オーバーロード-七極星- 作:シンメトリー飛行船
いつもUA、感想、評価、誤字報告、お気に入りなど
ありがとうございます
お待たせしました。また性懲りもせずに2話分位書いてしまいました....。だってヒーラーside筆が進むんだもん....。でも書いてる途中で辛すぎて遅くなりました。
今回、残酷な描写があります。例によって直接的な描写は避けていますがご注意下さい。
原作3年前だと、丁度あの子が悪い貴族(そのままの意味)に娶られて3年なので、一応まだ娼館には売り払われていません。
セバスに肉塊(そのままの意味)にされたクズにも陵辱されていないので、比較的まだマシ(マシとは)な状態です。
※アンケートを間違えていたので修正しました。
既に投票してくださった方は御手数ですが再び投票頂けると幸いです。
「このまま順調に行けば、明日の昼にはエ・ランテルに着けると思います。その後検問で、フローレンスさん以外は通行許可証があるので通れますけど、フローレンスさんはおそらく足税を取られるはずなので....。
一旦僕らの方で立て替えておきますね。あと、色々と身元の確認やら何やらがあるかもしれませんが、僕たちの知人が他国から遥々旅人としてやって来たという事にすれば、大丈夫だと思います。これでも僕らは、エ・ランテルでは顔が効くので!」
「まる一日の道のりか、近いと言うべきなのだろうな。ありがとうンフィーレア、諸々感謝する。
....ハムスケ、....何してる?」
「..........?これは我が主の言われた通り、騎乗魔獣の役目を果たしているだけでござるよ?」
村を出る前、セントリオにハムスケはどうするのかと聞かれたフローレンスは、村に置いて行くと言ったのだが「それでは某は我が主に忠誠を尽くせないでござるよ〜」と泣きつかれた為にどうすれば良いのか困ってしまった。
幸いセントリオが「なら、エ・ランテルに赴いて騎乗魔獣として登録するのはどうかな」と提案して来たので、ならばそれで行こうとも思ったのだが....。
そもそもハムスケを置いて行こうとしたのは、カルネ村が森の賢王の縄張りになっているが故にこそ、今まで通りにカルネ村を間接的に守って貰おうとしたのだ。というか、今なら命令すれば直接カルネ村や周囲にあるかもしれない村を守ってくれるだろうと思っていたからだ。
にもかかわらず、自分も連れて行って欲しいという。さすがに面倒だしカルネ村が危険に晒されるのは好ましく無い。前とは違い要塞のさまようを呈しているが、それでも村人達では万が一侵入してきた魔獣達に対して対抗する術が無い。だからこそ、ハムスケには村を守って....。
「................あ」
と、ここまで考えて一つだけ見落としていた事に思い当たる。
今まで自分は転移魔法が使える程の高位の魔力系の魔法詠唱者では無いために、転移魔法が使えないものと思っていたのだが、そういえばこの世界では自身のアイテムも本物の物となり、実体化するのだ。そのため、魔力系をほんの少しだけ扱える自分ならば、転移系のスクロールを使って、何時でも行ったことのある場所に行くことが可能だということに気づいたのだ。
それに気づいた時フローレンスは、
(あんなに皆と盛大な別れ方をしておいて今更実は、何時でも来れるんだ。とは言えない.......)
と考えていた。
そう。なので一応、いつでもカルネ村に帰ることは可能だしハムスケも好きなタイミングでカルネ村に送る事が可能なのだ。
そしてそれをフローレンスはあまりに恥ずかしくなったせいで、皆に明かせなかった。結果的には、この世界でそんな貴重なスクロールを持っていたら厄介事間違い無しなので、まぁ明かさなくて正解ではあるのだが。
後日、ハムスケと一緒に人知れず村に帰って来て、皆に謝ろうと思っているフローレンスだった。
一先ずはどうにかなることが分かったので、この事をハムスケにこっそり教えて、口止めを条件に騎乗魔獣として着いてくることを認めたのだ。
................と、いうのがここまでの顛末である。
さらに念には念をで、エンリ達には何かあった時用に、自身に直通の
しかしそれは置いておいて、それよりも問題なのは、どうしてこの魔獣が自身を上に乗せて道を歩いているのかということだ。
いや、確かに騎乗魔獣として連れて行く事は認めたし、対外的にはこうしてハムスケに乗っている姿を見せなければならないのだろうが....。
なんというか、とてつもなく恥ずかしい。何がどうとかは言語化が難しいが、少なくとも今の状況は、年甲斐のある者が味わっていいものでは無いことだけは確かである。こういうのは幼い───それこそネムとかが味わうべき体験であって、これはちょっと如何なものかと思うのだ。
と、そんな感じでフローレンスがハムスケに苦言を呈しているところである。
因みに他の面々はこの様子を見て、伝説の大魔獣に跨って悠々と道を闊歩するのは絵になるなぁ....。とか、最早煽っているのかと言うレベルで自身の羞恥心が追い込まれそうだったので、なんとか街に着くまでは理由をつけて降りてやろうと思ったのだった。
................
