【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第33話 天満月

「技?」

 

 それは数日前。決闘を控えていたトモキに、志紀が発した一言が発端である。

 この時、トモキは次の段階として、日本刀の基本的な扱い方を教わっていた。刀の握り方から始まり、振り下ろし、斬り上げ、突き。更には防御の型といった、実戦を想定した内容だ。志紀の的確かつ丁寧な指導もあり、この一週間でトモキは基礎的な技術の習得に漕ぎ着けていた。

 そんな折である。志紀から技の伝授を持ちかけられたのは。

 

「貴方は飲み込みが早い。たった数日の期間で基本的な動作をモノに出来ている。私としても、そこまでの成長は予想外だった」

「そんな……御手洗さんの教えがあってこそだよ」

 

 褒められるのは嬉しいが、同時に恥ずかしくもある。照れ笑いを浮かべるトモキに対し、志紀は真剣な表情のまま話を進めた。

 

「だけど、それでは足りない。試合で負ける可能性は少なくなれど、勝つ確率が上がる訳では無い」

 

 曰く、今のトモキには決定打が欠けているのだという。

 アカデミーの決闘は、どちらかの選手が戦闘不能になるまで続けられるルールとなっている。たとえ主導権を握っていたとしても、その間に相手を倒せなければ意味が無い。攻めあぐねている間に逆転を許してしまい、こちらが敗北を喫する事も珍しくないのだ。

 ましてや、相手は特待生。並の生徒より遥かに優れた実力を持つ存在に、半端な手が通用しないのは目に見えている。だからこそ志紀は、トモキに技の習得を提案したのだ。

 

「うん、分かった。決闘はもうすぐだしね。やれるだけの事はやらないと」

 

 トモキとしても、願ってもない申し出だった。何が何でも決闘に勝ちたいと思っていただけに、この提案はまさに渡りに船である。

 二つ返事で承諾し、志紀から技の伝授を受ける事となった。

 

「多くを教えるには時間が足りない。なので貴方には、二つの技だけを覚えてもらう」

 

 一つ目は、天満月。剣先で満月を描くように刀を振るい、自らの周囲に円状の防壁を作り出す。刀では受け切れない、物量による飽和攻撃から身を護る為の技だ。

 発動すれば、どんな攻撃をも寄せ付けない強固な障壁となる技だが、消費する魔力が多い為に連発はできない。あくまで、窮地に陥った際に使用する奥の手である。

 

「そして、もう一つ」

 

 天満月が純粋な守りの技だとすれば、それは己の身を賭して敵を屠る技。

 その名は――――

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 炎で焼かれた全身が、今もなお悲鳴を上げ続けている。スーツの防護機能で実際のダメージは軽減されているものの、骨の髄まで染み渡る苦痛は本物だろう。

 痛みで意識が飛びそうになるのを堪えつつ、僕はナナセを見据えた。

 

「何も無かったって……はぁ? アンタ、炎の熱でおかしくなっちゃった?」

 

 ナナセは僕の言葉が理解できない様子だ。無理はない。自分としても、今の言葉で伝わるとは到底思えなかった。

 だけど、そんな事はどうでも良い。今、重要なのは決闘を制する為に何をすべきか。それだけだ。

 

(天満月……しっかり発動できて良かった)

 

 剣先で満月を描き、周りにバリアを張る。ナナセの炎に包まれた際、僕は咄嵯にその動きを取っていた。

 発動したバリアは短い間しか持続しなかったものの、こうして立ち上がれたのは運が味方してくれたおかげだろう。

 しかし、それでも限界は近い。次の一撃で決めなければ、この身体は今度こそ力尽きてしまう。確信めいた予感が、僕の脳裏を過るのだった。

 

(もう後の事は考えられない……次の一手に、全てをかける!)

 

 構えた日本刀を静かに、鞘に収めていく。納刀の瞬間、カチャリという鍔鳴りが静寂に満ちたアリーナに響き渡った。

 御手洗さんから教わった、もう一つの技。それは防御を投げ捨てる事でしか発動できない、最速にして最強の一撃。

 残り少ない力の全てを、僕はその技に注ぎ込むのだった。

 

「……ナナセさん」

「っ……な、何よ!?」

 

 強気を装うナナセの声色に、明らかな震え。

 それを見逃さなかった僕は、最後の力を振り絞るかのようにして告げた。

 

「ここから先は、僕のターンだ」

 

 決着まで、あと十秒。

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