【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】 作:いんせき
「何がアンタのターンよ! ちょっと小突けば倒れちゃう身体のクセに!」
苛立たしげに叫びながら、火炎弾を撃ち上げるナナセ。その狙いは僕ではない。空だ。
高々と打ち上げられた炎の塊が爆散すると同時、多数の炎球が雨のように降り注いでくる。それはまるで、流星群を思わせる光景であった。
「今度こそ終わらせてあげる! スターダスト・ラヴァ!」
周辺に着弾した火球が、爆発と共に火の粉を撒き散らす。
その一つ一つが小さな花火となって咲き乱れる中、僕は動じる素振りも見せずに駆け出した。
(大丈夫だ……この程度の攻撃なら行ける!)
数こそ多いが、さっきまでの火炎と比べて爆発範囲が抑えられている。相手の方も、体力に余裕が無くなってきている証拠だ。
魔法の行使に必要となってくる魔力。それは人体に宿る生命エネルギーを変換する事で賄われる。つまり、魔法を使えば使うほど、使用者の体力は消耗していくのだ。
「ッ……このっ!」
現に、火球を恐れないで接近してくる僕の姿に、ナナセは焦りの色を見せていた。火炎弾を使わず、通常の銃撃で応戦している事から、彼女が体力の温存を図っているのは明らかだ。
であれば尚更、勝負を長引かせるわけにはいかない。
(近づいた! 日本刀の射程圏内!)
降りかかる火球に、前方から飛来する銃弾。
それら全てを掻い潜り、一切の被弾を許すこと無く。遂に僕は、ナナセとの距離を詰め切った。
「な、何なのよアンタ……なんで、アタシがこんなヤツに……!?」
その時、彼女の表情に浮かぶのは驚愕と恐怖が入り混じったもの。今まで剥き出しにしてきていた闘志は、完全に消え去っていた。
「我が導は雷光。己が護身を棄てて研ぎ澄まされるは、
蓄電する日本刀。鞘に納まっていたソレを引き抜くと、蒼白の稲妻が刀身を走った。
幕引きを告げる居合の一閃が、ナナセの身体を捉える。
「
迅雷を伴う斬撃の音が、アリーナ全体に轟いた。
そして訪れる、無音の世界。誰もが決着を悟り、それでいて言葉を発する事を忘れていた。
やがて、時の流れが正常に戻る頃。最初に聞こえてきたのは、手元から離れたライフルが地面を叩く音だった。
「か……あ……?」
悲鳴にもならない、ナナセの掠れた声。
直後、その身体は前傾を始め、ゆっくりとアリーナの床へと吸い込まれていった。
――――ドサリ。
重々しい音を立てて倒れた彼女は、そのまま意識を失ってしまったようだ。
明確の形で決まった決闘の勝利者。それを知らせるかのように、試合終了のブザーがようやく鳴り響く。
「おいマジかよ、勝っちまったぞ!?」
「嘘、信じられない! 相手は特待生だよ!?」
「なにもんだぁアイツ!? まだ入学したばっかの新入生だろ!?」
先程までの静寂が嘘だったかのように、観客席は大騒ぎとなっていた。
内容は特待生が敗北した事に対する、驚きと困惑。それに加えて、負かしたのが普通の新入生である事も、観客たちの混乱に拍車をかけていた。
「…………」
ふと、意識を失ったナナセを見下ろす。地面に横たわったまま動かない彼女の有様は、紛れもなく僕が勝利した事を物語っていた。
(勝った……のか。僕が……特待生に?)
一瞬、実感が湧かなかった。だけど、次第に喜びが込み上げてくる。
そうだ。僕は勝ったんだ。天住七星という特待生を相手に、この決闘を制す事が出来たのだ。
その事に自覚的になれた途端、勝利の余韻が全身を満たしていくのを感じた。
(勝ったよ、アキト……御手洗さん!)
二人が観戦していたアリーナの入場口へ視線を向ける。
そこには、試合の重苦しい空気から解放され、安堵した表情を浮かべるアキトと――――
「…………」
微かに口元を緩ませ、こちらを見つめる御手洗さんがいた。