しばらくして、大分夜も更けてきたので、今夜はここで野宿しようという事になった。あまり長引かせたくは無いが、かと言ってこの面子で夜も強行軍が行えるのは自分(とハムスケ)しか居ないだろうと考え、他の者達にも合わせる事にした。
どっちにしろ明日には着いている計算なのだし、少しくらいペースを落としても今すぐには国の情勢は変わらないだろうと当たりをつけたのだ。
そう、国。
ここに来てからほどなくして、異様にこの国から強く感じる穢れや淀み。
そういうものがあると言うのは重々理解しているつもりだが、それにしても負の気配が強過ぎる。特に、王都とやらの方面は異常な程だ。
早く何とかしないと手遅れになる。そういう気配がひしひしと感じ取れるのだ。こういう感覚は、前の世界に居た時よりもかなり強くなっている。
単にこの世界での感覚がそういう性質なのか、あるいは余程その気配が淀みきって穢れきっているのか。どちらにせよ、放置するという方向性では考えていない。前の自身が居た世界のこともあるが、それ以上にエンリたちが笑って暮らせるような世界にしたいと、そう思うようになったのだ。
だからこそ、放置は出来ない。少しでもどうにか出来るチャンスがあるならば、動くべきなのだ。最善を尽くしたとしても、どうしようも無い事だってあるのだから。
.......周辺国家もこの国の周りにはある筈なのだが、それらからはあまり嫌な気配を感じ取れない。単純に王国のように、そこまで酷い国ではないというだけなのか。それとも、
....それは今自分の考えることでは無いと心配をやめて、思考の海から浮上する。
目を開けるとすぐ前で、川で釣った焼いた魚を食べている冒険者達やバレアレ一家の姿が映る。彼らと共に今自分は焚き火を囲んで居るんだったな、といつの間にか長い間思考の海に潜っていたのだと反省する。
この様子では結局、自分は野営の設営などの準備は手伝っていそうに無いなということに気づき、皆に謝ろうと口を開く。
しかし、彼等から返って来たのは意外な返事だった。
「実は心配してたんですよね。準備中はずっとうわの空だし、話しかけても大した返事が帰って来なかったもので」
「ああ、それなのに準備はパパっと終わらせちゃってな。何か、聞こうにも聞けなかったよ」
なるほど。意外と自分はきちんと仕事を遂行していたらしい。無意識の自分を褒めると共に、真剣に護衛に取り組めていなかったことを謝る。
「全くだぜ。次は、ちゃんと話しかけたら返事してくれよ!」
と、半ばふざけた口調で許してくれた。
彼らとも度々話す機会が増えてきたのだが、存外良いヤツらなのだということに気づき始めた。と言うより、今までが見ていなさすぎた可能性もある。現に今。全員のフルネームを改めて聞かされた時に、ようやく全員の名前を覚えられた。
「ふむ、お疲れのようですね。そういう時には塩漬け物が良いですよ。
さぁ、どうぞ(微笑)」
何か話題でも....と思ったところで、そういえばこの冒険者パーティーは、どういう経緯であの村に来たのだろうか。いや、それよりも気になることがある。塩漬け物を勧めてくる神官を無視しながら、彼らに話を聞く。
「君たちのチーム名の....“アガハスト”というのはいったいどのようなものなんだ....?」
そう、アガハスト。これはユグドラシルにおいて、強力な
もしこれがその辺にある伝説の武器ならば、とても危険な事になる代物だ。彼等には悪いが、出来れば自分が確保しておいて、誰にも使わせたくは無い。
しかし、もしそれが単にアガハストと呼ばれているだけの別物だった場合。彼らの目標であるアガハスト(休憩中にチーム名の由来は聞いた。)を奪う訳には行かない。まぁ、それはそれで危険な代物である可能性もあるが、万が一の場合には自分も着いていくことも辞さないつもりだ。
「あー、それは多分リーダーが一番詳しいんじゃねえか?」
「私達も伝説くらいは聞いた事ありますけどね。有名ですし」
「でも確かに、リーダーが一番詳しい。私はそこまで興味無い」
「シンよ....一応このチームの最終目標なのだから、それくらいは知っていた方が良いのではないか....?」
「あはは、大丈夫だよディロボ。それでえっと、アガハストがどんなものかって言うと.......一言でいえば、超強い戦斧....ですね。まぁこれは簡潔すぎるんですけど、実際そういうレベルの伝説の武器なんですよ。並の伝説譚なんか目じゃ無いくらいに。規模が凄すぎて表現するのが難しいんです」
「確か大陸を真っ二つに割ったとか、空から落ちて来たバカでかい龍を空中で切り裂いて地上に着くまでに粉々になったとか....。まぁそういうでけぇ規模を成し遂げた伝説の3割くらいは、その斧が関わってるらしいぜ?
あとはなんだっけな....。ああそうだ!確かあの十三英雄様の内、風の巨人の英雄とか、それ以外の奴とかが使っていたって逸話があるんだよな?」
なかなかな逸話だと思う。ともすればこれは本当にアガハストなのではないか....?と言えそうだ。特に大陸を真っ二つにという話。
確かアガハストという
「その通りだよ。まぁ、本当の持ち主は誰かっていうのは未だにはっきりしてないんだけどね」
「そうらしいなー。あとはそうだな.......確か口だけの賢者って奴も斧を振り回してたんだと。その強力さから同じ武器なんじゃねえかって話もある」
それにしても十三英雄に口だけの賢者か....。実は村にいる時に、多くの神話やら伝説やらを聞いたのだ。その時に六大神や八欲王、魔神や十三英雄などの存在を知った。口だけの賢者はまた別の時に聞いたが。確か扇風機やら冷蔵庫やらを広めようとしていたが、作り方も何も説明出来なかったせいで、口だけの賢者と呼ばれていたとか....。
とまあ、こんな感じで沢山の話を聞いていると、とある推測が浮かんでくる。
もしかしてこれらの者たちは全てプレイヤーなのでは?
確かにそれならば、この世界であれば偉業を成し遂げられる事も可能だろう。
しかしそうなると、また別の問題が出てくる。
何故プレイヤーは別々の時代に飛ばされているのか....?
とりあえずこれ以上は話がややこしくなりそうなので、彼らの話に耳を傾ける。もしかするとそのアガハストが別物の武器である可能性も捨てきれないのだし。
「あれは正確には違う武器だと思うけどね。時代が違うからとかでは無くて、ただ単純に大きさも権能も違うし。アガハストはとんでもなく大きいけど、それはとんでもなく強く、それでいて正しき強者には持つことが出来て、その一撃は空を覆い、大地を呑み込むと言われている。けれど、口だけの賢者の斧は強力でこそあれど、そこまで大きくはないと言われているしね」
アウト。完全にそのものだった。これは急いで回収しなければ不味い。
もし余人に利用でもされようものなら、この世界がバットエンド一直線だ。
運営が課した制限というのが、そのプレイヤーのPK率やペナルティを受けたことがあるかどうかの有無。それと不正アクセスをしたりしていないか、というもの。簡単な話が、良心的で無闇矢鱈にマップ兵器をぶっぱしないプレイヤーに使えるという制限だったのだ。
