オーバーロード-七極星-   作:シンメトリー飛行船

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いつもUA、感想、評価、誤字報告、お気に入りなど
ありがとうございます
ちょっと遅れました。お待たせしました。

今回少し長めかもしれません。ただ、ここをきちんと描写したいので削れないのがなんとも....。エンリやネム達の年齢は、原作から3年前なのでそれに対応して下がっています。


side―ヒーラー― Healing /Florence

 

それから....

 

ささやかな礼という名の名目でカルネ村の村人達自身も祭りを楽しんだ。

 

その日は村の暖かい空気に包まれて、旅人は空き家のベッドを借りて就寝した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

しばらくして、夜が明ける。朝日が昇る。

 

眠い目を擦りながら、重い瞼を開く。

 

どうやら意識を失うくらいには警戒を解いていたらしい。そこまで気を許すとは....ということは、この村の人達は心から自身に対して、警戒心の欠片も抱いてはいないということ。

 

....なんというか、さすがに不用心すぎると我ながらに思う。あんな事では、例え自分があの魔獣をけしかけてマッチポンプで助けたとしても信頼されてしまいそうだ。ネム達の事を脅して、助けたと言わせていでもしたらどうするのだろうか。

 

....とても心配である。もし悪い悪魔や魔王にでも助けられても、簡単に信じてしまうのではないだろうか。

 

「.............」

 

まぁ、もしもの事だ。現に親子を助けたのは自分で、村に訪れたのも自分だ。過ぎたことは気にしないでおこう。こういうのを気にするのは自分の悪い癖だ。

 

 

「.......頭が痛い」

 

どうやら昨日は飲みすぎたようだ。質素で雑味も多い、低品質とも言うべきそこまで数もない酒を飲んだ。それも二日酔いになるくらいには。

 

....決して、調子に乗ったとかではない。ただ、勧めて来る村人達からは悪意は感じなかったし、何よりエンリとネムが期待する目でこちらを見てくるから....いや、別にそんなことはいい。毒も入って無かったし、確かに暫くまともな食事もとって居なかったから、少しくらいはいいかとそれなりの量の食べ物と共に食らった。

 

....低品質だったり、質素な割には酒も食事もそれなりに美味かった。きちんと人に調理されているからなのか、余程自分が最近まともな食事を取っていなかったのか、それとも何か特別なものが入っていたりするのだろうか。例えば気持ちとか....。

 

....なんかこの村に来てから変なことばかり考えているな。それほど昨日が楽しかったのだろうか。

 

....楽しい?いや、そんなことはない。別に。

 

 

無駄な時間思考してしまった。ベッドから出て、とりあえず窓にかかっているカーテンらしき布を端に寄せて、窓を開ける。

 

心地よい朝の日差しと共に、風が入ってくる。長らく地球では感じれなかった自然を、体全体で味わえることに少しほくそ笑む。

 

この二日酔いも大分楽になった。そういえば、昨日はあえて解毒の魔法は使わずにいたんだった。とりあえず直して....いや、そもそも種族を隠すマジックアイテムを外せば、種族特性でこの酒程度の毒気の状態異常は治るんじゃないかと思い至る。

 

「いや、いいか」

 

もう少しだけ....この酒に酔っていたい。別に治そうと思えばいつだって治せるのだし、せっかく久しぶりにゆっくりしても良いかなと思える居場所にいるのだ。少しくらいは落ち着いて、ほろ酔いのまま朝の時間を過ごしていいじゃないか、と。

 

 

 

...................

 

 

 

 

朝の時間を何もせずに過ごした。なんというか、久しぶりすぎて新鮮だった。

 

 

もう酔いも覚めた。さぁ、棚上げにしている問題はそろそろ解決しなくては。

 

 

「さて....一体全体どうなっているのか....」

 

 

昨日、唐突にこの世界へとやって来た。

原因すらも分からぬうちに、()()とあって魔獣に襲われているネムとその父親を助けた。

 

村に来てネムの姉のエンリと出会い、さらに他の村の人達と共に宴をした。

 

 

周りの反応であったり、こっちに来てからちょっと扱いが変わったアイテムボックスから取り出した手鏡などを見るに、この体はおそらくユグドラシルでのアバターだろう。

 

となれば、これはゲームかどうか。それは自身の意識が落ちているにも関わらず、ログアウトしていないのでありえない。現にコンソールも出すことが出来ない。

 

