『僕の両親とその周りの人の死体は風穴が空いてたり、焼かれてたよ。』
この言葉を聞いた時、世界から音と体温が消えたのを覚えている。
そこからしばらくのことは覚えていない。
気づけばラップランドに見送られようとしていた。
どうやら俺はラップランドの両親を殺したやつの手がかりを押さえたらここに寄ると約束したらしい。
絶対見つけろよだと?どの口で言っているんだ。俺が殺したんだろうが。ゴミクズが。
成り行きであれなんであれ、ラップランドを孤独においやったのもスルトに罪過を背負わせたのもイグニスにあんな後悔を抱かせたのも全て俺自身だ。俺がやったことが招いた事態だ。
......何がいけなかった?
シラクーザに行ったことか?
イグニスを拾ったことか?
Wを連れ回したことか?
スルトを丸め込んだことか?
...そもそも、俺が生まれて来なければよかったのか?
なんだ、簡単な事じゃないか。
元を辿れば俺のせいじゃないか。
あの上位者に頼んで
ああ、俺は、きっと。
こんな事になるなら俺はきっとこの世界に生まれてくるべきじゃなかったんだ。
カチ
「──何やってんの?」
「!ああ、Wか。何やってるって?俺はずっとここでぼーっと...」
「言ってる意味がわからない?あんたの、自分に頭に向けてるその銃は何なのって聞いてるんだけど。」
「え?」
Wに言われて俺はようやく、俺が銃口を自分のこめかみに向けていたことに気づいた。
「あ、ああ、これか、これはその、あれだ。そういうことをしたい日だってあるだろ?」
「死にたがりたい日があるのかしら。毎日が楽しくてしょうがないって顔してるあんたが?」
「......。」
参ったな。迂闊なことするんじゃなかった。
「ラップランド。」
「───ッ」
「やっぱりね。あいつの親を殺したの、あんたでしょ。あれからずっと様子がおかしかったもの。どうせあの女にも勘づかれてるわよ。」
「それは...申し訳ないな...。わかった、切り替えるよ。もう過ぎたことだ。いちいち気にしてられ」
────パシィン!
「あんたねぇ...!私たちがどれだけあんたを心配してたかわかる!?あんたがそんなに辛そうにしてるのに私たちがあんたを放っておくと思う!?せめて溜め込んでること全部は話すなりしなさいよ!」
「──はは、こうやって叱られるのは久しぶりだな。」
「...まさか、あんたスルトも怒らせたの?」
「カズデルに来る時に少しな。」
「はぁ、あんたなんにも変わってないのね、良くも悪くも。いや悪いわね。」
「全くだ...なぁ、W。」
俺も、腹を括って、素直に話してみるかな。お前なら、話してもいいと思えるし。
...うん、話そう。全部。前世も記憶もこれから起きうることも。俺が何を成し遂げたいのかも。
「なによ。」
「聞いてくれるか?」
「...まぁ話してみなさい。」
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俺が記憶障害じゃなけりゃ、俺には前世の記憶がある。それもこの世界のものじゃない、所謂異世界ってやつの。
この異世界の記憶には、アークナイツっていうゲームがあったことが特に記憶が鮮明になっている。
このアークナイツっていうゲームは、今俺たちが生きている世界が舞台となった物語だ。お前も、スルトも、ラップランドも出てきている。
だが、俺だけがいない。当然だ。俺は本来物語に存在しない異物なんだから。
イグニスは...どうだろう。少なくとも俺は確認していない。俺の知らないところで登場してるのかもしれない。そもそも物語として完結していないからな。
話を戻そう。前世で死んだ俺は、上位者を名乗る何かによってこの世界に転生させられた。
いや、違うな、俺が望んでこの世界に転生させてもらったんだ。
───なんでこんな世界に来たかって?
何でってそりゃあ...お前がいるからさ、W。お前に会える可能性があるから、俺はこんなクソッタレな世界でも行ってみたいって思えたんだ。流石にそれだけじゃないが。
俺はこの世界に来るって決まった時に、やりたい事が二つあったんだ。
一つは、この世界で、誰にも陥れられないほどに強くなりたいってこと。今となっては最強になりたい、なんていうものに変わったけどな。
......笑うなよ、前も言ったけど本気で叶えようとしてんだぞ?