だが、この世界でもその制限が正しく働いているとは限らない。PK率やペナルティなんてあくまでゲームの中の話だし、この世界に来て人が変わってしまえばそれだけで悪用するリスクが出てくる。最悪実際には使われなくとも、それを脅しの材料にして国を縛る事だって可能だろう。
「へぇー。やっぱ詳しいなリーダーは!」
「はは、小さい頃からの憧れだったからね」
呑気に盛り上がっているところ悪いが、彼らには警告をさせてもらう。というか、なんならアガハストは危険な代物であるという重大性を伝えて諦めてもらった方がいいのではないかとも思う。せっかく知り合った彼らに死なれては寝覚めが悪いし、何よりアガハストの
と、そこまで考えて、しかし冷静になってみる。
本当に彼らを止めることが正解となるのだろうか。もちろん危険である以上警告はするべきだし、可能な限り引き留めるべきだろうが。そもそも彼らはアガハストの伝説を聞いて集まった有志達だ(一部違うかもしれないが)。そんな彼らの結成理由であり、モチベーションとも言えるアガハストを、危険だから諦めろと言われて納得出来るだろうか。少なくとも、自分ならば納得しないだろう。
では、どうすればいいのか。彼らを危険に晒さずに、かつアガハストを探し出して確保する。だが、彼らの名誉を傷つける形以外でなければいけない....。それに、この国の問題も解決しないと.......。
...................その時、天啓は降りた。
と.............。
「少し良いだろうか....。自分もそのアガハストというものに興味があるんだ。
もし良ければ.......。冒険者になる方法を、教えてはくれないか?」
◆◆◆◆◆
結論から言うと、冒険者としてのなり方やノウハウなどを彼らは教えてくれた。
彼らは自分が冒険者になりたいと言うと、「まじか!大型新人登場だな!」や「アガハストを狙うならライバルですかね!」と言うようなそれは楽しみだという反応が返ってきた。
中には、「こ、これで合法的に魔法についての依頼が出せる....うふふふふ..........」というようなちょっと遠慮したい未来が見えたような気もするが、概ね良い返事を貰えた。
これならば彼らが例え手に入れられ無かったとしても、自分の目標でもあるのだから早い者勝ちだし(大したものでなければ譲るつもりだが)、自分がアガハストの事を話題に出しても不審には思われないだろう。
ついでだから、そのアガハストを確保するために旅していたということにでもしておくか。そうすれば多少現地の者達よりも詳しかったとしても、何処かでそういう資料を読んだと誤魔化すことが出来る。
自分の実力についてもそれなりの理由づけになるだろう。
そういう各地の強力な物品を保管しておく里があることにでもしておくか.......?誰も立ち寄らない秘境ゆえに今まで存在がバレていなかったという感じで.......。自分はそこの出身ということにしておけば、身元も一先ずは説明がつくだろう。使えるのは一応第五位階までで、治療が得意。肉弾戦も可能と。
とりあえずの割には良さそうなカバーストーリーが浮かび上がってきた。当面はこの設定で行こう。
というか、今までめちゃくちゃふわふわな設定だったにも関わらず、自分を受け入れていたカルネ村が心配になってきた。
やはりあの村は自分が守らねば....。
「へぇー、アガハストはそんなものなのか....。俺も知らないことを知っているなんて....」
「さすが我が主でごさるな!とても物知りでござる!」
「ということは....本当に貴方は密命を帯びて回収をしに来た方、ということかな」
「ああ、その通りだ。そして大変危険だ。だからこそ自分のような腕の立つ者を里は送り出し、もし被害に合いそうな者たちがいれば保護する予定だったのだ。
だが、まぁ....。君たちは自分達がどうすれば危険な目に合わないか、身の丈に合わないものに対してはどうするべきかをよく弁えている。
ならばこそ、自分は君達を保護すべき対象では無く、どちらが先に手に入れられるかのライバルとして見ている。お互い、頑張って伝説の武器を探そうではないか」
「....ああ!ぜひ!でも良かった。冒険者を辞めろとか言われるんじゃないかと思ったよ」
「せっかく始めた冒険を、どこの誰とも知れないぽっと出の奴に終わらせられたくはないだろう?.......自分もその気持ちはよく分かるからな....」
そう言うと、何処か彼らの雰囲気が一つ柔らかくなったような気がする。実は今まで何を言われるか緊張していたのだろうか。それなら申し訳ないなと、しかしどこかその空気がおかしくて、微笑みを零してしまった。
冒険者──────もしそこに何か希望があるとするならば、この国も少しは変えることが出来るのだろうか........。
多くの話を全員を交えて話し合い、終わったのは少しだけ遅い時間だった。いい気分になりながら、各々は交代で就寝するのだった。
............................
次の日の朝、準備を終えて出発すると、程なくして遠くに何やらうっすらと城壁のようなものが見える。実際に城があるわけではないにせよ、あれこそがこの辺りで一番大きい街。三国の要であるエ・ランテルである。
このままあの場所へと直行.......とは行かず、何処へ行くにも厄介なこととは着いてまわってくるのであった。
「皆!敵襲!」
「(お.......自分よりも気づくのが早かった....。).......種類と数は?」
「ゴブリンが14、オーガが6、トロールが2。飛んでいるやつがいなければこれで全部かな」
「トロールが居るのは珍しいな.......。ただまあ、今の俺たちからすれば.......。「「雑魚」だな!」」
「だっはっはっ!揃ったなぁ!んじゃ、いっちょやるか!」
「と言っても、皆さん油断はしないように。何処に伏兵がいるか分かりませんからね」
「散々痛い目みたっつぅの!」
「行動開始」
「フローレンスさんはバレアレさん達を頼みます。我々もなるべく援護は致しますね」
「問題無い。加勢と護衛両方こなそう」
「頼もしいですね!」
林から続々とゴブリン達が出てくる。彼らの言っていたとおり、今の強さならば彼らだけでも十分太刀打ちできるだろう。そもそも白金級の冒険者チームであり、魔境と言われるトブの大森林から生還した者たちは伊達では無い。
唐突に始まった草原での戦闘は、一方の圧倒的な蹂躙に始まった。
「オラァ!武技〈戦気梱封〉〈剛撃〉!」
コンザの魔力のこもった一撃により、オーガは倒れ伏す。並の冒険者ならば太刀打ちすら出来ないそれは、今やコンザにとっては武技を使った一撃によって沈められる程度の相手になっていた。
「《
二条の雷光がゴブリン数匹を貫きながら、オーガを交差して貫く。
一発でも倒すのに充分なそれは、一体のオーガを焼き焦がす。
「やるな!二人とも!武技〈能力向上〉〈威力蓄積〉!」
それを見たセントリオが意気揚々と敵陣を駆け、早々に逃げ出そうとしたもの達を逃がすまいと先回りして立ち塞がる。
「残念だが逃がす訳には行かないな!一応聞くが、命乞いは?なんてな!そっちから襲って来といてそれは無しだよな!
