イグニスを仲間に迎え入れてから数ヶ月が過ぎたが、案の定というか、天然というかブッ飛んでるというか、そんな感じだった。
常識はあるし俺たちを諌めようとしたりするんだけど、
(ソロソロ、ソノヘンデヤメメオケ。 オマエホドノヒトガイウナラ...)
たまにアクセルベタ踏みで悪ノリに乗ってくる1人は絶対欲しいタイプの友人だわ。前世の俺はいたんだろうか、こういう友人。
(ハデニヤルジャネェカ。 コレカラマイニチサルカズヤコウゼ?モットモエレバイイワ!)
......もしかしてイグニスって転生者か?ノリがマジで日本人なんだよ。いや、考えすぎか。さすがに...さすがにだよな。
それはそうと、最近は金に余裕ができたらWとスルトの2人に料理を教えてる。前にイグニスが教えてたんだけど、その......率直に言うと壊滅的だった。そこで俺が作ったら好評だったから俺が教える流れになった。ただ、年頃の乙女たちにはふわふわのオムライスもどきは刺激が強すぎたかもしれない。めちゃめちゃ目を輝かせてたよ。おかげでその時の俺を見るイグニスの表情は筆舌に尽くし難いものだったけど。
これまで飯はどうしてたかって?クソ不味いレーションか乾パンもどきと干物くらいなもんだよ。こんなものしか食べられないカズデルで育つから多数の人間から「サルカズはクソ(意訳)」って言われるんだよ。
そんなカズデルだからか、傭兵始めた頃とかサルカズな上にガキだったから今じゃ考えられないくらい安い額を出されていた。今となってはそんな話は無縁だけど。
それまた何でかっつうと、色々やった。
そもそも、まだ子供と言ってもいいような奴らが抹殺と護衛の依頼はしくじった事がないうえ、釣り合わない額を吹っ掛けたやつには警告として数人殺すのは当たり前、潰そうと画策した奴は1人残らずグロテスクなオブジェに変貌しているので、そんな奴を嵌めようとする度胸のある人間はいなくなっていった。そのせいで以来の数が減って収入が危うくなって全員からガチ説教されてしまったが。
そんなことを考えながら
「ねぇ、あんたはこの先どうするの?」
「......?話が見えてこないんだが。どういう事だ?」
あぁ、ごめんなさい と言葉を続けて
「私の勘だけど、あんたはそのうちカズデルから出ていきそうだから、行先くらい知っておきたいのよ。連絡を取る手段もあまりないわけだし。」
「...バレてたか。そうだな、あと1、2年したら旅をしようと思ってる。もしくはトランスポーターなんかになっても面白いかもな。」
「...そう。なら次に会うのはここか、地獄かのどっちかでしょうね。」
「なんだ、着いてこないのか?イグニスやスルトはともかく、お前は着いてくるんじゃないかと思ってたが。」
「そうよ。.....何よ、その顔。もしかして寂しくなるな、なんてらしくもなく考えてたの?」
「そうだけど?なんせお前と一緒に戦ったり他愛もない会話をするのが好きだからな。いろんなところを巡りながらそれをできたらどれだけ楽しいだろうか。なんて考えてたくらいだし。」
「.........。」
「ははっ、顔赤くしてやがる。何照れてんだよ。」
「う、うっさいわね!黙りなさい!」
「へいへい。...あ、わりぃ。そっちの胡椒取ってくれ。」
「はぁ...はい。」
「ありがとさん。」
「......やっぱり、撤回するわ。もう少しだけ、あんたと一緒にいたい。」
溜息をつきつつも、なんだかんだWは調味料を取ってくれる。可愛いヤツめ。
そうしてまたゆったりとした時間が流れていく。戦場には不釣り合いな程に、ここの空気は人を優しく包み込む。俺はこの時間が好きだ。
もう何も覚えていない前世を思い出せそうなこの優しい空間が好きだ。
......なぜだか、無性に泣きたくなる。
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それから、何処に行こうか悩んでいた時のことだった。
「にしても、どこに行ったもんかなー。」
「どこか行く予定でもあるのか?」
「あぁ、そういや言ってなかったな。そのうち
「そういう事か。なら比較的近場のシラクーザはどうだ?」
「えー、シラクーザかぁ。その心は?」
「俺にツテがある、安全に通過できるはずだ。それに食料も補給できる。お前の理想形なんじゃないか?」
「ん~、だったら、シラクーザ行くかぁ。」
「乗り気じゃないな、嫌な思い出でもあるのか?」
「まあ、少しな。語るほどのことじゃない。そんなことより、決まったから行く準備し始めるぞ。」
「わかった。いつ出発するんだ?」
「ある程度情報収集をしたいから二日後に出る。準備してくれ。スルトたちには俺が説明する。」
「了解した。」
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「ようこそ、ゆっくりしていってくれ。久々に昔馴染みの顔を見れて嬉しいよ。」
「ああ、もう十年になるか、あの戦いから。随分と丸くなったようだな。」
「私もこの年なんだ、落ち着きを持たないとね。どのくらい滞在するつもりなんだい?」