そして俺はこの世界に来て、無謀にも助けたいと思ったんだ。
物語の中で死んでいった人たちを、道を違えて殺し合う運命にあった姉妹を、源石病に侵された少女を、戦いの果てに家族を全員失い、怒号を上げた女を、戦火に巻き込まれ、軍人となり身を捧げる女を。
だが現実はどうだ?ただひたすらに傭兵として戦場に身を投じ、あまつさえ、助けようとした少女を俺が孤独においやったんだ!そのうえ手伝いをさせて欲しいなどと宣うなど、これを愚かと言わずに何と言う!?
俺は愚かで、無力だった。少女1人助けられない愚昧だ。こんな俺は、この世界に生まれてくるべきじゃなかったんだ。
変えられない運命を変えようと無様にもがいている、この大地に生きる一人の人間でしかなかったんだ。
「俺には何も成せない、生きることもおこがましい虫けらなのかもな。すまんなW、こんな俺について来てくれたのに、俺はこんなにも───は?」
言葉を紡ぐ俺に近づいたWは、唐突に俺の体を抱きしめた。
「無様ね...こんなこと言いたくもないし、したくもないんだけど、あんたがそんなだから、敢えて言うわ。
私はあんたがいて良かった。あんたと一緒に戦場をかけずることができて良かった。あんたの美味しいご飯を食べられてよかった。...私を助けてくれたのが、あんたで良かった。」
「────。」
「あの女は助けられなかったのかもしれないけど、私は、本当に救われた。多分スルトも。
....私は、あんたの優しいところが好き。」
「...は?おいおいおい!血迷ったか!?」
「うるっさいわね!静かに聞きなさい!」
「...私はあんたの仲間思いなところが好き。料理上手なところが好き。笑いながら敵を殺せるところが好き。...真剣に、私たちのことを考えてくれるところが好き。」
「だ、だけど俺は...」
「分かってるわよ、自分が許せないことくらい。それ込みで好きなのよ。そうね、待っててあげる。」
「何を待つんだよ。」
「あんたが私を好きになってくれるまで。」
「...俺はもうお前のことは好きだが。」
「...ありがと。でもそうじゃないわ。言葉が違うわね、あんたが自分を赦せて、自分に素直になれるまで。もしくは、あんたがそれを投げ出して、私を愛してくれるようになるまで、かしら?」
「...冗談だろ?」
「本気よ。知らなかった?私って一途なの。」
「いやまぁ、記憶通りならめちゃめちゃ一途なのわかるけどさ...。」
「分かったならいいわ。...それじゃ、始めましょうか。」
「え?何を?」
「私を抱いてもらうわ。」
「...(白目)」
「あんたがそれを投げ出してしまうほどに私に溺れてしまえば、私だけを愛してくれるわよね?」
「エッ。」
そういって俺をベッドに押し倒してくる。こいつ目がマジだ!?
「さっさと脱ぎなさい。それとも、私に脱がされたいの?」
「───あーあ。」
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チュンチュン
「...腰痛ェ。(チラッ)」
「スー...スー...」
「...はぁ〜あ。やっちまったァ。」
「...気持ちよかったな。」
「......ん〜。」
「起きたか。ほれ、水。」
「ありがと...。」
寝起きが弱いのか疲れが残ってるのか知らないが、モゾモゾと布団の中でもがくW、かわいいなこいつ。
「コーヒー入れてくるわ、待っててくれ。」
「ん〜。」
「ほれ。」
「ありがと。」
ズズズ...と互いにゆっくりコーヒーを飲む。辺りにコーヒーの香りが漂い、柔らかい弛緩した空気が流れる。
「...慣れてたわね?」
「そりゃあ前世で女の1人や二人抱いてるからな。慣れもする。」
「ほかの女の話?」
「そっちから振ったんだろうに...。」
「まぁいいわ、そいつらはこの世界にはいないんだし、おかげで私も気持ちよかったし。こっちでは私が初めて...よね?」
「えっ、そりゃもちろん。」
「ま、まさかあんたスルトと...」
「なわけあるか!あいつは妹みたいなもんだよ。」
「冗談よ、だって随分溜め込んでたものね?」
「ええいさするな!元気になるだろうが。」
「私としては朝からでもいいけれど...まぁ、ありがと。初めてを優しくしてくれて。」
「...そうかい。」
「......まだ、諦めるつもりは無いの?」
「もちろんよ、俺は最強になるよ。文字通りな。ウルサスの近衛隊も、カジミエーシュの征戦騎士も、北方の遊撃隊も。全て倒す。そしたら、お前を迎えに行くよ。これが俺なりのケジメだ。」