武技〈威力蓄積〉解放!〈連続斬撃〉!」
逃げるゴブリンをバッサバッサとなぎ倒して行きながら、こちらに向かってきたオーガに数撃叩き込む。それだけで、オーガですらも倒れていく。
「まぁ、この程度なら全然いける。武技〈斬撃〉」
毒の染み込まされた短剣で切りつけるシン。そこそこ強力な一撃だったが、死に至らしめるには足りない攻撃を受けたオーガは微笑を浮かべる。しかし、その油断が命取り。シンをこの中ではそこまで脅威ではないと侮ったオーガが襲いかかってくるが、なかなか捉えることが出来ない。そのうちに、毒がまわって衰弱したオーガは地に倒れ伏した。
トドメに頭へ短剣を刺して、シンもオーガを仕留める。
「《盾強打》!.......む?」
「《
気づけば辺りには、フローレンスが倒したであろうオーガ2体と数匹のゴブリン。さらに現在相対しているトロールしか残っていなかった。
そのトロールも、フローレンスの拳の一撃により即座に沈んだ。
残る一体のトロールも、アガハストガーディアンのメンバーが複数人で一斉に攻撃を仕掛け倒していた。
「終わりましたね。討伐証明だけ取って行きましょうか」
「それがいい。余計な荷物は増やさない方が吉」
「だな。それじゃあ.......あの、フローレンスさん。何でもかんでもそのアイテム袋に入れなくていいんですよ....?」
「ん.......?ああ、済まない。っと、討伐証明というのは何だ?」
「マジか....全部入っちまった.......。前回あんだけ魔獣入れてたのによ....」
「討伐証明っていうのは、魔物の一部....ゴブリンやオーガなどなら耳の部分を切り取って、冒険者組合に提出すればいいんですよ。そうすると報酬が出るんです。つい最近出来た仕組みですね。....という説明で大丈夫でしょうか」
「なるほど....。それを作った者は、中々に政策に長けているようだな....。少なくともこの国では。ああ、あの時入れた魔獣の大半はカルネ村で有効活用するために素材用に捌いた。まぁ、いくつかは捌ききれずにまだあるけれど」
「おい、カルネ村にいた時間って帰って来てから少ししか無かったよな?仕事早すぎたろ....」
そんなこんなで、戦闘終了後の片付けをしていると.......。
「_________ッッッ!!!」
感じる。吐き気を催すほどの邪悪を。
今まで感じた中で一番の
これは、あっていいものでは無い。仮にも癒し手を名乗る己ならば見逃してはならぬ
まだ、最悪では無いのが救いかもしれない。だが、限りなく
国など知ったことか。国を優先し、民を犠牲にした結果、最悪の結末を迎えた世界を知っているのだ。
駆け出そうとするフローレンスを、様子がおかしいことに気づいたセントリオ達が声を掛けてくる。
「フローレンスさん。....何かあったんだな?」
「水臭いですね。確かに貴方一人でもどうにかはなるでしょうが、それは我々が看過する理由にはなりません。「だが.......」万が一危険だと判断すれば、即座に撤退します。ですから、一人で行くとは言わないで下さいね?」
急に弁の立つ所を見せて来たハルテンヤーに動揺する。いきなりどうしたのかと聞けば、何か危ない目に首をツッコミそうになったら、気にかけてくれとエンリから言われていたという。
さすがにそう言われては反論出来なくなってしまう。しかし、討論している時間も惜しい。渋々ながらも、彼らに最後の確認を問いかける。
「きっとかなり気分の悪いものを見ることになると思う....。それでも、自分の合図があるまでは動かないでくれ。それが守れるのなら、....着いてきてくれ」
それから、なるべく女性陣は来ない方がいいと伝えておく。しかしリイジーとンフィーレア以外は皆来ると言うので、せめて護衛として残してくれという方便で、守りに長けた盾役二人、それからハムスケを置いていくこととなった。
「あ、あるじぃ〜。置いて行かないで欲しいでござるぅ〜....」
せっかく女性陣を残して置けるチャンスだったが、もう時間が無い。向こうがどういう状況なのか分からない以上、もうこれで行くしかない。
「くれぐれも気をつけてくれ。相手は厄介な身分の可能性もある。その時の対処は....まぁ、後で話そう。..........行くぞ」
そうして彼らは、見通しの悪いオーガ達が出てきた所とは違う、鬱蒼とした林の中へ入って行った。
◆◆◆◆◆
貴族である男達が、鬱蒼とした林の中に豪華な馬車という、その場には似つかわしくない乗り物に乗っていた。
彼らがここへ来たのは、ある取引の為だ。
貴族の男が馬車から降りる。
その後ろの、男が乗っていた馬車よりも控えめな装飾が施された馬車から、鎖で繋がれた少女が降りてくる。
その少女は青い瞳に綺麗な金髪の、愛嬌のある見た目をしている。しかし今は、その瞳は光を失って絶望に染まりきった目をしている。
自身が鎖に繋がれているというのに、抵抗もせずに薄汚いメイド服を着せられたまま、その体ごと鎖を商人と思しき男に引かれていく。
貴族風の男が隣に“
「ハッハッハ。ようやくお会い出来ましたな、スタッファン様」
「ぐっふふ....。本当だよ....だが許すぞ....きち〜んと“
ニチァッという擬音が良く似合う粘っこく、人によっては生理的嫌悪をもたらす笑顔をするスタッファン・へーウィッシュという丸々と太った、脂ぎった顔の男がそう言う。
「この小娘は、せっかく私が娶ってやったというのにろくに奉仕もせず、更には家に返せと宣う田舎娘でして。ぜひ!言い値で買って頂いたスタッファン様に“
対して上機嫌に“商品”の説明をするのは、その横の少女を村から攫って無理やり妾にした自分勝手極まる貴族の男。言い分も適当に過ぎず、要は自分が飽きたから高く売れそうな顧客に媚びを売っているのだ。
自らは散々少女に酷い仕打ちをしていたが、それでもまだ少女がこれから、新しい主に受けるであろう嗜虐的な筆舌に尽くし難い目に合うよりはマシなものだった。
だからこそこの貴族の男は、これからこの少女がどのようにいたぶられるかに興味がある。そしてスタッファンは、これからどのようにいたぶりながら性的な行為をしようかと楽しみになっている。
下衆な男達が興奮しつつ、その“商品”と呼ばれた少女を見る。
少女はビクッと体を震わせるが、それがこの男達の興奮をさらに煽ってしまう。
やがて我慢出来なくなったのか、スタッファンが口を開く。
「おい!もういいだろぉ〜!早くその娘を寄越せ〜!支払いならここにある金を持っていけ!早くしろ!」
「は!ではここに契約書を....はい、結構です。では取引内容、奴隷として八本指の奴隷部門に引き取る間、その身柄は娼館及び多額支援者のスタッファン様最優先の預かりとなります。よろしいですね?それでは私は失礼致します」
「うむ。ぐふふふぅ〜....。さぁ来るがいい〜、今からお前をたぁ〜くさん可愛がってあげるからなぁ〜....。ぐひっ....」
八本指の奴隷部門の構成員が契約書を懐に入れ、そのまま待機していた馬車へ乗り込もうとする。男は下卑た笑いを浮かべながら、我慢出来なくなったのかそのままここでコトを始めようとする。
少し気になるものの、スタッファンがお楽しみを邪魔するなと言いたげなので、貴族の男も自身が乗って来た馬車に商人と共に戻ろうとする。
「ぐひひ....あの憎らしい小娘が奴隷制度を廃止してから、全くストレスの溜まる毎日だったが....。今日は存分に楽しませてもらおう....ぐひっwぐふっ....ぐへへへへへへへへへ!」
「.............っ!」
少女は恐怖に染まりきった表情で、これから起きる非道に身構える。とは言え、体は抵抗の素振りを見せない。今まで酷い扱いを受けていたからこそ、最早抵抗する気も失せてしまったのだ。
大人しくしていればまだ楽に済む。それが今までの、勝手に自分を攫った主のタイプだったからだ。
しかしそれが気に食わなかったのか、スタッファンが少女の手を力強く引っ張る。そのまま頭を自分の前に持ってこさせ、その艶のある綺麗な髪は脂ぎった手でぐしゃぐしゃにされながら上に引っ張られる。
「い.......痛い.......」
「あ〜ん?私に口答えする気かぁ〜?この女〜!!」
「がああ゙ぁっ..........はっ....」
気に食わないと少女の腹に一発。さらにその綺麗な顔にも一発拳が入る。
少女の顔は血にまみれ、端正な顔立ちも歪んでしまっている。
「うひっ♪うひゃ....うひゃひゃひゃ〜!最高じゃないか〜!
