創造
Briah―
死森の薔薇騎士
Der Rosenkavalier Schwarzwald
──世界がヒビ割れ、崩れ去っていく。白昼の殺風景な平原に"夜"が顕現する。赤い満月が空を覆い、周囲に血臭と腐臭が充満する夜魔の世界となっていく。周りの木々は砂となり、辺りにはこれまでの犠牲者たちの死体や、それのゼリー状の粘塊となった血と臓物が這い回る腐り果てた血の海が広がる。
生を拒み生きるもの全てを鏖殺する夜の中に居てなお、イグニスは闘志を漲らせていた。その事実にヴィルヘルムは僅かに瞠目してしまう。それを悟らせないように軽口を叩く。
「ようこそ、俺の夜に。歓迎するぜ?イグニス、お前が1人目だ。」
「それはそれは恐縮な事で。願い下げだ馬鹿野郎が。」
(これが創造位階、とんでもねぇなこりゃあ。これがあれば勝ち目も見えてくるってもんだ。だが......こいつ、なんで平気な面してんだ?現在進行形で俺の身体能力が強化されてるから、一応吸収できてはいるんだろうが....)
(..... 攻撃を受けた時の力の抜けを常に感じる、しかも強くなったな。この異界のせいか?中々エグいな。時間をかければかけるほどに向こうの有利になるから短期決戦に持ち込まねぇと負ける。....ハッ、さっきとはまるで立場が逆だな。そしてこのアーツの挙動を見るに逃げられなさそうだし、壁を壊す間に殺されかねん。それにしても、1人のアーツだけでここまでの影響力を持つことなんて有り得るのか?いや...そもそもこれはアーツ能力なのか?はは、学者でもないのに好奇心が燻ってしょうがない。)
この様子である。まるで意に介していない。
(めっちゃ険しい顔しながら何か考えてんだけど、まさか仲間になるの取り下げようかなとか考えてないよな?ただ吸収に苦しんでるだけだよな?)
ただ熟考してるだけです。
しかしいくら能力をダウングレードされているとはいえ、十全に力を使えば一般人程度、夜に取り込まれた瞬間にそこら中にある肉塊の一部になっている程度の出力を有しているはずである。
では何故この男は無事に居られるのか、それは主に二つの理由がある。
一つはこの聖遺物との適合率が低いということ。それによって聖遺物本来の力を引き出し切れていない。時間が解決する問題ではあるが、今この場においては致命的に過ぎる。
もう一つは、ぶっちゃけるとこいつが強すぎるだけ。
やってることは単純で、半ば無意識でアーツを使って創造位階の能力を7割強レジストしてる。まるで意味がわからん、どうやったら中尉の創造位階に真っ向から戦えるようになるんだよ。
当人たちはそんなことは露ほども知らずに、戦いを加速させ続ける。
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切っ先が交差する。
幾度にも振るわれる剣戟。
幾重もの剣閃。
弾け、いくつもの火花を生む大剣と刀。
本来交じり合うことの無いそれらは、人外の力と技とで殺意を宿し、振るわれ、差し合う。
「シィ──!」
ヴィルヘルム力強く踏み込み、斬り込む。
それをイグニスはアーツと独特の歩法を織り交ぜ、躱す。
「どうなってんだよそれ!反則だろうが!」
届いている筈なのに届かない。
そんな錯覚を覚え、ヴィルヘルムは更に攻勢を強める。
それに対し変わらず躱し、僅かな隙を突き反撃するイグニス。
「お前が言えたことかよ、ブーメランって知ってるか?」
「なんの事だかっ、なぁ!」
斬る。躱す。反撃。躱す。追撃。防ぐ。斬る。
さながら千日手の様であったが、イグニスのため息一つと共にそれは一変した。
それを肌で感じとったヴィルヘルムは歯を剥き出しにして破顔する。だが、最も肝心なことには気づけていなかった。
「チッ....鬱陶しいにも程がある。仕方ない、ここまでする気はなかったんだが。」
挑戦者と迎え撃つ者という構図から、対等な立場へと変わった事の意味を、理解していなかった。
煙の騎士が本腰を入れて殺しに行くことの意味を。
「ようやく殺す気になったか?遅いにも程が───は?」
気づけば、斬られていた。
瞬きほどの間もなく右腕を義手刀ごと飛ばされ、脇腹を抉られた。
気を抜きかけていたとはいえ僅かに姿を見ることしかできなかった。
その事実に最早苦笑することしか出来なかった。
「はは、バケモンが。これが煙の騎士の本気かよ。って危ねぇ!」
隙を埋めるようにして放たれる煙の奔流を避け、余裕ありげに悪態をつき杭で腕を回収しながら思案するが、内心は穏やかではなかった。
(見ることしかできなかった。早すぎるぜあれ。
てかまさかとは思うが....嘘だろ、今の攻撃で夜に亀裂が入りやがった。怪物にも程があるだろうが!こんなことで短時間しか維持できなくなるなんてことありかよ。こうなっちまった以上次で決めるしかない。
それに...俺自身も限界が近いしな。)
常に劣勢の中続いた戦闘。創造位階の発現。度重なる負傷。焦点の合わない視界。戦闘の激しさに反して冷えていく体。次第に近づいてくる死の気配。
この状況下で戦い続けたことでヴィルヘルムの精神も肉体も疲弊しきっていた。だが一方でイグニスの消耗も無視できないものだということも理解していた。原典に比べれば小指の先程の出力だろうとこの夜の中において長く生きられる者などいるはずも無いのだから。
(とはいえ、もう決めないとジリ貧だな。...次か?)