「そうですね、諸々の補給と装備を整えたい。ですが、私としても長居はできないので、今日中に準備を整え、終わり次第出立いたします。その間使える部屋をお貸しいただきたい。」
「わかった。短い間にはなるが、シラクーザを楽しんでいってくれ。」
「もうちょっといてもいいんじゃない?」
「そういう訳にもいかないんでな。」
シラクーザに着いた俺たちは、イグニスの古い友人に世話になっていた。
「こんなところに知り合いがいるなんて、あんたの人脈の広さには驚かされたわ。」
「まったくだ、さすがに俺たちより長く生きてるだけあるな。」
「おいおい、言い方ってものがあるだろうが。それにまだ四十代だ、間違えないように。」
「わかったよ、おっさん。」
「おっさん言うな。」
「もういいだろ、私はさっさと休みたい。」
「ボクはどっちでもいいよ。」
「それもそうだな。では、案内していただけますか?」
「この者たちに案内させましょう。任せたぞ。」
「はい。」
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「こちらです。どうぞご自由にお使いください。」
「ご苦労、下がってくれ。」
「わかりました。」
「...さて、行ったか。それで、何故その少女はお前から離れないんだ?何やら顔見知りらしいが。」
「いやこっちが聞きてえよ。偶然道端ですれ違っただけなのにここに入れるようなやつとか分かるわけないだろ。
「あら、てっきり私の時みたいにその辺で口説いてきたのかと思ったけど、違うのね。節操なしさん?」
「へえ、そんなことあったんだ。遊び慣れてるんだね?」
「いや言い方...てかお前さんの名前は何て言うんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?ラップランドって言うんだ。忘れないでよ?」
......あ?
「ラップランドォ!?」
「うるさい!」
「なんだ、知ってるんじゃないか。」
なんで関わりのないラップランドがついてくんの???
「もしかして俺と昔会ったことある?」
「んー...いや、無いかな。というか、ボクの名前知ってた風だね。どこで知ったんだい?」
あー、これどうしようか。正直に言っておこうか...?こいつに嘘を言ったところで感づかれて不信を買うだけだし。
「昔シラクーザに来たことがあってな、その時に世話になった人がお前さんの名前を言ってたんだよ。」
「あのときは...酷かったな。私たち二人には荷が重かった。」
「死なにゃ安い。...あれから結構経つな、俺たちがまだ小さい頃だったか。」
「その言い方はやめろ、まるで私が年を取ったみたいだ。」
「ガキから成長したと考えればいいだろ、幼いころより今のスルトの方が俺は好きだぞ?」
「...そう。」
「ボクをほったらかしにしないでよ、寂しいじゃないか。...ところで、ここを出たらどこに行くんだい?」
「ああ、リターニアにでも行こうかって考えてる。近いし、いろいろ集まるからな。まさか、ついてこようとか考えてるんじゃないだろうな?」
「まさか、興味本位だよ。ボクがそんなことをするとでも思ったのかい?」
「ここまでついてこられたらな。」
「彼には世話になったことがあったからね、すんなり通してくれたよ。」
「そうかぁ。そんで、なんで俺についてきたんだ?」
「なんでって...気まぐれ?」
「気まぐれかよ、なんとなくわかってたけど。」
「でもどこかで会った気がするんだよね、君とは。」
「前来た時に顔を合わせたことがあったか?お前みたいな綺麗なやつを忘れたりはしないはずだから、見間違いだと思うんだけど。」
正直シラクーザに言った時の思い出なんて襲ってきた連中をほとんど殺したくらいしかないから、久しぶり!なんて嘘をつかれても分からない。
「...やっぱり遊び慣れてるんじゃない?」
「まさか。これまでほとんどの時間をカズデルで過ごしてきた男にそんな時間があるとでも?」
「......もしかして彼、あれを素で言ってるの?」
「そうね。」
「そうだな。」
「そうらしい。」
「......」
「さて、予定の再確認だ。物資の補給と装備の点検をすませる。だが、シラクーザは何かと物騒だ。面倒事に絡まれちゃ面倒だ。今日中に全て済ませて出立する。幸い、ここに着くまで装備に致命的な損耗はない。手早く、丁寧にやれよ。それで...」
と1拍置き、皆一様に面倒そうにラップランドを見つめる。当の本人はなぜそのような顔を向けられているか理解していないらしい。やっぱり前世から思ってたけどかわいいな。
「こいつこのまま置いてていいか?帰らせるのもめんどくさいし。」
「...こいつが現地民と確執があったらもっと面倒よ、残らせなさい。」
「そうだよなぁ、すまんラップランド、俺たちが買い物に行く間ここに残っててくれないか?」
「んー、嫌だって言ったら?」
「...俺としては友人を傷つけるは心苦しいんだが。」
「へぇ?」
あわや一触即発というところで、イグニスが声を上げた。
「ラップランドといったか、今年で年はいくつになる。」
「なんだい急に...十代だけど。」
「若いな、この都市を出たことは?」
「無いよ。この問答に意味はあるのかい?」