「...これをできないって断言できないのが、あんたの凄いところよねぇ。」
「さて、準備しようか。」
「そうね、もう少しで着くんだし、早く動いて今日中には着きたいわね。」
あなたがやりたい事、その途中でどれだけの犠牲が出るか、多分あなたはわかってる。わかった上であなたは目指す。
それはまるで炎に誘われる蝶のよう。
ましてあの感染者の象徴の遊撃隊を倒すその意味を、あなたはきっと分かってる。私は止めないといけないのかもしれない。止めればよかったと後悔するかもしれない。でも、私にはこの男が、殺したいほどに愛おしい。
こんな風に思うなんて、私は歪んでしまったのかもしれない。
でも、それでいいのかもしれない。
だって、こんなにも幸せなのだから。
刃を磨こう。あなたを十分に
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「よし、着いたな。ここがリターニアか。」
朝早くから動いた甲斐もあってなんとか夕方頃に着いたが、夕日と、それによって影の濃くなった建築物のコントラストが美しい都市だった。
「さて、俺は家を借りに行くとするかね。」
「そう簡単に借りれるもんじゃないでしょ。」
「いや、昔助けたことのあるやつが今じゃ色んなところに人脈を持ってるらしくてな、話したら融通してくれたんだ。」
「お話、ねぇ?」
「別に詰めたりしてねぇよ、ただの友人だ。」
「そう...。」
「聞いといて無関心すぎんか?」
「俺たちはどうする?まさか4人で押しかけるわけでもあるまい。」
「それもそうだな...俺とスルト、イグニスとWで別れて動こうか。俺たちはさっき言ったように動く。そっちはどうする?正直自由行動になるが。」
「あら、だったら買い物に付き合ってもらおうかしら。いい加減新しい服が欲しいのよ。」
「分かった、請け負おう。」
「イグニス...」
「黙っててみようぜ。その方が面白そうだ。」
あーあ、安請け合いしやがって、後悔するぞあいつ。
「それじゃ、俺達も行くか。」
「わかった。」
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少しばかり歩いていった先の青色が特徴的な家に着き、ノックを数回、規則的なリズムで。そうすれば...
「合言葉を。」
「ちくわ大明神。」
「誰だ今の......やっぱりこの合言葉変えませんか?」
「他にいい合言葉でも?久しぶりだなエド。」
「...面倒なのでいいです。ようやく来ましたね、2人とも。遅かったですね。」
「そう言わないでくれ、シラクーザからここまで距離あるんだよ。」
「まぁいいでしょう。それで、空き家をご所望でしたか。ありますよ、ちょうどはずれの方に。」
「助かる、ありがとう。」
「これで借りひとつチャラですよ。」
「はいはい。」
「見ない間に、随分変わったんだね。見違えた。」
「......ええ、色々ありましたからね、変わりもしますよ。
───変われないこともありますが。」
「...そうか。」
「それで、どこにあるんだ?今ここにいないが、連れがいるんだ。場所を覚えたら迎えに行きたい。」
「久しぶりに会ったというのにその態度ですか...いいですけど、案内する訳にも行かないので、この地図を持っていってください。忙しいんですよ私も。さっさと行ってください。」
「お、おう。」
「はァ...お前はもっと情緒を学ぶべきだよ。」
「えっ!?いやでもあいつらを放置する訳にも行かないだろ?」
「あんたが買い物行かせたんでしょ。夜まで戻ってこないよ。」
「そういやそうだったわ。とはいえ、程々にして貰わねぇとならん。あいつ金使い容赦ねぇし。アイス食う金まで持ってかれるぞ?」
「帰るぞ。アイスが私を待ってる。」
「私はアイスに負けるんですか...?」
「ごめん、また明日来る。」
「明日にでもゆっくり話そうぜ?面白いこと沢山あったんだよ、聞きたくないか?」
「───。でしたら、菓子を持ってきてくださいね、机にあるのが茶だけでは寂しいので。」
「勿論。いいもん持ってきてやるよ、またな。」
「また明日。」
「つまらない話なんてしたら蹴り飛ばしますよ...ヴィル、スルト。」
騒がしい友人たちが去っていった部屋の中で、リターニアの情報屋は独りボヤいた。
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「さ、次はあの店よ。」
