なっちゃったからにはもう……ネ……(倍プッシュ)(特に何も説明しないので勝手に調べてください)
Cole Clarkはいいぞ
最近スタジオの仕事で知り合ったプロデューサーが素材屋とコネ持ってたのはまあ正直助かった。私はコンポーネントギターを自分で組んで使ってるから、頼れるツテはあればあるほどいい。
前にギターを入れた曲がなかなかバズったそうで、プレゼントになにかくれるというのでギターのボディをねだった。マジでくれるとは思ってなくて「綺麗な色のやつがいいっすねー」「メイプルとか、アコギのトップ材に使うようなやつ?」「最高ー!」なーんて具合で適当に流して、詳しいことを聞かなかったのが私の落ち度だった。
「まさか未加工どころか切り出しもしてねえ木材丸ままで来るとは思わなくてよぉ」
「どうしてあなたはそう迂闊なの……」
行きつけの喫茶店、羽沢珈琲店の奥の奥のボックス席で向かいに座る友人──白鷺千聖は頭を抱えた。
最近までは別の畑だったけど、ちびっこいガキの頃からスタジオで雑用してた私にとっては幼馴染と言ってもいい付き合いの女の子だ。あと同じ高校、同じクラスでもある。
今は喫茶店でコーヒーとパンケーキを広げてるからあれだけど、女優にしてアイドルだから近くにいると頭とかうなじのあたりから良い匂いがすんだよな。今や野郎並にでかくなった私の身長の数少ない利点、これよ。
なんかマシュマロとかバナナとか乗ったすげえ豪勢なパンケーキをフォークで串刺しにして一気にお茶目したろうと大口開けたところで「で?」と千聖ちゃんは身を乗り出した。
「んぁ?」
「はしたないからそのまま固まらないの……じゃなくて、それだけ?」
「それだけって?」
おっとピキッてるピキッてる。私はとりあえずフォークに一口……あっ無理だこれ。三口ほどかぶりつき、ちゃんと飲み込んでから居住まいを正した。
「いやぁ実を言うと、ここまでは前置きっていうか時間稼ぎっていうか。花音ちゃん待ってんだよ」
「え、花音まで呼んでるの?」
「羽沢珈琲店ならギリ迷わないっつーから」
「それでここを指定したのね……」
千聖ちゃんは片手で抑えながらふるふると頭を振った。十割私が悪いので、ここの代金を後でこっそり払っちゃおうと思う。
「本当になんの用事なの? まさか作ったギターの自慢だけで人を呼ぶほど暇じゃないでしょうに……横においてあるその大荷物に関する話?」
「にゃはは、まあまあ心配すんなよ。あ、つぐちゃーん! カプチーノお願いしまーす」
「シナモン多めですか?」
「うん、お願いなー」
さて、相談に入る前にこのピラミッド型6段パンケーキを討伐しねえとな……
「羨ましいわね……」
「あはは……まあ、ゆづちゃんって一日何も食べないときとかあるみたいだし、トータルで見たらバランスは取れてるのかも……」
目を閉じて完全に食べることに集中し始めた友人──
私よりゆうに頭ひとつは高い身長と、ほどほどに起伏のあるモデルなら羨むこと必至のすらりとしたスタイル、なにより立てば膝までありそうなスーパーロングヘア。美貌から放たれる存在感に対して食べ進める一口の小さいこと小さいこと。そこそこの量を頼んでいたけれど、果たして食べ切れるのか。
こっちはクリスマスの生特番でサンタ風の衣装を着るために若干の食事制限を掛けられているので、せいぜいケーキひとつが限度だ。なんだか嫌がらせを受けているような気になってくる。
「あれでさっき、具を四つくらい刺して一気に突っ込もうとしていたのよ」
「だ、大丈夫だったの?」
「普通に諦めていたわ」
「お口ちっちゃいもんね……」
動物園みたいなノリで観察されている本人はと言うと、切れ長な瞳の切っ先はわずかに垂れ、眉間もゆるゆるに綻んでいる。満足そうだ。ただ、やっぱりこちらには気づいていなさそうである。
「今日のこと、花音は何か聞いてるの?」
「ううん、『面白いことを思いついたぜぇ……!』としか」
「このサプライズ癖はどうにかならないのかしらね……」
昔からそうだ。何かにつけ周りに秘密でこっそりと計画を立ててはプレゼントだのなんだの。
傾向は探れなくもない。ギターを作ったばかりのようだし、あと彼女のことだからギターに合わせてエフェクターボードも組み直しているのだろうし、ライブにでも誘われるのだろうか。だとしたら事務所を通してもらわないと困るけれど。
「ぷぅー、ごちそうさま!」
「おつかれさま、ゆづちゃん」
「あっ花音ちゃん! ごめんなー気付かんくて」
考え込んでいるうちに食べ終わったらしいでっかい小動物は、花音に挨拶をして朗らかに笑った。こっちにも向けるや否や、朗らかさが意地悪そうにぐにゃりする。
「千聖ちゃん、ライブにでも誘われるかなーって思ってない?」
「げ」
