【第一章・完】拝啓、マイネイバー【更新休止】 作:いんせき
土曜日の朝。本来なら休みとなるはずの今日は、アカデミーの生徒全員が登校する事になっている。二日も経てば教室までの道順を覚えるもので、僕は迷うことなく教室へと辿り着いた。
「あれ……?」
教室に入った途端、違和感が脳裏を掠めた。普段なら――と言っても、まだ三日目だが――既に登校している筈の御手洗さんの姿が無い。クラスメイトの殆どが登校しており、楽しそうに雑談をしているというのに。どういう訳か、御手洗さんは教室の何処にも見当たらないのだ。
「よっ、トモキ! どうした、豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔してるぜ」
不思議に思いながらも自分の席に着くと、同じクラスのアキトが僕に話しかけてきた。
「おはようアキト。実はさ……」
挨拶もそこそこに、先程の疑問を口にする。御手洗さんが教室にいない事をアキトに伝えると、彼は一人で納得するように首を縦に振ってみせた。
「あー、それか。そりゃ気になるか。
「……むしろ他が御手洗さんに無関心過ぎるんだよ」
他のクラスメイトとの接点が皆無だったとはいえ、最初から彼女を存在しないモノとして扱うような空気。誰一人として御手洗さんの事を話題に出さない現状は、僕にとって酷く冷たく感じられた。
「まぁ、その意見には俺も共感だ。友人としてな。で、氷女サマがいない理由が知りたいんだよな? 幸運だぜお前。俺というパートナーがいるんだからな」
「知っているのかい?」
僕の問いに対し、アキトは得意げな笑みを浮かべる。
「言ったろ? 俺の趣味は情報集めだ。アカデミーの情報網を舐めて貰っちゃ困るぜ」
「情報網って……君まだ入学三日目でしょ」
「細かい事は気にすんな。それじゃあ話すぜ、氷女サマの事」
軽く咳払いした後、アキトは語り始めた。
「そもそもトモキ、どうして今日が登校日なのか分かるか?」
「えっ? それは……今日は学園の方でイベントがあるからでしょ? 確か、魔法を扱うアカデミーだからこそ出来る行事とか何とか」
「そう、他じゃ絶対に出来ない特別な行事だ。そいつが今日、俺たち新入生へ向けて披露される。そして、その主役こそが……」
アキトはそこまで言うと、勿体ぶるように間を溜めてくる。相手の期待を煽ってくるような出し惜しみの仕方だが、当の僕には先が読めてしまっていた。
「御手洗さん、でしょ」
「その通り! 他ならぬ氷の令嬢サマが、本日のメインを務めるのさ! って、先に言われたら溜めた意味が無いだろ!」
「だって、今の流れだとそうとしか思えないじゃないか」
「それはそうだけど……お前、意外とノリ悪いのな」
理解は出来るが納得は出来ない。そういった複雑そうな表情で愚痴を漏らしてくる。ちょっと理不尽な気もするけど……話の腰を折ってしまった自覚はある。ここは謝っておこう。
「ごめん、今のは不適切だったね。それより、御手洗さんが教室にいないのは、その行事の準備があるからなんだよね。一体、何が行われるの?」
「氷女サマがいない理由はそれで合ってるとして……そうだな。簡単に言ってしえば、一対一の決闘だ」
「けっ……とう?」
あまりに予想外な単語に、僕は驚きを隠せなかった。御手洗さんが決闘? それがアカデミー特有らしい特別な行事だというのか。
与えられた情報を整理しようと頭を働かせるも、アキトの方が早かった。僕が言葉の意味を理解する前に、彼は詳細を話し始める。
「この学園には日本だけじゃなく、世界中の国から生徒が集まっているのは知ってるよな? 生徒同士の衝突が起こらないよう、学園側で配慮はしてくれるが……それでも、価値観の違いから生じる喧嘩やトラブルは絶えないモンだ。そうしたイザコザを後腐れなく解決する為、用意されたのが決闘制度なのさ」
「は、はぁ……」
曖昧な返事しか出来ない僕に対して、アキトは説明を続ける。
まず決闘は週に一回、土曜日に開催される事になっている。ルールは至極単純。相手を戦闘不能にする、もしくは降参させるまで戦うといったものだ。その際、武器の使用が許可されており、魔法と武器を併用した戦い方が基本だという。
そして決闘で勝った者は、負けた者に対して要求を一つ通す事が出来る。相手の尊厳を著しく傷つけるようなモノで無ければ、大抵の要求が通るらしい。以上が、アキトが教えてくれた決闘の内容である。
「どうだ? 分かり易くて良いだろ?」
説明を終えたアキトは自慢げに胸を張る。どうして彼が誇らしげなのかは分からないが、確かに分かり易い説明だったので聞く側としては助かった。
「ちなみに、今回の奴はアカデミーのルールを新入生に教える為のデモンストレーションみたいなモンだ。故に勝ちも負けも無し。ただ単純に、観客に向けたパフォーマンスを披露するってワケ」
「大体分かったけど……その決闘にどうして御手洗さんが出場する事になったのさ」
一番の疑問はそこだった。御手洗さんとて、アカデミーに入学したばかりのはず。それなのに何故、実力が求められる決闘に出る羽目になったのだろうか。
「ああ、それはだな――」
アキトが言いかけた所で鳴り響くチャイム。それと同時に教室へ入ってくる担任のオダギリ先生。その姿を見て、クラスメイト達は慌てて自分の席へと戻っていった。
「やべっ、もうホームルームの時間だ! わりぃ、続きはアリーナで話すぜ! 隣の席は確保してやるからよ!」
「あ、アリーナ……?」
新たなワードに疑問符を浮かべる僕を他所に、アキトは素早く自分の座席に戻っていく。肝心な所は聞けずじまいになってしまったが……まぁ、仕方ないか。
朝のホームルームで決闘について説明された後、僕を含めたクラス全員はアリーナと呼ばれる場所へ移動する事となった。