ならばこれは現実。自身の感覚もそう訴えているし、まず間違いない。

 

では、こんなことになったのは誰のせい....いや、何のせいか。心当たりはある。が、その場合他の()()()()はどうなっているのか。また、ギルドメンバーはどうしているのか、だ。

 

本当のところ、自分とあいつらの所も含め、あの面子以外のギルメンは最終日に一人も来なかったから、例え運営に何かされてるとしても、こちらに来ているギルドメンバーがいる可能性は低い。となれば可能性があるとすればあの面子だけか。もし最終日に限定しなければいいのなら、その限りでは無いが。

 

しかしそれでも不自然だ。普通最後に一緒にいるなんて、犯人だと思われるような事をするだろうか。それにそもそもそんな事をするような奴らでは無いはずだが....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また裏切られた─────────?

 

 

 

 

 

 

「_______ッ!違う!!!」

 

 

 

 

 

そんなことは無い、そんなことは無いはずだ。

決して──────。

 

 

 

 

 

「.......少し、気を紛らわすか」

 

 

 

ここで悩んでも仕方ない。自分は今冷静さを欠いている。こういう時に出す結論と言うのは、往々にして思い込みや、マイナス方面での自己問答になりやすい。

焦りを自覚し、すぐさま冷静になる。

大丈夫、もうあの時のような失敗はしない。

 

ああ、あとこういう精神状態の時は何か、癒しとなるものが必要な筈だ。魔法で無理やり勇気づけても良いが....と、そんな事を思っていたら。

 

 

コンコン

 

 

誰かが玄関の扉を叩く音が聞こえる。別に構わず入って来てもいいはずだ。借家だし....。

 

 

「旅人さん?起きてますか?エンリです!入ってもいいですか?」

 

いきなり入らず、律儀に聞いてきたのはエンリだった。癒しが向こうからやって来た。

 

「ん?....返事が無い、寝てるのかな。失礼しますね!..........あ、起きてたんですね!おはようございます!」

 

「....ああ、おはよう」

 

嗚呼、癒される....。エンリとネムはなんというか、心のオアシス的な....アレである。

 

「ちょっと元気無いですね。二日酔いだったりしますか?それとも単に朝は弱いんでしょうか?」

 

笑顔で聞いてくるエンリ。その微笑み、心がギュッってなるからやめて。あと、気遣って身体を触ろうとするんじゃない。よりによってこの自分が健康管理を怠る訳ないだろ。いやエンリは昨日会ったばかりだった。

 

....また、変な思考回路になっている。もういい。体を動かせることとかないか。何か手伝うか....一応世話になったし。

 

 

「....体調は大丈夫だ。それより、何か手伝えることは無いか?一宿一飯の恩を返さなければ、癒し手とは言えないからな」

 

「ええ!?いえいえ!大丈夫です!

旅人さんには家族を助けて貰いましたし、そのおかげで今も私は幸せですから!だから旅人さんはゆっくりして下さい!むしろ個人的にもお礼したいくらいです!(癒し手....?)」

 

いや、確かにそうかもしれないが、もうお礼なら昨日貰った。今はちょっと外の空気を吸いたい気分なんだが....。

 

「....お礼はもう昨日して貰った。だから今度は夕飯と寝床の分、こちらも礼として働きたい。....この村は、見ず知らずの者に食料などを振舞っても余りあるほどの余裕があるとは思えない。違うか?」

 

少し言い方がキツかった。これではダメだ。手伝う意思は変わらないけども。エンリの表情も少し困っている。

 

「うう....それは、そうなんですけどぉ....。でも旅人さんにわざわざ手伝わせてるなんてなったら、何を言われるか....」

 

「..........実は、暫くこの村に滞在しようかと思っているんだ。その為に少しの間この空き家を使いたい。

....だから、その対価として働きたいと言うのもあるんだ。....これは今日村長に話に行こうと思っていた。きっとこの理由ならば、問題はないだろう?....と、思うのだが。.......これでもダメだろうか」

 

嘘では無い。情報収集は間違いなく必要だろうし、この村に偶に来る友人のンフィーレアとやらが、王国から来ていると言うのなら、それに乗じて王国へも移動出来るかもしれない。

 

すると、しばらくうーんと唸っていたエンリだったが、やがて納得したのか、こちらに再度話しかけてくる。

 

「わかりました。そういうことなら仕方ないですね!それにしばらく村に居てくれるなら嬉しいですし、何より心強いです!きっとネムも喜んで....」

 

と、エンリが言いかけた辺りで。

噂をすればなんとやら、丁度話題に上がった本人がやって来た。

 

 

「魔法使いさんおはよー!