もっと啼け!泣けよォ〜!」
「うっ....... あ゙っ.......」
綺麗な少女の面影は見る影も無い。辛うじて衣服としての役割を果たしていた薄汚いメイド服も、その男の手によって破かれてしまっている。
「ぶひゃ.......うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ♪」
殴る、殴る、殴る。乗っかられたまま身動きの取れない少女を、邪悪な笑みを浮かべる男が陵辱する。それはこの世界であっても最悪な光景と言わしめるもので、醜悪な空気を辺りに醸し出していた。
◆◆◆◆◆
私、ツアレニーニャ・ベイロンは、単なる村の村娘だった。
早くに両親を無くしているものの、妹のセリーシア・ベイロンと共に助け合い、仲良く平和に暮らしていた。
しかし、自分がタチの悪い領主に目をつけられてしまい、そのまま連れ去られてしまう。その領主貴族は、勝手に自分のことを妾だと言い、散々酷い目に合わされた。
暴言、暴力、強姦、特殊な性癖を満たす為の玩具、悪辣な貴族仲間の見世物。挙句の果てには妹にまで手を出すと言われ、それだけはどうかやめて欲しいと懇願した。
結果、妹に手は出されなかったが、その分より自身への仕打ちは苛烈なものとなっていった。
抵抗したくても、すれば妹に手を出される可能性がある為抵抗出来ない。いつからか自分から抵抗しようという風にも思わなくなり、体も残酷な仕打ちを受け入れていった。
それから、反応が薄くなった自分に飽きたのか、幸か不幸か自分は売りに出されることとなった。扱いがまるで奴隷の様だとも思ったが、それでも今よりはマシなところに行けるだろうとこの時は思っていた。
しかし、その期待は裏切られた。
拘束されつつ乗せられた馬車から降りて、目の前に居る男を見ると、それはなんとも形容し難い、見ているだけで怖気が走る太った貴族の男だった。
直感で理解した、この男は不味いと。今までなんて比じゃないくらいに酷い目に合わされると。
そう思うと最近は滅多に思考していなかった、抵抗することが頭に浮かぶ。
だが、体は動いてくれない。むしろ、恐怖で体がビクッと震えて男達の情欲を掻き立ててしまう。すぐに態度には出すまいと無反応であろうとするが、太った男が近づいて来る度に体を悪寒が走っていく。
嫌だ、もうあんな目にあいたくない。嫌、殺して....、誰か....助けて....。
「うむ。ぐふふふぅ〜....。さぁ来るがいい〜、今からお前をたぁ〜くさん可愛がってあげるからなぁ〜....。ぐひっ....」
「ひっ....」
助けを求める声さえ出せない。ここならば街道が近いし、薄い望みにかけて叫んでみるのもいいかもしれないが、それで助からなかった時、自分がどんな目に遭わされるか怖くてしょうがない。本能が行動を拒絶し、何も出来なくなってしまう。
「ぐひひ....あの憎らしい小娘が奴隷制度を廃止してから、全くストレスの溜まる毎日だったが....。今日は存分に楽しませてもらおう....ぐひっwぐふっ....ぐへへへへへへへへへ!」
「.............っ!」
嫌だ、嫌だ、それ以上近づかないで下さい。お願いだから、お願いします。もう嫌なんです。だからどうか.......
大人しくしておけば抵抗するより楽で済む。最早慣れてしまった受け入れる仕草で相手を待つ。しかし、そのまま楽に終わらせてくれる結末は訪れなかった。
「い.......痛い.......」
男に力強く腕を引かれて痛みに呻いている間もなく、自分の髪をぐしゃぐしゃにされながら引っ張られる。口答えはしないでおこうと思っていたが、それでも痛みを訴え、余りの悲しさに涙が出る。
「あ〜ん?私に口答えする気かぁ〜?この女〜!」
それを反抗と見たのか....いや、大して理由などないだろう。気に食わないという理由だけで自身を痛めつけてくる。
「がああ゙ぁっ..........はっ....」
腹と顔を殴られたせいで、呻き声が漏れる。血の味がして、視界がふらつく。醜い男が悦ぶ声が頭に響く。服がめちゃくちゃに引き裂かれ、男に馬乗りになられながら殴られ続ける。
どうして....どうして....私がこんな目に遭わなくちゃいけないの....。
助けて....セリーシア..........
嫌だ....助けて....誰か....誰か....誰か....。
もう意識が朦朧としてくる。それなのに男の声は嫌に頭にこびりついて残る。最悪な気分だが、気絶しようにも無理やり男が自分を殴って起こして来る。
何回こんな仕打ちを受けているのか分からない。殴るのを辞めたと思えば、そのまま今度はその汚いものを
もう....いや..........
男の顔面が近付いてくる。
こんなの.......耐えられない..........
男の粗末なものが押し当てられている。
たす.............けて.............
目を逸らそうとした自分を殴って、顔を正面に向けさせられる。
だ.......れ....か..........
そのまま、意識を手放そうとして.............
なにか轟音が響き渡ったと理解した時、
目の前の太った男は、
物言わぬ醜き肉塊となっていた。
「..........あ」
それが、確かに目の前の男が派手に爆散したのだと気づいた時にはもう。
気持ちが悪くて吐いてしまった。
.....................................
意識が戻った時。それは自分が暫く気絶していた後なのだろう。
途中誰かから話しかけられたり、その誰かに話しかけたような気もするが、頭が上手く回らない。
ふと、自分の体を見てみると、先程まであった全身の傷や血でまみれた体は綺麗になっており、吐いたはずの物も無くなっていた。
顔に触れてみても、不自然な凹凸はなくなっていて、元の顔立ちに戻っていた。
目の前には、何故かまだ息のある寝転がらされたあの太った男と、同じ格好をしている取引現場にいた八本指の構成員。さらに自分を攫った元凶の貴族の男と、その仲間の商人がいた。
周りにも何人か居たはずだが、それらは全員血の海に伏せていた。
「こ.......れは....、なん.......で.......」
喉から余り声が出せない。酷い目にあって気絶したのもあるが、吐いたせいもあるかもしれない。
「気がついた.......?」
「....え」
こんな状況なのにも関わらず、何処か安心する声。その声の持ち主は、そのままこちらの調子を案じながら言った。
「ごめんね....思わず目の前で殴り殺してしまった。目の前で人が弾けるのはさぞ気分が悪かったかもしれない。
....それとも元からこういう目に遭いすぎて、限界を越えてしまったのか。.......どちらにせよ具合が悪いことは間違いないから、また気分が悪くなったら遠慮無く言ってくれ。吐いたものは自分が片付けたから大丈夫。心配しないで」
艶があって透き通った緑色に見える髪が、僅かに自身の頬に掛かるように垂れる。こちらを見つめているその瞳はまるで屋敷にあったどの宝石よりも美しい、髪と同じような色の宝石に見えた。
「....一応自分の掛けられる回復魔法やらなにやらは全て使ったけれど、まだ具合が悪いだろうから安静にしているといい。
.......服もちゃんと街に戻ったら買わないとね」
「あ.......」
一気に語りかけられて情報が追いつかないが、とりあえず私は目の前のこの人に助けられたということで良いのだろうか。
目の前のその人は、一旦自分に目配せをしたかと思うと、そのまま血に伏している男達の方へ寄って行く。
しばらく何かを唱えた後、その右手拳に手袋をはめた後に力を込めて、思いっきり男の下半身を粉砕していた。
「グビャッッッッッッ」
男が断末魔を上げている。よく見れば、周囲にも数名の人間が立っているのが分かる。その内女性達が、他の男達のことを串刺しにしたり魔法で焼いたりしている。
自分を散々痛めつけていた奴らが苦しみ悶えている。そんな様子を見て自分は、ざまぁみろと蔑む訳でもなくて、怒りに狂って一緒になってあの男達を痛めつけるでも無くて。ただただ、体の震えが止まらないままだった。
いつの間にか下半身が粉砕された太った男は、気絶したまま再び元の体に治っていた。
そうやって信じられない光景を目にした時、太った男の側に、なにやら手袋らしきものが落ちていた。
すると、いつの間にか自分の前にまでやって来ていた最初に声を掛けてきた綺麗な人が、目の前にしゃがむ。
そのまま、私の震えを抑えるように優しく抱擁をしてくる。
「大丈夫。大丈夫。もう怖がらなくていい。貴方はもう助かったから。
もう、あの下衆共に怯えなくていいから。絶対にもう二度と、こんな目には遭わせないから....。....だから、泣いていいんだよ....」
優しく私の背中を撫でながら、その声が包んでくる。
自分のどうしようもない感情が溢れて、涙とともに流れ出して行く。
「うっ....うあっ....誰もっ.......何も助けてくれなかったっ....!