「狭苦しかったんじゃないか?シラクーザの中だけで生きるのは。」
「...さあね、そもそもこの外を知らないから狭いと感じたことはないよ。」
「知りたくはないか?外の世界を。」
「...ふぅん、君が教えてくれるのかい?」
「ああ、すべて話そう。
ウルサスの凍原、リターニアの美しい街並み、レム・ビリトンの仄暗い人々の暮らし...そして、カジミエーシュのクソッタレな栄光も。」
吐き気を催すものを思い出すかのような、嚙み潰すような表情で語るイグニス。それを見たラップランドは少しを考えるようなそぶりをして、
「いいよ、聞かせて?君が見たもの、聞いたもの、経験したもの。全部をさ。」
「と、言うわけで。俺たちはここに残っている。パパっと決めてくれ。」
「飲み物取ってくるよ。長くなるんでしょ?」
「俺も行こう。」
先ほどまでの張り詰めた空気から打って変わって、和やかな雰囲気を纏った二人は足並みをそろえて部屋を出て行った。
「...助けられたな。」
「ええ、少しは見直してもいいかも。」
いつもぞんざいな扱いを受けている、半ば居候のようなイグニスだが、いざという時の頼れる背中は、全幅の信頼を置くに足りると思わせた。
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「おーい、こっちは終わっ、た...ぞ。」
あれから買い物を済ませた俺たちは部屋で話しているイグニスたちを呼びに来ていた。2人はまるで父と娘のように話していて、思わず声を小さくしてしまったが、2人には聞こえていたらしい。
「おお、終わったか。」
「もう終わり?」
「すまんな、また機会があったら話そう。」
「しょうがないな、絶対来てよ?」
「もちろん、とは言えないな。今の俺たちは傭兵だ、ここを出た次の日にはのたれ死んでるかもしれん。ただ、我らのリーダーはとても強い。そう簡単には死なないさ。」
「...フフ、なんだか、キミがボクの父親みたいだね。父親のことなんて、ほとんど覚えて無いのにさ。」
「...あいつは、違うのか。」
「あいつ?ああ、ここの家主のこと?彼も可哀想だね。ボクを押し付けられるなんて。」
「──そういう、事か。」
何かを悟ったように呟くと、イグニスはすぐに俯いてしまった。
「おい、イグニス...!」
俯くイグニスに問いかけるも、血が滲み出るほどに握りしめられた両手を見て、俺はなぜイグニスがそのようにしているのか理解してしまった。
「そういう事か。そういえば、そんな文化があったんだったな。」
前世でアークナイツで遊んでたときに、今でも印象に残ってたものの一つに、ラップランドのプロファイルがある。
彼女はヒトリオオカミだ。ヒトリオオカミとは、認められなかったループス族にに使われる俗語だ。永遠に深い傷を抱え、両親を失い、二度と他の一族のために身を捧げることもないという。
だがその実態は捧げることすら許されない孤独と排斥だったという訳だ。
前世ではこの事に衝撃を受け、悲しんだものだが、今こうしてテラの大地に生きている俺には、ありふれた悲劇のようにしか思えなかった。
「そうか...おい、ラップランド。お前どうするんだ?」
「え、どうするって?」
「このままシラクーザに残るか?」
「そのつもりだよ。ボクにはまだやらなきゃ行けないことがあるからね。」
「何をするんだ?」
「ボクの両親を殺したやつを殺すんだ。そうしなきゃ、ボクはここから離れられないよ。」
「...わかった。絶対見つけろよ。
ちなみになんだが、そいつを見たことや、心当たりは無いのか?」
「ん〜、わかることと言えば、ボクの両親も、そのまわりにいた人も、体に風穴が空いていたり、焼かれたりしていた事だけだね。」
「────、それだけじゃ中々見つけられないな...わかった。何か情報を掴んで予定が噛み合えばここに寄るわ。」
「本当かい?助かるよ。まぁ、キミが来る前に殺せていればそれに越したことは無いけどね。」
「全くだ。それじゃ、俺たちは色々買ってくるわ。じゃあな。」
「見送りくらいはするよ。」
「続きはここを出て、また出会ったら話そう。」
「ボクのいない間に話を増やしておいてよ?」
「また会いましょ。」
「またな。」
お久しぶりです。大学とバイトが忙しすぎて時間が...お許しください!
どうやら主人公くんの前世の記憶が薄れているようです。まあ、前世は前世、今世は今世です。何十年前も昔のことなんて、よっぽどの事じゃないと覚えてられないでしょう。
さて、ラップランドの身の上話を聞いた主人公くんですが、何かに勘づいたようですね。何に勘づいたのでしょうね。
追記、アンケートはひとまず締め切ります。皆様、投票ありがとうございました。
ヒロインをモスティマとWとシュヴァルツの内から選びたいんだけど誰がいい?
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モスティマ
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W
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シュヴァルツ