しばらくこの村にいるってほんと?....ってあれ、

お姉ちゃんと話してたんだ」

 

「あ、ネム!うんそうみたい。良かったね!」

 

「うん!やったー!これで魔法使いさんとも一杯遊べるようになるね!」

 

なんだこれは、なんだこれは。

 

「あれ?魔法使いさん?」

 

「....い、いや、うん。そうだね。でもまずは村長に話を通さないと。あと、この家に住まわせて貰う代わりに、ある程度は皆の仕事を手伝う為に働く事にしたから。遊んでばかりは無理かもしれない。

....ごめんね?」

 

「えー、そうなんだ〜。つまんな〜い」

 

「....その代わり、一緒に仕事することも出来るはずだよ。遊ぶ時間だってあるだろうし。だから機嫌直して....ね?」

 

するとにぱっと笑顔になったネム。ぐうっ。

 

「....うーん。分かった!じゃあ一緒に村長の家に行こう?案内する!」

 

「もう....ネムったら....。じゃあ私も折角ですしついて行きますね。ネムだけだと不安だし」

 

「あー!お姉ちゃんひどーい!」

 

「....分かった。じゃあ早速行こう」

 

二つのオアシスに癒されながら、村長宅へ向かった。もう大分癒されてるから例え却下されたとしても何も気にしないぞ。本当に。

 

 

................

 

 

「おお....。旅人様、よく起こしになられました。昨日は良く眠れたでしょうか....?................それは良かった。それで、今回はどのようなご要件ですか?」

 

「....実は」

 

村長宅に着いて、事情を説明した。途中なんかエンリとネムの方が喋ってた気がするけれど。

 

「なるほど、そうでしたか。では旅人様にも仕事を割り振らせていただきます。あの空き家は好きに使って下され。無論、いつまで居てもらっても構いませんよ。その子達にも大分気に入られているようですからね」

 

「わー!やったね魔法使いさん!」

 

「....ええ、感謝します」

 

おかしい。なんか大分長い間住み着くような話になってしまっている。決してそこまで長い間いるつもりはないんだが....後で訂正させなくては。

 

「とりあえず、いくつか仕事を見繕いたいのですが、旅人様はどのようなことが出来ますでしょうか。大体で構いませんので。教えていただければ」

 

....この人。気配り出来る人だな....。まぁ、だからこそ村長をやっているのかもしれないが。

 

さて、出来ることか....。....大体出来ないことは無いような気がするが....。仕事内容にもよる。一度どんな仕事があるのか聞いてみるか。

 

「....ちなみに、仕事はどんなものがある?教えられないものは除いてもらって良いが、出来れば全て教えて欲しい」

 

「ふむ....。簡単にいくつか上げますと、主な仕事の農作業、衣服や道具の作製、農作業以外で手に入る食糧の調達と、木材などすぐ使う物の伐採や調達、壊れた物や家の修繕。一部の者たちは薬草を採取して、収入源として売りに出す為に加工しています。後は、現在後回しになっていて手をつけていないものですが、村周辺を囲む柵などの防備、長らく壊れて使えない井戸の修理、最近現れたモンスター....昨日出た魔獣などに対抗するための何らかの対策方法を考える....。思いつく限りではこの程度でしょうか。もちろん細かい物もまだあるとは思いますが。」

 

「なるほど.......十分だ。大体把握出来た。....そして、これは驕りでも何でもない。おそらく今挙げられた仕事全て。自分がこなせるだろう」

 

「ほ、本当なのですか!?」

 

「ええっ!!?」

 

「えー!ほんとにー!やっぱり魔法使いさんすごーい!」

 

実際、出来る。農作業の方は人手が足りなければ手伝うが、どうせならば他にかまけて手を回せずに、普段彼らができない仕事を最初に手伝おうか。

 

「....一先ず、それぞれの場所を見て回っても良いだろうか。それで自分にあっていそうな仕事をしよう。....もちろん貴方達から手伝いを求められれば、それにも応じよう。....なんなら、全部の仕事をしても良いが」

