【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第36話 本当の決着(ザ・デュエル・イズ・オーバー)

「お前が寝ている間、外の世界は様変わりしたんだぜ? どれ、俺がエスコートしてやるよ」

「半日で様変わりする訳ないでしょ、浦島太郎じゃないんだから」

 

 アリーナの外は既に夕暮れ。空を染め上げる茜色が、一日の終わりを告げていた。

 医師から退室の許可を得た僕は、アキトと御手洗さんの三人で帰路につく。歩き始めは足腰がフラついて仕方なかったけれど、アリーナを出る頃には元の調子を取り戻していた。

 

「……?」

「ん? どうしたの、御手洗さん」

 

 歩き出そうとした瞬間、何かを見つけた様子の御手洗さん。視線の先を追うと、通路の傍に生えた樹木が目に入った。

 更に着目すれば、その幹に背中を預けている人影の存在に気付く。その正体を、僕達は知っていた。

 

「ナナセ……さん?」

「あ? 何だよ、アイツ寮に帰ってなかったのか?」

 

 話し声に反応したのか、顔を上げるナナセ。アリーナから出てきた僕達を見つけると、彼女は木陰から出て、こちらへと歩み寄ってきた。

 その間、ナナセは一言も発していない。無神経なまでに多弁、かつ快活な性格は鳴りを潜め、どこか不安げに瞳が揺れている。

 僕達と会話できる距離まで近づくと、ナナセの足はそこで止まった。

 

「…………」

 

 御手洗さんとナナセの視線が交差する。敵意は感じない。お互いがお互いの様子を窺っている状況は、決して居心地の良い物では無かった。

 

「……何か用?」

 

 先に口を開いたのは御手洗さんだ。僕達と談笑していた時と比べ、相手を跳ね除けるかのような冷たさが滲んでいる。

 

「……っ」

 

 一瞬、ナナセの瞳が強く揺れたのは気のせいでは無いだろう。

 だが、すぐに表情を引き締めると、御手洗さんを見据えたまま口を開いた。

 

「アタシ……天住(アマズミ)七星(ナナセ)は、アカデミーの規則に則って決闘に挑んだ。そして今日、アタシはその決闘で負けた」

 

 順序立てて紡がれる言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるかの如く。

 ナナセの声は震えていたが、小声になる事はなかった。

 

「だから、負けた時の要求はキチンと受け入れなきゃいけない……アタシに課せられた要求は、アンタに……いや、貴女に対する侮辱の撤回、及び謝罪」

 

 そこまで言い切った後、ナナセは深々と頭を下げてみせた。

 自身が持ち合わせている謝罪の意思を、明確な形で御手洗さんに示す。

 

「ごめんなさい……アタシ、調子に乗って貴女に酷い事を言っちゃった!」

「…………」

 

 ナナセの謝罪から数秒の間。二人は動く事も喋る事も無かった。

 ナナセの行動に思うところがあるのか、御手洗さんは彼女を見つめたまま沈黙を貫き。

 御手洗さんの返答を待っているのか、ナナセは頭を下げたまま微動だにしない。

 無論、僕とアキトが口を挟む余地など無い。ただひたすら、二人の成り行きを見守った。

 

「……そう」

 

 やがて、御手洗さんが口にしたのは短い一言のみ。許す、許さないのどちらでもない、単なる相槌のような返事だった。

 

「貴女の謝罪は受け取った。それでこの件は終わり」

「…………」

 

 深々と下げていたナナセの頭がゆっくりと上がる。

 その表情は依然として晴れないまま。心中を明かそうとしない御手洗さんの応対に、心にわだかまりが残った様子だった。

 

「えっ?」

 

 御手洗さんから逸れた視線が、僕を捉えて止まる。まさかナナセに見られるとは思わなかった。不意を突かれた僕は思わず、戸惑いの言葉を漏らしてしまう。

 

玲羽(レイバ)……朋稀(トモキ)

 

 それだけ言って、ナナセは踵を返して去っていった。

 男子生徒の平均と同等な背丈を持つ、女性にしては長身のナナセ。そんな彼女が帰り際に見せた背中は、どういう訳か、とても小さな物に見えた。

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