【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】   作:いんせき

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第4話 玉砕から紡がれる友人関係

 学園生活、二日目。先生に案内される形で学園内を巡回したけれど、初日で全ての構造を覚える事は無理だった。なので教室に向かうには、地図が記載されているパンフレットは欠かせない。

 

「……あっ」

 

 開いた自動式のドアから教室に入ると、真っ先に御手洗さんの姿が目に映る。他のクラスメイトがそれぞれのグループで談笑する中、一人、机の上で本――恐らく魔法に関する参考書だろう――と向き合っていた。当然と言うべきか、彼女に話しかけようとする生徒はいない。

 

「…………」

 

 挨拶しても冷たくあしらわれるだろう。そんな確信めいた予感を抱きつつも、僕は御手洗さんの隣へ歩み寄っていく。関わらないという選択肢は、僕の中には存在しなかった。

 

「おはよう、御手洗さん」

 

 教室の話し声がピタリと止まる。同時に、クラスメイトの視線と思わしき気配が僕へ集中している気がした。御手洗さんに話しかける勇気があるなんて、という驚きと感心の入り混じったような雰囲気が、何とも居心地悪く感じる。

 

「…………」

 

 だけども、当の御手洗さんは何の反応も示さない。黙々と本のページを捲り、僕の存在など一切無視しているようだ。それでもめげずに、僕は言葉を続ける事にした。

 

「それって参考書? 魔法関連の……で合ってるのかな。凄いね、朝から勉強してるなんて」

「…………」

 

 言葉を返すどころか、こちらを見る事さえしない。ここまで無視されると流石に辛くなってきてしまう。後ろから誰かの溜息が聞こえてきたのは、きっと気のせいでは無いはずだ。

 脈なし。頭の中に浮かんできた単語は、まさに僕が置かれた状況を的確に表したものと言える。

 

「……じゃあ、またお昼に」

 

 未練がましい言葉を残して、僕は逃げるように自分の席へ着いた。二日目の学園生活は、早くも暗雲が立ち込め始めている。

 

 

「はぁ……お腹すいた」

 

 学園内に設けられた食堂。昼時になれば授業を終えた生徒達が押し寄せ、一瞬にして賑やかな空間となる。注文は食券制。アカデミーの生徒であれば、学生証を提示するだけで無料になる仕組みだ。学割様々である。

 

「オダギリ先生の授業キツいよ……ランニング二十キロって、もう陸上競技じゃん」

 

 さっきまで受けていた体育の授業に対する愚痴を一人で零しながら、注文した定食をカウンターから受け取る。席が埋まっていく最中、空いているテーブルを探そうと周囲を見渡せば、そこにはトレーを持って歩く御手洗さんの姿。

 

「……よし」

 

 今度こそ。そんな意気込みと共に、僕は御手洗さんの方へと足を向けた。

 

「御手洗さん! 食べるなら一緒に――」

「近づかないで」

 

 即答。やはり駄目だった。有無を言わせない物言いに気圧され、思わず立ち止まってしまう。そして御手洗さんは誰もいないテーブルを見つけて、そのまま席に着いてしまった。

 

「あちゃー瞬殺……これで三連敗ってトコだな」

 

 途方に暮れる僕の耳に、不意に声が飛び込んでくる。振り返ってみれば、既にテーブルに座わった一人の男子生徒が僕に視線を向けていた。頭に付けたヘアバンドが特徴的である。

 

「にしても、諦めが悪いよなぁ。あんなにこっ酷く振られたら、普通は一回で心が折れるぜ」

 

 呆れたように――だけど、どこか面白そうに笑いながら彼は言った。初対面のはずなのに、こちらの事を知っているかのような口ぶり。僕は戸惑いながらも、彼と会話を試みる事に決めた。

 

「えっと……誰かな? どこかで会った事、ある?」

「オイオイ、冗談は止せって。俺達、一応クラスメイトなんだぜ? 顔ぐらい覚えてるだろ?」

 

 とても困った事に、僕はクラスメイトの顔を全く覚えていない。入学初日から御手洗さんにばかり目が行ってしまって、それ以外の生徒には全く意識が向いていなかったからだ。つくづく重症だと自覚させられる。

 

「ごめん、覚えていないや」

「……まぁ、そういうこったろうと思ってたよ。でなきゃ氷の令嬢サマに何度もアタックできるワケねぇもんな」

 

 氷の令嬢、というのは御手洗さんを指しているのだろうか。確かに、彼女の反応を鑑みれば納得できる呼び名かもしれない。

 

「しょうがねぇ、改めて自己紹介と行くか。俺の名は万城(バンショウ)明人(アキト)。写真撮影と情報収集が趣味だ。好きなモノは人の噂話と特ダネ。贔屓にしてくれるってんなら、多種多様な情報を提供してやるぜ?」

「……玲羽朋稀。僕の事はトモキって呼んで欲しいな」

「だったら俺の事はアキトだ。いい加減、立ってるのも疲れたろ? ホラ、ここ空いてっから座りな」

「ありがとうアキト。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 僕の心に少しだけ余裕が生まれたせいなのか、自然と笑みが浮かんできた。

 この学園で初めて意識した相手が御手洗さんであるなら。この学園で初めて出来た友達はアキトだった。

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