 

「ね、願ってもいないことですが....。本当に良いのですか?いえ、一応あの空き家に住まわせるという対価はございますが....」

 

「そうですよ!そこまで色んな仕事までする必要はないですから!せめて一つに絞りましょう!ね!?」

 

「....そ、そうか。....ならそうする」

 

すごいエンリの押しが強い。つよい。

 

「....じゃあ村を見て回ってくる。....二人は、仕事はあるの?....ないなら、....着いてくる?」

 

「うん!行く!」

 

「あ!じゃあ私も!なんだか旅人さん放っておけないですし。仕事なら今はあんまりないです!村長さん!いいですか?」

 

「うむ。安全面でも旅人様がいれば問題ないだろう。しっかり案内してやってくれ。旅人様、よろしくお願いします」

 

「ああ、神が来たって守るから安心するといい」

 

「................神??」

 

 

そんなわけで、村中の仕事を見て回る為に、エンリ達と共に村長宅を後にした。空き家に暫く住む代わりに対価として働く件に関しては、村長から村の皆に伝えておいてくれるそうだ。

 

....この村で、なんとかやって行けるように頑張るとしよう。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

村中を、エンリとネムの案内付きで見て回った。そのついでに、仕事もあらかた実際に見て把握した。農作業はやってもいいが、今すぐ困るほど人手不足というわけでは無かった。他も大体同様だ。

となれば自然と自身がやるべき仕事は、余り人の手が足りていない、後回しにされている物だろう。

 

柵などはさすがに自分でも時間がかかるので、先に井戸の方へ向かった。他にも井戸はあるらしいが、ここの井戸は丁度通る頻度が高いらしく、使えないとそれはそれで不便らしい。遠くまで行くのは確かに大変だろう。

 

ちなみに、自分は最初に対処する仕事がこれで良かったと心底思っている。何故なら....

 

 

「この井戸がねぇ....いつかは忘れちまったけど、大きな岩が雨の洪水で水路に流されてきたのか挟まってて、オマケに井戸の汲み取る穴も、外す蓋が重しの石と一緒に変な風に挟まっちまってねぇ....。どんなに力自慢な村の男達でもどうにも出来なかったのさ....。だけどこの程度の為に、わざわざデッカイ首都や街から人が来るわけも無くてねえ。正直困ってたんだよ」

 

そう語るのは、恰幅の良いおばさんだ。こちらが井戸を観察していたら話しかけて来た。どうやらもう自分のことについて知っているらしい。いくらなんでも魔法でも使わないと情報伝達が早すぎると思うのだが。あの村長何者なのか。それとも閉鎖的なコミュニティになると、これくらいは普通なのか。

 

「....その岩や石を砕いたとしたら、井戸はまた使えるようになるか?」

 

「え?そりゃあもちろん。でも無理さぁね。これは相当頑丈でねぇ....。そもそも水路は実質川みたいなもんだし、巨大な岩は川底にある。蓋と一緒に挟まっている石もどうやっても外せなかったし、壊そうと思っても中々硬いんで、諦めたんだよ?

気持ちは嬉しいけど、あんたみたいな華奢な体をした子じゃあ、ちょっと無理だと思うがねぇ....」

 

「なるほど。おあつらえ向きだ」

 

「え?」

 

最初はとりあえず、この挟まっている石を壊す。

手を握り、力を込める。体感だけで分かったが、多分あの魔獣共を倒した時の要領でいける。何かバフなどをかける必要はないだろう。

 

「エンリ、ネム、あと貴方....あ、そこの男の人。

そう。四人でこの蓋を抑えててくれ。もしかしたら井戸の底に落ちてしまうかもしれない。そうしたらさすがに面倒だから。」

 

「抑える?....はい、分かりました」

 

「おいおいまさかあんた一人でやるって言うのかい?さすがに無茶じゃ....」

 

「じゃあやるので、しっかり抑えてて。落ちないように」

 

一応きちんと抑えてるか確認しながら、構えを取る。ギリギリ他の人が抑えたままでいられる程度の力を込める構えを。....よし。

 

 

「ふぅ....。________ハァ!!!!!!!」

 

バコォォォォーーーン

 

 

次の瞬間、拳を突き出して、石が大きい音を立てながら爆散した。エンリたちの方に石片が飛んだが、咄嗟に全て叩き落としたか粉砕したので大丈夫だ。本人達は気づかないだろうが。