私の事を....酷い玩具みたいに扱ってっ....!うっ....ぐずっ....いつまでたっても、何もいいことなんかなくてっ....!
奴隷の様にされてからも酷い目あってっ...もう生きるのが辛くてぇっ.....」
全てを吐き出していながらも、手は私の背中をさすったまま、その人は
私の独白を静かに聴いていた。
やがて涙が止まらなくなってポロポロと号泣して、倒れそうになった体を、目の前のようやく安心できる存在に預けて全力で泣き喚いた。
「うぅぅ.............ぅぅ....うわぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!!
ずっと、辛かったぁ....!!ずっと辛かったんです....!!!!」
少女の嘆きが、森の中にこだまする。それはとても悲痛な叫びで、間違っても気分のいいものでは無かった。
しかし、目の前の自身を助けてくれた恩人は
「貴方を助けられて、よかった。間に合っているとは到底言えないかもしれないけれど。それでも、今貴方をここで見つけられて、良かった」
と、心底安心したような静かな言葉を、私に投げかけていた。
そうして散々泣いて、泣いて、泣き疲れた果てに。
私は、つい最近まで感じる事の無かった暖かい温もりの中で、泥のように眠りに落ちるのだった。
◆◆◆◆◆
「.............これは」
嫌な気配がしたと思い、すぐ様現場に辿り着いたとき、それは最低な場面に出くわしたと言っていい光景だった。
男が馬乗りになって少女を殴り続けている。かと思えば、その粗末な物を少女の.......恐らく大事な物を奪わんと近づけているのだろう。
筆舌に尽くし難い暴行を受けている姿を見て、自分とあとから追いついた冒険者達は絶句し、暫く立ち尽くしてしまった。
だが、予め覚悟を決めていたフローレンスはいち早くその男に近づき、その醜い豚のようなボディに一発。見事に爆発四散させたが、これでは行けないと思い、少女の方を気にかける。
さすがに人間風船を見ては気分を悪くしたのか嘔吐してしまっている。
やってしまったと思いつつ、少女の介護を呆けている冒険者に頼む。
さらに、恐らく辺りにまだ潜んでいるであろう下衆共の仲間が居ることを忠告しておく。いざとなったらそいつ等を止めてくれと言いながら。
軽く第八位階の回復魔法を少女に掛けてやり、傷が治ったのを確認しながら、そのまま逃げようとしている馬車三つを捉える。
一つは恐らく八本指とかいう裏社会の住人。
殺ってよし───
もう一つは少女を連れてきた悪どい貴族。
殺ってよし───
最後の一つは少女を取引した商人。
殺ってよし───
「惨たらしく壊れろ」
自身が行える限りの強化を施しながら馬車を追う。凄まじい速度で追いつかれた馬車の中の豚共が騒がしいが、そんな事はどうでもいい。
さらに途中、とても頑丈な
とりあえず、一撃をそれぞれの馬車に叩き込む。八本指の馬車は別の道から行こうとしていたが、なんとか追いついて一撃を叩き込んだ。
それぞれの馬車が横転する。もう戦意などはないだろうが、構わない。
このまま引き摺って、先程の場所まで連れ戻し、全員から情報を引き出す。その後は、出来うる限りの最低限で最大限の責め苦を味合わせる。
残念ながらこいつらには殺すほどの価値が無いので、後で蘇生して廃人になるまで精神を壊してからその辺に放置してやる。
「楽に死ねると思うなよ。お前らにはせいぜい苦しみを味わって貰う。あの子がもしお前らへの復讐を望むのなら、一生虐げられる道具に成り下がらせる。もう懺悔は聞きはしない」
ショックで気絶している輩もいるようだが、贄として連れて行く。
あの少女に死んでも謝らせる為に。
............................
しばらく引き摺って来て戻ると、辺りには血の匂いが充満していた。
見れば武器を構えたままの冒険者達が、明らかに盗賊などの風貌をした下手人達を倒していた。やはり他にも伏兵が居たらしい。危なかった、あのまま自分1人だったなら、この貴族共は逃がさなくても、あの少女が危険に晒されるところだった。
自分の姿に気づいたのか、セントリオが声を掛けてくる。
「.......フローレンスさん」
「ありがとう。助かった。
君達が居なければあの少女がその男達に連れて行かれるところだった。
怒りで、奴らしか見えなくなっていた.......」
「いえ、俺達もフローレンスさんの忠告のおかげで対策が取れてましたし、大丈夫ですよ。.......その、何より、気持ちは分かりますから」
「そうか....」
「.............。」
少女を見つめる。戦闘を優先していたのか、まだ少女の介抱が進んでいないのを見て、自分がなさねばならないと少女に近づく。目は虚ろで、何処を見ているか分からないが、少なくとも怯えきっているのだけは察することが出来る。
魔法で吐瀉物を片付けながら、彼女の体も清められた水で洗っていく。
そのまま今度は
ふと、声を掛けてみるが返事は帰ってこない。余りの出来事の連続で気絶しているのであろう。
このまま地べたに寝かせて放置するのも忍びないので、もう二枚毛布を出して地面に敷く。その上にゆっくりと少女を降ろす。
「..........さて」
ひとまず最優先でやることは終わった。次に優先的な物を処理していこう。
とりあえず情報が欲しい。その辺のやつでもいいが、どうせなら詳しく知っていそうなのに聞きたいので、先程弾け飛んだ男を蘇生する。
蘇った男は恐怖に顔を歪めて、「な、なんで、何故だぁ!?」と喚いているがそんな事は知った事では無い。こちらの質問に答えて貰う。
「おい」
「ひ、ひぃぃぃ....な、なんだお前は!この私がスタッファン・へーウィッシュと知っての.......ろ、ろうぜきかあ!」
「..........はぁ....。面倒くさいな、お前」
「ひ、ひぃ」
「いいか、今から質問に答えろ。答えなければ殺してまた蘇生する。安心しろ。余計に殺しまくって遊ぶ様な残虐な真似はしないし、最終的には生きて返してやる。だから、さっさと答えろ」
「な、なんで.......なんでこの私がこんな目にぃぃぃ!」
「まだ、質問はしていない。煩いから黙れ」
「グボッ」
「一つ目、名前と所属、なんなら立場でもいいが言え」
「お、お前なんぞに、なんで教えなきゃいけな」
グシャッ.............
