈な打撃を受けていたところである。

 

「フッ!」

 

 御手洗さんの攻撃は止まらない。続けざまに放たれた第三、第四の斬撃が僕に襲いかかる。

 上から。下から。右から。左から。四方八方から振るわれる刃、その全てを避ける事に意識を傾けた。

 

「……ふぅ」

 

 攻撃の合間、僅かな隙をついて息を吐きだす。

 流石は特待生。連続して繰り出される太刀筋に、乱れというものが一切見られない。一つ一つの動作に無駄がなく、まるで舞を踊っているかのように優雅だ。

 

「フンッ!」

 

 御手洗さんの姿勢が一気に低まる。狙いは僕の足元。横薙ぎの一閃が地を這うようにして迫りくる。

 足を斬られる。反射的に僕はその場で跳躍し、空中へと逃れた。下を見ると、先程まで立っていた場所に綺麗な弧が描かれている。

 攻撃を外した御手洗さんだが、その体勢が崩れる気配はない。それどころか、そのまま流れるように次の行動へと移っていた。

 

「ハァッ!」

 

 一瞬の空旅を終え、着陸した僕の顔面へ模擬刀の鋒が迫ってくる。

 恐ろしかった。極限まで殺傷力を抑えられているとはいえ、自分を貫かんとする鋭い先端が目の前にあるのだから。

 

「ひっ……!」

 

 情けない声を漏らしながらも、すぐに首を傾けて逃れて見せる。

 それに釣られて、僕の身体が横転した。地面の上をゴロゴロと転がり、何とか起き上がる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 さっきのは本当に怖かった。心臓の鼓動が高鳴るのを感じつつ、僕は御手洗さんを見据える。

 追撃はしてこないようだ。汗の一つもかいていない彼女は、涼しげな表情で僕に語りかけてきた。

 

「今の攻撃は、ほんの小手調べ。この程度の攻撃は容易に避けて貰わないと困る」

「……やっぱり厳しいね」

 

 思わず苦笑してしまう僕だったが、同時に彼女の言葉に納得していた。

 御手洗さんは手加減している。模擬決闘の時は今よりも速く、鋭く、容赦の無い攻防をエタンと繰り広げていたのだ。それを思えば、小手調べとしか言いようがない攻撃である事は明白だった。

 

「手始めに、私の動きについていけるようになってもらう。技術を教わる以前に、身体が追いつかなければ話にならないから」

「うん、分かったよ。一週間よろしくお願いします、特別コーチ」

 

 返事をすると、御手洗さんの表情が少しだけ和らいだ気がした。

 それから数時間。夕日に浮かんだ太陽が完全に沈むまで、僕は御手洗さんの指導を受け続けた。

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