【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第28話 嘲りの銃火

 一歩、また一歩。戦場へ続く道を歩み続ける。光が近づくにつれ、今か今かと試合を待ち望む観客の声が耳に届いてきた。

 

(待っている……大勢の観客が、僕の事を待っている)

 

 心臓が激しく鼓動する。極度の緊張感に襲われた僕の身体が、小刻みに震え始めた。

 これが武者震いなのだろうか。恐怖か高揚か、自分でも判別がつかない感情に苛まれながらも、僕は遂にアリーナへと辿り着いた。

 

「うっ……!」

 

 視界を余すこと無く埋め尽くす眩い光。それに慣れるまで数秒の時間を要した僕の目が捉えたのは、どこまでも広がる真っ白なフィールドだった。

 端と端が見えない程の広大な空間。観客席から見た時とは比べものにならないスケール感だ。

 

(僕は、本当に……ここで戦うのか!)

 

 あまりの光景に絶句する僕だったが、すぐに我を取り戻す。アリーナの中央まで足を運んでいき、今回の対戦相手となる少女と対峙した。

 

「なーんだ、バカ正直に出てきてくれたんだ? どう転んでも恥にしかならないから、逃げちゃうかと思ってたのに」

 

 相変わらずの嘲笑を浮かべるナナセ。赤いボディスーツに身を包んだ彼女は、ライフル銃のような武器を片手に携えていた。

 

(あの銃が、ナナセの武器……)

 

 挑発に取り合わず、ナナセが持つ銃に着目する。見るからに遠距離戦を想定した装備だ。接近戦に持ち込まなければ、どうにか日本刀を扱うこちら側が不利になってしまう。

 如何に襲撃を凌ぎつつ、相手の懐に飛び込むか。それが戦いの鍵になるのだろう。

 

「…………」

 

 出来るのだろうか。駆け引きの知識なんて皆無な僕に、果たして。

 脳裏を過ぎった一抹の不安。それをすぐに払拭して、再び、視線をナナセへと移した。

 

「ナナセ……さん。この決闘で僕が課した要求、覚えてるよね」

「よーきゅー? そんなのどーでも良すぎて忘れちゃった」

 

 自らの勝利は決まってるも同然。そういった思考を隠そうともしないナナセは、わざとらしく肩をすくめてみせる。

 僕は怒りをグッと堪え、努めて冷静さを装いながら話を続けた。

 

「一週間前、君が御手洗さんに浴びせた侮辱の数々。それらを取り消した上で謝罪してもらう」

「だーかーらー、あれはタダの事実なんだって。受け入れたくない気持ちは分かるけど、それでアタシに当たるのは筋違いじゃない?」

 

 悪びれる様子もなく、ナナセは言い放つ。素直に謝ってくれるなんて思ってはいなかったが、ここまで開き直られると腹立たしさを通り越して呆れてしまう。

 おかげで昂ぶっていた怒りが収まり、僕は落ち着きを取り戻した。

 

「そんな事より、キミの方こそ覚えてる? アタシに負けたら、お氷女さまに二度と近づかないって約束。この後、観衆の前でボロクソに負けるんだからさ……今のうちにお別れの言葉を考えた方が良いよ?」

 

 嫌味ったらしい口調で告げるナナセ。

 反論したい気持ちは山々だが、今日は口喧嘩をしに来たのではない。僕は彼女の煽りを無視し、自分の意思を言葉として発していく。

 

「ナナセさん。この決闘、僕が勝つよ」

 

 宣戦布告。驕り高ぶっていたナナセの表情が僅かに崩れる。

 だが、それも一瞬の事。すぐさま口元を歪ませ、不敵な笑みを取り戻していった。

 

『これより、玲羽朋稀、対、天住七星による決闘を開始する』

 

 審判のアナウンスを従い、僕とナナセは同時に宣誓する。

 

『我等は魔を志す新生の雛なり。この身に刻まれた誇りと名誉の為、己が全てを賭して雌雄を決さん』

 

 防護結界、展開。決闘の舞台が構築されたと共に、僕らはそれぞれ戦闘態勢に入った。

 僕――玲羽(レイバ)朋稀(トモキ)は鞘から刀を引き抜き。

 相手――天住(アマズミ)七星(ナナセ)は両手でしっかりライフルを構え、こちらへ照準を定める。

 両者共に、準備は万全。後は開始の合図を待つのみだ。

 

(スリー)(ツー)(ワン)……ファイト!』

 

 鳴り響くブザーに合わせ、僕は地を蹴って駆け出した。一直線にナナセへ突進し、間合いを詰めていく。

 

(マトモに撃たせたら分が悪い……一気に距離を詰めて、斬る!)