「当たり前みたいに心を読んだね……」
花音がちょっと引いている。確かにそんなぱっと思いつく程度のことでは済まないだろうと考えてはいたけれど。
いや、それとも花音が引いているのは私の対応の方だろうか。今の「げ」はわざと大袈裟にしているだけだから勘違いしないでもらいたい。
「何をやるつもりなの?」
「来月に千聖ちゃん花音ちゃん私でスリピ組んでCiRCLEでライブするからよろしくな! までがまあお察しの通りだと思うけど」
「ふえぇ……予定聞かれてない……」
「黒い服の人たちに確認してあっから」
「ふえぇええぇぇ……」
花音はふにゃふにゃの顔で鳴き声を上げた。少なくともハロハピの面々にはライブは既に決定事項として伝わってると見ていい。
気の毒に……とは思わない。結弦子の場合、花音が本当に嫌がるようなら普通に引いて代役を探すだろうから。なので、それは置いておくとして。
「こっちの事務所には話を通してあるの? 何も聞いてないわよ」
「あ、それなんだけど。練習の過程とかPurely Promotionさんの持ってるチャンネルで配信したいらしいんだわ。バンドマン・白鷺千聖の素顔に迫る! 的な感じで」
「……」
なんでその話が私まで通ってないのかしら。
というかバンドマン扱いなのね。アイドルでも女優でもない区分に置かれたのはある意味でパスパレというバンドが評価されてきたことの表れでもあるから、文句を言う気はないけれど。
「プライベートで音楽をやっている姿を出したい、ってところかしらね」
「さぁ? 私はそこまで聞いてねえから知らん!」
「でしょうね」
「まあでも合ってんじゃない? デビューんときの醜態を擦るやつって未だにいるし、もう当てフリでも下手くそでもなく立派にベースやってます、って示しときたいんでしょ」
「そうね。アフターケアにしても遅すぎるし効力も薄いだろうけれど、信用のためにもやらないよりはマシかしら」
「誰に対して?」
「誰でしょうね」
「ふえぇ……」
花音が会話一区切りbotみたいになってきた。
「花音は大丈夫? こんなのの考えたこんな企画なんて、嫌だったら嫌って突っぱねて構わないのよ?」
「こんなのってちさっちゃんよぉ、何がワリィんだ私のよぉ!」
「年中ワントーンコーデ」
「ごめんなさい」
頭を下げる結弦子は今日、ハイネックのニットセーターをハイウエストのテーパードパンツに前だけインしている。椅子にかけられているのは多分トレンチコートだ。
種類と組み合わせだけなら普通に「お洒落してるなぁ」で済んだのに、何故か容赦なく全身ビビッドレッドに揃えている。どうしてこれがこんなにも似合うのか不思議でならない。
改めて全身を見て今度こそ引いた様子の花音は「た、確かに急だけどね……」と前置きはしつつ、両手をふんわりと組んで柔らかく微笑んだ。
「千聖ちゃんもゆづちゃんも、どうしても忙しくて一緒に遊べる機会って少ないし……こういうタイミングを逃さず楽しめたらいいな、って思うよ」
「花音……」
結弦子に遭遇するたびあちこち連れ回されてふええ顔をしていたのに立派になって……
「じゃあOK?」
「具体的な日時は?」
「あ、んーとな……ほいこれ」
差し出されたスマホ(流石に赤ではなかった)の画面を花音と覗き込む。……よし、この日なら特に問題はない。隣できれいな髪がゆるゆる揺れている。花音も異存はないらしい。
「じゃ、当日よろしくぅ! ってことで……」
「ええ、よろしく。……で、なにそれは」
「え? 自作のベースとスネア。これ渡そうと思って呼んだんだよ今日は」
「えぇ……」
「ふえぇ……」
彼女の隣の席にずっと置いてあった大荷物……ギグバッグとトランクケースの中から木目の美しい楽器がごろりと出てきた。
お皿を下げてもらい、空いたスペースにまずベースが開陳される。
「綺麗だろー? ブンヤトップのパプハ指板なんだわそれ」
「分野……?」
「オーストラリアの木材な。アコギとかに使うのが一番なんだけど、まあ見た目重視でベースに使ってもいいじゃんと思って。私のギターもそうしたし。指板はパープルハートっつー素で紫色してるかっけえ材使ってんの。音も超良いよ」
「へぇ……あ、ピックアップは何かしら」
「Lundgrenのやつ。Delanoも家にあるから交換したかったら言って」
「わかったわ」
4弦のそれは私の使ってるものと同じPJタイプ。ただし、ヘッドもボディも少し小振りな作りになっている。トーンノブやピックアップカバーまで木製でピックアップの間に木のブロックが埋まっている。塗装は特にされている様子はない。明るく淡い素朴な色合いの中で、指板の紫がしっとりと美しい。
「ちょっと構えてみていいかしら」
「もちろんもちろん。バランス確かめてほしいし」