 

 

「................え?はぁ!?な、何が起こったって言うんだい....?ほ、ほんとに壊しちまったのかい?あの石を!?」

 

「」

 

「うわぁー魔法使いさんすごい!そういえばあの時はよく分からなかったけど、素手で魔獣も倒してたもんね!戦士さんでもあるなんてすごい!」

 

「ネ、ネムから魔法は聞いてたけど、確かにすごい力....。これなら魔獣を倒したっていうのも納得するね....」

 

よし。上手くいった。おばさんは驚いてるのはまぁ分かってたけど。さっき声掛けた男の人が絶句してる。自信失くしてしまったのか。ふむ....。

 

「いやぁ....凄いねあんた!話にゃ聞いてたけど、確かにこれは自信満々にやれそうな雰囲気醸し出してるわけだ!出来るかどうか疑って悪かったね!」

 

「気にしないでいい。....それより、そこの男の人。

....ありがとう、手伝ってくれて。あと、自分の様なやつに力で負けているからと言って、気にする必要は無い」

 

「....ぇ、な、なんだ....?」

 

「もし、貴方が自身の非力さを嘆いているのならば、それは正しい。何せ、実際に石を壊せないでいて、村人が困ったからだ。だが、勘違いしないこと。出来ないのは貴方だけではなく、この村の男全員だ。つまり、出来ないのはこの村全体の責任でもあるので、思い詰める必要は無い。つまりダメなのはこの村の男達と、それに任せなければいけないその他大勢なのであって、貴方が一人責められる謂れは無い。」

 

「....い、いやしかし....」

 

「この村のことは関係ない?それとも他の男達も下げられて怒ったか?どちらでもいい。どちらだとしても、それは貴方が責任を持ってこの村の事を思い働いていることに他ならない。または、他の村人思いだと言うことでもある。でなければ出来ないことについて責任を感じ、自信を喪失してしまうことはないからだ。」

 

「...................それは」

 

「故に、貴方は決して頼りなくなどない。安心しろ。どう考えてもこちらが規格外な力を持っているだけだ。それでも力を欲し、足りないと訴えるなら....それはとてもいいことだ。現状に満足せず、まだ先を見据えているという事に他ならない。

ならば貴方がすることは後悔では無い。少しでもこちらに追いつくように鍛錬し、仕事で精を出し、趣味として体を鍛えるといい。きっとそれによって他の村人達は貴方に救われ、その救われたという言葉を受けることによって貴方も救われるはずだ。貴方を見習って影響を受ける男達もいるかもしれない」

 

「....っ!」

 

「さぁ、動くのだ。まだ貴方は自分が自分に思っているほど落ちぶれてはいない。きっとその努力が報われれば、今を遥かに越える力を身につけられるだろう。何を言おうこの自分がそれを保証しよう。頑張るといい、真面目な男よ」

 

「あぁ....ありがとな!俺もあんたみたいになれるよう頑張るよ!石を壊してくれて感謝する!」

 

よし。これでいい。もう先程までに落ち込んでいた気は見えない。これなら大丈夫だろう。

 

「では、自分はこれから川底にあるという岩を破壊して来るので、これで。エンリ達、案内してくれ」

 

「「「え?」」」

 

 

「あ....は、はい!行こうネム!」

 

「はーい!」

 

「「えぇ???」」

 

 

その後、水路の前に辿り着き、巨大な岩が塞いでいる大体の場所を教えて貰った。確かにある場所を確認した後....

 

「『極限環境活動・力』《水中呼吸(アンダーウォーター・ブリージング)》」

 

 

ザバァァァァン、...............................ドゴォォォォォーーン

 

 

と、そのまま水路にダイブした後、大きな破壊音と共に、大岩が崩壊する所を皆は目の当たりにした。

 

 

「「「えぇ.............」」」

 

ネム以外は唖然とした。ネムは凄いと喜んだ。

 

 

後日、このことは村中でひっきりなしに語られる噂になったと言う。その噂のおかげもあってか、とある男性が筋トレや戦闘の鍛錬をするようになった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

それから暫くして、旅人は村の様々な仕事を―特に村の者たちが手をつけれていない仕事から―こなした。

 

 