「蘇生」
「......................っは!?ど、どうし.......何が....」
「一つ目、名前と所属、立場でもいいが言え」
「ひっ....ま、待ってくれ、待ってくらさい!助け」
グシャッ.............
「蘇生」
「あ.......ああああ..........」
「質問の意味が分からないのか?もう一度だけ聞く。
名前と所属、立場でもいいが言え」
「う.......うぉぇ.......わ、私はスタッファン・へーウィッシュで....す。
王国の貴族です.......」
「そうか。二つ目、取引はどんなものだった?」
「そ、そこの女を八本指経由で娼館と私の奴隷にして、弄んでやろうとしたんです....」
「そうか。三つ目、その取引の証明になる物は?」
「そ、それは.......」
スタッファンが言い淀むので、右の拳を上げる。
「や!奴です!奴が持っています!あいつは八本指の奴隷部門の構成員です!取引に必要な書類を懐に入れていました!」
「そうか。四つ目、この取引をして、後悔はしているか?」
「へ....し!してますとも!はい!もちろんです!」
「...................」
「あの....」
「五つ目....、なんで自分がこんな目にあっているか分かるか?」
「えっ.......そ、そんなの分からない。どうして私がこんな目に」
グシャッ.............
「そうか、ならいい。これで遠慮する必要が無くなった」
ポタポタと、手袋をした拳に着いた血が地面に垂れる。
とりあえず聞きたいことは聴けた。
あとは適当に蘇らせて、あの少女に復讐したいか聞こう。もしそれどころでないくらい答えられなければ.......。....まぁ、その時はその時だ。
手袋を一旦外し、少女の元へ行く。近くには少女を心配そうに介抱するシンとソーラが居た。
「二人とも、結局こんな物を見せてしまって済まない。いい気分にはならなかっただろう」
「.............いえ、元はと言えば忠告されたのについて行ったのは私達ですから」
「.......こんな、惨いことを、よくも」
「.......」
惨いことで言えば、自分も結構やっているのだがとは言いたかったが、そういう空気では無いので黙っておく。
ついでに、流れで最高位の蘇生魔法を使ってしまったが、誰も突っ込んでは来ないのでそちらも黙っておく。
「....二人とも、介抱を変わろう。その間、あの男達に尋問しておいて欲しい」
「................はい」
「......................わかった」
「..........くれぐれも殺すなよ。....確かに家畜以下の畜生共だが、どんな立場か分からない以上、故意に殺してはダメだ。
..........が、まぁどうしても我慢出来なければ仕方がない。コラテラル・ダメージだ。自分が蘇生してやるから.............好きにしたらいい」
「「............................」」
そのまま、ソーラとシンは尋問に向かって行った。
本当ならやりすぎてしまうのではないかと止めるところだが、そんな慈悲をあいつらにかけてやる道理が思い浮かばない。さっさと苦しんで、情報を吐いてもらおう。
と、そんな事はどうでもいい。今はこの目の前の少女をなんとかしなければ。自身や(ついでにシンも)感知した範囲には他に少女のような人物は居ないらしい。それなら好都合だと思い、項垂れる少女に問いかける。
目は開いているだけで、ほぼ気絶しているだろうなと思ったのだが、意外にも少女はこちらを向くと、何かを喋ろうとしている。意識があるのだ。
聞き取ろうと耳を寄せるも、小さい上に掠れて聞こえない。
仕方がないので、そのまま暫く休ませようとして.............
聞いてしまった。
何故、聞いたのかは分からない。本来ならばこういう状態の被害者には、まず適切な処置を施し、しばらくは関係の無い場所で安静にさせるのが基本だ。また、もし大分快復に向かっても安易に当時の事を問いかけてはならない。トラウマが呼び起こされて、精神に負荷が掛かる可能性があるからだ。
だと言うのに自分は、どうしても目の前の少女が何かを伝えたがっているような気がして、聞いてしまったのだ。
「奴らに....憎き脂肪の塊の畜生共の屑貴族達に、君は復讐したいか?」
そして....彼女は.............
「.............(ふる....ふる)」
僅かに首を横に振って、否定の意を示した。
「そう.............か...................」
自身の顔を俯かせる。
馬鹿みたいだ、と思った。勝手に憤怒に塗れて、傲慢にも少女の復讐を代行しようとして、挙句の果てに、少女はそれを望んでいなかった。
確かに、奴らに罰は与えた方がいいのだろう。あんな奴らがのうのうと生きているなど、吐き気がするくらい最悪なことに変わりは無いのだから。
だが、それを少女の復讐と題して、今ここでしてやろうなどと言うのは傲慢意外のなにものでも無かった。
自身の行いを反省する。目の前の少女に謝らなければ。
「.......すまない、勝手な事をした。貴方の名誉を傷付けるところだった。
勝手に復讐などと宣い、こんな状態の君に問いかけるなど....。
自分はやはりまだ....未熟で....救えなくて....」
こんな懺悔は意味が無いと分かっている。この少女にそんな事を言うよりも、一秒でも早く街に連れて行ってあげた方がいいということが。
しかし、少女は、まともに動かないであろうその腕を伸ばして、自身の頬をその手で微かに撫でる。そして..........こう言った。
「助け....て、くれて....あり....が....と....ござい....ます....。....わ、たし....嬉....かった....から....だから..........泣か....ないで....?」
気づけば、自分は涙を流しているのに気がついた。
どうして.......自分よりずっと辛いのは少女の方なのに.......
どうしてそんな................そんな顔が出来る..........?
「どう....して....」
声に、出していた。
こんな、十代もまだおそらくまともに謳歌出来ていない少女が、どうしてあんな目に会っていたのに、お礼を先に言うことが出来るのだろうか。
それ程までに、助けられた思いが強かったのだろうか。違う。
では、自身の身を案じれないほどに、心を壊されてしまっているのだろうか。それもあるだろう。だか、それだけでは無い。
この少女は、そういう人間なのだ。そういう、ことが出来てしまう少女なのだ。清い....眩しい心の持ち主なんだと....。.......そう、分かった時。
自分はその少女を優しく、壊れないように大切に抱き締めていた。
少しだけ、少女が安心したようにすぐ近くで息を吐いていた。
...................