これらの状況を元に、ひっくり返されることを覚悟で持久戦に持ち込むか、刺し違える覚悟で決めに行くかを天秤に掛け、次で決めることを決意した。
「おい、次で終わらせるぞ。」
「なんだ、もう限界か。まぁガキにしては頑張ったじゃないか?」
「抜かせ。あんたにはこの夜が苦しくてしょうがないだろうと言う俺なりの優しさだ。涙流して感謝しやがれ。オッサン。」
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戦いが終わりに近づく中、二人の少女が少し...いやかなり焦っていた。
「あのバカ、本当に仲間に迎え入れる気があるのかしら!?今すぐ殺したくてしょうがなさそうだけど。」
「最低でもどちらかが倒れるまでは止まらないだろう。....まぁ、そのうち終わるだろうが。」
「本当に終わ───ねぇ、あれはマズくないかしら...?」
「どういう───あれは、マズイな。」
寒気を感じ視線を向ければ、離れた所からでも感じられるほどに冷たく、重苦しい殺意に満ちていた。
「あれは流石に止めないと死ぬぞ...!」
本当に止めなければ、と剣を握ったその時
────ピキ
何かがキレる音がした
「───もういいわ、そんなに死にたいなら纏めて吹き飛ばしてあげる。」
ゆらゆらと立ち上がったWがイイ笑顔でブチ切れた。
「お、おい待て。今割り入るのは危険「黙りなさい」.....」
「言ってやらないといけないことができたの。邪魔しないで。」
ゴゴゴゴゴ...という奇妙な効果音が聞こえそうなほど、そのときの歩くWの背中は大きく見えたと後のスルトは語った。
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「...行くぞ。」
「来い、若造。」
その掛け合いと同時に両者が動く。だが両者の動きは対極であった。
片や即座に駆け、片や集中しているのか、目を瞑り佇んでいる。
あと3歩、剣にアーツが迸る。まだ動かない。
あと2歩。剣を構える。緩く切っ先を向ける。
あと1歩。斬り掛る。まだ構えたまま。
そして
あと0歩。首に切っ先が近づく。遂に動いた。
ダァン!
「ッ!?なっ、んだとぉ!」
「相手の武装をよく見てないからだぜ?バァカ!」
イグニスの体制を崩したのは、これまで1度として抜かなかった
「ヒャハハハハ!あの世で後悔してなぁ!」
心臓に剣先を向け狂笑する。本来狩人ならば鎧だろうが素手で貫いて内蔵をブチ撒けるのだが、鎧に阻まれるため剣で心臓を穿つ。
「これで終わりだァ!」
そこに不穏な影がひとつ。
「止めなさいこのバカ」
ドゴォン!