 

 短期決戦。特待生の実力を発揮させる余裕を与える前に、決着をつける。

 射程距離に入ると同時に、僕は居合斬りの如く横薙ぎに刃を振るった。

 

「フフン♪」

 

 だが、ナナセは怯むどころか楽しげに笑うと、その姿を視界から消失させた。

 直後、僕は背後に気配を感じ取る。咄嵯に振り返ると、そこには既に引き金に指をかけたナナセの姿があった。

 

「ッ!」

 

 刀を逆さに立て、銃撃を受け止める体勢を取る。刹那、激しい衝撃が腕に走った。

 

「うぐっ……!」

 

 刀身が物語る、銃弾の威力。弾く度にビリビリと振動が伝わり、握りしめる両手が痺れを起こす。一発、ニ発ならまだしも、立て続けに撃ち込まれるのだから堪らない。

 それでも僕は歯を食い縛り、懸命に攻撃を受け止めた。

 

(問題ない……一度に撃てる弾数は限られているはず!)

 

 銃弾が止んだ。防御を解いた僕はすかさず動き出し、狙いを絞らせないように走り回る。

 止まったら蜂の巣だ。一方向に止まらず、ジグザグに動きつつナナセとの距離を縮めていく。

 

「へぇ、思ったよりは動けるじゃん」

 

 一方、ナナセは無動作だった。弾倉の交換は疎か、その場から離れる事すらせず、ただ悠然と佇んでいた。

 

(どうして……?)

 

 疑問に思いつつも、ナナセとの距離が縮まる。

 違和感は拭えないが、攻撃しない手は無い。僕は意を決して踏み込み、上段から刀を振り下ろした。

 

「ほいっと♪」

 

 とても軽い身のこなしだった。ヒラリと攻撃をかわされ、僕の一撃は不発に終わる。

 

「……っ!」

 

 すぐに彼女がステップを踏んだ場所を目で追った。そこにいたナナセは既に、弾倉を新しい物に交換しており、得意げな表情を僕に晒している。

 

「ほら、攻撃してきなよ。観客が退屈しちゃうでしょ?」

 

 まるで遊び相手を見るような目つき。本気で戦っていない事を証明するかのように、ナナセは銃を構えたまま微動だにしなかった。

 

「くっ!」

 

 あからさまな挑発。それでも乗るしか無い。

 焦燥感に駆られながら、僕はナナセに連撃を仕掛ける。

 

「アッハハ! おっそーい♪」

 

 空を切る太刀筋。軽やかなフットワークを駆使するナナセに対し、僕の剣戟は一向に当たらないでいた。

 そればかりか、攻めれば攻めるほどに体力が擦り減り、息切れを起こしてしまう始末である。

 

(まずい……このままじゃ自滅する!)

 

 ひとまず仕切り直さければ。そう判断した僕はバックステップを踏み、ナナセから大きく距離を取った。

 消耗した状態で彼女と対峙するのは危険すぎる。一旦呼吸を整えて、出方を窺おう。そう考えての行動だったが、それが仇となった。

 

「距離を取れば休憩できる……なんて、銃持ちに通用すると思ってんのぉ?」

 

 この時、僕は思い知らされる。ナナセの得物は、むしろ遠距離戦に特化した代物なのだと。

 見当違いな思考で気を抜いた僕を嘲笑うように、彼女は即座にトリガーを引いた。

 

「しまった……!」

 

 またもや防戦一方に追い込まれる戦況。

 ペースは完全に、ナナセに傾いていた。

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