例えば、村の周囲を堅める為の防備として、対応する柵を村全体をかなり高い高さまで囲えるように配置したり、ちょっと素材が心許ないと思ったが為に、もっといい素材となる木材集めに、わざわざトブの大森林の奥まで行って、危険な魔獣をついでに討伐してきたり。

 

更には、何処から出したのかゴーレムのようなものを三体出現させ、柵の設置などは勿論、村のあらゆるところで必要な力仕事にも労働力として度々貸し出された。

 

肝心の危険な生物・主に魔獣対策の防備だが、村の外れを含む柵の周りを囲うように、鳴子(さすがに現地調達出来ない素材があったので旅人の自腹でいくつか素材を使った)を仕掛けまくった。おかげで、対処法を教えられた村人以外が通ろうとすると、全開で鳴子が鳴り響く仕様になっている。

一応小動物などが引っかかって常に鳴ってしまうなどの被害を抑えるために、防備をも兼ねて鳴子の更に手前に堀を作り、ついでに水を流して水路にした。

 

なんなら、水路から直接引っ張れるようにしたので、農作業をするための所へ直に繋げた。おかげで農作業の効率が結果的に跳ね上がったのである。尚、その工事を敢行したのはもちろん旅人である。

いつもの綺麗な服では無い、リアル世界で言う工事現場で着る服を着て、その手に填めた神器級(ゴッズ)武器を全力で用いて掘り進めていた。

 

それを見た村長は愕然としていたという。

 

一応、橋も二箇所程作ってある(使わない時は上げることによって渡れなくなる桟橋タイプ、さすがに一から作るのは無理だったのでこれも旅人の自腹の素材を使った)ので、無理やり堀を飛び越えなくても良くなった。そのせいか余計遠慮が無くなって、堀の幅がなんだか広くなった。

 

もうもはや要塞になって来たのである。

 

ちなみに、暇な時(と言っても偶にネムたち村の子供の相手をしているのでいつもでは無い)はほとんど村の周辺を見回って、危険な魔獣などが居ないか見回りをした。自分が見回り出来ない時は、代わりのゴーレムに見回らせていた。

 

ここまで来ると改革である。

 

まだ、旅人の改革は終わらない。今度は中でも取り組んだ。

 

まず農作業を手伝い、腐っているものを選別したり、土や育成している物を、やりすぎない程度に活性化させる魔法を使う。

 

さらに、作業中に調子の悪そうな者や、怪我した者などを率先して魔法で治療した。

中には元から具合の悪い村人もいた為、そちらは早期に魔法で治療しておいた。

 

最初はかなり魔法で対処したものの、その後は自分が居ない時でも対処出来るように怪我や不調の時の治療法を教えた。無論、村人達に理解出来る範囲で。

 

衛生面は特に厳しく教えた。彼らは、この世界の辺境の開拓村として見れば、かなりしっかりと衛生的な生活を保っていたのかもしれないが、どう考えてもリアルからやって来たプレイヤー目線から見れば杜撰であった。

よって、村人達は戸惑いつつもなんとか旅人について行った。

 

 

過程はどうあれ、結果としてはカルネ村の、かつての面影が大分薄れるくらいに変貌を遂げた「新・カルネ村」とも呼ぶべき改革は、そこそこ長期に渡った。

 

すると、やはり旅人を気にかける者も出てくるのは当然の事であった。

 

「おー!旅人さん。今日も精が出るね!ほら、うちで作った弁当だ!持ってきな!腹が減ったら食べてくれ!あんたが言った通りに作ったら更に上手くなったからな!」

 

「おや、旅人さん。先日はありがとうねぇ。おかげで大分体の調子が良くなったよ。これなら村の仕事も少しは手伝えそうだよ。本当に感謝してるよ。これ、儂のだが少ないけど使っておくれ。」

 

「あ!旅人さん!こんにちは!あのね、昨日旅人さんに教えて貰った作り方でやってみたら、上手く人形が作れたの!お礼に旅人さんにも分けるね!はい!頑張って作ったから大事にしてね!」

 

「師匠!お疲れ様です!今日もきちんと鍛えてます!見ますか?え?見なくても分かるから遠慮しておく?ははは、お上手だ!