「わ、千聖ちゃんかっこいい! かっこいいよっ!」
「花音は褒め過ぎじゃないかしら……」
お店の中なのでうるさくならないように少しだけ爪弾くと、なんだか手の動きがスムーズだった。
「ブンヤトップにクイーンズランドメイプルネック、アルダーバックのムスタングベース系ね。ネックはちょい薄めにしてあるよ。ボディはコンター深め、ヒールカットもエルボーカットも軽くだけどやってあるから、体にフィットして全体的に弾きやすい、はず!」
「ヒールカット……これね? 確かに弾きやすいわね」
ネックとボディの継ぎ目と、それからボディに肘の当たる部分が少し削られていた。これだけでもかなり違う。
少しスラップをしてみるがやりやすさと来たら。花音がますます「すごい、生演奏だよ!」とはしゃぎ始める。そろそろつぐみちゃんに怒られないかしら。
「軽く、なのはどうして?」
「今のベースの仕様知んないからさぁ。ヒールカットとか特に無いなら、ライブとかでいつものベース持ったときに弾きにくく感じるかもと思って。ギャップ軽減だね」
「そういうこと……ありがとう、気を使ってくれて。大事に使わせてもらうわ」
「いいってことよ! あとそれ、ピックアップの間にフィンガーランプ詰めてあんだけどさ。それ上から嵌めてるだけだから弦外せば……なんなら付けたまんまでもワンチャン力尽くで取れるよ。邪魔なら取っちゃって」
そうは言われたものの、これはこれでお洒落なので付けておこうと思う。ギグバッグに戻して、そのままこちらの席の背に肩紐を掛けた。
結弦子は「んで、こっちが花音ちゃんのなー」とケース片手に席を立ち、すっと花音の真隣に侍って肩を抱いた。
は?
「ふぇっ!? ち、近くない……?」
「近くない近くない。スーッ……さ、説明ね。説明……あーキく……」
「花音、殴っても良いのよ?」
「よ、良くはないんじゃ……いや、うーん……」
その匂いの嗅ぎ方は同性だろうとラインぶっちぎりのセクハラだと思う。
「ほ、ほどほどにね?」
「ヴ」
花音は恥ずかしそうに上目で伺いながら小首を傾げた。結弦子は撃たれた胸を抑えて呻いた。
そのまま手際良く静かにスネアをテーブルに出すと、一歩引いて跪く。ちなみにここは依然として羽沢珈琲店の奥の奥のボックス席だ。
「ブンヤとクイーンズランドメイプルの2プライです。深さは近年増えつつある深胴8インチ、ハイピッチでの使用を想定しております」
「敬語やめなさいよ」
「んしょ……あ、スナッピーはガットなんだ。ひょっとして、マーチングドラムに近いのかな?」
「はい、ハロハピの方向性を鑑みて調整させて頂きま」
「ごめんね、敬語はちょっと……」
「ウス」
流石の花音も嫌だったらしい。それはそうだろうな、と席に戻っていく結弦子の澄まし顔を見て思う。言うだけ言って「温かみあるデザイン、って言うのかなぁ」とマイペースにスネアをためつすがめつ眺める花音は慣れたものだった。
「これ、ウッドフープだよね? 紫色なのは……」
「お察しの通りパープルハートっすな。見た目重視でつけたけど、ほどほどにドライで気持ちいい音になったよ」
「ありがとう……大切に使うね」
「いやガンガンぶっ叩いて遠慮なく使い潰して貰いたいけど……」
「そういう意味じゃないでしょう」
花音が嬉しそうにスネアをケースに戻すのを見ながらツッコむと、ふと嫌な予感がした。
「……結弦子、あなたまさか『ガンガンぶっ叩いて遠慮なく使い潰し』かねない曲をやらせる気じゃないでしょうね」
「え? いやUNISON SQUARE GARDENやろうと思ってたけど」
「……ゆづちゃん、なんの曲をやるつもりなの?」
「『kaleido proud fiesta』を打ち込みなしの完全スリピ用に編曲して……えっ千聖ちゃん? 花音ちゃん? なんで席立つわけ!? いかないで! 私を捨てないで!」
ライブは出るけれど、ここの支払いも持つけれど、半月未満の練習でユニゾンのカバーを成立させるとかいうワガママが通って当然みたいな末っ子気質に流されるのは癪なので、荷物を壁にして置いていくことにした。
明石結弦子
身長180センチ! 上から80-54-80! 股下1メートル! と彩ちゃんが食べすぎるたびにジョジョ立ちで自分のスタイルを誇示して煽るけど仲良しです
白鷺千聖
幼少期に変なやつとの交流が増えてメンタル強くなったのでへそ出しサンタコスをうまいこと彩ちゃんひとりに押し付ける知将ムーブだってする
松原花音
ほんの12時間前までスウェーデンでハロハピとライブしてたしkaleido proud fiestaもそこでやったので実はそんなに困ってない
丸山彩
今日も全然アイス食べたし昨日はクッキー食べてた 3日後くらいにまた煽られながら一緒にジョギングする