「ま、まだ回るのか?」
「当たり前じゃない。私がどれだけ我慢してたと思ってるのよ。」
そこには大量の荷物を持ち疲れた様子を見せるイグニスと生き生きとしたWの姿があった。
「その辺にしておいてやれW、家を確保した。一旦荷物を置きに行くぞ。金も無くなりそうだし。」
「あら、早かったわね。別に金は使い切ろうなんて思ってないわ。仕方ない、また明日来るわよ。」
「......(ゲッソリ)」
「はは、随分とお疲れだな。」
「まさかこんなに振り回されるとはな...。」
「W、明日は俺が付き合うわ、俺も買いたいものがあるしな。」
「ええ、構わないわ。」
「何を買ったんだ?」
「服よ。あと化粧品とか諸々。」
「...明日の買い物は私も行く。」
「あんたも欲しかったなら言いなさいよ。」
「すまんスルト、それならお前もイグニスについて行かせればよかった。」
「いや、構わない。エドにも会えた、それで十分だ。」
「エド?あんたの言ってた協力者ってやつ?」
「そうだ。隠れ家の提供、そしてこれから暫くはあいつから仕事を仲介だの情報共有だのをしてもらう相手だ。少なくとも悪くは無いやつだ、無愛想だけど。」
「ふぅん、そんなやつとあんたはどうやって知り合ったのよ。」
「昔シラクーザから逃げた先がこのリターニアでね、その時に流れで助けたのがエドだ。ボロボロになって逃げ回ってたところで遭遇したのが俺たちだったんだとよ。」
「あの時は私達も消耗してたとはいえ、雑魚ども相手に命からがらだったな。」
「いやーあれは死んだかと思った、エドの機転に助けられたわ。...まぁそういう訳だ。詳しいことを知りたかったら明日あたりにでもエドに聞いてくれ。答えてくれるかは分からんけど。」
「よし、それじゃあそろそろ家に行こうか。着いてきてくれ。」
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エドから貰った地図通りに歩いてみれば、空き家とは思えないような、リターニア独自の建築文化を象徴するかのような、立派なものだった。
「あら、こんな外れにある割には綺麗じゃない。期待してなかったけど、これはいいんじゃないかしら?」
「カジミエーシュにあった俺の家と同じか...?」
「あんたの家どんだけ大きいのよ。」
「腐っても大騎士だぞ、何もしなくても勝手に家が建てられてるんだ。多額の税金付きでな。」
「うわめんどくさ。」
「先に入ってるぞ。」
「ちょっ、置いてくな。鍵もってないだろうが。」
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内装も外見に違わず立派なもので、しかもつい最近まで誰かが手入れをしていたようだ。手の入った跡がある。エドだろうか。
「エドじゃないだろう。あいつは忙しそうだった、それにあいつはそんな暇があるなら仕事に専念するよ。」
「しれっと考えてること当てれるのなんで?」
「お前の考えてることなんて単純だからな。」
「理由になってねぇ...。」
「......さっさと荷物置いて来ましょ。私も暇じゃないのよ。ほや、早く。」
「(うっわ、面白くなさそー。)」
顔を顰めながら急かすWはどことなく不機嫌そうだ。それもそのはず、溺れさせると決めた相手が別の女と楽しそうに、しかも私達通じ合ってますと言わんばかりの会話をされてしまえば仕方ないことである。お察しの通りこの男は女の機敏に関してはとんでもない馬鹿なのでそんな心境を察することなんて出来ない。だからどんどん不機嫌になっていく。
不機嫌になるW、困惑するヴィルヘルム、全く気にしないスルト。この3人の空気を目の当たりにしているイグニスはというと。
「.........」
我関せずである。自分から地獄に飛び込むような真似はこの男にはできなかった。
色々とアクシデントもあったが、こうして俺たちのリターニアでの生活が始まった。この先は...
お久しぶりです。R15タグ付けてるとはいえ、ああいう表現を書くのは怖いですわ。今回慣れてない伏線撒きしたせいで文章ぐっちゃぐちゃになってしまった...しばらくしたら大掛かりな修正いれるかも。なるべく入れないようにしますが、ご迷惑をおかけします。
そういえば私、この小説はだいたい四つのパートに分けてるんですね。今がだいたい1つ目の終わり目前くらいです。あと2話〜3話程度でパート1が終わる想定です。