そうそう、柵が少し脆くなってたところがあったんで、報告しときますね!」

 

「ふむ、旅人様。たまには休まれてはいかがですかな?あの子達とも遊んでやってくださいな。エンリがネムだけでなく、自分も旅人様と一緒に居たいと言い始めてしまったのです。それに十分旅人様は働いておられる。最早対価などと、ずっとこの村に居て下さっても良いくらいです。ともかく、村を代表して言わせて貰います。ありがとうございます」

 

とまぁ、こんな感じで今では旅人は村の中でもかなり馴染み、とても信頼される立場となった。

本人としては、こんなままの村を放置しておけない!という感じでただ自分の本能に従ってやりたいことやってただけなので、こう厚く歓迎されつつ持ち上げられると、やりずらいのである。

 

そんな感じで、なんと既に3週間が過ぎた。最初は余り長居するつもりはないから訂正させる云々言っていたのに、これである。

 

 

そして、旅人本人はというと.......

 

 

 

 

怪我人も病人も居なくて、衛生面も食糧事情も防衛面までバッチリで問題は無いな!ヨシ!

 

これであった。

 

 

こうして、転移してからの愉快な3週間を、旅人はカルネ村で過ごした。

 

案外本人の思っていた通り、予想以上に居心地が良かったのかもしれない....。

 

 

そういえば、とここで()()は重大なことに気づく。

 

 

 

 

 

自分の名前名乗って無くないか?と。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

いや、確かに何処に危険が潜んでいるか分からない以上、すぐに名前を晒さないというのは悪くは無い手だ。ただ、いつまでも呼ばれ方が「旅人(様)」というのもどうかと思うのだ。

しかもなんだか、ちょっと慣れ始めているし。

 

こんな呼び方は、閉じたコミュニティであり、尚且つ人の良いこの村だからこそ通用するものだ。きっと大きい国などに行けばそうはいかないだろう。

 

ならばこそ、ここで今一度教えた方がいいということもある。

 

「...................名前」

 

そう、名前だ。この場合名前とは何処までのことを指すのか。普通に本名を名乗れば良いのか、それともゲーム名か。しかし、どちらも同じ名前が入ってしまっている以上。迂闊に名乗ることは出来ない。

これまで自身の名前を呼ばれなくても違和感が無かったのは、そういう面で無意識に呼ばれなくても問題無い、と思っていたからだろう。

 

「......................」

 

しかし、完全に信用した訳では無いにしろ。今、一番信用出来るのはカルネ村の村人達だ。そして、エンリやネム。彼女達の打算のない好意を受けて尚、それでも名前を教えないというのは、それこそこっちは其方をまだ信用してはいない。と、示すことに他ならずに不義理すぎるのではないだろうか。

 

「.............せめて、便宜上何か名乗っておくべきか....」

 

未だに名無しであるよりも、例え本来の名で無くとも、信用の証として何か大切な名前を教えておくべきだろう。

 

しかし、本名よりも重大な名前や言葉など。自分は知っているだろうか。

決して大事な名前を教えるのが嫌な訳では無い。むしろ、自身の事を知ってもらったり、信頼してもらうためにも話しておきたい。

 

「.................ああ、一つあった」

 

とても大切な名前。

自分が後生忘れまいと、ずっと記憶し続けてきた名前。

 

ああ.......そうだ。この名前を覚えていたからこそ、やれて来た時もあったというのに。全く自分は薄情な奴だなと自重するが、いやそんなことは後回しだ。

 

彼女達に....伝えなければ。自分の、大切な名前を。

 

「.......それに、謝らないとな」

 

まだ、本名は教えられない。それでも、いずれ。

 

 

..................................

 

 

村の外れで、二人でいるエンリとネムを見つけた。最初に教えるには丁度良いなと思いながら、声をかける。

 

「...............こんにちは。エンリ、ネム。ちょっと話したいことがある。大事な話だ」

 

「あっ!こんにちは。旅人さん!旅人さんから挨拶してくれるのは珍しいですね?それで、大事な話って何でしょう?」

 

「こんにちはー!ねぇねぇ、魔法使いさん!今日はどんな話をしてくれるの?」

 

 

「............うん。二人にはね...............................自分の名前を教えたい」

 

 

 

二人はこちらが口を開くまで静かに待つ。風が自分達の間を通り抜ける。

心做しか、空気が変わったような気がした。

 

 

....自分の名前を、告げる。

丁寧に、とても大事なものを扱うように、告げる。

 

 

 

 

 

「...............名は、フローレンス。フローレンスだ。かつてとても大事な.............友だった女の名前だ」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

それから更に時が経ち................

