【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第30話 (バースト)(ブレイズ)

「さあ皆様、ご笑覧あれ! (バースト)(ブレイズ)弾!」

 

 構えられたライフルから放たれた、一発の弾丸。メラメラと燃える火炎で象られたソレは、弧を描きながら僕の元へ飛来する。

 

(来るッ!)

 

 受け止めたら不味い。瞬時の判断で、僕は身体を横へ飛び込ませた。

 直後、数秒前まで足を着けていた場所に、ナナセの火炎弾が着弾する。

 

――――ドグォォオオオオン!

 

 爆音。鼓膜を破るような衝撃音がアリーナに響き渡る。

 爆心地となった地点は、一瞬にして火の海と化しており、辺り一面が真っ赤に染まっていた。

 

(なんて威力なんだ……!)

 

 自分の直感は正しかった。あの弾丸は間違いなく、必殺の一撃である。もしも回避ではなく防御を選んでいたら、その時点で勝負は決まっていただろう。

 だが、安心している場合ではない。ナナセの猛攻は始まったばかりなのだ。

 

「もういっちょー!」

 

 ニ発目の火炎弾が発射される。今までの連射撃と比べて弾速は遅いが、着弾した時の爆発規模と破壊力は段違いだ。

 対処法は一つ。

 

(逃げるしかない!)

 

 幸いにもナナセの火炎弾は単発式。一発を撃ってしまえば、次弾を放つまでに若干のタイムラグが生じるはずだ。

 その隙に距離を縮めて、接近戦に持ち込む。それが最善策だと信じて、僕は全速力で駆け出した。

 

「逃げても無駄無駄! どうせ最後は地面に這いつくばって、惨めな泣き顔を晒す事になるんだからさぁ!」

 

 心底楽しげに笑うナナセの罵声が、耳元を掠める。固定砲台に転じた彼女の射撃をかわしつつ、徐々に間隔を詰めていった。

 三十。二十。十五メートル。もう少しだ。後、ちょっとでナナセに踏み込める。そう思った矢先の事だった。

 

「わっかんない子ねー。アタシに勝つのは無理だっつってんのよ!」

 

 突如、ライフルの銃口が下方に向けられる。その状態でナナセはトリガーを引き、火炎弾を地面に撃ち込んだ。

 

「えっ……!?」

 

 瞬間、地面から吹き上がるは巨大な火柱――否、柱なんて物ではない。

 波だ。それは僕を呑み込まんとばかりに迫りくる、津波のような業火であった。

 

「アンタに大海を見せてあげる! スカーレットオーシャン!」

 

 波の向こう側から聞こえるナナセの叫び声。それを意識する余裕は、今の僕には残されてなかった。

 逃げ場が無い。右にも。左にも。後にも。視界を埋め尽くすのは、全てを焼き尽くさんと荒れ狂う灼熱の海。

 接近するだけで大火傷を負うであろう超高火力を前に、僕は為す術もなく立ち往生していた。

 

(ま、け……いや、諦めちゃダメだ!)

 

 まだ活路は残されている。日本刀を強く握りしめ、僕は上空へ跳躍した。

 やはりだ。地上を焼き上げる炎は、宙に浮かぶ僕を捉えない。このまま飛び越えて、ナナセに一太刀を浴びせてやる。

 

「ウオオオオォォ!」

 

 炎を越えた先に、ナナセ。その姿を視野にしっかり収め、刀を振り上げながら落下していく。

 

「はい来た♪」

 

 しかし、それすらもナナセの想定内だったようだ。嬉々として向けられたライフルの銃口からは、パチパチと火花が散っていた。

 

(――不味い!?)

 

 かわせない。宙の中を漂う不安定な体勢では、回避行動など取れるはずが無かった。

 下ろしかけていた刀の軌道を修正し、僕は防御の姿勢を取る。

 

「うわああああああぁぁ!」

 

 近距離から射出された火炎弾が、刀身に衝突。そのインパクトで爆発のごとき燃焼が巻き起こり、僕の身体は後方へ弾き飛ばされた。

 熱い。痛い。苦しい。纏わりついた炎の欠片が、全身を蝕んでいく。この時、初めて僕は身を焼かれる痛みというものを体感していた。

 

「アハッ♪ 命中~♪」

 

 愉悦に満ちたナナセの声が、遠くから聞こえてくる。地面を転がりつつも受け身を取り、どうにか起き上がる事に成功した。

 既に炎は消え去っているものの、ヒリヒリと焼け付くような痛みは健在である。

 

(攻撃を掻い潜れたと思っても、結局は掌の上……これがアカデミー特待生の実力!)

 

 改めて、実力差を思い知らされた気分だ。ナナセが本気になってしまえば、こうもアッサリとねじ伏せられてしまうのか。認めたくはないが、僕の力不足は明らかである。

 

(でも……!)

 

 その事と、諦めるかどうかは別問題だ。僕は歯を食い縛り、再び刀を構え直す。

 一筋で良い。勝機さえ見出せれば、後は意地と根性で乗り切ってみせる。とにかく、御手洗さんの為に勝負を投げ出すわけにはいかないのだ。

 

「まだ立つつもり? そこまでガッツがあるとは思わなかったよ」

 

 僕の姿を見て、感心したように呟くナナセ。先程までの嘲笑から一変、こちらを敬服するような眼差しを向けていた。

 

「……君とは、この試合に懸ける想いの質が違うんでね」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、僕もまた言葉を返す。虚勢である事はすぐに看破されたらしく、ナナセは呆れ顔で肩をすくめた。

 

「全く、力の差は嫌というほど分かってるはずなのに……キミって、ホントに馬鹿ね」

 

 構え直されるライフル。赤い髪が揺らめいたかと思えば、ナナセの周りに陽炎が立ち昇っているのが見えた。彼女の体内から溢れる魔力が、大気を歪ませているのだろうか。

 

「良いよ。そのガッツに免じて、とっておきを見せてあげる。七つ星に相応しい、アタシだけの固有技(オンリーワン)をさ!」

 

 ナナセの瞳が、妖しく光り輝く。

 持てる力を総動員し、この決闘に終止符を打とうとしていた。

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