【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第34話 不惜身命(ふしゃくしんみょう)

「何がアンタのターンよ! ちょっと小突けば倒れちゃう身体のクセに!」

 

 苛立たしげに叫びながら、火炎弾を撃ち上げるナナセ。その狙いは僕ではない。空だ。

 高々と打ち上げられた炎の塊が爆散すると同時、多数の炎球が雨のように降り注いでくる。それはまるで、流星群を思わせる光景であった。

 

「今度こそ終わらせてあげる! スターダスト・ラヴァ!」

 

 周辺に着弾した火球が、爆発と共に火の粉を撒き散らす。

 その一つ一つが小さな花火となって咲き乱れる中、僕は動じる素振りも見せずに駆け出した。

 

(大丈夫だ……この程度の攻撃なら行ける!)

 

 数こそ多いが、さっきまでの火炎と比べて爆発範囲が抑えられている。相手の方も、体力に余裕が無くなってきている証拠だ。

 魔法の行使に必要となってくる魔力。それは人体に宿る生命エネルギーを変換する事で賄われる。つまり、魔法を使えば使うほど、使用者の体力は消耗していくのだ。

 

「ッ……このっ!」

 

 現に、火球を恐れないで接近してくる僕の姿に、ナナセは焦りの色を見せていた。火炎弾を使わず、通常の銃撃で応戦している事から、彼女が体力の温存を図っているのは明らかだ。

 であれば尚更、勝負を長引かせるわけにはいかない。

 

(近づいた! 日本刀の射程圏内!)

 

 降りかかる火球に、前方から飛来する銃弾。

 それら全てを掻い潜り、一切の被弾を許すこと無く。遂に僕は、ナナセとの距離を詰め切った。

 

「な、何なのよアンタ……なんで、アタシがこんなヤツに……!?」

 

 その時、彼女の表情に浮かぶのは驚愕と恐怖が入り混じったもの。今まで剥き出しにしてきていた闘志は、完全に消え去っていた。

 

「我が導は雷光。己が護身を棄てて研ぎ澄まされるは、運命(さだめ)となりし刃なり」

 

 蓄電する日本刀。鞘に納まっていたソレを引き抜くと、蒼白の稲妻が刀身を走った。

 幕引きを告げる居合の一閃が、ナナセの身体を捉える。

 

雷閃(らいせん)不惜身命(ふしゃくしんみょう)!」

 

 迅雷を伴う斬撃の音が、アリーナ全体に轟いた。

 そして訪れる、無音の世界。誰もが決着を悟り、それでいて言葉を発する事を忘れていた。

 やがて、時の流れが正常に戻る頃。最初に聞こえてきたのは、手元から離れたライフルが地面を叩く音だった。

 

「か……あ……?」

 

 悲鳴にもならない、ナナセの掠れた声。

 直後、その身体は前傾を始め、ゆっくりとアリーナの床へと吸い込まれていった。

 

――――ドサリ。

 

 重々しい音を立てて倒れた彼女は、そのまま意識を失ってしまったようだ。

 明確の形で決まった決闘の勝利者。それを知らせるかのように、試合終了のブザーがようやく鳴り響く。

 

「おいマジかよ、勝っちまったぞ!?」

「嘘、信じられない! 相手は特待生だよ!?」

「なにもんだぁアイツ!? まだ入学したばっかの新入生だろ!?」

 

 先程までの静寂が嘘だったかのように、観客席は大騒ぎとなっていた。

 内容は特待生が敗北した事に対する、驚きと困惑。それに加えて、負かしたのが普通の新入生である事も、観客たちの混乱に拍車をかけていた。

 

「…………」

 

 ふと、意識を失ったナナセを見下ろす。地面に横たわったまま動かない彼女の有様は、紛れもなく僕が勝利した事を物語っていた。

 

(勝った……のか。僕が……特待生に?)

 

 一瞬、実感が湧かなかった。だけど、次第に喜びが込み上げてくる。

 そうだ。僕は勝ったんだ。天住七星という特待生を相手に、この決闘を制す事が出来たのだ。

 その事に自覚的になれた途端、勝利の余韻が全身を満たしていくのを感じた。

 

(勝ったよ、アキト……御手洗さん!)

 

 二人が観戦していたアリーナの入場口へ視線を向ける。

 そこには、試合の重苦しい空気から解放され、安堵した表情を浮かべるアキトと――――

 

「…………」

 

 微かに口元を緩ませ、こちらを見つめる御手洗さんがいた。

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