 

 

 

とある日、カルネ村....いや、「新・カルネ村」では。

 

いつものように人々が一生懸命働いており、今日も何かしらのトラブルも無く、平穏無事に過ごしている。

 

ただ、以前と違う点は....怪我人や病人がいないこと。それもどんな軽傷・あるいは軽症でもだ。

 

更には要塞かと思う程の防備、そして中の改善された食糧事情や衛生面。規模さえ大きければ、小都市かとも勘違いされてもおかしくないレベルの改革を遂げていた。

 

 

そんな中、その村を特に気負うことも無く堂々と歩く人影が一人。

 

どうやら子供達の所へ向かっているようだ。

 

それには、たくさんの村人が声をかけてくる。

 

「よぉ!フローレンス!調子はどうだい?あんたが好きな食いもんがこないだ取れたから、今度来てくれよ!」

 

「フローレンスさん。おはようございます。今日はいい天気ですね。子供達と遊びに行くのですか?それならこれを。ああ、勿論ちゃんと貴方の分もありますとも」

 

「師匠!この間教えて貰った戦法は結構魔獣に有効でした!今度また教えてください!」

 

「おはようさん、フローレンス。あんたが教えてくれた罠で昨日、獲物がいつもよりたくさんかかったんだ。礼を言うよ!ありがとう」

 

「フローレンス様。おはようございます。今日もいい日になりそうですな。これも貴方のおかげです。ところで永住の件、考えていただけましたか?」

 

そうして、村人達を後にして辿り着いたのは村の広場。元々あったこれも、新しくフローレンスが木材などを使い、遊具を立てたことで遊びがうんと出来るようになった。

そこに居たのは約束をしていた子供達。その中にはネムの姿もある。と、思っていたら後ろからエンリが追いかけて来た。まだまだ子供だなとは思いつつも、エンリは13歳だし、ネムは7歳だ。仕方ないか、と少しだけ微笑む。

 

「魔法使いさんおはよう!今日は何して遊ぶ?」

 

「あ!フローレンスだ!皆!フローレンスが来たよ!」

 

「ほんとだー!おはようフローレンスお兄ちゃん!」

 

「違うよ!フローレンスお姉さんだよ!」

 

「ねぇねぇ!はやく遊ぼー!」

 

「ま....待ってください....。はぁ....はぁ....足速い....。もぅー!止まってくれてもいいじゃないですかー!」

 

「.......ごめんね、エンリ。少しからかった。じゃあ皆、遊ぼうか」

 

今日も、カルネ村は平和である。

 

 

 

 

 

「そろそろこの村に来る?」

 

「はい。時期的にはそろそろンフィーがこの村に来ると思います。

いつも薬草を取りに来る期間がそのくらいなので。フローレンスさんのことも紹介したいですね!」

 

「..........そう」

 

「あ!噂をすれば、村の入口の方!あれってンフィーの貨物馬車かな?

おーい!ンフィー!」

 

 

そうして、何も知らない薬師の少年が村に辿り着いた。

少年─ンフィーレア─は思った....。

 

 

 

 

いや、1ヶ月ちょっとで変わりすぎじゃない?と。

 

 

 

 

continue....




キャラ詳細
◾︎「筋トレ鍛錬する弟子の男性」
後に村の衛兵となる。帝国兵に扮した一般法国兵程度なら勝てるようになる。フローレンスを師匠と呼び従う。尚フローレンス本人は、「弟子になれとは言ってない」らしい。

???詳細
◾︎『極限環境活動・力』
?????

スキル・魔法詳細
◾︎ 信仰系魔法《水中呼吸(アンダーウォーター・ブリージング)
第三位階魔法。その名の通り、一定時間水中呼吸が出来る。本来はドルイドでなければ習得出来ないが、ドルイドが信仰系魔法のスキルツリーマップな為、同じ信仰系なら習得出来てしまう。
現地よりもユグドラシルの方がビルト方法で得出来ている要素の一つ。
現地勢はちゃんとドルイドでなければ習得出来ない。

───────────────────────
今回は結局カルネ村周辺から出ませんでした。
次回はちゃんとトブの大森林も探索して、カルネ村も出たいと思います。.......出れたらいいなぁ....。

投稿頻度

  • 一話ごとは短め、投稿間隔は早め。
  • 一話ごとは長め、投稿頻度は遅め。
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