「ぐおぉぉ!?」「なンだァ!?」
影の主は、両手に
「やりすぎなのよ!何考えてんの!?」
そう怒鳴る声を最後にヴィルヘルムの意識は途絶えた。
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「あんたら何やってたか分かってんの?」
「「すみませんでした。」」
2人仲良くぶっ飛ばされた後、目を覚ました俺達はWにしこたま怒られていた。
「仲間に迎えるための戦いだったのにいつの間にか本気の殺し合いに発展してた。」
「怖いもんだよなぁ?」
「私が怖いのはそういう考えになるあんたらの思考回路よ。」
それに、とWが続け、
「あんたの目標が定まったのはいいけど、実際どうすんのよ。最強がどうのでしょ?」
「あぁ、あれね。そのうちなれるだろうよ。」
「随分楽観的じゃない、自分がそれだけ強くなれると思ってるの?」
「なれるんじゃねぇかなとは思ってるぜ?だってイグニス相手にいい戦いできたしさ。」
Wがそれを聞いて思い出したように話す
「そうよ、イグニス!あんた何者なの?傭兵なんかじゃないでしょ。」
「それについては私も気になっていた。どこの組織に属していたんだ?」
「組織か...なんと言ったものか...」
さすがのイグニスも立て続けに質問責めをされて困っているらしい。助け舟とは違うが、口を挟もうかな。知りたいことたくさんあるし。
「カジミエージュとかか?騎士競技とかいうのがあっただろ、あの国。それに出てたとか?」
「知っているのか、存外博識なんだな。かつては出場していた。」
「まぁ傭兵やってりゃ色々情報も入ってくるもんよ。そんで、競技騎士はだいたい2文字の2つ名で呼ばれてんだったな?なんて呼ばれてたんだ?」
「最近興ったばかりなのだがな......煙騎士と呼ばれていた。呼ばれ始めてすぐに去ったから、この名は無いようなものだ。」
「...まぁ、そんな気はしてたが。1文字かぁ。」
「1文字だとどう違うの?」
「そういやWたちは知らんよな。1文字の奴は相当の実力者だったはずだぜ、例えばチャンピオンとかな。」
「あれだけ強ければ納得ではあるわ。でもどうしてこっちに来たのよ。向こうにいれば金だっていくらでも入ってくるでしょ?」
「騎士競技を運営している連中は拝金主義ばかりな上、スポンサーの援助を受けようとしない俺は競技内外で妨害を受けていた。その上で優勝したがな。たしかこの間の騎士競技は黒騎士という者が優勝したらしい。捕まっている時に聞いた。」
そう零したイグニスを尻目に、ヴィルヘルムは必死に頭を回していた。
(待て待て待て、この間の競技は黒騎士が優勝したって言ったのか?この言い草だと黒騎士が優勝したのは今回が初だな。そんで黒騎士が初優勝したのはニアーライトがドクター起床から1年後に起きて、それから十五年前の出来事だ。つまり今現在の時間的に原作開始14年程度前って訳だな。...原作開始までだいぶ時間あるなぁ。)
はぁ〜あ、と思わずため息を漏らしてしまう。
「?どうかしたの?」
「いや、何でもねぇわ。それで、なんの話してたっけ?」
「カジミエーシュからここまでの道のりの話よ...流石に吹き飛ばしすぎたかしら。」
「自覚があるなら...いや、あれは俺が悪かったしな。それはいいんだけど、腹減ったわ。なんか食おうぜ?」
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「いやぁ良かった、あいつら食料多めに持ってて助かったぜ。にしてもじゃがいも多くね?」
先の戦闘とは打って変わって、窓越しに美しい夜空を眺められる部屋にて、テーブルを囲んだ4人の間にはゆったりとした空気が流れていた。
「いいじゃない、じゃがいも。私は嫌いじゃないわ。確かに多いけど。」
「私は食えればいいが。」
「そういう割には食うペース早いじゃねぇの。実はじゃがいも好きだな?」
「そこそこ。...あんた、捕まってる間水だけの生活だった割にはよく食べるな。」
「元々体は丈夫なんだ、あの程度ならなんともない。」
「競技騎士はどいつもこいつもこんなに頑丈なのか...?」
「いやさすがにイグニスくらいなもんだろ...だよな?」
「実力だけで言えば、俺に迫る奴は片手で数えられる程度しかいない。それを踏まえれば、まぁそうはいないだろう。」
「そうだ、今度カジミエーシュの料理食べてみてぇ、作れるか?」
「任せろ、1人で生活するには料理の腕は必須だったからな、一通り作れる。」
((こいつ、もしかして私より料理ができるの/できるのか...!?))
(こいつら顔に何考えてるか出すぎだろ...w)
どうやらこの乙女たちにはイグニスより料理ができない事が余程ショックだったらしい。そして乙女たちは決意した。
「ちょっとイグニス、その料理私にも教えてよ。」
「私にも教えろ。」
「そ、そんなに知りたいか?まぁカジミエーシュの料理は簡単なものが多いから、2人ならすぐに覚えられるだろう。」
「忘れないでよ?」
(あれ?そういやカジミエーシュの料理って確かジャンク...まだだっけ?)
後に料理を教わった2人が、こんなの私の知ってる料理じゃない!と逆ギレするのは先のお話。
第7話投稿日→2月1日
第8話投稿日→2月28日
あれぇ?おかしいぞぉ( ᐕ)?
すみません本っ当に長らくお待たせ致しました。ようやく身の回りの事が落ち着いたので更新した次第です。
という訳で創造位階到達と決着、そしてアクナイ二次創作だと割と致命傷になりがち(偏見)な主人公の今の時系列を明記しました。
いやぁ、主人公がエヴェリン持ってる事忘れてた人多いんじゃないでしょうか、だって私も銃パリィの下り書くまで忘れてましたもん(重罪)。まぁどれもこれも私の更新ペースクッソ遅いからなんですが。是非もないよネ!
ヒロインをモスティマとWとシュヴァルツの内から選びたいんだけど誰がいい?
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モスティマ
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W
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シュヴァルツ