少女を安静に寝かせて暫くして、こちらの話を聞いていたのかいないのか、冒険者の彼らも大して痛めつけるような事はせずに、尋問に留めていた。ハルテンヤーは一応まだ誰も死んでいないと分かった後、他の待機している面々に事情を説明しに行ったらしい。
「.............」
手袋を拾う。手に填めて、しっかり握り込む。目の前の男....いや、ただの屑に再度問う。少し時間を空けたので、思考も纏まって居るはずだ。
「おい、スタッファンとか言ったな。」
「...................」
「おい?」
しまった。もしかしてやり過ぎてしまっただろうか。一応3回しか蘇生していないので、精神が崩壊するにはまだ早い様な気がするが。
「ふ、ふひっ....ふひひひひひひひ!!!!!」
「.......?」
「ああ!そうだ!全部あの女だ!あの憎らしい王女のせいで奴隷が買えなくなって楽しめなくなった!そのせいでこんなところに来て隠れてコソコソしてまで、田舎臭いそんな小娘を買いに来なくちゃ行けなくなった!
ぶひひゃ....。
全部女だ!女のせいだ!所詮私にボコボコにされて、性欲を解消する為だけのゴミなのに!私の邪魔ばかりしやがってぇぇぇ!!!!!
どうせそこの小娘も、金に困って身を売ったんだ!性格の終わってる奴なんだ!だから!なのにこの私が!なんでそんな奴の為に苦しまなきゃ行けないィィ!!!」
....ああ.............そうか.............
最初に問答無用で殺しまくろうとしていた理由が分かった。
そして、今はせっかく少女に落ち着かせられた心がまたざわついてきた。
すまない....だが、これだけは殺らせてくれ。
その拳を振り上げて、今度は手加減しない様に、上半身だけ残る力で、
醜いその男の下半身を粉砕するべく、拳を振り下ろした。
「死ね」
グシャッ.........................
.....................................
「おーい。....大丈夫か?」
「...................ああ、問題無い」
コンザに声を掛けられて、飛んでいた意識を戻す。
いつの間にか全てを終わらせて、元の場所まで戻って来ていた。ンフィーレア達がいるので、間違いはないだろう。全員何かに腰掛けているようだ。
自分もいつの間に出したのか、そこそこの性能の折り畳める椅子に座っている。
「......................ん」
よく見渡してみると、時間はまだ昼の様だ。意外とそこまで時間は経っていなかったらしい。
しかし、今からエ・ランテルに向かうにしても、大分時間が掛かってしまうなと思う。到着は夕方くらいだろうか。
ふと横を見ると、自分の手が、またいつの間にか出していた簡易的な折り畳めるベッドで寝ている少女に乗せられていた。
そこでようやく、さっきから自分が無意識に少女の事を撫でていたのを思い出す。こうすることで、少女のうなされるような表情が和らいでいるような気がするのだ。
それは自身の種族的な能力なのか、あるいは単に気の所為か。どちらにしろ、このくらいでいいならば、出発する迄はこのままでいようと思ったのだった。
................もしかして、こんな事が多々ある国なのだろうか、王国とは。
そう考えると、途端に頭が痛くなってくる。いくらなんでも初っ端から重すぎる。助けた以上はなんとか責任持ってどうにかするつもりではあるが、それにしてもである。
「リイジー老、他の皆も。すまない、本来ならばもう街に着いているくらいだった筈だ」
「.............何言っとるんだい。お前さん。あんたのした事は間違っちゃおらんよ」
「....そう言って貰えると、助かる」
暫く無言の間が続くが、次いでンフィーレアとセントリオが口を開く。
「到着は明日の朝にしましょう。僕はこの辺の薬草を取ってきますね」
「自分達も賛成だ。今日はここに留まって、みんな落ち着こう」
「.......皆、感謝する」
とりあえず、後で何か皆には詫びなければと思いながら空を見上げた。
もうそろそろ夕暮れが近い。何か出来ることは無いかと、野営などの準備がてら立ち上がろうとした時....。
「んぅん.......ふぁ..........。..........あれ....私....」
どうやら少女を起こしてしまったらしい。申し訳ないと思いつつ、決してあの事をフラッシュバックなどさせないように冷静な調子で問いかける。
「おはよう。具合はどう?」
「.............えっと、.............はい。大丈夫だと.......思います」
「そうか。良かった。................」
「.......あ、あの....?」
不味い、言葉が出てこない。普段ならばこんな時でも絶好の対処法を思いつきつつ実行するのに。
結局、頼りない自身の頭の中で唯一浮かんで来た、先程から気になっていた質問を投げかける。
.......どうしても、知りたかったから。
「....ねえ。貴方の名前は....なんて言う?」
「..........私は....」
起き上がり、少女が言葉を発する。
それは、夕暮れに奏でられた一つの楽器の調べのような声で、透き通る綺麗な金髪と、光の灯った青い瞳が、背景に映えていた。
「私は.............ツアレニーニャ・ベイロンです」
キャラ詳細
◾︎屑貴族共+スタッファンwith八本指構成員
本来の予定では、廃人になるまで痛めつけるというふうでは無くなったのだが、本人達がめちゃくちゃ屑すぎて歯止めの効かなくなったフローレンス達に、精神が崩壊するまで殺され続けた。
その後、証拠品だけ取った後にその辺の野に放流した。
運良く生き延びればその辺の村に着くかもしれないが、近くに村は無いため、十中八九彷徨いている獣やモンスターに殺されたり食われて死んだ。
武器詳細
◾︎
この巨大な一つのMAP程まで大きくなる斧自体の攻撃力は、せいぜい強化した
ユグドラシルに置いて、巨大なMAP破壊兵器として名を馳せた物。
ある悪質なプレイヤーがその特性を利用し、複数のMAPを跡形もなく消し去ってしまうなどの事件が発生した。
特に後発プレイヤー勢からの批判は凄まじく、まだあまり探索出来ていなかったMAPが消えて悔しいなどの多様な苦情が、分かっているだけで運営に一万通以上届いた。そのことから、正しく運用できるプレイヤーだけに使えるようにして、悪質なプレイヤーは使用不可の制限を設けた。それ以降大きな事件は無かったものの、運営が唯一バランス調整をした世界級アイテムである。
───────────────────────
ツアレが酷い目にあうのは嫌だけど、こうでもしないとオリ主に関わらないまま惨い目にあった後で殺されるので、オリ主の魔法でなんとかなる範囲の今の内に出しました。
フローレンスはどう考えても不幸な村娘一人より、国の変革を優先してしまうと思うので....。
ただ、目の前でその場面に出くわしたならその限りでは無いよねっていう。王国がクソすぎて、全員救うのが難易度ルナティック過ぎる。
もしかしたらスタッファン+αも何処かの村で真っ当に更生して生きている.......かもしれない。
セバスが来るまではツアレは暫くフローレンス預かりになりそうです。
..........あれ?もう助けられてるならどうやってセバスと会わせるんだ?
..............もしかしてやっちゃった?.............いや、多分セバスとツアレはくっつく.........ハズ.......。
くっつかなかったらごめんなさい.......。
これにてside―ヒーラー―は一区切りです。次回は別のsideからになります。胸糞悪い終わり方だけど大丈夫!絶対ツアレ幸せにするから!
投稿頻度
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一話ごとは短め、投稿間隔は早め。
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一話ごとは長め、投稿頻度は遅め。